ベゲタミンA配合錠の効果と特徴【医師が教える睡眠薬の全て】

ベゲタミンA配合錠(一般名:クロルプロマジン-プロメタジン-フェノバルビタール)は1957年に発売された古いお薬で、3つの成分が配合された合剤になります。

いくつかの効果を持つお薬ですが、特に眠りの作用が強力であるため、現在では主に睡眠薬として用いられています。

ベゲタミンA配合錠を睡眠薬として見た場合、「フェノバルビタール」というバルビツール酸系と呼ばれる成分に特に強力な催眠効果があることから、ベゲタミンAはバルビツール酸系睡眠薬に分類されます。

バルビツール酸系は一番最初に開発された最古の睡眠薬で、眠らせる力は強力であるものの問題となるような副作用も多いお薬です。

そのため睡眠薬の種類が豊富になってきた現在においては、心身の安全を考えれば極力使うべきではないお薬になります。

ベゲタミンAにはどのような効果・特徴があるのでしょうか。ここではベゲタミンAの効果や強さについて紹介します。

1.ベゲタミンA配合錠とはどんなお薬なのか

ベゲタミンAは「配合錠」という名前からも分かるように、3つの成分が配合されたお薬になります。

具体的には、

  • クロルプロマジン(商品名:コントミン)
  • プロメタジン(商品名:ピレチア・ヒベルナ)
  • フェノバルビタール(商品名:フェノバール)

の3つ配合されています。それぞれの作用をかんたんに紹介します。

クロルプロマジンは商品名としては「コントミン」というお薬であり、これは第1世代抗精神病薬という種類のお薬になります。脳のドーパミンのはたらきをブロックする作用を持ち、主に統合失調症の治療薬として使われています。クロルプロマジンはドーパミンのブロックの他、ヒスタミンのはたらきをブロックする作用(抗ヒスタミン作用)も持っています。ヒスタミンをブロックすると眠くなるため、コントミンは眠気も来たしやすいお薬になります。

コントミンは統合失調症の治療薬として最初に開発された有名なお薬で、多くの統合失調症患者さんを救ってきたお薬です。しかし副作用が多い事、大量に服薬すると重篤な不整脈や悪性症候群といった危険な副作用が出現する可能性があることから、現在ではあまり用いられていません。

プロメタジンは商品名としては「ピレチア」「ヒベルナ」というお薬で、これは抗ヒスタミン薬というお薬になります。プロメタジンは抗ヒスタミン作用が強く、眠りに導く力に優れます。またクロルプロマジンの副作用として生じることのある錐体外路症状(EPS)や吐き気を改善するはたらきがあり、ベゲタミンにおいてはクロルプロマジンの副作用止めとしての役割も果たしています。

フェノバルビタールは商品名としては「フェノバール」というお薬で、バルビツール酸系という種類のお薬です。バルビツール酸系は催眠作用(眠りを導く作用)や抗けいれん作用に優れるため、不眠症やてんかんなどに用いられていたお薬です。しかし耐性・依存性が強く、大量服薬すると危険な副作用も多いため、現在では極力用いられないお薬となっています。

ベゲタミンAは、この3つの成分から出来ています。3つとも催眠効果(眠りに導く効果)が高いお薬であり、

  • クロルプロマジンの抗ヒスタミン作用、抗ドーパミン作用(鎮静作用)
  • プロメタジンの抗ヒスタミン作用
  • フェノバルビタールの催眠作用

によって強力に眠りに導きます。

更にクロルプロマジンとフェノバルビタールは相互に作用を増強するはたらき(相乗作用)があり、一緒に使うことで動物実験ではクロルプロマジンは約10倍、フェノバルビタールは約2倍の相乗作用を示すことが確認されています。これにより更に強力な催眠作用を発揮します。

ベゲタミンは元々は統合失調症の方に向けて作られたお薬です。統合失調症の方は抗精神病薬で治療して症状が落ち着いた後も不眠や不安といった症状に悩まされる事が多かったため、これらを1剤で解決出来るお薬として開発されました。統合失調症の方にベゲタミンを使えば、1剤で統合失調症の症状を抑えつつ、不眠や不安も改善できるという狙いです。

しかし現在では、どの成分も古いものになってしまい、統合失調症の治療薬としては用いられないものばかりとなっています。

コントミン(クロルプロマジン)のような第1世代抗精神病薬は、副作用の多さから使用される頻度が減ってきており、現在では安全性の高い第2世代抗精神病薬が主流となっています。

