ジェイゾロフトの不眠と4つの対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】

SSRI、SNRIや三環系抗うつ剤の副作用で「不眠」が生じることがあります。これは、抗うつ剤がセロトニン受容体を刺激することで、眠りが浅くなってしまうために生じます。

本当はもっと寝たいのに、早朝に目覚めてしまったり、夜中に何度も目覚めてしまったり。人によっては悪夢にうなされることもあるようです。もちろん、不眠の副作用が全く起きないという人もいますが、出てしまった方にとっては、とてもつらい副作用でしょう。

抗うつ剤を内服する状態にある方は、ほとんどの方が精神的に疲れている状態ですから、せめて眠りくらいはぐっすりと取りたいものですよね。

ここでは、ジェイゾロフトの不眠がなぜ生じるのか、そして、対処法はあるのか、についてお話していきます。

1.ジェイゾロフトで不眠が生じる理由

ジェイゾロフトをはじめとした抗うつ剤は「神経間のセロトニン濃度を増やす」働きがあります。

増えたセロトニンは、「受容体」という部分にくっつき、くっつく受容体の種類によって、様々な効果を発現します。

受容体には色々あります。

「気分を持ち上げる」作用を持つもの、「吐き気を起こす」作用のあるもの、「眠くするもの」や「便秘、口渇を起こすもの」など本当に様々です。

抗うつ剤に期待することは「気分を持ち上げる」ことですから、「気分を持ち上げる受容体」にだけ作用してくれるのが理想です。

しかし、そううまくはいかず、実際はいろいろな受容体にくっついてしまい、余計な作用が出てしまいます(こうして起こる作用を副作用と言います)。

不眠が起こるのは、抗うつ剤が5HT(セロトニン)2A受容体を刺激するためと言われています。

セロトニン2A受容体を刺激されると、中枢神経が興奮する方向に働きます。これは活気を出したり、無気力を改善させたりという良い働きもあるのですが、脳の覚醒レベルを上げるため、不眠になりやすくなってしまいます。

本当はぐっすりと寝ないといけない時間に抗うつ剤がセロトニン2A受容体を刺激してしまうと、眠りが浅くなったり、夜中に何回も起きてしまったり、早朝に目覚めてしまったりということが起こるわけです。

また、睡眠中に脳が働いてしまうため、夢も見やすくなります。

夢は夢でも、「いい夢」「楽しい夢」ならまだいいのですが、精神状態が悪い時は「悪夢」を見る頻度の方が圧倒的に高いため、これも患者さんを苦しめてしまいます。

不眠の副作用は、

・SSRI(デプロメール/ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなど)、
・SNRI(サインバルタ、トレドミンなど)、
・三環系(トフラニール、アナフラニール、トリプタノール、ノリトレン、アモキサンなど)

で多く認められる副作用です。

ジェイゾロフトもこの、セロトニン2A受容体刺激作用によって、不眠の副作用を起こしてしまうのです。

2.他剤との比較

不眠の副作用はセロトニン受容体の一種である、「セロトニン2A受容体」にセロトニンがくっつくことで生じると言われています。

なので、セロトニンを選択的に増やすSSRIやSNRIで多く認められます。三環系抗うつ剤でも認められますが、SSRIやSNRIほどではありません。

反対に四環系やデジレル、Nassa(リフレックス/レメロン)は、不眠はほとんど起こしません。面白いことに、これらの抗うつ剤はSSRIやSNRIとは逆でセロトニン2受容体を遮断すると言われています。

ということは、脳の覚醒レベルを下げる方向に働き、眠りを深くする効果があるのです。このため、これらの抗うつ剤は「鎮静系抗うつ剤」とも呼ばれています。

SSRI、SNRI、三環系・・・不眠になりやすい
Nassa、四環系、デジレル・・・熟眠を得やすい

睡眠に関しては、このように分類できます。

しかし、鎮静系抗うつ剤は熟眠させるかわりに日中の眠気で困ったりということもありえます。どちらも一長一短ありますので、どのお薬を使うかは主治医とよく相談しましょう。

抗うつ剤不眠抗うつ剤不眠
(Nassa)リフレックス/レメロン-(SSRI)パキシル++
(四環系)ルジオミール-(SSRI)ルボックス/デプロメール+
(四環系)テトラミド-(SSRI)ジェイゾロフト++
デジレル-(SSRI)レクサプロ++
(三環系)トフラニール++(SNRI)トレドミン+
(三環系)トリプタノール-(SNRI)サインバルタ++
(三環系)アナフラニール+スルピリド-
(三環系)ノリトレン+
(三環系)アモキサン++

