パキシル(一般名:パロキセチン塩酸塩)は、2000年から発売されている抗うつ剤です。
「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」という種類に属し、主に神経間の「セロトニン」という物質を増やすことで、落ち込み・不安といった症状を改善させてくれます。
パキシルは良くも悪くも「キレのある」お薬です。鋭く効くようなイメージを持って頂くと分かりやすいかもしれません。
そのため、「他の抗うつ剤は効かなかったけど、パキシルを服用してから調子がとても良くなりました」といった良い評判もある一方で、「飲み忘れると離脱症状がひどく、1回使うとやめられなくなる」「副作用が強い」といった悪い評判もあり、患者さんによって評価が非常に分かれるお薬になります。
ネットでは悪い評判の方が書かれやすい傾向がありますので、そのような評判を読むと服用するのが怖くなってしまうかもしれません。
確かにパキシルは一長一短ある抗うつ剤であるため、安易に使うと副作用に苦しむケースもあります。
しかし習熟した医師の元で適正に使うのであれば、高い効果を期待できるお薬でもあります。悪い評判のみを鵜呑みにしてしまうのではなく、パキシルの長所と短所をしっかりと理解して必要な方にはしっかりと使って頂きたいお薬なのです。
では、パキシルというのは一体どのような抗うつ剤なのでしょうか。
ここではパキシルの特徴や他の抗うつ剤との強さの比較などを紹介させて頂きます。
1.パキシルの特徴
まずはパキシルという抗うつ剤の全体的な特徴をつかんでいきましょう。
パキシルは抗うつ剤の1つで、主にセロトニンを増やす事で気分を改善させます。
良い意味でも悪い意味でも「強い」「キレの良い」抗うつ剤になり、落ち込み・不安に対してしっかりと効果が得られます。特に不安に対して優れており、パニック障害などにもよく用いられています。
一方でキレの強さから、使用に注意が必要な面もあります。副作用の体重増加、減薬・断薬時の離脱症状などで苦しんでしまう患者さんもいらっしゃり、適正に使う事が必要になります。
パキシルは「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」という種類のお薬になります。これは神経間に分泌されたセロトニンの再取り込み(吸収)を抑える作用を持つお薬になります。
セロトニンは神経から神経に情報を伝える役割を持つ物質で、これは専門的には「神経伝達物質」と呼ばれます。神経伝達物質の中でもセロトニンは主に「気分」の情報を伝え、落ち込みや不安などといった感情に関係していると考えられています。
そしてうつ病の患者さんの脳は、このセロトニンの分泌が低下しているのではないかと考えられています。何らかの原因でセロトニン量が低下してしまい、これによって落ち込みや不安を感じやすくなってしまっているのです。
神経間に分泌された神経伝達物質はしばらくすると再び神経内に取り込まれていきます。これを再取り込みと呼びますが、この再取り込みを起こしにくくすればセロトニンが長く神経間にとどまるため、結果的にセロトニンの分泌量が多くなったのと同じ状態になります。
これがパキシルをはじめとしたSSRIの効き方になります。
パキシルもSSRIですので、上記のようにセロトニンの再取り込みを阻害し、神経間のセロトニン濃度を高めます。SSRIにも何種類かのお薬がありますが、その中でパキシルは「良くも悪くも強い・キレが鋭い」お薬になります。
患者さんにパキシルの評価を効くと真っ二つに割れますが、その理由はここにあります。
パキシルの効果を実感している患者さんが多いのも事実です。
「パキシルのおかげでうつ状態から脱出できた」
「先生にパキシルを処方してもらったおかげで、パニック発作がなくなりました!」
と感謝されることもあり、パキシルには強い抗うつ作用・抗不安作用があります。
一方で、効果が強い分だけ副作用も生じやすい面があります。
パキシルが属するSSRIは、2000年頃から使われるようになった比較的新しい抗うつ剤です。それ以前は三環系抗うつ剤というものが主流であり、三環系は副作用がとても多いのが問題となっていました。
パキシルは三環系よりは副作用は少なくなっているものの、総合的に見ればSSRIの中で副作用は一番多いと言っても良いでしょう。
副作用についての詳細は、「パキシルの副作用」の記事でも詳しく説明していますが、代表的なものとしては、
- 抗コリン作用(口渇、便秘、尿閉など)
- 体重増加
- 性機能障害
などが挙げられます。
いずれも三環系よりは軽度であるものの、特に体重増加はSSRIの中では多く、体重増加を気にされるような方(女性など)にはとりわけ不評です。
