医師が教える不眠症の全て。原因から治療法まで全てを教えます

不眠症

「眠れない」という悩みを抱える方は非常に多くいらっしゃいます。

ある統計によると日本人の5人に1人が不眠を自覚しており、20人に1人が睡眠薬を使用した事がある事が示されています。

十分に眠れない状態が続く疾患を「不眠症」と呼びますが、不眠症に該当する方は非常に多くいらっしゃるのです。

不眠症は正しく治療すれば必ず治す事ができます。何故ならば生きている限り、ヒトの眠る力が完全に失われる事は決してないからです。

しかし不眠症の中は多くいらっしゃり、なかなか治らない状態が続いている方も少なくありません。それはなぜでしょうか。

睡眠に対する世の中の情報は、あやまったものや根拠に乏しいものが多く、このような不適切な情報をもとに不眠を治そうとしてしまっている方が非常に多くいらっしゃいます。

「睡眠時間は8時間取らなくてはいけない」
「眠れないときはアルコールを飲むと良い」

などといった、私たち医療者から見れば驚くような誤解を、いまだに正しいと信じている方に出会う事は決して珍しい事ではありません。

睡眠に対する正しい知識を持ち、睡眠に良い生活を心がければ不眠症は治すことが出来ます。

このコラムでは不眠症についてのあらゆる情報を紹介していきます。このコラムを読めば睡眠に対する正しい知識を身に付ける事ができ、不眠症治療に必要な知識を理解する事ができます。

1.不眠症ってどんな病気なの?

そもそも不眠症ってどんな病気なのでしょうか。

「眠れない病気」だという事は皆さん何となく理解していると思いますが、ではどこまで眠れないと不眠症になるのでしょうか。

ちょっとでも眠れなくなったら皆不眠症になってしまうのでしょうか。それとも「〇時間以上眠れていなければ不眠症」といった具体的な決まりがあるのでしょうか。

不眠症は疾患ですので診断のための定義がありますが、実は診断にあたって「〇時間以上眠れてないといけない」「眠るのに〇時間以上かかっていないといけない」といった具体的な決まりがあるわけではありません。

不眠症がどういう状態なのかというと、

  • 本人が十分な睡眠がとれていないと感じている
  • それによって本人が苦しんでいる
  • それによって本人の生活に支障が生じている

という状態です。

睡眠時間の長さが何時間以下だとか、睡眠の質がどれくらい低下しているかとか、そのような要素も不眠症で認められるものではありますが、これらにのみによって不眠症の判定が行われる事はありません。

本人が「十分な睡眠がとれていない」と困っていて、それによって「日中の仕事の集中力が落ちている」「日中常に疲労感を感じている」「眠気で必要な活動が出来ない」などの生活への支障が生じている状態が不眠症になります。

何だかあいまいな定義のように感じられるかもしれませんが、そもそも必要な睡眠時間がどれくらいかというのは人によって異なりますので、厳密に数値で定義する事は不可能なのです。

例え10時間以上ベッドで横になっていたとしても、「十分な質の睡眠がとれていない」「それによって日中に集中力が落ちたりと支障が生じている」という事であればこれは不眠症と考えます。

反対に考えれば、例え睡眠時間が一般的には短い時間であっても本人が困っておらず、生活への支障を生じていないのであればこれは不眠症とはなりません。

では、毎日2時間しか眠っていない人でも、本人の生活に支障が生じていなければ不眠症ではないのでしょうか。これは診断的に言えば不眠症にはなりません。ただし人の適正な睡眠時間は個人差はあるものの、おおよそ3~10時間程度に収まるのが通常です。

上記の例は、もし本当にこれで本人の生活に支障が生じていないのであれば不眠症にはなりませんが、実際は2時間睡眠では今後に何らかの支障が生じる可能性が高いと言えます。

2.不眠症の原因にはどんなものがあるの?

不眠症の方は非常に多くいらっしゃいますが、みなさんどのような原因によって不眠症を発症してしまうのでしょうか。

不眠症を発症する原因には様々なものがあります。

不眠症の原因として代表的なものを紹介します。

また、不眠症の原因については「不眠症になってしまう原因にはどのようなものがあるのか」でより詳しく説明していますのでご覧下さい。

Ⅰ.精神的ストレス

不眠症を発症してしまう原因として最も多いのが「精神的ストレス」です。

ストレスというのは、不快と感じる刺激の事です(注:正確にはこれは「ストレス」ではなく「ストレッサー」と呼びますが、日常的にはストレスもストレッサーも混同されて使われていますので、ここでは厳密に両者を区別する事はしません)。

精神的に「不快」と感じるような刺激は、睡眠を悪化させてしまう不眠症を引き起こします。

どのような刺激を「不快」と感じるかは人によって異なるため、精神的ストレスの原因も人によって異なりますが、

  • 人間関係(仕事仲間や家族、隣人との関係など)
  • 環境的ストレス(仕事内容や生活環境など)

などが多く見受けられます。

これら精神的ストレスを感じる原因があると、

  • 不安
  • 落ち込み
  • イライラ
  • 怒り

などといった不快な感情が生じます。そしてこの不快な感情が睡眠に悪影響を来たすのです。

これらの精神状態が続くと、緊張の神経である「交感神経」が昼夜を問わず活性化してしまうようになります。

交感神経が活性化している状況では人は眠りにつけませんので不眠が生じます。

Ⅱ.身体的ストレス

身体的に「不快」と感じるような刺激も不眠を引き起こします。特に睡眠中にこのような刺激を受けると睡眠の質が低下してしまいます。

睡眠中に、

  • 痛み
  • かゆみ
  • 息苦しさ
  • 尿意

などといった不快な刺激が生じれば、睡眠の質が浅くなり目覚めてしまうでしょう。

Ⅲ.薬物

薬物や特定の物質の中には、脳の覚醒レベルを上げてしまったり、睡眠の質を低下させるような作用を持つものがあります。

そのようなお薬や物質を定期的に摂取しているような場合、これも不眠の原因となります。

不眠を引き起こすお薬にも様々なものがありますが、一例を挙げると、

  • 抗うつ剤
  • ステロイド
  • パーキンソン病治療薬
  • 降圧剤
  • 高脂血症治療薬
  • 喘息の治療薬
  • 下剤

などが不眠の原因となる事があります。

これらのお薬を服用していて不眠が生じている場合は、お薬を処方している医師にお薬の副作用での不眠ではないかを確認する必要があります。

特に時期的に考えて、そのお薬を飲み始めてから不眠が出現しているのであれば可能性は高いと考えられます。

また日常で摂取する物質の中にも不眠の原因になるものもあります。

例えば、

  • アルコール(お酒)
  • ニコチン(タバコなど)
  • カフェイン(コーヒー、チョコレートなど)

