統合失調症で使われる薬にはどのようなものがあるのか

統合失調症で生じる症状は多岐に渡ります。急性期に生じる幻覚・妄想を初めとして、慢性期には無為自閉、感情平板化、認知機能の低下など多くの症状が出現します。

現実離れした妄想発言を発したり、奇異な言動を認めたり、徐々に社会的にもひきこもってしまったりするため、「このままおかしくなってしまうのではないか」「このまま治らないのではないか」と心配になってしまう方も少なくありません。

しかし統合失調症は、有効な治療薬があります。

主に統合失調症の治療に用いられるお薬を「抗精神病薬」と呼びます。抗精神病薬は統合失調症の全ての症状を治してくれる万能薬ではありませんが、適切に使用することで症状を抑えていくことが可能です。

今日は統合失調症に使われるお薬についてみていきましょう。

1.統合失調症におけるお薬の位置づけ

主に統合失調症の治療に用いるお薬を「抗精神病薬」と呼びます。

統合失調症の治療において、抗精神病薬は非常に重要な位置付けにあります。統合失調症の治療に抗精神病薬は欠かすことのできないものだと言っても良いでしょう。

こころの病気の中でもうつ病や不安障害などの疾患は、お薬を使わずに治療するのが可能なこともあります。「なるべくお薬を使わずに治したい」と希望され、医師が薬物以外の治療でも可能と判断した場合は、環境調整やカウンセリングなどの精神療法を中心とした治療が行われることもあります。

しかし統合失調症の場合はそうはいきません。統合失調症をお薬なしで治すというのは、現状の医学では極めて困難なのです。

一方でお薬だけでは片手落ちの治療となるのも事実です。お薬は統合失調症の一部の症状には有効ですが、全ての症状をまんべんなく改善させてくれるものではないからです。

ざっくりと言えば、抗精神病薬は統合失調症の陽性症状には有効であるけども、陰性症状や認知機能障害には多少しか有効ではないのです。かと言って陰性症状の改善を目指して抗精神病薬をどんどん増薬すれば、今度は副作用の頻度が多くなってしまうため、これは推奨される方法ではありません。

【陽性症状】
本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。

【陰性症状】
本来はある能力がなくなってしまう症状の総称で、活動性が低下しこもりがちになってしまう「無為自閉」や、感情表出が乏しくなる「感情鈍麻」、意欲消失などががある。

【認知機能障害】
認知(自分の外の物事を認識すること)に関係する能力に障害を来たすことで、情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認めること。

そのため、抗精神病薬による治療を中心としながらその他の治療法も併用していく、という方法が現在の統合失調症における治療法になります。

2.統合失調症の治療薬「抗精神病薬」

主に統合失調症の治療に用いるお薬を「抗精神病薬」と呼びます。

最近では抗精神病薬は、双極性障害の治療にも用いられたり、うつ病の増強療法として用いられたりと適応の幅が広がっているため、「抗精神病薬」=「統合失調症の治療薬」という図式はだんだん成り立たなくなりつつあるのですが、ここでは抗精神病薬を「主に統合失調症の治療薬」として話を進めます。

現在の統合失調症において抗精神病薬は必須の治療薬です。「なるべくお薬を使わずに治したい」という方もいらっしゃるとは思いますが、統合失調症に関して言えば、抗精神病薬を服用しないデメリットは非常に大きく、基本的に私たち精神科医は抗精神病薬の服用を強く勧めます。

ここでは統合失調症と抗精神病薬についてみていきましょう。

Ⅰ.抗精神病薬とは

抗精神病薬は、主に統合失調症の治療薬の総称です。

現在のほとんどの抗精神病薬の作用機序は「ドーパミン仮説」に基づき、脳の過剰なドーパミンをブロックするはたらきを持ちます。

【ドーパミン仮説】
統合失調症の原因として提唱されている仮説の1つで、「統合失調症は脳(特に中脳辺縁系)のドーパミンが過剰になるために生じる」という説。現在では、ドーパミン仮説は統合失調症の原因の1つではあるが、全てではないと考えられている。

代表的な抗精神病薬には次のようなものがあります。

【第1世代(定型)抗精神病薬】・・・古い抗精神病薬
・コントミン(クロルプロマジン)
・セレネース(ハロペリドール)

【第2世代(非定型)抗精神病薬】・・・比較的新しい抗精神病薬
リスパダール(リスペリドン)
ロナセン(ブロナンセリン)
ルーラン(ペロスピロン)
ジプレキサ(オランザピン)
セロクエル(クエチアピン)
エビリファイ(アリピプラゾール)