フェノバール(フェノバルビタール)は、強力な耐性・依存性の問題と、過量服薬をすると命に関わるような副作用(呼吸抑制や血圧低下など)が出てしまう危険から、現在の睡眠薬治療はベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬(ロゼレムなど)、オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラなど)に変わっています。

ベゲタミンに含まれる成分の副作用の多さを見ると、現代においては用いるべきではないお薬になります。

しかしベゲタミンの眠りに導く力は現在においても最強クラスであるため、重度の不眠症の方に今でも用いられているのが現状です。

2.ベゲタミンAの強さ

睡眠薬を処方した時、患者さんが関心を持つのが「睡眠薬の強さ」です。

「先生、一番強い睡眠薬をください」
「睡眠薬は怖いから、一番弱いやつをください」

と睡眠薬の強さに対して、希望を頂くことは少なくありません。

ベゲタミンAは睡眠薬としての効果は非常に強く、「最強レベル」だと言っても過言ではありません。

最強の催眠効果を持つバルビツール酸系に加え、抗ヒスタミン作用という眠気をもよおす作用が強いお薬を配合しているため、効果は非常に強力です。

「ベゲタミンが一番良く効く」
「ベゲタミンを飲むとすぐに『落ちる』感覚が得られて眠れる」

と評価する患者さんも多く、「非常に強い睡眠薬」だと言って良いでしょう。

しかし問題は副作用にあります。効果が強いだけなら、そこまで問題はないのですが、ベゲタミンAは効果が強い分副作用も強力なのです。

ベゲタミンの副作用の問題点は主に2つあります。それは、

  • 耐性・依存性が強く、また急速に生じる
  • 大量に服薬すると呼吸停止・重篤な不整脈・悪性症候群などのリスクもある

という非常に大きな問題なのです。

ベゲタミンを飲むと最初はストンと眠れるため、不眠で困ってきた患者さんは「これは素晴らしい睡眠薬だ!」と感動するかもしれません。

しかし、それは長くは続かないことを知っておかなければいけません。

ベゲタミンは耐性形成が急速に進むため、最初は1錠でぐっすり眠れていても、すぐに1錠では眠れなくなってきます。すると2錠、3錠・・・と増やさなくてはいけなくなります。そうこうしているうちに服薬量が大量になってしまい、危険な副作用が出現するリスクが上がっていきます。しかしそのころには依存性が形成されているため、ベゲタミンをやめることができなくなっています。

バルビツール酸系が主役であった1950年頃は、このような悪循環に至るケースが非常に多く認められたため、バルビツール酸系は使われなくなっていったのです。

そして現在においてもバルビツール酸系は極力用いるべきではありません。

3.ベゲタミンA配合錠とベゲタミンB配合錠の違いは?

ちなみにベゲタミンには「ベゲタミンA配合錠」と「ベゲタミンB配合錠」の2種類があります。これは何が違うのでしょうか。

この2つの違いは成分の含有量の違いです。かんたんに言うとベゲタミンBの方が配合量が少なく、効果の弱いお薬になります。見た目としてはベゲタミンA配合錠が赤色で、ベゲタミンB配合錠は白色となります。

ベゲタミンA配合錠とベゲタミンB配合錠のそれぞれの成分量は次のようになります。

薬物名 クロルプロマジン プロメタジン フェノバルビタール
ベゲタミンA配合錠 25mg 12.5mg 40mg
ベゲタミンB配合錠 12.5mg 12.5mg 30mg

4.他睡眠薬との比較

ベゲタミンAをはじめとしたバルビツール酸系は、睡眠に導く力は非常に強いお薬になります。効果の強さだけを見れば、睡眠薬の中でもトップクラスでしょう。ただし感覚としては「ぐっすり眠れる」というよりは「薬で強制的に意識を落とされる」という印象を持つ患者さんが多いようです。

睡眠薬はいくつかの種類があり、これらは強さに差があります。

睡眠薬の種類は昔のものから挙げると、

  • バルビツール酸系
  • 非バルビツール酸系
  • ベンゾジアゼピン系
  • 非ベンゾジアゼピン系
  • メラトニン受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬

