ダルメートカプセルは1975年に発売された睡眠薬で、ベンゾジアゼピン系という種類に属します。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳のGABA受容体をいう部分を増強することで催眠作用を発揮します。効果も良く、適切に使用すれば重篤な副作用も少ないため、不眠治療によく用いられているお薬です。
ここではダルメートカプセルの効果や強さ、他の睡眠薬との比較などを紹介します。
1.ダルメートカプセルの特徴
睡眠薬にはたくさんの種類があり、それぞれ特徴が異なります。睡眠薬を選択する際は、主治医とよく相談して自分に合ったものを選ぶことが大切です。数ある睡眠薬の中で、ダルメートカプセルはどのような位置付けなのでしょうか。
ダルメールは即効性・持続力ともに優れる睡眠薬となります。
ダルメートは長時間型の睡眠薬に分類され、基本的には「長く効く睡眠薬」という位置づけになります。
だいたいの睡眠薬は、人の睡眠時間に合わせて数時間~10時間前後の作用時間になっています。しかしダルメートは約14.5~42.0時間という長い半減期を持ちます。半減期というのはお薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間の事で、作用時間の1つの目安となる値です。
作用時間が長いと日中にも眠気が残ってしまうデメリットがありますが、一方で夜中に何回も起きてしまうような「中途覚醒タイプ」の不眠症には効果が期待できます。またゆっくり長く効く睡眠薬は依存性を形成しにくいというメリットもあります。
ダルメートは即効性もあります。例えば同じく半減期の長い長時間型睡眠薬であるドラール(クアゼパム)は服薬してから血中濃度が最大になるまでに3~4時間かかりますが、ダルメートはというと服薬後約1時間で血中濃度が最大となります。
他にもダルメートには抗不安作用(不安を和らげる作用)を比較的しっかり有している点も特徴です。これをうまく使えば夜は睡眠薬として効き、日中は不安を軽減させるという効果も期待できます。
また、ベンゾジアゼピン系の中では筋弛緩作用(筋肉の緊張をゆるめる作用)が弱いことも特徴です。筋弛緩作用が強い睡眠薬は、リラックスできる反面で夜間に起きてしまった時のふらつきや転倒のリスクとなります。ダルメートはこのような副作用を生じにくいと言われています。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。かんたんに説明するとレム睡眠は身体を休める睡眠で、ノンレム睡眠は脳を休める睡眠になります。睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されることで脳と身体の両方が休まるのです。このうち、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はレム睡眠を抑制してしまうものが少なくありません。しかしダルメートはレム睡眠を抑制しにくいという特徴もあります。
このようにダルメートは
- 即効性がある
- 持続力もある
- 筋弛緩作用が少ない
- 日中の不安軽減にも効果がある
という万能型の作用を示します。
が、その割には今一つ普及していない睡眠薬です。
その理由は「様々な作用がある」というメリットは裏を返せば、「余計な作用が出やすい」という事にもなるからだと思われます。上記の症状全てがある場合は、ダルメート1剤で全てが解決できるため理想的な睡眠薬になりますが、一部の症状しかない場合はその症状に特化した睡眠薬の方が好ましいでしょう。
例えば、「寝つきが悪いだけで一回寝付けば問題ない」であればダルメートよりも即効性に優れるのみの睡眠薬の方が良いでしょう。「眠れないだけで、日中の不安感は別にない」であれば、日中に持ち越さない睡眠薬の方が良いでしょう。
ダルメートには色々な作用があるため、一見この睡眠薬を使えば全てが解決しそうな気もしますが、安易に選択する睡眠薬ではありません。自分の症状と作用が合っているかをしっかりと見極めてから使うべきお薬になります。
2.ダルメールカプセルの作用時間
睡眠薬は半減期の違いによって、次の4種類に分けることが出来ます。
超短時間型・・・半減期が2~4時間
短時間型 ・・・半減期が6~10時間
中時間型 ・・・半減期が12~24時間
長時間型 ・・・半減期が24時間以上
半減期というのは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、「おおよその作用時間」を知る目安になる値です。実際はお薬の血中濃度が半分になれば必ず効果がなくなるわけではありませんし、お薬が分解されてできた代謝物にも睡眠薬としての作用があることがあったりすることもあり(活性代謝物)、半減期と作用時間は完全に一致するものではありません。