などが挙げられます。

アルコールは寝付き(入眠)は改善させますが、眠りの質を悪化させる事で不眠を引き起こす事が知られています。

またニコチンやカフェインは精神刺激作用があり、脳を覚醒させてしまうため、これも不眠の原因になりえます。

このような物質を定期的に摂取していたり寝る前に摂取している場合は、これらの物質の摂取によって不眠が引き起こされている可能性が高くなります。

Ⅳ.環境

寝室の環境が原因で不眠になってしまう事もあります。

寝室環境にストレスを生じさせるものであると、睡眠の質が低下します。

例えば寝室の

  • 温度
  • 湿度
  • 明るさ
  • 騒音

などは睡眠の質に大きな影響を与えます。

寝室の室温が暑すぎたり寒すぎたりすればなかなか眠れなかったり睡眠の質が低下したりするでしょう。

寝室に光が入ってきたり、大きな音が聞こえたりするようであれば、これも睡眠に悪影響を与えます。

眠る場所である寝室の環境も不眠症の原因になりえます。

良い睡眠を取るための寝室環境については「快適な睡眠を得るために意識すべき5つの寝室環境」の記事にて詳しく説明していますのでご覧下さい。

Ⅴ.生活習慣

日中の生活習慣に問題があると、それが不眠の原因となる事があります。

例えば、朝日を浴びていなかったり、日中室内でずっと過ごしている方は体内時計のリズムが崩れやすく、夜の適切な時期で眠気がこなくなってしまう事があります。朝日は体内時計をリセットするはたらきがあります。また日中に十分な光を浴びないと、眠りに導く物質であるメラトニンの分泌が低下する事も知られています。

食事も適切な時間帯に適切なバランスで取る事が大切です。眠る時に極端に空腹であったり満腹であったりすれば、これは睡眠の質を低下させます。朝・昼・夕と適切な時間に適切な量を摂取し、睡眠に入る3~4時間前には食べ物を食べないようにするのが良いでしょう。

日中適度に身体を動かしている事も大切です。一日中動かないような生活をしていれば、心身がいつまでも覚醒しないし疲労もたまりませんので、夜になっても眠る事ができません。

適度な運動は気分を前向きにし、睡眠の質を上げてくれる事は多くの研究でも証明されています。

また、睡眠時間が不規則な場合も体内時計が狂いやすいため不眠の原因になります。夜勤があるシフト制の仕事に就いている方などでは仕方がない一面もありますが、なるべく毎日同じ時間に睡眠を取るというのも、睡眠の質を上げるためには大切です。

睡眠を改善するための生活習慣については厚労省が発表している「健康づくりのための睡眠指針2014」が参考になります。

当サイトでも詳しく説明しています。詳しくは「不眠症の方は必読!健康づくりのための睡眠指針2014」をご覧下さい。

3.不眠症の分類

一言に「不眠症」といっても、不眠症にもいくつかのタイプがあります。

タイプによって治療法も異なってきますので、自分の不眠症がどのタイプに当てはまるのかを知る事は大切です。

ここでは代表的な不眠症のタイプを紹介します。

なお、ここでは不眠症の4つのタイプを紹介しますが、これらは綺麗に分けられるものではなく、いくつかを合併している不眠症もあります。

Ⅰ.寝付けない「入眠障害」

入眠障害とは「寝ようとしているのに寝付けない」というタイプの不眠です。

ベッドに入って横になってもなかなか眠りに入る事が出来ず、これによって十分な睡眠がとれなかったり、日常生活に支障が出てしまうような状態です。

ちなみにベッドに入ってからどのくらいで寝付けるのが正常なのでしょうか。

消灯したりベッドに入ったりといった、入眠の準備が整った時から、実際に寝付いた時までの時間を「睡眠潜時(SL:Sleep Latency)」と呼びます。一般的な健常者の睡眠潜時は30分以内だと言われています。

つまりベッドに入ってから30分以内に眠りに入れている場合は、おおむね正常だと判断して良いでしょう。

ではベッドに入ってからどのくらいまで寝付けないと入眠障害になるのでしょうか。これは厳密に定義されているわけではありませんが、参考として日本睡眠学会では入眠障害を「夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる状態」と記載しています。

一つの目安として、「2時間以上」という値は参考にする事が出来ます。

実際は2時間以下であっても、本人が苦痛を感じており、日常生活に支障が生じているようであれば入眠障害として扱います。

入眠障害については「寝付けない方に知ってほしい入眠障害が生じる原因とその改善・治療法」の記事でより詳しく説明していますのでご覧下さい。

Ⅱ.何度も目覚めてしまう「中途覚醒」

中途覚醒とは「一旦は眠れてもすぐに起きてしまう」というタイプの不眠です。

夜中に何度も目覚めてしまい、これによって十分な睡眠がとれず、本人が苦しい思いをしたり生活に支障が生じている状態が中途覚醒になります。

特に高齢者であれば夜中に1~2回目覚めてしまう事はありますが、目覚めてもすぐにまた眠りに入れたり、日中に眠気などがなく生活に大きな支障がない場合は中途覚醒にはなりません。

中途覚醒は夜中に目覚めてしまうだけでなく、そこから再び眠りに入るのが難しいという事が多く、これが患者さんを苦しめます。

「早く寝なきゃ」と焦りますが、焦れば焦るほど眠れなくなってしまうため、どんどん不眠が悪化してしまいます。

中覚醒については「中途覚醒が生じる原因とその改善・治療法【医師が教える睡眠障害の全て】」でより詳しく説明していますので、ご覧下さい。

Ⅲ.朝早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」

早朝覚醒は「本来起きたい時間よりも早く目覚めてしまう」というタイプの不眠です。

ただの早起きというわけではなく、本来起きるべき適正な時間よりも早く目覚めてしまい、その後再び眠りに入る事が出来ないような状態を早朝覚醒と呼びます。

早朝覚醒では、適正な睡眠時間が得られないため、日中に眠気や倦怠感などの支障が生じます。また本来の起床時間よりも早く目覚めてしまう事で体内時計のリズムも狂ってしまいます。