パキシルを内服している女性患者さんから、「パキシルでうつ症状は確かに良くなりました。でも、今度は体重が〇〇kg増えて落ち込んでます・・・」と言われてしまう事もあります。
落ち込みを改善させるためにパキシルを使ったのにこれでは本末転倒になってしまいますよね。太ることへの抵抗が強い方には、このような理由からパキシルは使いにくいところもあります。
また、副作用の多さから妊婦さんには使用しずらいという面があります。
FDA(米国食品医薬品局)の見解では、パキシル以外のSSRIの妊婦さんへの使用は「C:危険性を否定することができない」という位置づけになっていますが、パキシルのみ一段階上の「D:危険性を示す確かな証拠がある」になっています。
そのため妊婦さんがもしSSRIを服用しないといけない時は、パキシル以外のSSRIを選択する事が推奨されます(もちろんSSRIを服用しない方法があればそれが一番です)。
更にパキシルは離脱症状も生じやすいお薬です。
離脱症状とは、お薬を減薬・中断した時、その反動で生じる症状のことです。お薬の血中濃度が急激に下がる事に身体ついていけずに生じると考えられています。
離脱症状では、めまいや動悸、耳鳴り、ふらつき、しびれなどの身体症状の他、イライラ感や不安感などの精神症状も認められます。
パキシルは他のSSRIに比べて離脱症状が起きやすく、「病気が改善してきたから減薬しよう」という時に減薬に苦労することがあります。また自己判断で「そろそろ飲むのをやめてもいいだろう」と急に中止してしまって離脱症状が出てしまい、「もうこの薬を止められないのか・・・」とショックを受ける患者さんもいらっしゃいます。
減薬すると離脱症状が出やすい。これが「パキシルを一回飲み始めるとやめられなくなる」と言われる原因です。
ただしパキシルに離脱症状が多いのは事実ですが、「一回飲み始めたらやめられない」というのは誤解です。急激な減薬・断薬が離脱症状を引き起こすのであって、医師と相談して正しい手順で減薬すれば、必ず減らしていく事は出来ます。
ここについて詳しくは「パキシルの離脱症状」にて詳しく書いていますのでご覧下さい。
以上から、パキシルの特徴として次のようなことが挙げられます。
【パキシルの特徴】
・SSRIに属し、セロトニンを増やす事でうつ・不安症状を改善させる |
2.パキシルの作用機序
パキシルはどのような機序によってうつ病や不安障害を改善させているのでしょうか。
パキシルは、SSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤です。SSRIとは「Selective Serotonin Reuptake Inhibitor」の略で、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」という意味になります。
難しい名称ですが、簡単に言うと、
セロトニンを増やすお薬
だという事です。
セロトニンは神経伝達物質の1つです。神経伝達物質というのは、神経から神経に情報を伝える役割を持っている物質です。神経と神経の間を神経間隙(しんけいかんげき)と言いますが、神経伝達物質はこの神経間隙に分泌される事で、次の神経に情報を伝えていきます。
神経伝達物質がうまく分泌されなくなると、正しい情報が伝わらなくなるため、心身ともに様々な不調が生じます。
セロトニンは脳内において「感情」の情報を伝える神経伝達物質になります。この分泌量がおかしくなってしまう事がうつ病や不安障害発症の一因だと考えられています。
パキシルをはじめとしたSSRIは、神経間隙に分泌されたセロトニンが再取り込み(吸収)されないようにはたらきます。すると神経間隙に長くセロトニンが留まる事になるため、神経間隙のセロトニン濃度が上がり、情報の伝達がスムーズになるのです。
SSRIにはパキシル以外にも
などがあります。
どのSSRIも同じようにセロトニンの再取り込みを阻害することで神経間隙のセロトニン濃度を上げます。どれも総合的に見れば大きな差はないのですが、セロトニンを増やす力やその他の気分に影響する物質(ノルアドレナリンやドーパミンなど)を増やす力に違いがあります。
気分に影響を与える神経伝達物質はセロトニン以外にもいくつかあります。これら気分に影響する神経伝達物質はまとめて「モノアミン」と呼ばれており、
- セロトニンは落ち込みや不安に関係する
- ノルアドレナリンは意欲ややる気に関係する
- ドーパミンは楽しみや快楽に関係する
と考えられています。
パキシルの主な作用はセロトニンを増やす事ですが、他にも「ノルアドレナリン」の再取り込みを阻害する事で意欲ややる気を改善させる作用も多少有する事が報告されています。