パニック障害はどのように診断されるのか?臨床でのパニック障害診断法

パニック障害は、

  • 動悸
  • めまい
  • 息苦しさ

などが突然生じます。これをパニック発作と呼びますが、急にこのような症状が出現するのは当人にとってはものすごい恐怖になります。「このまま死んでしまうのではないか」「頭がおかしくなってしまうのではないか」という強い不安や恐怖を感じてしまいます。

パニック障害は、救急病院や内科などで検査をしても身体には何も異常は見つかりません。そのため、「病気ではないだろう」そのまま放置されてしまうことがありますが、決して放置せず、しっかりと診断を受けて正しい治療を受ける事が大切です。

パニック障害は、精神科で治療する疾患です。パニック発作のような症状が出たら精神科を受診し、しっかりと診断してもらうことが大切です。適切な精神科治療が開始されれば、症状は改善されます。

今日は、精神科においてパニック障害の診断がどのように行われているのかを紹介します。

1.パニック障害の診断手順

パニック障害の診断において一番重要なのは、患者さんの症状や経過を詳しく聴く事(問診)です。

問診で得た情報を元に、診断基準と照らし合わせて診断を行うのが、パニック障害の診断方法になります。また、診断の精度を高めるために、心理検査を併用することもあります。

パニック障害は「パニック発作」という分かりやすい発作が出るため、診断に苦慮することは少なく、多くの症例で診断は比較的スムーズに行われます。

しかし、パニック発作と似たような症状を起こす身体疾患もあるため、問診や診断基準への照らし合わせはしっかりと行わないといけません。

「発作」=「パニック障害」という安易な診断は、誤診を招くことにもなります。

それでは、診断における問診や診断基準について詳しくみていきしょう。

2.パニック障害診断のための問診

問診では患者さんやその家族から詳細に情報を聴取します。

状況や症状によって聴取する内容は若干変わってきますが、私たち医師が特に注意して聴くものを紹介します。

Ⅰ.パニック発作について

パニック発作が起こった時の状況や精神状態の評価はとても大切です。

どんな状況でパニック発作が生じたのか。
どんな症状が出たのか。
どのくらいで治まったのか。
後遺症はなかったか。

その後の精神状態はどうなのか。
発作後に予期不安はあるか。
発作が起こったことで生活や仕事への支障は出ていないか
発作が生じやすい状況(広場恐怖)はあるのか。

このようなことを問診で聴取していきます。

Ⅱ.生活習慣

生活習慣も重要です。生活習慣が乱れているとパニック発作を起こしやすくなります。あまりに生活習慣の乱れがある場合は、原因はこちらなのかもしれません。

不眠傾向でなかったか
喫煙・アルコール・カフェインの過剰摂取が無かったか
極端な偏食・ダイエットなどをしていないか

これらの確認は重要です。また稀にですが、違法薬物(覚せい剤など)に使用が原因で不安が高まっていることもありますので、れれに対する問診も非常に重要になります。

Ⅲ.生活背景

今までの生育歴や生活背景もパニック障害の発症に影響することがありますので聴取します。

パニック障害の発症要因として、特に精神的ストレスは大きな要因を占めます。

幼少期に、虐待やいじめ、親の死・離別などの大きなショックを受ける出来事があれば、不安を感じやすい素因が形成されておりパニック障害発症の一因になる可能性があります。

また成人期においても、人間関係のストレスや、経済的・健康的なストレスなど、不安を感じる出来事が続いていれば、それが不安を高めてしまっており、パニック障害発症の原因になっていることがあります。

Ⅳ.性格、考え方

元々の性格や考え方のクセもパニック障害発症に関係してくるため、聴取します。

典型的には、不安を感じやすい性格傾向や考え方を持つ方は、そうでない方と比べてパニック障害を発症しやすいようです。

具体的には、心配性、臆病、神経質などの傾向を持つ方が該当します。

Ⅴ.家族歴

パニック障害には多少の遺伝性があることが確認されています。その程度は強くはありませんが、親や親族に精神疾患の方がいる場合は、そうでない場合と比べてパニック障害を発症しやすくなるため、診断の精度を上げる一つの情報になります。

Ⅵ.既往歴・服薬歴

精神疾患に限らず、今までに罹ったことのある病気や現在治療中の病気についても聴取します。

身体疾患の中には発作を起こすものもあります。喘息や甲状腺疾患、貧血などの既往がある場合には、その疾患が発作の原因でないかを確認する必要があります。

また、服薬しているおくすりがある場合は、そのおくすりが不安を増悪させたり、発作を起こしやすくするものでないかも確認しないといけません。

3.パニック障害の診断基準

疾患には「診断基準」というものがあります。診断基準に照らし合わせ、それを満たしているかを確認することも診断における重要な手順になります。

わが国の精神科領域においては、主に2つの診断基準がよく使われています。アメリカ精神医学会(APA)が発刊しているDSM-5と、世界保健機構(WHO)が発刊しているICD-10です。