では何時に起きたら早朝覚醒なのかというと、これも決まっていません。その人が本来必要な睡眠時間より短い時間で覚醒してしまい、その後に眠りに入れないというのが早朝覚醒で、「何時に起きたら早朝覚醒」「何時間で起きたら早朝覚醒」と定義するようなものではないのです。

早朝覚醒についてはこちらの記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。

▽ 早朝覚醒が生じる原因にはどのようなものがあるのか【医師が教える睡眠障害の全て】

▽ 早朝覚醒の治療・克服法と用いられるお薬【医師が教える睡眠障害のすべて】

Ⅳ.寝たはずなのに眠った気がしない「熟眠障害」

熟眠障害とは眠りの質が浅くなってしまう事で「ちゃんと寝たはずなのに疲れが十分に取れず、眠った気がしない」という状態です。

熟眠障害は、睡眠時間だけ見れば正常です。1日8時間とか十分な睡眠時間を取れているため、不眠症だと気付かれない事もあります。

しかし時間は十分取れていても眠りの質が悪く、浅い眠りが続いているため、心身の疲労は十分に回復できていません。

その結果、

「ちゃんと寝ているはずなのに、日中眠い」
「ちゃんと寝ているのに、疲れが取れない」

という状態となります。

熟眠障害については「眠りが浅いと感じる時に考えたい原因と対策」で詳しく説明していますのでご覧下さい。

4.自分が不眠症かどうかをチェックする方法

「眠れない」と感じているすべての人が、治療が必要な不眠症だというわけではありません。

自分では「最近あまり眠れていないなぁ」と感じていても、様子を見ていても問題のない場合もあります。一方で、しっかりと治療を受けないとどんどん悪化してしまうため早めに病院を受診して治療を始めた方がいい場合もあります。

自分の睡眠に対して「不眠症ではないか」と心配になったとき、自分で自分が不眠症なのかどうかはどのようにして判断したらよいでしょうか。

もちろん心配であれば病院を受診して医師に判定してもらうのが一番確実なのですが、実際はなかなか受診する時間が取れない方や、「こんな程度の症状で受診してしまって大丈夫なのだろうか」と受診に抵抗を感じてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

自分で不眠症をチェックするための方法はいくつかありますが、一番簡便で精度が高いのは、「治療が必要な不眠症の条件」を満たしているかどうかを自分でチェックする事です。

治療が必要な不眠症というのは、具体的には次の3つの条件を満たすようなものになります。

  1. 十分に眠れず、自分に必要な睡眠時間を下回っている
  2. 眠れなくて困っている、つらい思いをしている
  3. 眠れない事で生活に支障が出ている

1番目の条件は、「眠ろうとしているのに、十分な睡眠時間が取れない」という事です。人によって必要な睡眠時間というのは異なりますが、その必要な睡眠時間を確保しようとしているにも関わらず取れない場合、これは不眠症の可能性があります。

2番目は、眠れない事で自分が「苦しい」「つらい」と苦痛を感じている事です。

そして3番目は、眠れない事で生活に何らかの実害(支障)が生じている事です。例えば眠れない事で仕事のミスが増えている、学校への遅刻が増えている、など何らかの支障が生じているという事になります。

この3つを自分なりに満たしていると判断できる場合は、一度精神科などを受診し、医師に治療の必要性を相談した方が良いでしょう。

また不眠症をチェックするための質問紙検査もありますので、自分でそれをやってみて不眠症相当の点数になるかどうかをチェックしてみてもよいでしょう。

不眠症をチェックするための質問紙検査には、

などがあります。

当サイトでもアテネ不眠症尺度を行えますので気になる方はチェックしてみて下さい。

不眠症かどうかをチェックする方法については「不眠症なのかどうかを判断するチェックテスト」の記事で詳しく説明していますのでご覧下さい(アテネ不眠症尺度もこちらから行えます)。

5.不眠症を克服するために大切な生活習慣

「不眠症を治したい」
「不眠症を克服したい」

と考えた場合、精神科や心療内科を受診して不眠症と診断してもらって睡眠薬を処方してもらう、というのが一般的です。

もちろん不眠症で苦しんでいるのであれば早めに病院は受診すべきですし、必要であれば睡眠薬の服用もした方が良いでしょう。

しかしそのような専門的な治療を行う前に、みなさんに必ず心がけて頂きたい事があります。それは「生活習慣の改善」です。

不眠症で苦しんでいる方のお話を聞くと、睡眠に悪い生活習慣が認められる事がほとんどです。それを改善すれば不眠もすっきり治る、とまではいかなくても、ある程度は改善が得られるはずです。

睡眠薬などを検討するのは、生活習慣を改善した上でも不眠がなお続いてしまう時にすべきで、生活習慣の改善を行わず安易に睡眠薬に頼るのは良い方法とは言えません。

では自分の生活習慣に不眠を悪化させるものがあるのか、というのはどのようにチェックしたら良いでしょうか。

参考として、日本睡眠学会が発表しているガイドラインの「睡眠衛生のための指導内容」を紹介します。

指導項目

指導内容

定期的な運動

なるべく定期的に運動しましょう。適度な有酸素運動をすれば寝つきやすくなり、睡眠が深くなるでしょう。

寝室環境

快適な就床環境のもとでは、夜中の目が覚めは減るでしょう。音対策のためにじゅうたんを敷く、ドアをきっちり閉める、遮光カーテンを用いるなどの対策も⼿助けとなります。寝室を快適な温度に保ちましょう。暑すぎたり寒すぎたりすれば、睡眠の妨げとなります。

規則正しい⾷生活

規則正しい⾷生活をして、空腹のまま寝ないようにしましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。睡眠前に軽⾷(特に炭水化物)をとると睡眠の助けになることがあります。脂っこいものや胃もたれする⾷べ物を就寝前に摂るのは避けましょう。