などがあります。

これらの強さを比較してみると、

バルビツール酸系=非バルビツール酸系>>ベンゾジアゼピン系=非ベンゾジアゼピン系=オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬

となります(あくまで目安で個人差があります)。

現在の睡眠薬は、「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の2種類の睡眠薬が睡眠障害の治療の中心となっています。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体に結合することで、催眠作用・筋弛緩作用などを発揮する。効果と安全性のバランスに優れるが長期使用による耐性・依存性に注意が必要
(代表薬:ハルシオン、レンドルミン、サイレース、ロヒプノール、ドラールなど)

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体のω1という部位に選択的に結合することで筋弛緩作用を起こしにくくし、ふらつきや転倒のリスクが減っている睡眠薬。耐性・依存性はベンゾジアゼピン系よりは軽いという報告もある。
(代表薬:マイスリー、アモバン、ルネスタ)

また最近では「オレキシン受容体拮抗薬」「メラトニン受容体作動薬」といった、依存性のほとんどない新しい睡眠薬も登場してきています。これらのお薬は安全性の高さから、今後の睡眠薬の主役を担う可能性の高いお薬です。

【オレキシン受容体拮抗薬】
脳を覚醒させる物質であるオレキシンをブロックすることで眠りに導く。耐性・依存性がないと言われている
(代表薬:ベルソムラ)

【メラトニン受容体作動薬】
眠りに導くメラトニンという物質の作用を後押しする。耐性・依存性はないが効果も弱め
(代表薬:ロゼレム)

一方でベゲタミンはというと、フェノバルビタールという「バルビツール酸系」の成分を含む睡眠薬になります。

バルビツール酸系は1950年頃より使われ始めた一番古い睡眠薬です。麻酔薬としても使われるほどの強い催眠効果を持っているのですが、一方で過量服薬をすると呼吸が止まってしまったり、血圧低下によるショックが生じるといった危険性も高く、また耐性・依存性が非常に強く・また急速に形成されることも大きな問題点でした。

【耐性】
服薬を続けていくと、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。

【依存性】
服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。

そのため1980年頃にベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場してからは使用されることは少なくなり、現在ではほとんど処方されることはないお薬となっています。

またベゲタミンAは、クロルプロマジンという「第1世代抗精神病薬」も含みます。これも抗ヒスタミン作用によって眠りに導く作用がありますが、第1世代抗精神病薬は大量に服薬すると重篤な不整脈や悪性症候群といった危険な副作用が出現する可能性があるため、これも現在ではあまり用いられないお薬となっています。

そのため現状では、効果と安全性のバランスの良い

  • ベンゾジアゼピン系
  • 非ベンゾジアゼピン系
  • オレキシン受容体拮抗薬

の3種類が主に用いられています。

5.ベゲタミンAの作用機序

ベゲタミンAはどのような作用によって不眠を改善させているのでしょうか。

ベゲタミンAが眠りを導く機序には大きく2つあります。

1つ目がフェノバルビタール(バルビツール酸系)による作用です。

ベゲタミンはバルビツール酸系に属しますが、バルビツール酸系の催眠作用は、GABA(ɤアミノ酪酸)のはたらきを強めることになります。具体的にはGABAが作用する部位であるGABA受容体(特にGABA-A受容体)のバルビツール酸系結合部位にベゲタミンが結合することで、眠くなるのです。

GABAは脳のはたらきを抑制させる神経に関与しているため、ベゲタミンによってGABAのはたらきが強まれば眠くなります。

ちなみにベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系も、同様にGABA-A受容体のはたらきを強めるのが作用機序になりますので、バルビツール酸系とベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系は、作用機序としては似ています。

しかしバルビツール酸系の方が強力にGABA受容体を刺激するため、強力な催眠効果と強力な副作用が生じるのです。

そして2つ目は、抗ヒスタミン作用です。

クロルプロマジンとプロメダジンは、どちらも抗ヒスタミン作用の強いお薬です。抗ヒスタミン作用とはヒスタミンという物質のはたらきをブロックする作用です。ヒスタミンは脳の覚醒に関わっている物質であるため、これがブロックされると人は眠くなってしまうのです。

この2つの作用から、ベゲタミンAは強力な催眠効果を発揮します。

6.ベゲタミンの副作用

ベゲタミンの副作用については、「ベゲタミンの副作用と対処法」の記事にて詳しく紹介します。