ドリエルは睡眠改善薬と呼ばれるお薬で、主に不眠に対して用いられています。
お薬といっても病院で処方される「医療用医薬品」ではなく、薬局やドラッグストアで購入できるような「一般用医薬品(OTC医薬品)」になります。
ドリエルは薬局で簡単に購入できるため、「副作用が少ないのだろう」「安全なお薬なのだろう」と考える方が多いのですが、本当にそうなのでしょうか。
医師の診察を必要としないため、そんなに危険な成分を使っていないことは確かです。しかしだからといって副作用が全くないお薬というわけではありません。使用にあたってはいくつか注意すべきこともあります。
ここではドリエルの副作用について、特に注意すべき副作用やその対処法について紹介していきたいと思います。
1.ドリエルの副作用の概要
まずはドリエルの副作用の特徴についてお話します。
ドリエルの副作用で特に知っておいて欲しいのは次の3つです。
- 耐性がすぐに形成される
- 抗コリン作用が出ることがある
- 緑内障、前立腺肥大症の方は使用注意
これだけだとちょっと分かりにくいですね。各副作用については次の項で詳しく説明しますが、ここでは簡単に全体像を紹介します。
ドリエルは医師の診察がなくても各人が自由に購入できるお薬ですから、それほど危険な成分が含まれていないのは事実です。
しかしお薬というのは身体に作用して身体に何らかの変化をもたらす成分が含まれているものですから、副作用が全く生じないとか、どんな使い方をしても100%安全だとかいう事はありません。
ドリエルの副作用で一番知っておいて欲しいのが「耐性」です。耐性とは、その物質の摂取を続ける事で次第に身体が慣れてきてしまい、効きが悪くなってくる事です。
簡単に言うと「お薬にすぐに慣れてしまい、効かなくなってくる」という事です。
2つ目に知っておいて欲しい事に「抗コリン作用」があります。抗コリン作用というのは、アセチルコリンのはたらきをブロックする作用の事です。
ドリエルは「抗ヒスタミン薬」という種類に分類されるのですが、これはヒスタミンという物質のはたらきをブロックする作用を持ちます。ヒスタミンは脳の覚醒に関係している物質のため、これをブロックする事で脳の覚醒レベルが落ち、眠くなるのです。
そして実は、ヒスタミンとアセチルコリンは構造的に似ている物質です。そのため抗ヒスタミン薬はヒスタミンだけでなく、アセチルコリンもブロックしてしまう事があります。これが「抗コリン作用」です。
ではアセチルコリンのはたらきがブロックされるとどのような症状が生じるのでしょうか。詳しくは後述しますが、
- 口喝(口のかわき)
- 便秘
- 尿閉(尿がでにくくなる)
- 胃部不快感
などが生じます。
抗コリン作用は尿道を絞めて尿を出にくくしてしまったり、眼圧を上げてしまう可能性があるため、緑内障や前立腺肥大症の方への使用は推奨されていません。これらの疾患を持っている方はドリエルは服用すべきではありません。
2.ドリエルの副作用とその対処法
副作用がゼロのお薬などはなく、どんなお薬でも必ず副作用があります。
薬局で自由の購入できる睡眠改善薬にも、もちろん副作用はあります。しかし、だからと言って「使わない方がいいもの」というわけではありません。効果と副作用をしっかり見極めて、必要な方は使ってもよく、必要性が低い方は使わないという「選択」が大切です。
その選択を正しく行うために、お薬の副作用について正しく知る事は大切です。
ここではドリエルの副作用とその対処法について詳しく説明していきます。
Ⅰ.耐性
ドリエルのような抗ヒスタミン薬は、眠気に対して強い耐性を持っている事が知られています。
耐性というのは、お薬に身体が慣れてきてしまう事です。抗ヒスタミン薬は眠気に対して急速に耐性が生じる事が知られており、連用した場合、4~7日ほどで耐性が形成されます。
ある調査では、服用を続けると4日目でプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)と効果が変わらなくなってしまうと報告されています。
耐性は服用を続ければ生じてしまうものですから、防ぐためには服用を続けないようにするしかありません。