しかし「おおよその」目安としては有用であるため、1つの指標として半減期は使われています。
この中でダルメートは「長時間型」の睡眠薬に分類されます。ダルメートは服薬してから約1時間ほどで血中濃度が最高値になり、半減期は約14.5~42時間前後です。
正確に言うとダルメート自体の半減期は6時間ほどであり、ダルメートの活性代謝物であるデスアルキルフルラゼパムの半減期が14.5~42時間になります。活性代謝物とは、デスアルキルフルラゼパムはダルメートが分解されて出来る物質です。デスアルキルフルラゼパムんは睡眠薬としての作用や抗不安薬としての作用があります。
ダルメートの面白いところは、ダルメートは催眠作用(眠らせる作用)に優れる物質なのですが、活性代謝物のデスアルキルフルラゼパムは催眠作用よりも抗不安作用に優れる物質だという点です。
つまりダルメートは服薬すると最初は睡眠薬としてはたらき、その後徐々に抗不安薬としてのはたらきに切り替わっていくのです。これが上手くハマれば、「夜は睡眠薬としてはたらき、日中は抗不安薬としてはたらく」という一石二鳥の効果が得られます。
ダルメートは飲んでから約1時間で血中濃度が最大となるため、即効性も期待できます。そのため「寝付けない」などといった入眠障害の方にも向いているお薬となります。また半減期が長いため中途覚醒や早朝覚醒にも効果的で、「夜中に何度も起きてしまう」という方や「長く眠りたい」という方には効果が期待できます。
注意点としては半減期が長めであるため、日中にまで眠気が残ってしまう可能性があります。
ダルメートには抗不安作用(不安を和らげる作用)もあるため、上手く使えば夜はゆっくり眠れて、日中も多少の抗不安作用を発揮してくれるという事もありますが、日中の眠気によるふらつきや転倒には注意が必要なお薬です。
3.睡眠薬の半減期(作用時間)の比較
よく使われる睡眠薬の半減期(作用時間)を比較してみましょう。
睡眠薬 | 最高濃度到達時間 | 作用時間(半減期) |
---|---|---|
ハルシオン | 1.2時間 | 2.9時間 |
マイスリー | 0.7-0.9時間 | 1.78-2.30時間 |
アモバン | 0.75-1.17時間 | 3.66-3.94時間 |
ルネスタ | 0.8-1.5時間 | 4.83-5.16時間 |
レンドルミン | 約1.5時間 | 約7時間 |
リスミー | 3時間 | 7.9-13.1時間 |
デパス | 約3時間 | 約6時間 |
サイレース/ロヒプノール | 1.0-1.6時間 | 約7時間 |
ロラメット/エバミール | 1-2時間 | 約10時間 |
ユーロジン | 約5時間 | 約24時間 |
ネルボン/ベンザリン | 1.6±1.2時間 | 27.1±6.1時間 |
ドラール | 3.42±1.63時間 | 36.60±7.26時間 |
ダルメート/ベジノール | 1-8時間 | 14.5-42.0時間 |
半減期(作用時間)が睡眠薬によって様々であることが分かります。
最高濃度到達時間が早いお薬は、「即効性がある」と言えます。ハルシオン、ルネスタ、マイスリー、アモバンなどの「超短時間型」は1時間前後で血中濃度が最高値になるため、「すぐに寝付きたい」という方に向いています。
しかし、3~4時間で効果が切れてしまいますから長くぐっすり眠りたい方にはあまり向いていません。
反対に7~8時間ぐっすり眠りたい場合は、リスミー、サイレース/ロヒプノールやデパス、ロラメット/エバミール、ユーロジンなどの睡眠薬が適していることが分かります。
ダルメートはというと即効性があり、寝付きの改善に用いることも出来ます。
また半減期も長いため、夜中に何度も起きてしまう方であったり長く眠りたい方にも向いています。ただし、長く効きすぎて日中にも眠気が持ち越してしまう可能性がありますので注意が必要です。ダルメートのような長時間型を使う前に、まずは中時間型から試してみて、それでも効きが短い場合に選択するようにした方が無難でしょう。
入眠障害にも効いて中途覚醒にも効く万能型の睡眠薬とも言えますが、悪く言えば余計な作用が出てしまいやすいお薬だとも言えます。
例えば、入眠障害(寝付けない)だけがある不眠症であった場合、作用時間が長めのダルメートを使ってしまうと、眠気が日中にまで持ち越してしまう事があります。この場合は即効性があって作用時間の短い睡眠薬を選択した方が良いでしょう。
睡眠薬はそれぞれ特徴が違いますので、主治医と相談して自分に合うものを選ぶことが大切です。
4.ダルメートカプセルの強さはどのくらいか
ダルメートの睡眠薬としての強さはどのくらいなのでしょうか?