Ⅱ.なぜ統合失調症に抗精神病薬は必須なのか

統合失調症の治療を行う時、現在の医学においては抗精神病薬の服薬は必須だと言ってもよいでしょう。

これは何故でしょうか。

まず、統合失調症は「再発を出来る限り防止すべき疾患である」点が挙げられます。なぜならば、再発を繰り返せば繰り返すほど、脳がダメージを受け、人格水準が低下していってしまうからです。統合失調症を発症すると1年ほどで脳の5~10%ほどが萎縮するという報告もあります。そして一度萎縮してしまった脳は、現在の医学では元に戻すことができないのです。

一回の発症のみで、速やかに治療が導入され、その後再発がなければ、健常人とほぼ同様の生活を送る事も可能です。しかし再発を繰り返していくと脳がダメージを受け続け、認知機能もどんどん低下し、(大変失礼な言い方ですが)廃人のようになってしまいます。

また、統合失調症は発症(あるいは再発)した時、「病識をほとんど認めない」という問題があります。病識というのは「自分が病識だという認識」の事です。周りからみたら明らかに妄想的な事を言っていると感じても、本人はそれを病気の症状だとは思いません。つまり、再発時に自分で「これは病気だ」と気付き病院を受診する可能性が低いのです。

そのため、「再発したら、その時になんとかすればいい」という考えは統合失調症においては極めてリスクが高いと言えます。再発しても病識がなく、「自分は悪の組織に狙われている」と家に閉じこもってしまうと、何年も治療ができないまま時間が過ぎてしまいます。無理矢理病院に連れ出そうものなら、「お前も悪の組織の一員だな」と暴れ出してしまい、なかなか受診させることもできません。そしてその間にも脳の萎縮は進み続けてしまい、患者さんに不利益を与え続けてしまいます。

実際に再発してしまって、このように治療の導入が困難になるケースは少なくありません。統合失調症において「再発させないこと」は患者さんの将来を守るため、非常に重要なことなのです。

再発を予防するためには、環境調整やストレス除去、作業療法や認知行動療法など様々な方法がありますが、一番確実性の高い方法はやはり「お薬」です。

お薬は有意に再発率を下げ、また脳のBDNF(脳由来神経成長因子)を増やすことで、統合失調症による脳萎縮を予防するはたらきがあることが報告されています。

今後、統合失調症を根治できる治療法が見つかれば、「統合失調症はお薬を飲み続けた方が良い」という今の常識は変わってくるかもしれません。しかし現状ではお薬の服薬を続けた方が、患者さんの将来に不利益をもたらしにくくなるのです。

Ⅱ.第1世代抗精神病薬と第2世代抗精神病薬

抗精神病薬は、非常に大きく分類すると2種類に分けることができます。

1950年頃、クロルプロマジン(商品名コントミン)の発見を機に開発が進んだ「第1世代(定型)抗精神病薬」と、クロザリル(商品名クロザピン)の発見から開発が進んだ「第2世代(非定型)抗精神病薬」です。

かんたんに言えば、第1世代は古いお薬で重篤な副作用が多い、第2世代は新しいお薬で副作用が少なくなっている、という認識で良いと思いますが、細かい違いは他にもあります。現状では総合的に見れば、第2世代を使うメリットの方が多いため、原則は第2世代から処方するようになっています。

第1世代は、主にドーパミン2受容体をブロックする作用に優れ、強力に脳のドーパミンのはたらきをブロックします。そのため効果は強いのですが、一方でドーパミンをブロックしすぎることによる副作用も出現しやすい傾向があります。

具体的には、脳のドーパミンが枯渇してしまうことで、パーキンソン病のように身体を動かしにくくなったり、ふるえが出現したりなどがあります。また、錐体外路症状やホルモンバランスの異常(高プロラクチン血症)などの副作用の頻度も多い点が問題です。

更に、重篤な不整脈や悪性症候群といった命の関わる副作用の生じることもあり、これは大きな問題です。

【錐体外路症状(EPS)】
お薬によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで生じる、パーキンソン病のようなふるえ、筋緊張、小刻み歩行、仮面様顔貌、眼球上転などの神経症状

【高プロラクチン血症】
プロラクチンというホルモンの分泌を増やしてしまう副作用。プロラクチンは本来は出産後に上がるホルモンで乳汁を出すはたらきを持つ。そのため、乳汁分泌や月経不順、インポテンツ、性欲低下などを引き起こしてしまう。また骨粗しょう症や乳がんなどの原因になる可能性もある。

