なぜ人は悪夢を見るのか。悪夢の原因と治療法

悪夢、悪夢障害の原因と治療法

夢の中でも、「イヤな夢」「怖い夢」「不快な夢」などを悪夢と呼びます。

この悪夢、できれば見たくないものですよね。悪夢を見ている間に不快なのはもちろんですが、、起床後もイヤな気分はしばらく続きます。悪夢をみて良かったという人はまずいません。

更に、悪夢が頻繁に続いてしまうと、「今日もまた悪夢をみるだろう」という恐怖から、眠るのが怖くなってしまいます。睡眠は毎日定期的に行われるものなのに、それに対して恐怖を感じてしまうと、毎日の生活は非常につらいものとなります。

特に精神疾患にかかっている方は、悪夢で苦しんでいる方は多いと感じます。せめて夜くらいはゆっくりと休みたいですよね。

今日は、悪夢はなぜ生じるのか、その原因について紹介し、治療法や対策についても考えてみたいと思います。

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1.悪夢はなぜ起こるのか?

悪夢が生じる原因については、まだ明確には解明されていません。

しかし、それで終わってしまうとこのコラムの意味がないので、ここでは現時点で分かっていることと、そこから推測される悪夢の原因について考えてみたいと思います。

まずは悪夢に限らず、「夢を見る」というのはどういうことかについて考えてみましょう。

実は私たちは毎日、夢を見ています。その夢を普段は「覚えていない」だけで、実は夢という現象は毎日私たちの睡眠中に発生しているのです。

人の睡眠は大きく分けると、レム睡眠とノンレム睡眠に分けることができます。

レム睡眠は、脳が起きていて身体が眠っている状態です。レム(REM)とはRapid Eye Movementの事で、「速い眼球運動」という意味です。脳が覚醒しているレム睡眠では、脳の刺激による眼球の高速運動がみられるため、このような名前がついています。

レム睡眠は、脳が覚醒しているため「浅い眠り」です。そして、人が夢を見るのは主にこのレム睡眠の時です。

一方で、ノンレム睡眠は身体も脳も最低限しか起きておらず、ほとんど眠っている状態のことです。身体も脳も大部分が眠っているため、一般的には「深い眠り」だと言われてます。ノンレム睡眠時は、脳は休んでいるため夢を見ることはあまりありません。

私たちが夢の内容を覚えている時というのは大抵がレム睡眠が多かった時です。レム睡眠が多かった場合、夢を見ている時間が多かった分、夢として意識に残りやすいのです。

また、夢は脳が「記憶の整理」を行っている時に生じるものだと考えられています。私たちの脳には毎日膨大な情報が入ってきます。それを整理している時に生じるものを私たちは「夢」だと認識します。つまり、悪い夢が生じるということは、脳の記憶の中に怖い記憶や不快な記憶、つらい記憶などが多かったということになります。

例えば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という疾患があります。大きなショックや精神的ストレスを受けた後、恐怖感が消えず、その出来事が「フラッシュバック」してしまう疾患です。PTSDのように、非常に恐怖を感じることを体験した後は、悪夢を見やすいと言われています。

まとめると、悪夢は、

  • 眠りが浅くて(レム睡眠が多くて)、
  • 脳がつらさ、怖さ、不快などを多く感じている時

に生じやすいと言えます。

2.悪夢が生じやすい疾患

悪夢が起こりやすい病気にはどのようなものがあるでしょうか。
先ほど説明した状態、

  • 眠りが浅くなる
  • つらさ、怖さ、不快などを多く感じる

が当てはまる疾患では、悪夢が多くなることが予測されます。

基本的に病気は、どんなものであってもつらいので病気の間は、そうでない時に比べて悪夢を見る確率は高くなります。精神疾患に限らず、風邪を引いてつらい時、胃腸炎にかかってつらい時は普段よりも多少、悪夢を見やすくなるでしょう。

年代的には、大人よりも子供の方が悪夢を見やすいようです。これは大人と比べて子供の方が、感覚が敏感であること(つらさや恐怖などを大人より敏感に感じる)、そしてレム睡眠の割合が多いことが理由だと考えられています。

子供が悪夢を見る場合、日常生活に大きな支障がなく、成長とともに自然と消失していくのであれば必ずしも治療を行う必要はありません。

また、睡眠中に苦しさを感じる状態でも悪夢は多くなります。室温が高すぎて寝苦しかったり、枕の高さが合ってなくて身体がつらさを感じていると悪夢が生じやすくなります。この場合は寝具や睡眠環境の調整が必要になります。

睡眠時無呼吸症候群という疾患も悪夢を見やすくなります。この疾患では、睡眠中に呼吸が一定時間止まってしまうので、身体が苦しさを感じるからです。

精神疾患で見てみると、ほとんどの精神疾患が悪夢を引き起こします。精神疾患は基本的に精神的なつらさを感じるものがほとんどだからです。

統合失調症では幻覚や妄想が出現しますが、これらはほとんどの場合患者さんにとって不快なものです。「闇の組織に狙われている」「死ねという声が一日中聞こえる」、こういった日常を過ごしていれば、脳は記憶は不快なものが多くを占めてしまい、レム睡眠中に悪夢が発生しやすくなります。

うつ病でも、気力が出なかったり落ち込みが続いたりして絶望的になれば、脳の記憶は不快なもので占められていきます。うつ病は症状のひとつとして睡眠の質が浅くなるため、これも悪夢を引き起こす原因となります。