お薬の効きは個人差が大きいため一概には言えませんが、一般的には睡眠薬の中で「やや弱め~中等度(普通)」くらい強さであると感じます。
現在の不眠治療は、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主流となっていますが、これらの睡眠薬はどれも薬効の強さには大きな差はないと言われています。強いて言えばこれが強い、これが弱いというものはありますが、大きな差ではありません。
睡眠薬は強さはどれも同じくらいで、「強さがピークになる時間帯」や「効果が続く時間」が違うだけです。
この図のように、睡眠薬はどれもピーク時の強さには大きな差はありません。強さがピークになる時間帯が違うのです。
そのため、もし睡眠薬の効果を強めたい場合は、睡眠薬の種類を変えるよりも「量を増やす」方が効果的です。ダルメートは10~30mgまでの量の間で使いますが、量を増やせばそれだけ効果は強くなります。
ただし量を増やせば効果も強くなりますが、副作用も現れやすくなります。そのため、まずは少量から開始し、効果が不十分な場合に限り増量するようにして下さい。
5.ダルメートカプセルが向いている人は?
ダルメートを使うケースは主に次の3つが考えられます。
Ⅰ.入眠障害・中途覚醒の改善のため
Ⅱ.入眠障害・中途覚醒の改善+日中の不安軽減のため
もちろんこれ以外の使い方もあり得るため、詳しくは主治医の指示に従って頂きたいのですが、ここでは主にこの3つの使い方について説明します。
Ⅰ.入眠障害・中途覚醒の改善のため
不眠には2つのタイプがあります。
一つ目が「寝付けない事」で、これは「入眠障害」とも呼ばれます。そして二つ目は「寝てもすぐに起きてしまう事」で、これは「中途覚醒」と呼ばれます。
一般的には、
- 入眠障害には超短時間、短時間型
- 中途覚醒には中時間型、長時間型
の睡眠薬が適していると言われています。
ダルメートは長時間型ですから、セオリー通りに考えると、「夜中に何回も起きてしまう」という中途覚醒タイプの不眠に向いていることになります。しかしダルメートには即効性もあるため、入眠障害にも効果が期待できます。
そのため入眠障害と中途覚醒の両方を認めるケースで検討されることの多いお薬になります。
反対に入眠障害だけ、中途覚醒だけというタイプの不眠ではそれぞれに適した作用機序を持つ睡眠薬をまずは試す方が良いでしょう。例えば入眠障害だけであれば、即効性はあって作用時間が短い睡眠薬が良いでしょうし、中途覚醒だけであれば即効性はなくても作用時間が長めの睡眠薬が良いでしょう。
入眠障害も中途覚醒も両方ある場合は、ダルメートは良い選択肢になります。
ただし半減期が長めであるため、日中の眠気の副作用には注意が必要です。まずはもう少し半減期の短い中時間型などを試してみて、それでも「効きが短い」と感じる場合に、ダルメートを検討した方が無難かもしれません。
Ⅱ.入眠障害・中途覚醒の改善+日中の不安軽減のため
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は抗不安作用(不安を和らげる作用)を多少持っています。もちろんダルメートにも抗不安作用があります。そのため、困っている症状が不眠だけではなく、日中の不安も抑えたいという場合にはダルメートは試す価値があります。
上手く効けば、夜は催眠作用で入眠障害・中途覚醒を改善し、日中は抗不安作用で不安を改善してくれるということが期待できるからです。