パニック障害ってどんな病気なの?医師が教える原因から治療法まで

パニック障害(Panic Disorder)は、突然に動悸や呼吸苦・めまいなどの症状が出現します。これは「パニック発作」と呼ばれ、非常に激しい症状が生じます。

パニック発作は身体の異常で生じているものではなく、不安や精神不安定によって自律神経のバランスが崩れることで生じます。

突然パニック発作が生じると、

「このまま死んでしまうのではないか」
「気が狂ってしまうのではないか」

という恐怖や不安が高まり、これがまたパニック発作を悪化させてしまいます。

パニック発作が続くと、

「人前でパニック発作が起こったらどうしよう」
「一人でいるときに発作が起こったらどうしよう」

という恐怖から、次第に日常生活に支障を来たし、必要な活動が出来なくなる事もあります。中には仕事や学校に行けなくなってしまう事もあります。

パニック障害は、「身体の異常ではないのだから心配することはない」としばしば軽く考えられてしまいがちですが、これはとんでもない誤解です。

身体の異常ではないとはいえ、日常生活の中で突然このような激しい発作が生じるのは大きな恐怖です。普通に生活している時に突然、息が吸えなくなったらどうでしょうか。これと同じことがパニック障害では生じるのです。

パニック発作によって当人は耐えがたいほど激しい恐怖と苦痛を感じながら日々を生活しています。また必要な活動や外出が出来なくなってしまったりと、その社会的損失も大きなものとなります。

ここではパニック障害について、その原因は症状、治療法などについて詳しく説明していきます。

1.パニック障害の原因は何なのか?

パニック障害はどのような原因で生じるのでしょうか。

その原因はまだ完全には解明されていませんが、多くの研究から「これが原因の1つであろう」と考えられているものがあります。

パニック障害の原因を知る事は、パニック障害と正しく向き合うために欠かせません。

絶対に誤解してはいけないのは、パニック障害は「気持ちが弱いから」「気持ちに甘えが多いから」生じるものではありません。このような誤解はいまだ根強いのですが、パニック障害は脳や神経に異常が生じている「疾患」になります。

気合や根性といった不明瞭な方法でパニック障害を克服させようとするのは大きな間違いで、疾患である以上、適切な「治療」を行う必要があり、この適切な治療によって多くの方の症状を改善させることが出来ます。

ここではパニック障害の原因について、現時点で考えられていることを紹介します。

▽ パニック障害の原因。パニック障害はなぜ生じるのか

2.パニック障害で生じる症状にはどのようなものがあるか

パニック障害ではどのような症状が生じるのでしょうか。

パニック障害の症状は、

1.パニック発作
2.広場恐怖
3.予期不安

の3つを理解する必要があります。パニック障害ではパニック発作が起こり、このパニック発作や広場恐怖や予期不安を作り出していきます。

主症状であるパニック発作は自律神経のバランスの異常で生じます。自律神経は私たちの身体の全身に分布しているため、そのバランスが崩れると、症状も全身のいたるところに出現してしまう可能性があります。

代表的な症状でいうと、

・動悸、胸痛、胸苦しさ
・呼吸苦
・めまい、ほてり、ふらつき
・冷感、発汗

などがあります。

広場恐怖というのは、パニック発作が生じたらまずい環境である「すぐに逃げられない場所」に対して強い恐怖を感じてしまう事です。広場恐怖が出現すると、行動できる範囲が少なくなってしまい、生活に支障を来たすことがあります。

また予期不安というのは、「またパニック発作が起こったらどうしよう」という不安がパニック発作を引き起こしてしまうという症状です。この予期不安は不安の悪循環となり、パニック障害をより増悪させてしまう事があります。

ここではパニック障害の症状について詳しく説明します。

▽ パニック障害ではどんな症状が起こるのか

3.パニック障害はどのように診断されるのか

パニック障害はパニック発作という分かりやすい症状が出るため、自分で「これはパニック障害なのではないか」と比較的気付きやすい疾患です。

しかしパニック障害はどのように診断されるのでしょうか。

パニック発作が1回でも出現したら、パニック障害と判断して良いのでしょうか。そもそもパニック発作はどこからがパニック発作と判断されるのでしょうか。

実はパニック障害をはじめとしたこころの病気には「診断基準」というものがあります。診断基準は臨床上は絶対的なものではありませんが、診断をするための大きな助けになっているものです。

私たち医師はどんなこころの病気でも、基本的には診断基準を満たしているかどうかをまずは見極めます。

しかし診断基準というのは一般の方には分かりにくいものです。医学用語だらけであり、一般の方が読んでもなかなか理解することは難しいでしょう。

ここでは、パニック障害と診断するための診断基準を分かりやすく紹介したいと思います。

▽ パニック障害はどのように診断されるのか?臨床でのパニック障害診断法

また精神科・心療内科を受診する前に「自分はパニック障害なのかどうか」とある程度の精度で推測するためのセルフチェック法についても紹介します。

▽ これってパニック障害なの?パニック障害のチェックテスト

4.パニック障害を治療・克服するために大切な考え方

パニック障害は正しい治療を行えば、多くの場合で克服する事が可能です。適切な時期に受診し、適切に治療が導入されれば8-9割の方は問題なく治療が成功します。

しかし現状としては、治療成功率はこれよりも低くなっています。

その原因として、

  • 病院受診が遅く、重症になってからやっと受診する
  • 我流の方法で克服しようとしてしまって、より悪化させてしまう

といった事が挙げられます。

パニック障害は軽症のうちから専門家の指導の下、正しく治療を行う必要があります。しかし実際は「このくらいの症状で病院に行ってはいけないのではないか」と考え、重症化するまで我慢し続けてしまったり、「気合や根性で治せるはず」と我流の誤った治療法をしてしまい、より重症化させてしまうようなケースは少なからず認められます。