ここからドリエルは基本的には数日のみの使用にとどめるべきで、最長でも1週間以内、それ以上の連用はおすすめできません。
ちなみに抗ヒスタミン薬は、「眠気」などの中枢性作用(脳への作用)に対しては耐性が生じますが、その他の末梢性作用には耐性は生じません。
抗ヒスタミン薬はアレルギー症状を抑える作用もあるため、花粉症などのアレルギー疾患の治療薬にも用いられています。花粉症の薬は基本的にシーズン中に数か月服用を続けるものですが、鼻水などの症状に耐性が生じる事はありません。
耐性が生じるのは、あくまでも眠気などの脳への中枢性の作用になります。
Ⅱ.抗コリン作用
ドリエルは抗ヒスタミン薬であり、抗ヒスタミン薬には抗コリン作用という副作用があります。
これはアセチルコリンという物質のはたらきをブロックしてしまう事で生じる副作用です。ドリエルは本来、ヒスタミンのはたらきをブロックするお薬なのですが、ヒスタミンとアセチルコリンは構造が似ているため、アセチルコリンのはたらきもブロックしてしまう事があるのです。
アセチルコリンのはたらきがブロックされると、
- 口喝(口の渇き)
- 胃腸の動きが弱まり、便秘・胃部不快感
- 尿閉(尿道が締まり、尿が出にくくなる)
- 認知機能低下
- 眼圧上昇による眼痛
などが生じ、これが副作用となる事があります。
これらの副作用が生じて苦痛を感じるようであれば、ドリエルの服用は中止した方が良いでしょう。抗コリン作用を和らげるお薬もあるにはありますが、それを使ってまでドリエルを継続するメリットはありません。
ちなみに、この抗コリン作用を持つドリエルは、
- 前立腺肥大症
- 緑内障
などの持病がある方は服用すべきではありません。
前立腺肥大症は、前立腺が大きくなっている事で、元々尿が出にくい状態になっています。この状態でドリエルの抗コリン作用が発揮されてしまうと、尿が更に出にくくなってしまいます。
緑内障は、涙の流れ道の通りが悪くなっている事で眼圧が上がってしまう疾患です。この状態でドリエルの抗コリン作用で更に眼圧を上げてしまう事は危険です。
Ⅲ.眠気
ドリエルのような眠らせるお薬の副作用で、一番多いのが眠気です。眠らせるお薬ですから眠くなるのは当然といえば当然の副作用です。
寝る前にドリエルを飲んで眠くなる、これはドリエルの「効果」ですから問題ありません。しかし「起床時間になってもまだ眠くて起きれない」「日中眠くて仕事に集中できない」となるとこれは問題で、副作用と判断されます。
日中まで睡眠改善薬の効果が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と呼びます。眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下などにもつながります。
ドリエルの日中への眠気は、多くはありません。ドリエルの薬効はおよそ6時間程度と考えられており、適正な睡眠時間をとっていれば日中に持ち越す可能性は高くはありません。
しかし、時に日中まで眠気が持ち越してしまうことはあります。特にお薬が身体に残りやすい方(高齢者や肝機能障害のある方など)は、作用時間が延長しやすいことがありますので注意が必要です。また、元々の睡眠時間が極端に短い方も日中の眠気が生じやすいことが考えられます。
眠気が日中に持ち越してしまう場合、まず初めに取るべき対処法は「睡眠時間をより多くとること」「睡眠環境の見直しを行うこと」です。
例えば元々3時間睡眠でドリエルを服用しており、それで眠気が翌朝に持ち越してしまっているようであれば、ドリエルは6時間程度効くお薬ですので眠気が出るのは当然です。少なくとも6時間程度は睡眠時間を取るように生活習慣の改善を行いましょう。睡眠時間を多く取れれば持ち越しは起きにくくなります。
眠気の副作用が出た時はまず「睡眠時間を増やす事」。これが一番間違いのない対処法です。
睡眠時間が適正であるにも関わらず眠気が出てしまい、日中の生活に支障が生じる場合は、服用を中止した方が良いでしょう。
3.ドリエルに依存性はないのか?
