認知行動療法はどのような特徴を持つ治療法なのか

精神療法は、精神疾患の治療において薬物療法(お薬による治療)と並んで重要な治療法の1つになります。

精神療法は、お薬という「異物」を体内に入れて人工的に治療するのではなく、その人の内面にはたらきかけることで根本的な治療となる方法です。薬物療法にかたよりすぎていると批判されることの多い現在の精神科治療で、精神療法は改めて注目されています。

特にうつ病や不安障害圏の方に用いられる代表的な精神療法である「認知行動療法」は、患者さんの間でも知られるようになってきて、

「認知行動療法をしっかりやってみたい」
「認知行動療法とはどんな治療法なのか」
「自分ひとりでは出来ないのか」

といった相談を頂くことが増えてきました。

しかし現在は、まだまだ認知行動療法を受けることの出来る環境が十分整っているとは言えません。患者さんも「興味はあるけどどこに行ったら受けれるのだろうか」と感じている方が多い印象があります。

そのため今日は認知行動療法に興味がある方に向けて、認知行動療法の簡単な説明と受ける方法を紹介したいと思います。

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1.認知行動療法(CBT)とは

認知行動療法というのはどのような治療なのでしょうか。

認知行動療法は、私たちの認知(ものごとに対するとらえ方)を修正することで、気分や行動を変化させようという治療法になります。

私たちは誰もが認知にかたよりを持っています。

例えば、同じ「リンゴ」というものをみても、

「すごくおいしそうだ!食べたい!」と認知する人もいれば、
「こんなまずいもの、視界に入るだけで不快だ」と認知する人もいるでしょう。

このように、同じ物事に対しても、そのとらえ方というのは人によって異なるものなのです。

認知にかたよりがあるという事は悪いことではありません。このかたよりが「性格」「個性」となり人間性の深みを作っています。みんな同じような認知を持っている世界であれば、その世界はとてもつまらないものになるでしょう。

しかし中にはこのかたよりが原因で過剰に落ち込んでしまったり、不安を感じてしまう方もいらっしゃいます。また、うつ病や不安障害などに罹患してしまうと、ものごとのとらえ方がいつもよりもネガティブになってしまうため、それが病気の悪化を加速させてしまう事もあり、これは問題となります。

例えば、「上司に怒られる」という状況に遭遇した時のことを考えてみましょう。

「怒られるなんて私は価値のない人間だ」と認知してしまう人もいるでしょう。あるいは、「上司は私に見込みがあると思っているから、わざわざ時間を作って指導してくれているんだ。ありがたいな」と認知する人もいると思います。

メンタルヘルス的に見たときに、この場合に心を健康に保てるのはどちらでしょうか。状況にもよりますが、一般的には後者でしょう。

簡単に言ってしまえば、このような精神的に悪影響をきたす認知のかたよりを見つけ出し、それを修正していくのが認知行動療法になります。

認知行動療法では、まずその人が持っている「自動思考」を明確にします。

自動思考というのは、ある状況下で自動的に沸いてくる考え方のことで、「思考のクセ」のようなものです。私たちは誰もが独自の自動思考を持っており、これはある状況に遭遇した時に「自動的に」浮かんできます。

認知行動療法では、自動思考に精神的に不安定になるようなかたよりがないかを見直し、かたよりがある場合は修正を行っていきます。そして修正した認知のかたよりを実生活でも活かせるように実践をし、うまく行けばそれを続け、うまく行かなければ何がまずかったのかをまた見直していきます。

自分ひとりでは、自分を客観的に見ることが難しく、自動思考にも気づきにくいため、経験豊富な治療者と一緒に行っていくことが理想的です。

認知行動療法は、結果が出るまでにある程度の時間が必要であり、学習したり実践したりと患者さん自身にも労力が必要な治療法ですが、ものごとのとらえ方という根本を治してくれる、有益な治療法になります。

2.認知行動療法のメリット

認知行動療法という治療法は、どのようなメリットのある治療法なのでしょうか。

認知行動療法の特徴となる、良い側面を紹介したいと思います。

Ⅰ.お薬と同等の効果がある

認知行動療法は、訓練された治療者の元で しっかりと取り組めば、お薬(抗うつ剤など)に引けを取らない成果があります。抗うつ剤による治療と同等の治療成績を有することが多くの報告にて確認されています。

お薬とは作用の仕方が異なることから、お薬と上手に組み合わせて治療を行えば治療成功率をかなり高めることも可能になります。

Ⅱ.再発予防効果に優れる

認知行動療法は、患者さんの「認知のかたより」に焦点をあて、精神的に悪影響がありそうな認知のかたよりの修正をはかっていきます。しっかりと認知の修正がはかれれば、その認知の修正は認知行動療法を終了したあとも続きます。

例えば、先ほどの上司に怒られた時の例を出せば、

「上司に怒られるような私は価値がない人間なのだ」という認知を修正し、

「そもそも労力を割いて怒ってくれるというのは上司の優しさなのではないだろうか」
「怒ることで私に成長して欲しいという期待をしてくれているのではないか」
「私が本当に価値のない人間なら、そもそも時間の無駄だろうから怒らないはずだ」
「怒ってもらえたから社会人として一つ成長できた」