診断基準を使うと、その診断基準を「満たすか」「満たさないか」の2つに明確に分けることができます。これは便利な反面で、「ギリギリ満たさない人」「今は満たさないけど、放置すると今後満たす危険性の高い人」などを見落としてしまう危険もあります。

そのため、診断基準を絶対的なものとして使うことはあまり推奨されません。診断基準は役立つものではありますが、精神疾患は「病気」「病気でない」ときれいに分けられないことも多々あります。

診断基準的には満たさなかったとしても、医師が「パニック障害と考えて差し支えない状態」「今はまだ大丈夫だが、このまま放置しておけば危険な状態」と判断すれば、治療が始まることもあります。

DSM-5、ICD-10それぞれの診断基準は、どちらもだいたい似たようなものですので、今回はDSM-5の診断基準を紹介します。

Ⅰ.DSM-5でのパニック症/パニック障害診断基準

A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ以上が起こる。

(1)動悸、心悸亢進、心拍数の増加
(2)発汗
(3)身震いまたは震え
(4)息切れ感または息苦しさ
(5)窒息感
(6)胸痛または胸部不快感
(7)嘔気または腹部不快感
(8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、気が遠くなる感じ
(9)寒気または熱感
(10)異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
(11)現実感消失または離人感(自分自身から離脱している)
(12)抑制力を失うまたは「どうかなってしまう」ことに対する恐怖
(13)死ぬことに対する恐怖

B.発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1か月以上続いている

(1)更なるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配
(2)発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(パニック発作を避けるような行動)

C.その障害は、物質の生理学的作用(例:乱用薬物、医薬品)、または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症、心肺疾患)によるものではない

D.その障害は、他の精神疾患によってうまく説明されない。

Ⅱ.簡単に言うと・・・

「診断基準」というのは、たいてい難しい用語が羅列されていて、分かりにくいものです。なので診断基準をざっくりと分かりやすく言い直してみましょう。

簡単にいうと、

・パニック発作時に診断基準A.に書いてある4つ以上の症状があって、
・そのパニック発作が何回か繰り返されていて、
・「また発作が起きたらどうしよう」という不安(予期不安)があって、
・日常生活や仕事などに支障を来していて、
・他の疾患ではないことが確認されている

これを満たせば、パニック障害の診断がつくということになります。

パニック障害は、有名人などでも罹患している方がいるため、最近では広く知られるようになりました。

そのため、めまいや呼吸苦、動悸などの発作が出るとすぐに「パニック障害だ!」と考えてしまいがちですが、中には身体の病気でこれらの症状が起こることもあります。

診断基準にもあるように、甲状腺などのホルモンバランスの異常や貧血などで起こることもありますので、一度は血液検査を行い、身体的な異常がないのかを調べておくことが重要です。

また、動悸に関しては不整脈が原因であることもありますので、心電図も一度は取ることが望ましいでしょう(心電図で検出できない不整脈もありますが・・・)。

身体の異常なのにパニック障害と誤診されてしまい、抗うつ剤や安定剤などを処方されてしまうと、効果がないばかりか有害なことさえあります。

身体疾患との鑑別では、血液検査も重要ですが、「予期不安」があるかどうかも重要です。

「また発作が起きたらどうしよう」という不安を伴い、それによりまたパニック発作が誘発されてしまう。身体疾患であれば不安の有無にかかわらず症状が出るはずですので、予期不安があるかどうかは重要な鑑別ポイントになります。

4.パニック障害の検査

問診ではなかなか診断がつけずらい時には、補助的に検査を行うこともあります。

検査といっても現在の医学では、脳画像検査や血液検査でパニック障害を正確に判定することはできません。そのため、パニック障害の検査というと心理検査が主になります。

パニック障害の根本にあるのは「不安」「恐怖」といった感情ですので、これらの感情がどのくらい高まっているのかを検査で検出します。

心理検査はパニック障害を「診断」できるものではありません。あくまでも検査は補助的なものです。

臨床的には以下の検査などが用いられます。

・STAI(状態・特性不安検査)

患者さんが一人で出来る検査です。

状態不安(今この瞬間の不安の強さ)と、特性不安(普段のいつもの自分の不安の強さ)を検出します。マークシート式で質問に対してそれぞれ4つの選択肢の中から一番自分の状態に当てはまるものを選びます。所要時間は10~15分ほどかかります。

80点満点で、高いほど不安が強いことを表します。

・PDSS(パニック障害重症度評価尺度)

 検査者が患者さんに質問しながら行っていく心理検査で、検査者が必要な検査です。

パニック障害の診断がついていて、重症度を判定したい時に利用されます。所要時間は10~15分ほどです。点数が高いほど重症度が高いことを表しています。

・PAS(パニック・広場恐怖尺度)

検査者が患者さんに質問しながら行っていく心理検査で、検査者が必要な検査です。

パニック障害および広場恐怖と診断された患者さんについて、過去1週間の状態を「パニック発作」「広場恐怖・回避行動」「予期不安」「病気による障害」「健康に関する危惧」の5つの下位尺度に分けて5段階で点数化します。52点満点で、点数が高いほど重症度が高い事を表しています。

日本語訳されたPAS-Jというものもあります。