就寝前の水分

就寝前に水分を取りすぎないようにしましょう。夜中のトイレ回数が減ります。脳梗塞や狭⼼症など血液循環に問題のある⽅は主治医の指示に従ってください。

就寝前のカフェイン

就寝の4時間前からはカフェインの入ったものは摂らないようにしましょう。カフェインの入った飲料や⾷べ物(例:⽇本茶、コーヒー、紅茶、コーラ、チョコレートなど)をとると、寝つきにくくなったり、夜中に目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりします。

就寝前のお酒

眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと⼀時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減ってしまいます。

就寝前の喫煙

夜は喫煙を避けましょう。ニコチンには精神刺激作用があります。

寝床での考え事

昼間の悩みを寝床に持っていかないようにしましょう。自分の問題に取り組んだり、翌日の行動について計画したりするのは、翌日にしましょう。心配した状態では、寝つくのが難しくなるし、寝ても浅い眠りになってしまいます。

自分の生活習慣がこの指導内容を満たしたものになっているのかを確認してみましょう。また満たしていない場合は、改善するように心がけましょう。

また厚生労働省が2014年に公表した「健康づくりのための睡眠指針2014」も参考になります。

「健康づくりのための睡眠指針2014」では、良い睡眠を得るために心がけるべき事として、次の12項目を挙げています。

  1. 良い睡眠で、からだもこころも健康に。
  2. 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
  3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
  4. 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
  5. 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
  6. 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
  7. 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
  8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
  9. 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
  10. 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
  11. いつもと違う睡眠には、要注意。
  12. 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

それぞれの詳しい意味については「不眠症の方は必読!健康づくりのための睡眠指針2014」をご覧下さい。

読めば「そんなの当たり前じゃないか」と思われる事ばかりかもしれません。しかしこれらの生活習慣をすべて行えているという方は少ないのではないでしょうか。

生活習慣のうち、特に大切な事に、

  • 日中に適度に身体を動かす事
  • 日中に十分な日光を浴びる事
  • 入浴で身体を温める事
  • 寝室環境を整える事
  • 寝る前にタバコやアルコールを摂取しない事

などが挙げられます。

このあたりは当サイトでも記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧下さい。

▽ 不眠治療には適度な運動を!睡眠の質を上げるために効果的な運動とは

▽ 体内時計を整えて良い睡眠を得るための光の浴び方

▽ メラトニンを増やして良い睡眠を得るために大切なポイント

睡眠と入浴の関係。良い眠りに効果的な入浴の6つのポイント

▽ 快適な睡眠を得るために意識すべき5つの寝室環境

6.不眠症の治療に用いられる睡眠薬について

不眠症に用いられるお薬にはどのようなものがあるのでしょうか。

眠れない時のお薬といえば、「睡眠薬」を思い浮かべる方も多いかもしれません。睡眠薬は不眠症治療の代表選手になります。

しかし実は睡眠薬にも色々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。

それぞれの睡眠薬の特徴について紹介します。なお、睡眠薬については「睡眠薬の強さの比較。医師が教える睡眠薬の選び方」でも詳しく説明しています。

Ⅰ.ベンゾジアゼピン系睡眠薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は1960年頃より使われるようになってきた睡眠薬です。古いお薬ですが、効果の良さの副作用の少なさのバランスが良く、現在でも広く用いられています。

ベンゾジアゼピン系は脳神経細胞にあるGABA-A受容体に結合することでGABA-A受容体の作用を強めます。

GABA-A受容体は「抑制系受容体」と呼ばれており、脳のはたらきを抑制する方向にはたらきます。そのためGABA-A受容体のはたらきが強められると眠気を感じるというわけです。

より具体的に見ていくと、GABA-A受容体を刺激すると、

  • 抗不安作用(不安を和らげる)
  • 催眠作用(眠らせる)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張を取る)
  • 抗けいれん作用(けいれんを抑える)

の4つの作用を発揮される事が知られています。ベンゾジアゼピン系はこの4つの作用をもっています。

ベンゾジアゼピン系のうち、特に「催眠作用」に優れるベンゾジアゼピン系を「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼びます。

効果はしっかりとしており、頼れるお薬です。また種類も豊富で、即効性のあるもの、長時間効くものなど、たくさんの種類があるため、自分の症状にあったお薬を見つけやすいというのもメリットです。

副作用はあるものの、命に関わるような重篤な副作用は生じません。

ただし筋弛緩作用によるふらつき、催眠作用による眠気や倦怠感などが生じる可能性はあります。また長期的には耐性や依存性が生じる事があります。

【耐性】
その物質の摂取を続けていると、次第に身体が慣れてきてしまい、効きが悪くなってくる事。

【依存性】
その物質の摂取を続けていると、次第にその物質なしではいられなくなってしまう事。その物質がないと落ち着かなくなったりイライラしたり、発汗やふるえなどの離脱症状が出現するようになる。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧】
ハルシオン(一般名:トリアゾラム)
レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
リスミー(一般名:リルマザホン)
エバミール/ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)
サイレース/ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)
ネルボン/ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)
ユーロジン(一般名:エスタゾラム)
ドラール(一般名:クアゼパム)
ダルメート(一般名:フルラゼパム)

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬の特徴】
効果の強さ:★★★☆☆
副作用の多さ:★★★☆☆
耐性・依存性:★★☆☆☆

Ⅱ.非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は1980年ごろより使われるようになったお薬で、ベンゾジアゼピン系の改良型になります。

ベンゾジアゼピン系は脳神経細胞のGABA-A受容体に作用するとお話ししましたが、実はGABA-A受容体にはω(オメガ)受容体という部位があり、ω受容体にはω1受容体とω2受容体があります。

ベンゾジアゼピン系はω1、ω2の両方に作用しますが、非ベンゾジアゼピン系はω1受容体にしか作用しないというのが両者の違いです。

実はω受容体のうち、睡眠に関係しているのは主にω1なのです。ω2はというと、不安を抑える抗不安作用、筋肉を緩める筋弛緩作用、けいれんを抑える抗けいれん作用に関係しています。