第1世代は幻覚妄想といった陽性症状には良く効くのですが、無為自閉・感情平板化といった陰性症状、認知機能障害にはほとんど効果を示さず、統合失調症の症状の一部を改善させるに過ぎない治療薬であるという問題もあります。

一方で第2世代は、ドーパミン2受容体のブロックのみならず、セロトニン2A受容体のブロックもすることで、錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用を軽減したお薬になります。また、陰性症状や認知機能障害にも「多少は」効果があるのではないかと考えられています。

しかし第2世代にもデメリットはあります。第2世代は第1世代と比べると、メタボリックな副作用が多いのです。代謝を抑制することにより、太りやすくなったり高脂血症・糖尿病のリスクを上げることが知られています。

「第1世代の命に関わる副作用と比べたら、第2世代の副作用の太ることくらいいいじゃないか」と最初は思われていましたが、そんな甘い話ではありません。抗精神病薬は長期間服薬するため、代謝抑制による糖尿病、高脂血症のリスクは長期間続きます。

すると血管にダメージを与え、脳梗塞や心筋梗塞など命に関わるような副作用のリスクを二次的に上げてしまうのです。

しかし第1世代の副作用の問題と第2世代の副作用の問題には大きな違いがあります。

第1世代で問題となる錐体外路症状や重篤な不整脈、悪性症候群などは自分の努力にでどうすることもできません。しかし第2世代で問題となるメタボリックな副作用は、生活習慣や食事・運動習慣を改善することで予防が可能なのです。

総合的に見れば第2世代の方が安全性が高いと評価されているため、現在では第2世代を中心に使用し、なるべく代謝抑制による問題が生じないように、作業療法や運動療法、栄養指導などを併用しながら治療を行っていくことが推奨されています。

Ⅲ.絶対に第2世代抗精神病薬を使わないといけないのか

初めて抗精神病薬を服用する場合は、第2世代から始めるべきでしょう。

総合的に見れば第2世代の副作用の方が少ないこと、
第2世代の副作用は予防が可能な副作用であること
第2世代の方が陰性症状・認知機能障害にも多少効くこと

などが理由です。

第1世代を使うのは、第2世代だと副作用がひどい場合や、第2世代では効果が不十分などのケースに限るべきです。

臨床をしていてしばしば頭を悩ませるのが、「ずっと第1世代で安定している患者さんをわざわざ第2世代に変える必要があるのか」という点です。

統合失調症は基本的にはお薬を飲み続けることが推奨されていますので、第2世代が発売された1990年代より前に発症していて、その時に第1世代を投与されており、そのまま第1世代を飲み続けて今日まで来ている方が時々いらっしゃいます。

この場合、第1世代の服用によってなんらかの問題が生じているのであれば、第2世代への変更を試みるべきでしょう。

例えば、明らかに高用量を服薬していて重篤な不整脈や悪性症候群が生じるリスクが高い方であったり、第1世代による副作用で苦しんでいる場合などです。

しかし適正な量の第1世代で安定しており、副作用も特にない場合などで「わざわざ第2世代に変更する必要があるのか」というのは私たちも非常に迷うところです。

第2世代に副作用が全く無くて、第1世代より明らかに効果が高いお薬ならば、変えるべきでしょう。しかし実際は総合的な副作用は確かに少ないけど、第2世代は第2世代で副作用があります。そして効果は同じくらいか第1世代がやや強いと考えられます。

この場合の明確な答えはありません。医師が各々の患者さんに応じて判断するしかないのです。また患者さんやその家族の希望も重要になってきます。

第1世代を第2世代に変更するメリット・デメリットを伝え、患者さんやその家族に「どうしたいか希望はありますか?」と聞くと、患者さんが第1世代で特に困っていない場合は「このままでいいです」と答えられることが多いです。

特に今のお薬で困っていないし、変薬中に症状がぶり返してしまい、またあの大変な思いをするのはイヤだから、というのが主な理由です。

個人的には、第1世代の用量が適正内であり、特に副作用が出現しておらず、患者さんの精神状態の安定が続いているのであれば、そのまま第1世代で治療を続けるのも1つの方法なのではないかと思っています。

Ⅳ.抗精神病薬の限界と将来

抗精神病薬の主な作用機序は、脳のドーパミンのはたらきをブロックすることです。

第2世代の抗精神病薬では、それ以外にもセロトニンのはたらきのブロックなども行い、これによって副作用の減少や陰性症状・認知機能障害の改善が多少得られるようになっています。