パニック障害を治療・克服するにあたって、まずは治療に大切な心構えを知って下さい。

▽ パニック障害を克服する!パニック障害はこう治療する

▽ パニック障害を完治させるために大切なこと

▽ パニック障害を治すために、患者さんに持って欲しい治る考え方

5.パニック障害の治療法

ではパニック障害はどのように治療していくのでしょうか。

パニック障害の治療は大きく分けると2つの方法があります。それは、

  • 薬物療法(お薬で治す)
  • 精神療法(考え方や行動で治す)

の2つです。

薬物療法はお薬を飲むという治療法で、抗うつ剤や抗不安薬、漢方薬などが用いられます。精神療法とは考え方の修正や行動によって治していく治療法で認知行動療法や暴露療法、森田療法などがあります。

間違えてはいけないのは、この2つのどちらかを選ぶ、という事ではありません。

この2つを症状や状況に応じて適切に選択し、場合によっては組み合わせていく事が大切です。

どちらの治療法も一長一短あります。簡潔に言えば薬物療法は、お薬を飲みさえすれば効果が出るため自分で考え方を変えたり行動したりする事が難しい急性期や症状が重い時に向いていいます。一方で根本の不安に対する考え方の修正になっていなかったり、副作用の問題などがデメリットとして挙げられます。

精神療法は、自分で考え方を変えていったり、苦手な状況に敢えて挑戦したりするといった自分の努力が必要な治療法です。根本を治せるというメリットがありますが、症状の重い時に無理矢理やってしまうとかえって症状を悪化させるリスクもあります。

この薬物療法と精神療法を上手に組み合わせる事がパニック障害をしっかりと治すために一番重要な事です。

「お薬だけは絶対に使いたくない」
「精神療法は面倒だからしたくない」

このように極端に考えてしまうと治療を失敗してしまう可能性が高くなります。

では薬物療法と精神療法とはどのようなものなのでしょうか。ここではパニック障害の治療法について詳しく説明します。

▽ パニック障害の薬物療法。パニック障害に使われるお薬にはどんなものがあるのか

▽ パニック障害と漢方薬。パニック障害に漢方薬は有効か

▽ 認知行動療法はどのような特徴を持つ治療法なのか

▽ 森田療法とはどのような治療法で、どんな人に向いている治療法なのか

6.パニック障害で治療中の方に気を付けて欲しい事

パニック障害は広場恐怖(閉鎖空間に対して強い恐怖を感じる)があったり、突然パニック発作が生じる恐怖があるため、日常生活においてもいくつか注意が必要です。

日常で広場恐怖を感じやすい場所としては、

  • エレベーター
  • 歯医者・美容室
  • 会議室
  • 飛行機・電車
  • 映画館・ライブハウス

などがあります。不安が強い間はこのような場所にはなるべく近づかない方が賢明ですが、中にはどうしても近づかないといけない事もあるでしょう。

パニック障害で治療中の方が閉鎖空間に入らざるを得ない時の考え方や対処法について紹介します。

▽ パニック障害と電車。パニック発作が電車で生じやすい理由と対処法

▽ パニック障害と歯医者。歯医者でパニック発作が起こりやすい理由と対処法

▽ パニック障害と飛行機。飛行機でパニック発作を起こさないための工夫

またパニック障害にかかっていても毎日、仕事や学校に行っている方は少なくありません。学校や仕事といった集団生活の場は不安や恐怖を感じやすい場所でもあります。仕事や学校をパニック障害増悪の原因にしないために注意すべき事を紹介します。

▽ パニック障害の方が仕事をする際に注意すべきポイント

7.妊娠中のパニック障害で気を付けたい事

パニック障害は若い女性の方にも多く発症します。

となると、「妊娠中」の発症というケースも十分に考えられます。

妊娠中は、お腹に赤ちゃんがいることや体内の女性ホルモンのバランスが崩れる事によって、通常の方でも気持ちが不安定になりがちです。

パニック障害を持っている場合、不安が更に悪化しやすいため、注意が必要です。

また赤ちゃんへの影響を考えると、使わない方が良いお薬もありますので、自分の症状とお薬の副作用のリスクをしっかりと見極め、そのお薬を継続していくのか減量・中止していくのかを判断する必要があります。

ここでは妊娠中のパニック障害で気を付ける事を紹介します。

妊娠中のパニック障害で気を付けること

8.パニック障害の方とはどのように接するべきか

最近では職場のメンタルヘルスの啓蒙が徐々に進んでおり、以前と比べるとこころの病気に対する理解がされるようになってきました。

そのため、パニック障害を患った方の同僚や上司が患者さん本人の診察に同席し「どのように本人と接すればいいのでしょうか」と相談される事も珍しくありません。

パニック障害があるからといって、腫れ物に触るように接したり、あらゆることを特別扱いする必要はありません。

しかし周囲の方がパニック障害という疾患がどのようなものなのかを多少でも知ってあげる事、そしてパニック障害の方にとって恐怖を感じる場所や状況がどのようなものなのかを知ってあげるだけで、パニック障害の方は大きな安心感を感じられるものです。

ここでは周囲の方がパニック障害の方にどのように接していけばいいのかを紹介します。

▽ パニック障害の方との接し方で気を付けるべきこと