と考えられるように認知を修正できるようになれば、それは認知行動療法が終了しても続くでしょう。

薬物療法と認知行動療法の最大の違いはここにあります。

認知行動療法というのは「考え方を変える」治療法であるため、しっかりと認知行動療法で考え方を修正することができれば、治療後もその効果は続きます。一方、お薬は服薬を止めてしまうと再発率がどうしても高くなってしまいます。薬物療法はお薬というものの力によって気分を安定させているに過ぎないものだからです。

認知行動療法は、治療を受け終わっても、日常生活の中で認知行動療法で学んだ考え方を生かし続けることができれば、その後も再発予防効果があり、これは大きなメリットになります。

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3.認知行動療法のデメリット

「 認知行動療法はお薬と違って副作用がない」と考えていらっしゃる方もいます。

確かにお薬のような副作用はありませんが、認知行動療法にデメリットがないわけではありません。

どんな治療法も良い面もあれば悪い面もあります。

ここでは認知行動療法のデメリットを紹介します。認知行動療法のデメリットも知り、自分に合っていそうか、続けることが出来そうかを吟味してから取り組むようにしましょう。

Ⅰ.即効性はない

認知行動療法をはじめとした精神療法のデメリットの1つに即効性に欠けることが挙げられます。

抗うつ剤も「飲んですぐ効く」ほどの即効性はありませんが、一般的に早ければ1~2週間、遅くとも1カ月程度で効果は発現してきます。

一方で認知行動療法はというと、効果の発現はお薬よりも更に遅いと考えておかなければいけません。

それはよく考えれば当たり前の話で、「考え方を変えましょう」と言われてすぐに変えることの出来る人などいません。

私たちの性格や考え方は、長い年月をかけて徐々に形成されてきたものなのです。それを一朝一夕で変えることはできません。また私たちは、変化を無意識に恐れ、現状に留まろうとする傾向があります。考え方を変えようとしても、一方で現状に留まりたいという心理がはたらいてしまうことは珍しいことではなく、このような理由から、認知の修正には一定の時間がかかるのが普通です。

逆にすぐに認知の修正がはかれてしまった場合、私たち治療者としては不安に感じるほどです。早急に認知の修正が行われると、その認知の修正は表面的なものである可能性が高く、しばらく経ったら元の認知のかたよりに戻ってしまう危険があるからです。

認知行動療法では、効果発現は早くても3か月程度の時間はかかることを覚悟し、時間をかけてゆっくりと確実に認知の修正をはかっていく必要があります。

Ⅱ.お金がかかる

認知行動療法は、薬物療法と比べるとお金もかかります。

最近、認知行動療法に保険が効くようになりましたが、これは「医師が行う認知行動療法」に限った話で、「臨床心理士(カウンセラー)」が行う認知行動療法は保険が効かず、自費になっています。

認知行動療法は1回に30~60分かかるため、現状として医師は診察で手一杯で認知行動療法にまで対応できないというケースが多く、診察は医師が行い、認知行動療法は臨床心理士が行うというスタイルの病院が多いと思われます。

実際は臨床心理士の先生でも、しっかり勉強している方であれば医師と同等の精度を持つ認知行動療法が十分行えているのですが、保険診療的にはまだ認められておらず、自費となるためお金がかかってしまいます。

料金は病院によって異なりますが、「1回3,000~8,000円」の範囲が多いと思われます。認知行動療法は一般的に15回~20回に分けて行うため、それなりのお金がかかってしまいます。

ま集団認知行動療法という4~8人の患者さんが一緒になって行う認知行動療法であれば、もう少し安くなるため、金銭的に厳しいという方は集団認知行動療法を検討してみるのも手です。

集団認知行動療法は、料金面以外にも「一緒に治療する仲間」が出来るため一緒に頑張って治療に取り組むことができ、これも大きなメリットになります。

Ⅲ.手間がかかる

先ほども書きましたが、一般的な認知行動療法は、1回30~60分ほどの面接を15~20回ほど行います。

仮に1回60分で全16回の面接を行うとなると、トータルで要する時間は16時間(960分)となります。更に面接で得た知識を日常で実践する時間も含めれば、かなりの時間を要することになるでしょう。

このように薬物療法と比べると治療にかかる時間というのはかなり多くなります。

現実問題として、仕事で忙しい中が

「毎週1回、1時間の面接を3か月間受けて下さい」

となれば、時間的にどうしても受けることができない人もいらっしゃいます。

Ⅳ.自分で努力する必要がある

お薬というのは、極端な言い方をすれば「飲めば効果が出る」治療法であり、患者さん側の労力は少なくて済みます。もちろん副作用の問題などはありますが、治療方法としては「飲んで効果が出るのを待つだけ」という簡便な治療法なのです。

しかし認知行動療法はそうはいきません。

まず面接において、しっかりと自分の認知のかたよりを探さないといけません。治療者も探す事を手伝いますが、やはり本人にしか分からないところも多いため、本人が頑張って探さないといけないのです。