3.ジェイゾロフトで不眠になった際の対処法

では、ジェイゾロフトの副作用である「不眠」が生じてしまったときはどのような対処法があるでしょうか。よく用いられる対処法について紹介します。

なおこれらの対処法は決して独断では行わないで下さい。必ず主治医の指示の元で行うようにお願いいたします。

Ⅰ.様子をみる

不眠の副作用はつらいものですが、少し様子をみてみるのは手です。

というのも、半分くらいの方は、飲み続けていると次第に慣れてきて、不眠の副作用が軽くなってくるからです。

最初の1~2週間はつらいでしょうが、そこから徐々に改善していき、最終的にはそれほど気にならなくなった、というケースは少なくありません。

何とか様子をみれる程度の不眠なのであれば、様子をみてみるのも手だと思います。

Ⅱ.増薬のペースを緩める

多くの抗うつ剤は、少量から開始し、1~2週間間隔で少しずつ量を増やしていきます。

それは、急に体内のセロトニン量が増えるとからだがびっくりしてしまい、様々な副作用が現れやすくなるからです。

不眠に関しても同じで、いきなり高容量の抗うつ剤を入れると強く生じやすくなります。

抗うつ剤への感度は個人差がありますので、一般的と考えられる量から開始したとしても、からだがびっくりしてしまうこともあります。

そんな時は、増薬のペースを緩めることをおすすめします。抗うつ作用が出てくるのも遅くなってしまいますが、副作用の程度が軽くなるというメリットがあります。

例えば、ジェイゾロフトは25mgから始めますが、それで不眠が強く出てしまうようなら12.5mgから初めて、少し様子をみてから25mgに上げると、副作用が出にくくなります。

Ⅲ.眠りを深くする抗うつ剤を併用する

不眠の原因である、セロトニン2A受容体への刺激を弱めるお薬を併用すると眠りが深くなります。

先ほど説明した、

・四環系抗うつ剤(ルジオミール、テトラミドなど)
・Nassa(レメロン、リフレックスなど)
・デジレル

などは「鎮静系抗うつ剤」と呼ばれて、セロトニン2A受容体を遮断することで、逆に眠りを深くします。

ジェイゾロフトに少量の鎮静系抗うつ剤を加える、あるいはジェイゾロフトを少し減らして、少量の鎮静系抗うつ剤を加える、という方法はしばしば臨床では使われます。

Ⅳ.別の抗うつ剤に変える

どうしても不眠の副作用がつらい場合には、別の抗うつ剤に変えるのも手です。

鎮静系抗うつ剤に切り替えれば不眠の副作用は改善される可能性が高いですが、別の副作用に困ることもありますので、主治医とよく相談してください。

基本的に鎮静系抗うつ剤は、「日中の眠気」「倦怠感」「ふらつき」などの副作用が出やすくなります。

他にも、

Nassa:体重増加
四環系:抗コリン作用(口渇、便秘、尿閉など)
デジレル:性機能障害

などの副作用がでる可能性があります。

同系統のSSRI,SNRIの中で変薬してみるのも手です。どれも不眠の副作用は生じやすいのですが、面白いことに抗うつ剤というのはたとえ同系統でも、効きが全然違うという事が臨床ではしばしばあります。

同じSSRIなのに、ルボックスからジェイゾロフトに変えたら、調子が良くなってきた、(あるいのその逆のパターンもありえます)など。

これは、同じSSRIといえども、再取込阻害作用の強さなどが薬剤間でかなり異なるためだと考えられています。

副作用に関しても同じことが言えます。ですので、別のSSRIやSNRIに変更することで、改善をはかれる可能性はあります。

 (注意)睡眠薬の併用することについて

抗うつ剤の副作用の不眠が出現したとき、睡眠薬を併用することで改善を図ることがあります。

しかしこれは、注意が必要です。

現在主に用いられている、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、睡眠潜時(眠るまでの時間)や総睡眠時間を増加させると言われていますが、深部睡眠は障害される(=睡眠の質は浅くする)と言われています。

つまり、眠れるようになるし眠れる時間も増えるけども、睡眠の質は下げてしまい、浅い眠りにしてしますのです。

浅い眠りであっても眠れないよりはいいので、併用することはあるのですが、抗うつ剤で生じる不眠も、眠りの質が浅くなって起こっていることですから、睡眠薬と併用すると、睡眠の浅さに拍車がかかってしまうことがあります。

中には、それでも「眠れるようになったからまだマシです」と一定の効果を示すケースもあるのですが、不眠の副作用がつらいからといって、どんどん睡眠薬を増やさないように注意しましょう。

それは、理論的には、かえって浅い眠りを増やす恐れがあり、不眠が悪化する可能性があります。