つまり睡眠薬として使うのであれば、ω1にだけ作用してくれた方が好都合で、そうする事により眠らせる作用はそのままで、筋弛緩作用によるふらつきの副作用などを軽減する事ができます。

非ベンゾジアゼピン系の特徴は、眠らせる作用はベンゾジアゼピン系と同等の力を持っていながら、副作用のふらつきを軽減させている事です。また耐性や依存性もベンゾジアゼピン系よりも軽減されているのではないかという見解もあります。

作用時間が短めのものが多いため、日中にまで眠気や倦怠感が持ち越しにくいというメリットもあります。

デメリットは作用時間が短いものが多いため、中途覚醒タイプ(夜中に何度も目覚めてしまう不眠)にはあまり向かないこと、そしてベンゾジアゼピン系と比べると薬価が高いという点が挙げられます。

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧】
アモバン(一般名:ゾピクロン)
マイスリー(一般名:ゾルピデム)
ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の特徴】
効果の強さ:★★★☆☆
副作用の多さ:★★☆☆☆
耐性・依存性:★★☆☆☆

Ⅲ.メラトニン受容体作動薬

メラトニン受容体作動薬は2010年から使われるようになった睡眠薬です。

このお薬は自然な眠りを導いてくれるお薬で、薬で強制的に脳に鎮静をかけるのではなく、自然な眠りを提供してくれる安全性に優れるお薬になります。

私たちが普段、夜に自然と眠くなるのは、「メラトニン」という物質が関係しています。周囲が暗くなると、脳の松果体という部位からメラトニンが分泌され、これがメラトニン受容体にくっつく事で私たちは眠気を感じると考えられています。

(メラトニンについて詳しくは、「メラトニンを増やして良い睡眠を得るために大切なポイント」をご覧下さい)

メラトニン受容体作動薬は、メラトニン受容体を刺激する事で眠気を感じさせるお薬で、私たちが本来眠気を感じる機序に沿った効き方をするため、自然な眠気を感じるお薬になります。

メリットは自然に眠気を感じることと、安全性が高い事です。日中のふらつきや眠気、倦怠感などはほとんど生じません。

しかしデメリットとしては効果の弱さが挙げられます。「全く効かない」と訴える患者さんもいらっしゃいます。またすぐに効果を感じられない場合もあり、1か月ほど服用を続ける事で少しずつ睡眠が改善してくることもあります。

【メラトニン受容体作動薬一覧】
ロゼレム(一般名:ラメルテオン)

【メラトニン受容体作動薬の特徴】
効果の強さ:★☆☆☆☆
副作用の多さ:★☆☆☆☆
耐性・依存性:☆☆☆☆☆

Ⅳ.オレキシン受容体拮抗薬

オレキシン受容体拮抗薬は2014年に発売された睡眠薬です。

オレキシンという脳の覚醒に関係する物質のはたらきをブロックする作用を持ちます。オレキシンは覚醒に関係しているため、ブロックされれば覚醒しにくくなります。つまり眠くなるという事です。

オレキシン受容体拮抗薬は、ベンゾジアゼピン系ほどではないにせよ、ある程度しっかりとした効果が得られます。また大きな副作用もなく、日中の眠気・ふらつきも生じにくいと考えられています。

耐性・依存性もない(あるいは極めて少ない)と考えられています。

【オレキシン受容体拮抗薬一覧】
ベルソムラ(一般名:スボレキサント)

【オレキシン受容体拮抗薬の特徴】
効果の強さ:★★☆☆☆
副作用の多さ:★☆☆☆☆
耐性・依存性:☆☆☆☆☆

Ⅴ.バルビツール酸系睡眠薬

バルビツール酸系は1950年頃より使われ始めたもっとも古い睡眠薬です。

現在でも何種類かは発売されていますが、基本的には使用は推奨されていません。その理由は副作用の頻度が多く、また時に重篤な副作用が生じるためです。

バルビツール酸系は、強力な催眠作用があります。そのため重度の不眠症の方が欲しがるお薬でもあります。しかし私たち医師は極力バルビツール酸系は処方しません。

眠気・ふらつき・倦怠感といった副作用も生じやすく、また耐性や依存性の生じやすいというデメリットがあります。最大の問題点は時に致死的(命にかかわる)な副作用が生じる可能性があるという事です。

特に大量服用してしまうと危険で、呼吸が止まってしまったり、重篤な不整脈が出現するリスクもあります。

バルビツール酸系は基本的には使うべきではない睡眠薬になります。

【バルビツール酸系睡眠薬一覧】
ベゲタミンA
ベゲタミンB
ラボナ(一般名:ペントバルビタール)
イソミタール(一般名:アモバルビタール)

【バルビツール酸系睡眠薬の特徴】
効果の強さ:★★★★★
副作用の多さ:★★★★★
耐性・依存性:★★★★★

7.睡眠薬以外の不眠症の治療薬

不眠症の治療薬と言えば睡眠薬ですが、た実は睡眠薬以外にも睡眠に効果のあるお薬はあります。

不眠症治療には時には睡眠薬以外のお薬を用いる事もあります。

どのようなお薬があるのかを紹介していきます。

なお睡眠薬以外で不眠症に用いられるお薬については「不眠症を改善させるお薬は睡眠薬だけではない!医師が教える不眠症の治療薬」でも詳しく紹介しています。

Ⅰ.抗うつ剤

抗うつ剤は基本的にはうつ病や不安障害の治療薬として用いられます。

しかし抗うつ剤の中には眠気をもよおすものや、眠りを深くする作用を持つものもあり、このような抗うつ剤は時に不眠症の治療薬としても使われます。

不眠に対して用いられる代表的な抗うつ剤には、古いものから、

  • 四環系抗うつ剤
  • SARI(5HT2A受容体遮断薬)
  • NaSSA

などがあります。

一般的に抗うつ剤は、睡眠薬のように即効性に優れるものは少なく、ゆっくり効き、睡眠の質を改善させるような作用をもたらします。

そのため「寝付けない」という入眠障害にはあまり向かず、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害などに用いられます。

【不眠に用いられる代表的な抗うつ剤】
テトラミド(一般名:ミアンセリン)
ルジオミール(一般名:マプロチリン)
デジレル/レスリン(一般名:トラゾドン)
リフレックス/レメロン(一般名:ミルタザピン)

