不眠症に用いられる漢方薬と効果的な使い方

不眠に効果のある漢方薬

不眠症は有病率が非常に高い疾患です。

不眠症の治療法は睡眠薬などの薬物療法が主となっているのが現状です。しかし「副作用が心配だから、なるべくお薬を使わずに治したい」と希望される患者さんも少なくありません。

睡眠薬は倦怠感やふらつきなどの副作用が生じるリスクがある他、長期的に見れば耐性や依存性が問題となる事もあります。もちろん正しく使えばこれらの副作用は過度に恐れるものではありませんが、実際にこれらの副作用で苦しんでいる方がいらっしゃるのもまた事実です。

このようなリスクから睡眠薬を敬遠がちな方でも、「漢方薬」であれば服用したいと考える方も多いようです。

「漢方薬で不眠症を治す事はできないでしょうか」

このような質問を患者さんから頂く事があります。

漢方薬は上手に使えば不眠症を改善する助けになってくれます。

今日は不眠症に効果のある漢方薬と、不眠症を漢方薬で治療するに当たって知っておいてほしい事をお話していきます。

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1.漢方薬は不眠症に効果があるのか

漢方薬は不眠に効果があるのでしょうか。

結論から言ってしまうと、漢方薬で不眠症を改善させる事は可能です。

漢方薬の中には、精神状態を安定させる事で眠りに導きやすくするものがいくつかあり、これらを利用する事で不眠症を改善させる事が期待できます。

ただし不眠症に用いられる漢方薬は、「眠れない」事に直接作用するお薬ではありません。睡眠薬のように「脳を強制的に鎮静させる作用」を持っているわけではなく、精神状態を安定させる事で副次的に眠りやすくなるため、不眠症にも効果があるという考え方になります。

漢方薬によってはイライラを抑えたり、不安を和らげたり、自律神経のはたらきを整える作用を持つものがあり、このような作用を得る事で副次的に眠りにも入りやすくなるという事です。

不眠症に漢方薬が有効である事には間違いありませんが、このように一般的な睡眠薬とは効き方が異なる点には注意しなければいけません。つまり、漢方薬に対する正しい知識を持って使用しないと、十分な効果が得られない可能性があるという事です。

睡眠薬と同じような考え方で、「飲めば眠くなるもの」と簡単に考えて服用を開始してしまうと、思ったような効果が得られない可能性が高いでしょう。

2.漢方薬で不眠を改善する際の注意点

漢方薬は西洋薬(睡眠薬など)と異なる特徴がいくつかあります。

みなさんはお薬の専門家ではありませんので、その特徴をすべて知る必要はありません。

ここでは漢方薬で不眠を改善させるにあたって、知っておいた方がよい特徴をいくつか紹介させて頂きます。

Ⅰ.即効性は低い

漢方薬は全体的に、即効性に劣るものがほとんどです。

もちろん漢方薬の中にも即効性に優れるものはあります。しかし基本的に漢方薬は「ゆっくり少しずつ」効いてくるという効き方をします。不眠に用いられる漢方薬も基本的にはゆっくりと効いてくると考えなくてはいけません。

睡眠薬を利用した事がある方は、不眠症のお薬は「飲めばその日からしっかりと効果が得られる」という感覚を持っているかもしれません。しかしこれは漢方薬には当てはまりません。

漢方薬は脳を強制的に眠らせるようなお薬ではなく、不安を和らげたり、自律神経のはたらきを整える事で間接的に眠りを改善させるお薬になります。

漢方薬を飲み続ける事で、心身の状態が徐々に整えられていき、それに伴い不眠も徐々に改善していくのです。

そのため漢方薬で不眠を改善しようと考える場合、効果を得るまでに数週間~1か月ほどは服用を続ける必要あります。

また眠りに対してピンポイントで効くものではないため、睡眠薬のように就寝前だけに飲めばいいというものでもありません。1日を通して朝・昼・夕と服用する必要があります。

Ⅱ.不眠に直接効くわけではない

漢方薬は直接脳を眠らせる作用を持つものではありません。

イライラや興奮、不安や緊張、心身の疲れなどを漢方薬が和らげる事によって、副次的に不眠も改善が得られていくという効き方になります。

つまり「自分はどのような精神状態で不眠となってしまっているのか」を見極める事が大切で、ここを取り間違えてしまうと、自分に合った漢方薬を選択する事が出来なくなってしまいます。

不眠を引き起こす精神状態の中で、漢方薬が得意とする症状には、

  • イライラ、興奮
  • 不安
  • 心身の疲れ

などがあります。

このような精神状態に伴う不眠であれば、漢方薬が役に立つ可能性は高いでしょう。

その他の不眠に対して無効だという事はありませんが、例えば双極性障害の高揚気分や統合失調症の幻覚に伴う不眠などには、漢方薬が効く可能性は低くなります。

Ⅲ.麻黄(エフェドリン)の入っている漢方薬は注意

漢方薬の中には、麻黄(まおう)が含まれているものがあります。

麻黄は「エフェドリン」とも呼ばれる物質で、血圧を上げたり代謝を亢進させる作用があります。心身の活動性を高める物質であり、脳を覚醒させる方向に働く物質です。

そのため、麻黄を含む漢方薬は、基本的には不眠症に対しては用いてはいけません。脳を覚醒させることで、かえって不眠を悪化させてしまうからです。

不眠症に漢方薬を用いる場合は、麻黄が含まれていないものを選ぶ必要があります。

Ⅳ.証が合ったものを選ぼう

漢方独特の考え方として「証」という概念があります。「証」とは分かりやすく言えば体質のようなもので、自分の証に合った漢方薬を選ばないと、漢方薬は十分な効果が発揮されません。

