不眠症を改善させるお薬は睡眠薬だけではない!医師が教える不眠症の治療薬

不眠症の治療法として、もっとも多く行なわれているのが薬物療法(お薬による治療)です。

薬物療法では眠気を引き起こすようなお薬を服用することで、眠りを改善させる治療法です。お薬を飲みさえすれば眠れるようになるため、患者さんにとって労力が少ない治療法であり、実際に多くの不眠症患者さんがお薬による治療を受けています。

不眠症に用いるお薬というと「睡眠薬」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。もちろん睡眠薬は不眠症治療でもっとも多く用いられていますが、実は睡眠薬以外にも不眠を改善させてくれる作用を持つお薬はあります。

眠りを導くお薬は、それぞれ様々な作用機序を持つものがあり、それぞれで長所と短所があります。そのため自分の状態に合わせて最適なお薬を選ぶ事が大切です。

今日は不眠症を改善させるお薬にはどのようなものがあるのかについて紹介させていただきます。

1.睡眠薬

不眠症治療の主役選手と言えば、やはり「睡眠薬」です。

一口に睡眠薬と言っても、作用機序によっていくつかの種類に分かれます。

代表的なものを挙げると、

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬
  • 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
  • メラトニン受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬
  • バルビツール酸系睡眠薬

などがあります。

現在、もっとも用いられているのは「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」の2種類です。

その理由はこれらの睡眠薬はバランスに優れるからです。バランスというのは「効果の良さ」と「副作用の少なさ」のバランスです。効果はしっかりとあり、服用した初日からしっかりと効果が表れます。また副作用も多くはなく、重篤な副作用はほとんど生じません。

ただし長期的にみると耐性や依存性が形成される事があるというのがこれらのお薬のデメリットになります。

【耐性】
その物質の摂取を続けていると、次第に身体が慣れてきてしまい、効きが悪くなってくる事。

【依存性】
その物質の摂取を続けていると、次第にその物質なしではいられなくなってしまう事。その物質がないと落ち着かなくなったりイライラしたり、発汗やふるえなどの離脱症状が出現するようになる。

これらの副作用の問題から、近年は耐性・依存性がない(極めて少ない)睡眠薬も発売されています。

それは「メラトニン受容体作動薬」と「オレキシン受容体拮抗薬」です。これらは効果の強さを見ればベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系に劣るものの、耐性や依存性がなく、また日中の眠気や倦怠感なども生じにくい安全面で優れる睡眠薬です。

反対に近年使われなくなっているのが「バルビツール酸系睡眠薬」です。この睡眠薬は効果は強力ですが、副作用も強力というお薬です。麻酔をかけたように強力に眠りに導きますが、一方で稀ではありますが命に関わるような副作用が生じるリスクもあります。また耐性・依存性もかなり強いお薬になります。

この安全性に低さから、バルビツール酸系は現在ではほとんど使用されなくなっています。

それぞれの睡眠薬を1つずつ紹介していきます。

Ⅰ.ベンゾジアゼピン系睡眠薬

1960年頃より使われるようになってきた睡眠薬です。

ベンゾジアゼピン系は脳神経細胞に存在するGABA-A受容体という部位にくっつき、GABA-A受容体のはたらきを増強する作用があります。

GABA-A受容体は「抑制系受容体」と呼ばれており、脳のはたらきを抑制するはたらきがあるため、その作用が増強されると眠気を感じるのです。

GABA-A受容体は刺激されると、

  • 抗不安作用(不安を和らげる)
  • 催眠作用(眠らせる)
  • 筋弛緩作用(筋肉の緊張を取る)
  • 抗けいれん作用(けいれんを抑える)

の4つの作用を発揮する事が知られています。ベンゾジアゼピン系はすべて、この4つの作用をもっています。

ベンゾジアゼピン系のうち、特に「催眠作用」に優れるベンゾジアゼピン系を「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と呼びます。

効果はしっかりとしており、頼れるお薬です。また種類も豊富で、即効性のあるもの、長時間効くものなど、たくさんの種類があるため、自分の症状にあったお薬を見つけやすいというのもメリットです。

