SSRIで注意すべき7つの副作用と対処法

SSRIは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」という抗うつ剤です。日本では2000年頃より使われるようになり、現在ではうつ病、パニック障害などに対する治療の第1選択薬となっています。

SSRIの良い点は、従来の抗うつ剤(三環系うつ剤など)と比べて副作用が軽減されており安全性が高いというところです。

しかし副作用が全くないというわけではありません。どんなお薬でもお薬である以上、副作用は起こりえます。

このコラムでは、SSRIに多い副作用や、特に注意すべき副作用についてお話します。

1.SSRIにはどんなお薬があるのか

現在日本で処方可能なSSRIには次の4種類があります(2015年5月現在)。細かい特徴の違いはありますが、どれもセロトニンを増やすはたらきを持っているのは同じです。発売された年度が古い順に紹介します。

Ⅰ.フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)

1999年に発売された最初のSSRIです。初期のSSRIであり、1日2回服用しなくてはいけなかったり、相互作用する薬物が多かったりで、SSRIの選択肢が増えてきた現在においては若干の使いずらさがあります(1日2回服用するSSRIはフルボキサミンのみで、他のSSRIは1日1回服用です)。

特に、睡眠薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)と併用禁忌なのは、注意しないといけません。うつ病で睡眠薬を併用する方は少なくありませんので。

うつ病で使用される頻度は他のSSRIに押されて減っていますが、不安に対しての効果は現在においても定評があります。高用量(300mg)を使用できるという利点もあり、高用量が必要な不安障害や強迫性障害に対してよく用いられています。

Ⅱ.パロキセチン(商品名:パキシル)

2000年に発売されたSSRIです。効果の強さ、キレの良さには定評があり、「SSRIの中で効果の強さは最強」と評価されることが多いお薬です。重症例に対しても頼れるお薬ですが、その分副作用も多めです。

特に減薬・断薬時に生じる離脱症状は、他のSSRIよりも強いことが多いため、注意が必要です。

離脱症状をなるべく起こさないように、徐放製剤である「パキシルCR」や、細かい用量で減薬できるようにした「パキシル5mg」が発売されるなど、販売製薬会社も離脱症状を減らすための工夫をしています。

(徐放製剤・・・ゆっくりと効き始めることで、副作用が少なくなるように設計されたお薬。)

Ⅲ.セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)

2006年に発売されたSSRIです。効果は穏やかですが、副作用も軽めであり、バランスが良く使い勝手の良いお薬です。安全性が高いため、特にクリニックなどでは良く処方されます。

2014年12月には、SSRIとして初めてOD錠(口腔内崩壊錠)が発売されました。OD錠は水無しで服薬できるため、外出先でも服薬しやすいため、就労している方などにとっては助かる工夫です。

Ⅳ.エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)

2011年に発売されたSSRIです。効果の強さと副作用の少なさのバランスに優れ、MANGA-Studyという研究報告においても「もっとも継続性・有効性の高いSSRI」と結論づけられています。

また、レクサプロは開始用量が治療用量であるという特徴があります。これはどういうことかというと他のSSRIは、開始してから治療用量になるまでに数段階かかります。例えばジェイゾロフトであれば、25mgから始めて、50mg→75mg→100mgと少しずつ増量していかなければいけません。治療用量は100mgなので、1週間ずつ増量しても治療用量に入るまでに4週間かかることになります。

しかしレクサプロは10mgから開始し、その10mgがすでに治療用量なのです。そのため効果を実感できるのも早いという利点があります。

2.SSRIの副作用の特徴

SSRIは従来の抗うつ剤(三環形抗うつ剤など)と比べると、副作用が少なく、また重篤な副作用はほとんどないため安全性に優れています。

昔に使われていた三環系抗うつ剤は効果は強いのですが、一方で副作用の多さが問題となっていました。また重篤な副作用を起こしてしまうこともあり、特に大量投与においては命に関わるような副作用(例えば重篤な不整脈など)が起こることもありました。