また、面接で「自分にはこのような認知のかたよりがある」と理解でき、「このように考えるようにしてみよう」と知識としては習得できたとしても、それを日常生活で実践しないと意味がありません。この日常生活での実践も患者さん本人に頑張ってもらわないと先に進みませんので、自分自身でやらないといけません。

認知行動療法は非常に有用な治療法ですが、「自分で勉強・実践して治していこう」という覚悟を持って取り組まないと効果が出ない治療法なのです。

Ⅴ.精神状態が極めて悪い時には不向き

認知行動療法は自分で頑張る必要がある治療法だとお話しました。

そのため、実は認知行動療法は精神状態が極端に悪い時には向いていない治療法です。

例えば、うつ病で頭がまったくはたらかなくて、身体が鉛のように重い状態の時に、60分の面接を受けることは困難です。かえって体調を悪化させてしまうでしょう。

また仮に面接を受けることが出来たとしても、その内容をしっかりと理解することも難しいでしょうし、それを日常生活で実践することは更に難しいと思われます。

認知行動療法は、面接に集中でき、日常生活で認知の修正を実践できる程度の精神的な安定がないと十分な効果が発揮されない精神療法なのです。

Ⅵ.薬物療法ほど普及していない

認知行動療法は大分普及してきましたが、それでも「精神科の病院に行けばどこでも受けられる」というものではありません。

お薬と比べると、対応可能な機関がまだ少ないのも1つのデメリットになります。

4.認知行動療法に取り組む方法

認知行動療法が優れた治療法なのは間違いありません。

しっかりと受ければ、お薬と同等の効果が期待でき、更にお薬のような副作用は生じない。

お薬と異なり、受け終わった後に再発予防効果が続くのも大きなメリットです。

しかし、実情としては、

  • 時間がかかること
  • お金がかかること
  • 受けれる機関がまだ少ない事

があり、薬物療法ほどには普及していません。

もちろん、これは今後少しずつ改善されてくるものだとは思います。認知行動療法を取り入れる医療機関は徐々に増えています。

金銭面でも、現在は臨床心理士などが中心となって行う認知行動療法は自費になってしまいますが、訓練を受けた精神科医が行った場合はは保険診療で行えるようになっています。ただ現在では精神科医は診療に追われて認知行動療法までじっくりと行う余裕がない病院が多く、これは今後の課題となります。

個人的には臨床心理士の方でもしっかりと訓練を受けた方が実施するのであれば保険診療になればありがたいなと思っています。そうすればより安価で認知行動療法を受けれるようになりますし、認知行動療法を取り入れる医療機関ももっと増えるはずです。

認知行動療法を受ける最良の方法は、主治医に相談し、適切な認知行動療法を紹介してもらう事になります。

しかし現状としてみると、

「認知行動療法を受けたいけど時間がない」
「認知行動療法を受けたいけど、お金を考えると・・・」
「認知行動療法をやっているところを探したけど近くにない・・・」

という方も多いと思われます。

このような方は認知行動療法を受けることができないのでしょうか。

本格的な認知行動療法を受けるのは難しいかもしれませんが、簡略化した認知行動療法を受ける工夫をすることは可能です。

どのような方法があるのかを考えてみましょう。

Ⅰ.診察内で行う

診察で毎回1時間の時間をとってもらって、先生に認知行動療法をしてもらう。

これは現実的にはかなり難しいでしょう。しかし10分~20分程度であれば先生によっては可能かもしれません。

事前に先生と相談して了解をもらってからにはなりますが、診察内で出来る範囲で認知行動療法をしてもらうという方法もあります。

時間を短縮するために、患者さん側にお願いしたいこととしては

  • 事前に認知行動療法の本などを読み、自分自身でも勉強・理解してもらう
  • 本格的な認知行動療法と比べると不十分になってしまう事は了解してもらう

という事があります。

もちろん本格的に認知行動療法を受けることができればそれが一番ですが、それが困難な場合も少なくありませんので、その際に診察内での簡易的な認知行動療法は候補に挙がります。

私自身、患者さんと相談して診察内で簡略した認知行動療法を行うことがありますが、実感としては短時間の認知行動療法でも、患者さんによっては効果を感じることが出来ています。

Ⅱ.自分で本で勉強し実践する

自分で認知行動療法を行うための本というのは、近年多く出版されています。

まずは自分でこのような本を読んでみて、自分でできる範囲でやってみるのも手です。

ただし、自分のみで行う場合は、どうしても「客観的な目」が不足しますので、自分の自動思考やスキーマに気付けない場合もあります。ある程度の有効性はありますが、限界もあることは意識した上で行いましょう。

Ⅲ.iCBTに参加してみる

近年では、iCBTというオンラインで受けることができるCBTが試みられています。

特に地方においては医師不足もあり認知行動療法を受けることの出来る機関がまだまだ不足しているため、iCBTは今後治療における重要な位置付けになってくるかもしれません。

iCBTによる治療法でも、有意な症状の改善を認めたという報告もあります。

まだ試みが始まって浅いため、本格的な認知行動療法と同様の効果が得られるのかはまだ検証の必要があるでしょうが、有用な方法の1つではあると思われます。

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