副作用はあるものの、命に関わるような重篤な副作用は生じません。

ただし筋弛緩作用によるふらつき、催眠作用による眠気や倦怠感などが生じる可能性はあり、また長期的には耐性や依存性が生じる事があります。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧】
ハルシオン(一般名:トリアゾラム)
レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
リスミー(一般名:リルマザホン)
エバミール/ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)
サイレース/ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)
ネルボン/ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)
ユーロジン(一般名:エスタゾラム)
ドラール(一般名:クアゼパム)
ダルメート(一般名:フルラゼパム)

Ⅱ.非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

1980年ごろより使われるようになったお薬で、ベンゾジアゼピン系の改良型のお薬になります。

ベンゾジアゼピン系は脳神経細胞に存在するGABA-A受容体に作用するとお話ししましたが、実はGABA-A受容体にはω(オメガ)受容体という部位があり、ω受容体にはω1受容体とω2受容体があります。

ベンゾジアゼピン系はω1、ω2の両方に作用しますが、非ベンゾジアゼピン系はω1受容体にしか作用しないというのが両者の違いです。

実はω受容体のうち、睡眠に関係しているのは主にω1なのです。ω2はというと、不安を抑える抗不安作用、筋肉を緩める筋弛緩作用、けいれんを抑える抗けいれん作用に関係しています。

つまり睡眠薬として使うのであれば、ω1にだけ作用してくれた方が好都合で、そうする事により眠らせる作用はそのままで、筋弛緩作用によるふらつきの副作用などを軽減する事ができます。

非ベンゾジアゼピン系の特徴は、眠らせる作用はベンゾジアゼピン系と同等の力を持っていながら、副作用のふらつきを軽減させている事です。また耐性や依存性もベンゾジアゼピン系よりも軽減されているのではないかという見解もあります。

作用時間が短めのものが多いため、日中にまで眠気や倦怠感が持ち越しにくいというメリットもあります。

デメリットは作用時間が短いものが多いため、中途覚醒タイプ(夜中に何度も目覚めてしまう不眠)にはあまり向かないこと、そしてベンゾジアゼピン系と比べると薬価が高いという点が挙げられます。

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧】
アモバン(一般名:ゾピクロン)
マイスリー(一般名:ゾルピデム)
ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)

Ⅲ.メラトニン受容体作動薬

メラトニン受容体作動薬は2010年から使われるようになった睡眠薬です。

このお薬は自然な眠りを導いてくれるお薬で、薬で強制的に脳に鎮静をかけるのではなく、自然な眠りを提供してくれる安全性に優れるお薬になります。

私たちが普段、夜に自然と眠くなるのは、「メラトニン」という物質が関係しています。周囲が暗くなると、脳の松果体という部位からメラトニンが分泌され、これがメラトニン受容体にくっつく事で私たちは眠気を感じると考えられています。

メラトニン受容体作動薬は、メラトニン受容体を刺激する事で眠気を感じさせるお薬で、私たちが本来眠気を感じる機序に沿った効き方をするため、自然な眠気を感じるお薬になります。

メリットは自然に眠気を感じることと、安全性が高い事です。日中のふらつきや眠気、倦怠感などはほとんど生じません。

しかしデメリットとしては効果の弱さが挙げられます。「全く効かない」と訴える患者さんもいらっしゃいます。またすぐに効果を感じられない場合もあり、1か月ほど服用を続ける事で少しずつ睡眠が改善してくることもあります。

【メラトニン受容体作動薬一覧】
ロゼレム(一般名:ラメルテオン)

Ⅳ.オレキシン受容体拮抗薬

オレキシン受容体拮抗薬は、2014年に発売された睡眠薬で、オレキシンという脳の覚醒に関係する物質のはたらきをブロックするお薬です。

オレキシンは覚醒に関係しているため、ブロックされれば覚醒しにくくなります。つまり眠くなるという事です。

オレキシン受容体拮抗薬は、ベンゾジアゼピン系ほどではないにせよ、ある程度しっかりとした効果が得られます。また大きな副作用もなく、日中の眠気・ふらつきも生じにくいと考えられています。