その点、SSRIは命に関わるような重篤な副作用は極めてまれであるため、安全性が非常に高いという特徴があります。

しかしSSRIはその名のとおり、セロトニン系に集中的に作用するお薬であるため、セロトニン系の副作用は起こりやすい傾向があります。

セロトニン系の副作用というのは、具体的には、

・消化器系の副作用(吐き気、嘔吐など)
・性機能系(性欲低下など)
・不眠

などがあります。

3.SSRIで注意すべき7つの副作用

SSRIでどういった副作用が生じやすいのかは、どのSSRIを使うかによって若干の違いがありますが、共通する比較的頻度の多い副作用を紹介します。

Ⅰ.吐き気

吐き気はSSRIでよく認められる副作用です。

SSRIが消化管に分布するセロトニン3受容体を刺激してしまうために生じると考えられています。SSRIはセロトニンを増やすお薬ですが、実はセロトニン受容体のほとんど(90%)が、消化管に存在しています。

そのためセロトニンを増やすSSRIの副作用は消化管に出やすいのです。

消化器系の副作用は特に投与初期に生じやすく、具体的には吐き気、嘔吐などが多く認められます。また下痢などを生じることもあります。

これらの副作用の多くは、服薬してしばらく経つと自然と改善していきますので、様子を見れる程度であれば数週間様子をみてみるのも手です。我慢しているうちに少しずつ吐き気が和らいでくることがあります。

また、心配な方は副作用が出る前に胃薬を併用しておくこともあります。

どうしても消化器系の副作用が耐えられない場合は、減薬・変薬も手になります。

【参考記事】
ルボックスの吐き気と3つの対処法 【医師が教える抗うつ剤の全て】
デプロメールの吐き気と3つの対処法 【医師が教える抗うつ剤の全て】
ジェイゾロフトの吐き気と3つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
レクサプロの吐き気と3つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】

Ⅱ.眠気・不眠

SSRIは「非鎮静系抗うつ剤」と呼ばれており、眠気は生じないことも多いのですが、そうは言っても気持ちをリラックスさせるのが抗うつ剤ですので、人によっては眠気が出現することもあります。

眠気が出現するのは、SSRIがヒスタミン受容体をブロックするはたらきがあるためです。これを抗ヒスタミン作用といいますが、同じく抗ヒスタミン作用を持つお薬として有名なものに花粉症などで使う抗アレルギー薬があります。

花粉症のお薬を飲むと眠くなるというのは、よく知られていることですが、基本的にはこれと同じ機序でSSRIも眠気を引き起こします。

また、SSRIは反対に不眠の副作用が出ることもあります。これはSSRIがセロトニン2A受容体を刺激するために生じると考えられています。

眠くなることもあるし眠れなくなることもある、というと何だか不思議に感じますが、それぞれ別の機序によって生じている副作用であり、どちらが強く出るのかは個人差があります。

これらの副作用も、様子を見ていれば自然と改善してくることもありますが、改善せずに続く場合は主治医と相談して減薬をしたり薬の種類を変えたりといった対処法が取られます。

【参考記事】
パキシルの眠気と7つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
ルボックスの眠気と7つの対処法 【医師が教える抗うつ剤の全て】
デプロメールの眠気と7つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
ジェイゾロフトの眠気と7つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
レクサプロの眠気と7つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】

ジェイゾロフトの不眠と4つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
レクサプロの不眠と4つの対処法【医師が教える原因と対処法】

Ⅲ.口の渇き、便秘

SSRIがアセチルコリン受容体をブロックするために生じる作用です。これを抗コリン作用といい、抗コリン作用が強くなると口の渇き以外にも、尿が出にくくなったり(尿閉)、便秘が出現することもあります。

抗コリン作用は三環系抗うつ剤で特に強く、SSRIでは軽減していますが、それでも時に生じてしまう副作用です。

抗コリン作用の副作用が生じた場合、軽度であれば様子を見ますが、患者さんが苦しい場合は減薬・変薬を検討したり、あるいは抗コリン作用を和らげるお薬を使うこともあります。