パニック障害や社会不安障害、強迫性障害などでも同様です。発作が起こったつらい時というのは強烈に記憶に残りますので、その記憶を元に悪夢を見やすくなります。

精神科領域で特に悪夢を起こしやすいのが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)とレム睡眠行動障害です。

心的外傷後ストレス障害では、トラウマになった出来事のフラッシュバックが繰り返されることにより、脳の記憶もその出来事が強く固定され、それに関連した悪夢を起こしやすくなります。

また頻度は稀ですが、悪夢障害という疾患もあります。

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3.悪夢障害とは

悪夢障害(Nightmare Disorder)とは、どんな病気でしょうか。診断基準を紹介します。

A.長引いた非常に不快な、詳細に想起できる夢が反復して生じる。その夢は通常、生存、安全、または身体保全への脅威を回避しようとする内容を含み、一般的には主要睡眠時間帯の後半に起こる。

B.不快な夢から覚めると、その人は急速に見当識と意識を保つ。

C.その睡眠障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D.その悪夢症状は、物質(例:乱用薬物、医薬品)の生理学的作用によるものではない。

E.併存する精神疾患または医学的疾患では、不快な夢の訴えの主要部分を十分に説明できない。

(DSM-5の診断基準より抜粋)

悪夢が高い頻度で生じて、それによって本人が「困っている」ものを悪夢障害と呼びます。PTSDやうつ病などの他の精神疾患が原因ではなく、また薬物が原因でもないことが条件です。

睡眠が不規則で、レム睡眠の割合が多くなるような睡眠をとっている方に多いと言われており、また遺伝的要因もあると言われています。

悪夢障害の苦しみが続くと、そのつらさから、自殺を考えたり、実際に自殺を企てたりする危険性が高くなると報告されています。悪夢が頻繁に生じて、つらい思いをしているのであれば精神科に相談し、適切な治療を受ける必要があります。

悪夢障害に対しての特別な治療法はなく、質の良い睡眠を得るための教育指導を行ったり、レム睡眠を抑制させるおくすり(一部の三環系抗うつ剤など)やノンレム睡眠を増加させるおくすり(NassaやMARTAなど)を使用することがあります。

*Nassa・・・抗うつ剤の一種。ミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)
*MARTA・・・抗精神病薬の一種。オランザピン(商品名ジプレキサ)、クエチアピン(商品名セロクエル)

4.悪夢はどのように治していくのか

まず、悪夢が治療の対象なのかどうかを見極める必要があります。

というのも、悪夢が全て異常で病気だと言うわけではないからです。正常な状態でも、一時的にイヤなことがあって、それに反応して一時的に悪夢を見ることはあります。成人の50%は時々悪夢を見るという報告もあります。しかしこれは必ずしも治療する必要はありません。

例えば仕事でとてもイヤな思いをして、精神的ダメージを受ければ一時的に悪夢は見やすくなるでしょう。しかし、この精神的ストレスが一時的なものであれば、様子をみていれば悪夢も自然を治っていきます。

悪夢を治すことを積極的に考えるのは、

  • 悪夢が頻繁に続いていて
  • それが本人の生活に支障を与えているとき

です。

悪夢がたまにしか起こらないのであれば様子をみて良いでしょう。また、本人が悪夢に対して何も苦痛を感じていないのであれば治療しなくても良いでしょう。

悪夢を治すのに特効薬はありません。明らかな原因がある場合は、その原因の治療をすることが結果的には悪夢の治療につながります。

例えば、統合失調症で悪夢が生じるのであれば、抗精神病薬などで幻覚妄想を取ってあげれば精神的にも落ち着き、悪夢も減るでしょう。うつ病であれば、落ち込みや絶望感、無気力を改善してあげれば悪夢は減っていくはずです。

また、悪夢は、

  • 眠りが浅い(レム睡眠が多い)
  • つらさ、怖さ、不快などを多く感じる

ことが原因だと考えられていますので、出来る範囲でこれらの改善を試みることは試す価値があります。

特に、眠りの浅さに関してはアプローチする方法がいくつかあります。

  1. 睡眠環境の調節:寝具の調整、室温や騒音対策など
  2. 生活習慣の改善:禁煙、禁酒、適度な運動など
  3. 睡眠への認知行動療法(CBTi)
  4. 必要に応じて睡眠薬などの投与

などを原疾患の治療と合わせて行うと良いでしょう。

ただし、睡眠薬はレム睡眠を増やしてしまうものもあります。この場合、かえって悪夢が増えてしまう可能性がありますので注意が必要です。主治医とよく相談の上で判断しましょう。睡眠薬以外でも、先ほども紹介したレム睡眠を抑制するおくすりやノンレム睡眠を増やすおくすりが検討されることもあります。

また、補足ですが主にPTSDなどで生じる 悪夢に対してプラゾシン(商品名:ミニプレス)というお薬が有効だという報告が海外でされています。プラゾシンは元々、血圧を下げるお薬で、アドレナリン受容体を遮断する作用があります

なぜ悪夢にプラゾシンが効果があるのかは詳しくは分かっていませんが、悪夢はアドレナリンが過剰になることが一因になっているのではという説や、プラゾシンが脳神経の損傷を保護するはたらきがあるのではという説が提唱されています。

PTSDの悪夢に対してプラゾシンを使用することは、保険上は認められていませんので、主治医とよく相談して判断する必要があります。

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