耐性・依存性もない(あるいは極めて少ない)と考えられています。

【オレキシン受容体拮抗薬一覧】
ベルソムラ(一般名:スボレキサント)

Ⅴ.バルビツール酸系睡眠薬

バルビツール酸系は1950年頃より使われ始めたもっとも古い睡眠薬です。

現在でも何種類かは発売されていますが、基本的には使用は推奨されていません。その理由は副作用の頻度が多く、また時に重篤な副作用が生じるためです。

バルビツール酸系は、強力な催眠作用があります。そのため重度の不眠症の方が欲しがるお薬でもあります。しかし私たち医師は極力バルビツール酸系は処方しません。

眠気・ふらつき・倦怠感といった副作用も生じやすく、また耐性や依存性の生じやすいというデメリットがあります。最大の問題点は時に致死的(命にかかわる)な副作用が生じる可能性があるという事です。

特に大量服用してしまうと危険で、呼吸が止まってしまったり、重篤な不整脈が出現するリスクもあります。

バルビツール酸系は基本的には使うべきではない睡眠薬になります。

【バルビツール酸系睡眠薬一覧】
ベゲタミンA
ベゲタミンB
ラボナ(一般名:ペントバルビタール)

2.抗うつ剤

抗うつ剤は基本的には、落ち込みや不安を改善させたり、意欲を上げたりといった作用を持ち、うつ病や不安障害といった患者さんに投与されます。

しかし抗うつ剤の中には、眠りを導きやすいものがある事をご存知でしょうか。これらの抗うつ剤を上手に使えば、不眠の改善に役立てる事が出来ます。

睡眠を改善させる作用を持つ抗うつ剤を紹介します。

Ⅰ.四環系抗うつ剤

四環系抗うつ剤は1980年ごろに開発された抗うつ剤です。四環系抗うつ剤は抗うつ作用としては弱いものの眠りを深くする作用に優れるという特徴があります。

そのため現在では抗うつ作用を期待して使われる事は少なく、不眠症状の改善に対して用いられる事が多くなっています。

四環系抗うつ剤は、服用してすぐに眠くなるというものではなく即効性にはすぐれません。しかし深部睡眠(深い眠り)の割合を増やしてくれるという作用が報告されています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、強制的に脳を眠らせる作用はあるものの、深部睡眠はあまり増やしません。場合によっては深部睡眠を減らしてしまうものもあります。

対して四環系抗うつ剤は深部睡眠を増やす作用が報告されているものが多く、「深い眠り」を得たいような熟眠障害の方には良い適応となります。

【不眠に用いられる四環系抗うつ剤一覧】
テトラミド(一般名:ミアンセリン)
ルジオミール(一般名:マプロチリン)

Ⅱ.SARI

SARIは「5HT2A受容体遮断薬」と呼ばれ、1991年に発売されています。

抗うつ剤に属してはいますが、四環系抗うつ剤と似たような特徴を持ち、抗うつ作用は弱いものの深部睡眠を増やす作用を持ち、不眠症状に用いる事で改善が期待できます。

【不眠に用いられるSARI一覧】
デジレル/レスリン(一般名:トラゾドン)

Ⅲ.NaSSA

NaSSAは2009年から発売されている抗うつ剤で、「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」と呼ばれています。

難しい名称ですが、簡単に言うとノルアドレナリンとセロトニンの分泌を増やす抗うつ剤になります。

NaSSAは抗うつ作用もしっかりしているためうつ病に対してもよく用いられます。それに加えて深部睡眠を増やしてくれる作用も持つため、不眠を伴ううつ病の方に向いている抗うつ剤です。

NaSSAは四環系抗うつ剤である「テトラミド(一般名:ミアンセリン)」を改良したお薬になります。そのため四環系と同じく深部睡眠を増やす作用に優れるのです。

【不眠に用いられるNaSSA一覧】
リフレックス/レメロン(一般名:ミルタザピン)