Ⅱ.抗精神病薬

抗精神病薬は、主に統合失調症の方に用いる治療薬の事です。また近年では双極性障害(躁うつ病)も一部統合失調症と共通の病態であると考えられるようになり、双極性障害の治療薬としても用いられるようにもなっています。

抗精神病薬は幻覚や妄想、興奮などを改善させる作用が主ですが、脳を鎮静させることで眠りを導く作用を持つものもあります。

不眠に対して用いられる代表的な抗精神病薬には、古いものから、

  • フェノチアジン系抗精神病薬
  • MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)

などがあります。

フェノチアジン系抗精神病薬は1950年ごろに開発された初の抗精神病薬である「コントミン(一般名:クロルプロマジン)」が代表的です。

幻覚・妄想などを改善させる作用の他、心身に鎮静をさせる作用に優れ、睡眠も導きます。

しかし古いお薬であり、副作用には注意が必要です。錐体外路症状と呼ばれる手足の震えや筋肉の固まりといった神経症状が生じる事があります。またホルモンバランスを崩してしまったり(高プロラクチン血症)、稀ではありますが重篤な不整脈が生じたりするリスクもあります。

MARTAはフェノチアジン系の改良型というイメージで、幻覚・妄想などの症状を改善させる作用の他、心身を鎮静する作用に優れるという点が共通しています。

異なるのは重篤な副作用が生じる頻度が低下しているという点で、フェノチアジン系と比べると安全性に優れます。ただしフェノチアジン系よりも体重増加や血糖値の上昇などメタボリックな副作用が多いのが欠点です。

このような抗精神病薬が不眠の改善に効果的なのは事実ですが、本来は病的に生じている幻覚・妄想を抑え込む強力なお薬であるため、安易に使用すべきではありません。

不眠に用いる際は、使用するメリットとデメリットをしっかりと見極め、本当に必要な時のみの使用にとどめるべきです。

【不眠に用いられる代表的な抗精神病薬】
コントミン(一般名:クロルプロマジン)
ヒルナミン/レボトミン(一般名:レボメプロマジン)
ジプレキサ(一般名:オランザピン)
セロクエル(一般名:クエチアピン)

Ⅲ.漢方薬

漢方薬は様々な用途に使う事が出来ますが、精神的な作用をもたらすものも少なくありません。漢方薬の中には睡眠の改善作用が期待できるものもあります。

漢方薬は、服用する事で強制的に脳を鎮静させるようなものではありません。ゆっくりと自然に心を鎮めて、眠りを導くようなイメージです。

不眠症に用いる漢方薬は、不安や興奮といった不眠の原因となるような症状を抑える事で副次的に眠りに入りやすい状態を作るという効き方をします。

不眠症に用いられる代表的な漢方薬には、

などがあります。

漢方薬は様々な生薬が配合されているお薬であり、服用する患者さんの体質(証)によっても用いるものが異なってきます。

なので一概に「この症状にはこの漢方薬」と言えるものではなく、自分に合った漢方薬はどれなのかは専門家にしっかりと診察してもらって判断した方が良いでしょう。

不眠症に用いられる漢方薬については、「不眠症に用いられる漢方薬と効果的な使い方」で詳しく説明していますのでご覧下さい。

8.市販の睡眠薬(睡眠改善薬)の効果と注意点

不眠症の治療薬は病院で医師の診察を受けて処方してもらうものです。

しかし薬局に行くと、医師の処方箋なしで買える睡眠薬も売っていますね。このような市販の睡眠薬は「睡眠改善薬」と呼ばれています。

この睡眠改善薬は不眠症の治療薬としてはどうなのでしょうか。病院の睡眠薬とどう違うのでしょうか。

結論から先にいうと睡眠改善薬は、

  • 一時的な不眠(時差ボケなど)であって
  • 眠れない事にそこまで苦痛を感じていない程度

であれば検討しても良いものです。旅行時の時差ボケや、とても緊張するイベントの前日で眠れないなど、明らかに一時的な不眠であって、その程度も大きな苦しみが生じない程度の軽いものであれば、睡眠改善薬は役立ちます。

しかし反対に、

  • 眠れない日々が続いている
  • 不眠がある事で苦しいと感じている

という状態であれば使用はお勧めできません。

その理由として、睡眠改善薬の特徴をお話しします。

睡眠改善薬は、様々なものが売られています。代表的なものを挙げると「ドリエル」「ナイトール」「ネオディ」「マイレストS」「グ・スリーP」「プロリズム」などがあります。

これらは実は配合されている成分はすべて同じです。

どれもジフェンヒドラミンという成分を50mg含有しています。

このジフェンヒドラミンというのは「抗ヒスタミン薬」という種類で、脳を覚醒させる物質であるヒスタミンのはたらきをブロックする事によって眠気をもたらすお薬です。

医療では花粉症などのアレルギー疾患の治療薬として用いられています。よく花粉症のお薬を飲むと眠くなるといいますが、ここからも抗ヒスタミン薬は眠くなるという事が分かります。

ちなみにジフェンヒドラミンを含有する病院で処方する医薬品として「レスタミン」があります。しかしレスタミンは主にアレルギー疾患の治療薬として処方され、不眠に対して処方する事はまずありません。

その理由は、レスタミンは確かに眠くなるけども、

  • 催眠作用(眠らせる作用)がそこまで強くない
  • 眠気に対してはすぐに耐性が出来てしまう

ためです。

ジフェンヒドラミンは確かに飲めば眠くなりますが、そこまで強い作用ではありません。また服用して1週間以内に耐性が形成されるといわれており、すぐに身体がお薬に慣れてしまい効きが悪くなってしまいます。

そのためジフェンヒドラミンを使うくらいであれば、上記で紹介した睡眠薬を使った方が治療効果が明らかに良いため、ジフェンヒドラミンは不眠症に対しては処方されないのです。

そのため、数日の軽い不眠症状に限った使用であれば悪くはありませんが、それ以外であれば漫然と睡眠改善薬を使うのはお勧めできません。そうするくらいであれば睡眠薬などを検討した方が良いでしょう。