抗精神病薬も徐々に進歩してきてはいますが、その薬効は未だ十分とは言えません。

現在の抗精神病薬は、主に陽性症状を抑えるために投与を続けるという位置付けで、陰性症状・認知機能障害に対してはお薬以外の治療にて改善を図っていきます。

抗精神病薬の統合失調症に対する効果は限定的である、という点は知っておかないといけません。

陽性症状を発症してしまうと、脳がダメージを受けるだけでなく、病識に乏しくなるため治療導入が遅れたり、あるいは幻覚妄想に基づいて他者に危害を加えてしまうリスクがあるため、これをお薬で予防できることは非常に意味のあることです。

しかしそれ以外の症状に対しては、デイケアや作業療法に参加して意欲や社会機能の向上をはかったり、SSTや精神療法を通じて学習をしていくことで症状の改善を行っていく必要があります。

近年は統合失調症の原因として、ドーパミンの過剰以外にも、グルタミン酸の欠乏が指摘されています。これはグルタミン酸仮説力呼ばれます。

グルタミン酸を欠乏させるような薬物を投与すると、統合失調症に似た症状を呈することが知られています。興味深いのは、グルタミン酸を人工的に欠乏させると、陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害なども引き起こされるという点です。

ということは、グルタミン酸仮説に基づいたお薬が開発されれば、現在の陽性症状のみの治療にとどまる薬物療法から、陽性症状・陰性症状・認知機能障害といった幅広い症状に対して効果を示す薬物療法が可能となるかもしれません。

3.統合失調症に補助的に用いられるお薬

統合失調症に用いられる治療薬は、抗精神病薬が主になります。しかし症状に応じては補助的に他のお薬を用いることもあります。

統合失調症の治療に用いられる、抗精神病薬以外のお薬について紹介します。なお、これらの補助的なお薬は安易に漫然と用いるべきではなく、必要最小限にとどめるべきお薬になります。

Ⅰ.睡眠薬

不眠が続いたり、生活リズムが不規則になってしまうと、統合失調症は再発しやすくなります。

良質な睡眠を得るためには、生活リズムを安定させる努力をすることが一番大切です。

・朝は多少つらくても寝床から離れる
・日中はしっかり身体を動かす
・規則正しく食事を取る
・タバコやアルコールはなるべく摂取しない

このように生活習慣を改善することが何よりも重要ですが、現実的になかなか生活リズムを安定させるのが困難であったり、どうしても夜に不眠となってしまう場合は睡眠薬が検討されることもあります。

ちなみに睡眠薬の中でマイスリーだけは、統合失調症に適応がありません。これは統合失調症の方にマイスリーを使用すると危険だということではなく、臨床試験において統合失調症の方にマイスリーを投与しても睡眠の改善が得られないという結果が出てしまったからです。

なぜマイスリーだけが効果を得られないのかは不明ですが、保険診療上マイスリーは統合失調症には使用できませんので、他の睡眠薬を使用するようにしましょう。

Ⅱ.抗不安薬

抗不安薬は文字通り不安や焦りを抑えるお薬です。

統合失調症においては、錐体外路症状などの神経症状の緩和に用いられることもあります。

抗不安薬も安易に投与すべきではありませんが、抗精神病薬だけではどうしても落ち着かない場合や、錐体外路症状がひどい場合には用いられることがあります。

Ⅲ.抗うつ剤

統合失調症の陰性症状に対して、時に抗うつ剤が用いられることがあります。

臨床の実感としては、時にですが陰性症状に抗うつ剤が有効なことがあります。

しかしうつ病と陰性症状は同じ機序で生じているものではありませんし、抗うつ剤は本来はうつ病や不安障害に用いるお薬であり、その適応は慎重に判断する必要があります。

Ⅳ.抗コリン薬

抗コリン薬は元々はパーキンソン病に対する治療薬であり、アセチルコリンという物質のはたらきを弱めることで相対的にドーパミンのはたらきを強めます。

統合失調症においては、抗精神病薬によってドーパミンがブロックされすぎることで錐体外路症状の副作用が出てしまった時の、副作用の緩和のために用いられます。

しかしお薬の副作用をお薬で解決するという方法は本来望ましいものではなく、抗コリン薬にも副作用があるため、やむを得ないケースに限って使用すべきです。

抗コリン薬を使いすぎると認知機能低下が生じ、認知症を発症するリスクが高まることも報告されています。