3.抗精神病薬

抗精神病薬は、主に統合失調症の方に用いる治療薬です。近年では双極性障害(躁うつ病)も一部統合失調症と共通の病態である事が指摘され、双極性障害の治療薬としても用いられています。

抗精神病薬は幻覚や妄想、興奮などを改善させる作用に優れますが、脳を鎮静させることで眠りを導く作用を持つものもあります。

睡眠を改善させるために使われる事もある抗精神病薬を紹介します

Ⅰ.MARTA

MARTAは「多元受容体作用抗精神病薬」と呼ばれ、その名の通り脳神経細胞の様々な受容体にくっつく事で様々な効果を発揮するお薬の事です。

MARTAは鎮静させる作用を持つため、上手に使えば不眠症状の改善が期待できます。また深部睡眠を増やす事で眠りの質を上げる効果がある事も報告されています。

ただし本来は統合失調症や双極性障害の症状を鎮静させるために用いるものですので、その適応は慎重に判断しないといけません。

様々な受容体にくっつくという事は睡眠以外の余計な作用も出てしまいやすいという事です。

特に注意すべきは代謝系への異常で、血糖値を上げてしまったり体重を増加させてしまったりという副作用があります。そのためMARTAは糖尿病患者さんへは使用できない事となっています。

【不眠に用いられるMARTA一覧】
ジプレキサ(一般名:オランザピン)
セロクエル(一般名:クエチアピン)

Ⅱ.フェノチアジン系抗精神病薬

抗精神病薬のうち、古いタイプのものを第1世代抗精神病薬と呼びますが、フェノチアジン系は第1世代抗精神病薬の1種です。

1950年代に世界初の抗精神病薬として「コントミン(一般名:クロルプロマジン)」が発売されましたが、コントミンもフェノチアジン系に属します。

強力な鎮静作用があり不眠症状の改善が期待できますが、MARTAと同じく様々な受容体にくっつくため余計な作用も出やすい点には注意が必要です。

MARTAは第2世代抗精神病薬に属し比較的新しい抗精神病薬なのですが、フェノチアジン系は古い抗精神病薬であるためMARTAよりも副作用が多くなっています。

具体的にはMARTAで生じる副作用に加えて、錐体外路症状と呼ばれる手足の震えや筋肉の固まりといった神経症状が生じる事があります。またホルモンバランスを崩してしまったり(高プロラクチン血症)、稀ではありますが重篤な不整脈が生じたりするリスクもあります

【不眠に用いられるフェノチアジン系一覧】
コントミン(一般名:クロルプロマジン)
ヒルナミン/レボトミン(一般名:レボメプロマジン)

4.抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬はヒスタミンという物質をブロックするお薬で、本来はアレルギー反応を抑えるために用いられます。

みなさんにとってなじみがあるのが「花粉症のお薬」で、これも抗ヒスタミン薬です。

花粉症のお薬って眠くなる事がありますよね。ここからも分かるように抗ヒスタミン薬は眠気を引き起こす作用があるのです。

ちなみに薬局やドラッグストアで売られている睡眠改善薬は、ほとんどが「ジフェンドラミン」と呼ばれる抗ヒスタミン薬が含まれています。

抗ヒスタミン薬は眠気を引き起こすものの、耐性形成が早く、すぐに効果が減弱してしまう事が知られています。そのため、一時的な不眠に用いるのは良いのですが、長期的に用いる事は勧められていません。

5.漢方薬

漢方薬の中には睡眠の改善作用が期待できるものがあります。

とは言っても漢方薬は、服用する事で眠気をもよおすようなものではありません。不眠症に用いる漢方薬は、不安や興奮といった不眠の原因となるような症状を抑える事で副次的に眠りに入りやすい状態を作るという効き方をします。

漢方薬は様々な生薬が配合されているお薬であり、服用する患者さんの体質(証)によっても用いるものが異なってきます。

不眠症に用いられる漢方薬については、「不眠症に用いられる漢方薬と効果的な使い方」で詳しく説明していますのでご覧下さい。