ちなみに病院で処方される「レスタミン(ジフェンヒドラミン)」は50mgで29円(3割負担だと8.7円)です。対して睡眠改善薬はジフェンヒドラミン50mg含有で1錠120円ほどします。同じ成分ですが、価格もかなり異なってくるのです。

睡眠改善薬については「市販の睡眠薬と病院でもらう睡眠薬との違いについて」でも詳しく説明していますので、ご覧下さい。

9.お薬を使わない不眠症の治療法について

不眠症の治療というと「お薬を飲んで眠る」という治療法が一般的だと思われるかもしれません。

しかし不眠症の治療法はお薬だけではありません。お薬以外にも不眠症を改善させる治療法はあります。

お薬による治療法はあくまでもお薬の助けを借りた上で眠れるようになっているだけに過ぎません。対してお薬以外の治療法は、自分の眠りの力を回復させるような治療法になります。

お薬による治療法と比べて、自分自身の工夫や努力が必要であり、効果が出るまでに時間もかかりますが、お薬と異なり副作用もなく、根本的に不眠を改善させる事ができます。

お薬を用いない不眠症の治療法として「認知行動療法(CBT-I:Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)」があります。

認知行動療法は、物事に対するとらえ方(認知)のゆがみを修正する事で症状の改善をはかる治療法で、うつ病や不安障害の治療法としても用いられています。

睡眠に対する認知のゆがみ(あやまった知識や自分の睡眠状況の誤解)に気付いていく事で睡眠の改善を図るのがCBT-Iになります。

認知行動療法は、精神科医や臨床心理士といった専門家と一緒にある程度の期間をかけて行われます(1回60分のセッションを6~12回程度)。

専門家の指導の下でしっかりとCBT-Iを行った場合、不眠症に対する有効率は8割とも言われています。CBT-Iは、睡眠薬に引けを取らない優秀な治療法です。

認知行動療法では、

  • 睡眠に対する正しい知識を学ぶ
  • 自分の睡眠状況を客観的に評価する

ことを専門家と行い、そもそも自分の「眠れない」という認知にあやまりはないのか、そして単に「眠れない」と焦るだけではなく、どのような理由によって不眠が生じているのかなどを評価していきます。

また眠りの質を高めるような技法、

  • 筋弛緩法
  • 刺激制御法
  • 睡眠制限法

を学び、日常の睡眠に生かしていきます。

認知行動療法は自分1人で行う事は難しく、必ず専門家の指導を受けながら行う必要がありますので、興味のある方は近くの精神科で相談してみましょう。

なお不眠症に対する認知行動療法については、「薬を使わずに不眠症を改善する!不眠に効く4つの非薬物治療」でより詳しく説明していますのでご覧下さい。

10.その他不眠症改善に役立つ治療法

その他不眠症治療の主力ではないものの、睡眠を補助的に改善させてくれる治療法を紹介します。

Ⅰ.アロマ

アロマテラピーは精油(エッセンシャルオイル)を用いて治療を行う方法です。

日本では「治療に使う」というイメージの少ないアロマですが、海外ではアロマを医療に用いている国もあるほどです。

アロマは精神状態に作用するものも多く、不眠を改善させるのにも役立つ可能性があります。

用いる精油によって得られる効果は様々ですが不眠症状に用いられる精油には、

  • ラベンダー
  • セドロール
  • バニラ
  • 白壇(びゃくだん)
  • 沈香(じんこう)

などがあります。これらには鎮静効果があるため、心身をリラックスさせたり、眠りを導くのに効果的だと考えられています

アロマと不眠については「アロマで不眠を治す!睡眠の改善に効果的なアロマの使い方」で詳しく紹介しています。

Ⅱ.音楽

音楽も上手に利用すれば不眠改善の助けとなります。

世の中には「安眠CD」と呼ばれるものがあります。「これを聴けばよく眠れるよ」というもので、脳のα波を増やすとかいった効能が謳われていたりします。

果たして良い睡眠を得るために音楽は有効なのでしょうか。

結論から言ってしまうと、睡眠中に音楽を聴いても眠りが浅くなってしまうだけであるため、睡眠中の音楽はお勧めできません。寝ているときに音が聞こえてしまうと、脳がそれに反応して覚醒してしまいますので眠りが浅くなったり、目覚めたりしてしまいます。

音に刺激されて脳の意識レベルが上がってしまえば、睡眠の質は低下します。そのため睡眠中は音楽は聞かない方が良いでしょう。

しかし眠りに入る前の段階で音楽を聴く事は有効だと考えられます。音楽によっては心身をリラックスさせる効果があるものもあります。特に落ち着いた音楽や自然の音(川のせせらぎや鳥の声など)が入っている音楽は心身をリラックスさせ、眠りに入りやすい状態を作ってくれます。

そのため、眠りに入る前の段階で落ち着ける音楽を聴く、という使い方は有効です。

音楽と睡眠については、「睡眠に効果的な音楽はあるのか。安眠CDの真実と誤解」で詳しく説明しています。

11.夢や悪夢を治す事は出来るのか

不眠症の治療をしていると、時々

「変な夢をみてしまい、眠った気がしない」
「毎日悪夢にうなされる。何とかならないか」

と夢を見るのを抑えたいという相談を頂く事があります。

夢はどういうときに出現する頻度が多くなるのでしょうか。夢に関しては完全にその原理が解明されてはないものの、睡眠中に脳が記憶の整理作業をしている一環で生じる現象だと考えられています。

睡眠には脳は起きているけど身体は眠っているレム睡眠と、脳も身体も眠っているノンレム睡眠があります。このうち夢を見るのは脳が起きているレム睡眠の時になります。

という事は、レム睡眠の割合が多くなってしまうと、夢を見る頻度が多くなるという事です。

また睡眠の深さとしてみると、レム睡眠は脳が覚醒している分浅い眠りであり、ノンレム睡眠は深い眠りになるため、夢をみるレム睡眠の割合が多くなると、浅い眠りに比率が多いという事で、十分に眠れた感覚が得にくいのだと考えられます。