Ⅳ.めまい・ふらつき

SSRIがヒスタミン受容体をブロックすることで眠気が生じ、それでふらつき・めまいが出ることがあります。またSSRIはアドレナリン受容体をブロックするはたらきがあります。これは血圧を下げることになるため、血圧低下によってふらつきやめまいが出ることもあります。

SSRIでめまいやふらつきが出現した場合も、軽度であれば様子をみます。お薬が身体に慣れていくにつれて自然と副作用が改善してくることがあるからです。

改善しない場合や、副作用があまりにつらい場合は、減薬・変薬をしたり、昇圧剤(血圧を上げるお薬)を使うこともあります。

Ⅴ.性機能障害

SSRIがセロトニン2受容体と刺激するために生じる副作用です。具体的には性欲低下、射精障害、勃起障害などが生じることがあります。

これらの副作用は診察で話題に上げずらいため、見逃されやすい副作用ですが、生じる頻度は決して少なくありません。

性機能障害が出現したら、なるべく主治医に報告するようにしましょう。

性機能障害はあくまでも副作用であり、SSRIを辞めれば改善します。そのため、治療中は性機能障害があってもそれを了承の上でそのまま様子を見ることもあります。

性機能障害による支障が大きい場合は、減薬をしたり、あるいは性機能障害が出現しにくい抗うつ剤に変更したりすることも検討します。

【参考記事】
抗うつ剤で性欲低下・性機能障害が生じる原因と6つの対策

Ⅵ.体重増加

体重増加はSSRIがヒスタミン受容体をブロックするために生じる副作用です。

ヒスタミン受容体のブロックは眠気の原因にもなりますが、食欲を増進させてしまい体重増加の原因にもなります。

精神科のお薬は太るものが多いのですが、SSRIはその他の精神科のお薬と比べると体重増加の程度は弱めです。

そのため、安易にSSRIのせいと決め付けず、本当にSSRIが原因なのかをしっかりと見極めることが大切です。また、食生活や運動習慣に問題がありそうな場合は、まずは食生活・運動習慣の改善から心がけるようにしましょう。

SSRIが原因であり、その副作用が問題をきたしているようであれば、減薬や変薬も検討します。

【参考記事】
デプロメールは太る?3つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
パキシルは太る?3つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
ジェイゾロフトは太る?3つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】
レクサプロは太る?3つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】

Ⅶ.その他

代表的な副作用を上げましたが、それ以外にも生じる可能性のある副作用はたくさんあります。どんなお薬でもそうですが、細かい副作用を上げればキリがありません。

その他の副作用で、一応は知っておいて欲しい副作用を紹介します。

【重篤な不整脈】

昔に使われていた三環系抗うつ剤などでは、時に重篤な不整脈が生じることが問題となっていました。

SSRIで命に関わるような重篤な不整脈が生じることは極めてまれです。しかし100%絶対に起きないとはいえないため、一応は注意しておく必要があります。

SSRIを服薬している方は、定期的に心電図をとるようにして、不整脈や不整脈の予兆となるような波形(QT延長など)が出ていないかを確認するようにしましょう。

【アクチベーション症候群(賦活症候群)】

特にSSRIを開始したばかりの時や、増量したときに生じやすい副作用です。

SSRIは抗うつ剤ですので気分を持ち上げるはたらきがありますが、投与初期はSSRIの血中濃度が安定しにくいため、気分を変に持ち上げてしまい、不安・焦り・イライラなどが増悪してしまうことがあります。

これをアクチベーション症候群(賦活症候群)と呼びます。

アクチベーション症候群を起こさないためには、SSRIを急に増薬せずに、慎重に少しずつ増やしていくことが有効です。

ほとんどのSSRIが少量から初めて徐々に増薬していく形で処方されますが、これはアクチベーション症候群をなるべく起こさないための工夫でもあります。

またアクチベーション症候群が生じた場合は、抗不安薬などを一時的に併用することで気分を落ち着かせることも有効です。