睡眠薬というと「依存性が怖い」とおっしゃる方は少なくありません。
では睡眠改善薬のドリエルには依存性はないのでしょうか。
ドリエルには依存性はないと考えられています。
ドリエルのような抗ヒスタミン薬はアレルギーを抑える作用もあるため、臨床的には花粉症などのアレルギー疾患の治療薬として用いられています。
ドリエルに含まれる「ジフェンヒドラミン」も医療分野では「レスタミン」というお薬として、アレルギー疾患の治療薬として処方されています。
花粉症のお薬は、花粉が飛んでいる時期に服用してシーズンが終われば服用を中止しますが、その際に「お薬がクセになってしまって辞められない」という事はまずありませんよね。
もしそんな現象があるのであれば、花粉症の治療薬はもっと問題視されているはずです。
ここからもドリエルをはじめとした抗ヒスタミン薬には依存性はない事が分かります。
4.睡眠薬との副作用の比較
「ドリエルは薬局で買えるから病院の睡眠薬より副作用が少ない」と考えている方は多いですが、両者の副作用はどちらが多いのでしょうか。
これは一概に比較する事は出来ません。
なぜならばドリエルのような睡眠改善薬と病院で処方される睡眠薬は、作用機序が異なるため、そもそも副作用の傾向が異なるためです。
全体的な傾向として、ドリエルのような睡眠改善薬の方が重篤な副作用は生じにくいのは確かですが、一概にドリエルの方が副作用が少ないと言えるものではなく、それぞれの副作用の特性を理解する事が大切です。
先ほども説明したように、ドリエルの副作用の特徴は、
- 耐性がすぐに形成される
- 抗コリン作用がある
- 緑内障、前立腺肥大症の方は使用注意
というものがありました。
これに対して病院で処方される睡眠薬の副作用の特徴を比較してみましょう。
Ⅰ.ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、睡眠薬としてもっとも広く処方されているお薬です。
脳神経のGABA-A受容体という、脳を鎮静させる作用を持つ受容体のはたらきを強める事で眠りに導くお薬です。
ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用の特徴としては、
- 耐性がある(アルコールと同程度)
- 依存性がある(アルコールと同程度)
という点が挙げられます。
耐性はありますが、ドリエルほど強くはありません。おおよその感覚としてはアルコールと同程度だと考えてください。
アルコールも耐性がある物質で、連日飲酒していればだんだん同じ量では酔えなくなってきます。しかし節度ある飲酒であれば、顕著な耐性が形成される事はありません。
実際、ほとんどの大人は時々飲酒する機会があると思いますが、節度を持った飲酒をしていれば耐性で困る事はありませんよね。ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系睡眠薬も同じ程度です。
依存性はドリエルと異なりあります。依存性の程度も耐性と同じでアルコールと同程度です。節度ある使用であれば依存で大きく困る事はありませんが、大量使用や乱用などをすれば依存で苦しむ事もあります。
なおドリエルと異なり、抗コリン作用はありません。
【ベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧】
・ハルシオン(一般名:トリアゾラム)
・レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
・リスミー(一般名:リルマザホン)
・エバミール/ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)
・サイレース/ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)
・ネルボン/ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)
・ユーロジン(一般名:エスタゾラム)
・ドラール(一般名:クアゼパム)
・ダルメート(一般名:フルラゼパム)
【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧】
・アモバン(一般名:ゾピクロン)
・マイスリー(一般名:ゾルピデム)
・ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)
Ⅱ.メラトニン受容体作動薬
眠りを導く物質であるメラトニンが、くっつく受容体である「メラトニン受容体」を刺激する事で自然な眠りを後押しするお薬です。
副作用の特徴としては、
- 副作用は極めて少ない
- 耐性・依存性はない
- デプロメール/ルボックス(フルボキサミン)と併用禁忌
という点が挙げられます。
メラトニン受容体作動薬は、自然な眠りを後押しする物質で、副作用は極めて少ない安全性に優れるお薬です。ドリエルよりも安全性は高いでしょう。
しかし効果は弱く、短期間で劇的に不眠を治してくれるお薬ではありません。
注意点として、抗うつ剤である「デプロメール」「ルボックス」とは併用できません。両者を併用してしまうと血中濃度が極めて高値となってしまい危険なためです。
なおドリエルと異なり抗コリン作用はありません。耐性・依存性もありません。
【メラトニン受容体作動薬一覧】
・ロゼレム(一般名:ラメルテオン)
Ⅲ.オレキシン受容体拮抗薬
脳を覚醒させる物質であるオレキシンのはたらきをブロックする事で眠りに導くお薬です。
副作用の特徴としては、
- 耐性・依存性はない
- 悪夢が時に生じる
- ナルコレプシーに注意(報告はない)
という点が挙げられます。
オレキシン受容体拮抗薬にも耐性や依存性はなく、安全性に優れます。
全体的に副作用は少ないのですが、悪夢も報告が散見され、一応注意が必要です。
ナルコレプシーとは、オレキシン不足によって急に眠くなったり脱力してしまう疾患です。別名「眠り病」とも呼ばれています。
ナルコレプシーは、オレキシンの欠乏で生じる事が分かっており、人工的にオレキシンをブロックするオレキシン受容体拮抗薬は作用機序上、ナルコレプシーを誘発させる可能性が否定できません。
ただし今のところお薬の開発中の調査でも、発売後の市場調査でもナルコレプシーの副作用の報告はありませんので、「一応」注意が必要という程度です。
なおドリエルと異なり、抗コリン作用は認めません。
【オレキシン受容体拮抗薬一覧】
・ベルソムラ(一般名:スボレキサント)