証にはいくつもの分け方がありますが、代表的な2つの証を見てみましょう。

まずは「虚実」という証の概念です。精神疾患においては、実とは体力が強いこと、虚とは体力が弱いことを表します。「実」「虚」、そしてそれらの間である「中間」に分けられます。

また「寒熱」という証の概念があります。これは代謝の良さや患者さん本人が自覚する身体の熱感を表します。体温の高さではありませんので注意してください。これも「熱」「中等」「寒」の三段階に分けて考えます。

漢方薬はそれぞれ「このような証の人に向いています」と適正な証があります。

不眠症に漢方薬は確かに有効なのですが、効果をしっかり得るためには、自分の証と用いる漢方薬の証が同じであるかも確認する必要があります。

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3.不眠に用いられる漢方薬

不眠に用いられる漢方薬は具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

症状に応じて用いられる代表的な漢方薬を紹介していきます。

なおここで紹介する漢方薬以外でも不眠に用いるものはありますが、ここでは代表的なもののみいくつかにしぼって紹介させていただきます。

Ⅰ.イライラや興奮で眠れない

不眠の原因がイライラであったり、興奮であったりする場合は、

  • 黄連解毒湯
  • 抑肝散

などが用いられます。

黄連解毒湯は、心熱(心臓の熱)を清する作用があると考えられています。心臓(心)は漢方医学においては、感情や思考・意識といった精神を保つ機能があると考えられており、心の熱が盛んになりすぎると熱毒が生じます。

イライラや興奮で眠れない場合は心熱によって熱毒が生じている可能性があります。こういった場合には心熱を鎮める事で不眠の改善が図ります。

黄連解毒湯
<効能・効果>
比較的体力があり、のぼせぎみで顔色赤く、いらいらする傾向のある次の諸症。鼻出血、不眠症、ノイローゼ、胃炎、二日酔、血の道症、めまい、動悸。

<証>実証、熱証

抑肝散は、「肝の虫を抑える」はたらきを持ちます。漢方医学では肝臓は理性を保ち、冷静に常識的に行動させる機能があると考えられています。

肝への血流が減少してしまうと肝鬱となり、気分が不安定になります。これによりイライラや興奮が生じる事があります。

抑肝散は肝への血流を改善させることで肝鬱を改善させ、肝の虫を抑えてイライラや興奮を和らげます。

肝鬱による不眠が生じている場合は、抑肝散を用います。

抑肝散
<効能・効果>
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症。神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症。

<証>虚証、熱証

Ⅱ.不安で眠れない

不眠の原因が不安から来る場合は、

などが用いられます。

加味帰脾湯は心臓の機能を高めるはたらきがあります。先ほど説明したように漢方医学では心臓は精神を保つ作用があるため、心臓の機能を高める作用は精神安定につながります。

また加味帰脾湯には清熱作用(熱を冷ます作用)があり、鬱熱(うつねつ)などの悪い熱を和らげる事で不安を落ち着かせる作用があります。

加味帰脾湯
<効能・効果>
虚弱体質で血色の悪い人の次の諸証:貧血、不眠症、精神不安、神経症

<証>虚証、寒証

加味逍遥散は、肝臓への血の巡りを改善させる作用があります。先ほど説明したように漢方医学では肝臓も理性などの精神に関係すると考えられているため、肝臓のはたらきを改善させる事も精神安定につながります。

また加味逍遥散も清熱作用(熱を冷ます作用)があり、鬱熱を和らげて不安を落ち着かせる作用があります。

加味逍遥散
<効能・効果>
体質虚弱な夫人で、肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸証:冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道証

<証>虚証、寒証

柴胡加竜骨牡蛎湯は、肝臓の血流を改善させて肝鬱を改善させる作用の他、安神剤(精神を穏やかにする)である竜骨と牡蠣によって不安を和らげて精神を安定させる作用があります。

【柴胡加竜骨牡蛎湯】
<効能・効果>
精神不安があって、どうき、不眠などを伴う次の諸症。 高血圧の随伴症状(どうき、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜なき。

<証>実証、熱証

Ⅲ.心身の疲労で眠れない

不眠の原因が心身の疲労から来る場合は、

  • 酸棗仁湯

などが用いられます。

酸棗仁湯は心肝虚血(心臓と肝臓の血のめぐりが悪くなる事)を改善させる作用があり、これにより精神を整える作用があります。

また心身の熱を取る事で疲労を回復させる作用もあります。

【酸棗仁湯】
<効能・効果>
心身がつかれ弱って眠れないもの

<証>虚証、熱証

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