また夢は記憶の整理作業の一環ですから、記憶が不快なもので占められていれば、その整理作業である夢も悪いもの(=悪夢)になりやすいと考えられます。

つまり、

  • 夢はレム睡眠の割合が多くなると生じやすい
  • 悪夢は日中の精神状態が悪いと生じやすい

という事が言えます。

では夢や悪夢はどうしたら改善できるのでしょうか。

残念ながら夢や悪夢だけを治すような特効薬はありません。

しかし夢がレム睡眠の割合が多くなると生じやすいのであれば、レム睡眠の割合を減らすような睡眠環境の整備であったり、ノンレム睡眠を増やすようなお薬などが効果的だと考えられます。

例えばアルコールはレム睡眠を増やすといわれていますので、就寝前のアルコールは摂取すべきではありません。また寝室の環境が騒音や光、温度などで不快に感じるようだと深い眠りに入れずにレム睡眠の割合が増えてしまうため、これも該当する方は改善する必要があります。

お薬としては、四環系抗うつ剤やSARI、NaSSA、MARTAなどは深い睡眠(深睡眠)を増やす作用が報告されており、夢を克服するためにも役立つ可能性があります。

悪夢は日中の精神状態が悪いと生じやすいわけですから、日中の精神状態を改善させる事が大切です。

適度に身体を動かすなどの生活習慣の改善のほか、うつ病によって精神状態が悪化しているのであれば抗うつ剤の検討、統合失調症によって精神状態が悪化しているのであれば抗精神病薬の検討など、精神状態を改善させるために最適な方法をとる必要があります

悪夢について詳しくは「なぜ人は悪夢を見るのか。悪夢の原因と治療法」でお話しています。

12.寝汗の対処法

「眠れない」と訴える方の中には、睡眠自体に問題があるわけではなく、寝汗をひどくかいてしまい、それで夜中に起きてしまうという症状の方もいます。

確かに夜中に身体が汗びっしょりになってしまえば、不快に感じ目覚めてしまうでしょう。

この寝汗で起きてしまう場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。

寝汗は様々な原因で生じますので、原因によって取るべき対処法は異なってきます。

なお寝汗が生じる原因とその対処法については、「寝汗はどのような原因で生じるのか?」で詳しく説明しています。

Ⅰ.正常な反応

そもそも寝汗は正常な生理現象としてもある程度認められるものです。

正常な睡眠では、眠りに入ると徐々に深い眠り(徐波睡眠)に移行していきますが、深い眠りに入る直前で寝汗はもっとも多くなります。

この時に中途覚醒してしまうと、「寝汗をすごくかいている!」と勘違いしてしまう事があります。

しかし実際はこれは異常な量の寝汗ではありません。たまたまその寝汗が多く出るタイミングで起きてしまっただけなのです。

こういった場合の問題は寝汗ではなく、深い眠りに入る前に覚醒してしまう事になります。

睡眠に入ってから1~2時間ほどで中途覚醒してしまって「寝汗が多い」という方は、このようにたまたま寝汗が多いタイミングで起きてしまっているという可能性を疑う必要があります。

この場合は寝汗を少なくすることを目指してはいけません。その寝汗は正常なものですから、これを少なくしてしまえば眠りの質はむしろ悪くなってしまうのです。寝汗を対処しようとするのではなく、中途覚醒を改善させるのが正しい対処法になります。

寝室環境を調整して深い眠りに入りやすいようにしたり、睡眠薬などを用いて中途覚醒を減らす方法が有効です。

Ⅱ.放熱不足

体温が急激に下がると眠気を感じます。よく映画なんかで雪山で遭難している時に眠りそうになってしまい、「眠ったらダメだ!」と眠気と闘うシーンがありますね。ここからも分かるように体温の急激な低下というのは眠気を引き起こすものなのです。

実は寝汗にもこれと同じはたらきがあります。皮膚表面に汗が分泌されると、その汗が蒸発する際に熱を奪います(これを気化熱と言います)。

寝汗は気化熱によって体温を下げ、体温を下げる事で深い眠りに導くはたらきがあるのです。

しかし体温がなかなか下がらない状況(例えば室温が高かったり、布団の中の通気性が悪すぎて熱がこもりすぎていたり)だと、いくら汗を蒸発させても体温が下がらないため、身体は「もっと体温を奪わないと!」とさらに汗を分泌させます。

このような「放熱不足」によって寝汗を悪化してしまう事があります。

体温の放熱が上手く行えずに寝汗が増えている場合、寝汗を少なくしようと考えるのは間違いになります。放熱がうまく行なえるように寝室環境を調整するという対処法が正解です。

Ⅲ.自律神経の失調

精神的な不調でも寝汗が悪化する事があります。

精神の不調は、自律神経のバランスを乱します。そして寝汗の分泌は自律神経によって調節されているため、自律神経のバランスが乱れれば寝汗の量も異常になります。

本来、睡眠前半の深い眠りに入る直前に多くの寝汗を分泌し、その後は寝汗の量は少なくなるというのが正常な自律神経の作用でもたらされていますが、このバランスが乱れると変なタイミングで寝汗が出てしまうようになります。

自律神経のバランスが乱れて寝汗が生じている場合は、自律神経を整えるような生活をすることや、自律神経を乱している原因を対処することが大切です。

例えばストレスが原因などであればストレスを回避したりストレスを上手に発散するような工夫が必要になります。うつ病などの精神疾患がある場合は適切な治療を行うことが大切になってきます。

Ⅳ.発熱によるもの

体温が高い状態だと、体温を下げるために汗の量が増えます。

つまり発熱性の疾患にかかっている場合は寝汗もひどくなります。

例えば、

  • 感染症(高熱が出ている)
  • 甲状腺機能亢進症
  • お薬の副作用

などによって高熱が出てしまうと、寝汗は悪化するでしょう。

風邪(上気道炎)や気管支炎、胃腸炎などの感染症にかかって高熱が出れば寝汗も多くなります。

甲状腺機能亢進症というのは、代謝を高めるホルモンである甲状腺ホルモンがたくさん出てしまう疾患です。甲状腺ホルモンが多くなると代謝が亢進するため汗もかきやすくなり、寝汗も多くなります。

これらの場合は寝汗は病気の症状の1つですので、根本の病気の治療を行うべきになります。

またお薬の副作用で発汗が出ることもあります。

お薬が原因で寝汗が出ている場合は、原因薬物の中止が対処法になります。