ルーラン錠(ペロスピロン)の効果【医師が教える抗精神病薬の全て】

ルーラン錠(一般名:ペロスピロン)は2001年に発売された抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。抗精神病薬には第1世代(古いもの)と第2世代(新しいもの)の2種類がありますが、ルーランは第2世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)に属します。

ルーランは日本で開発されたお薬で、世界的に見ればあまり使われているお薬ではありません。しかしだからといって使えないお薬だというわけではなく、適切な使い方をすれば少ない副作用で良い結果が期待できるお薬です。

ここではルーランの効果や特徴、どんな作用機序を持っているお薬でどんな人に向いているお薬なのかを紹介していきます。

1.ルーランの特徴

まずはルーランの特徴をかんたんに紹介します。

ルーランの特徴としては次のような事が言えます。

  • 幻覚・妄想などを抑える効果は弱い
  • 副作用は少ない
  • うつ・不安・認知機能障害の改善に効果がある
  • 薬効が短く、お薬が蓄積しない

ルーランは、主に統合失調症を治療するお薬として用いられています。しかし統合失調症の急性期に多い陽性症状(幻覚妄想や興奮)を抑える力は強くはありません。そのため、このような症状で困っている患者さんに対しては、力不足となることがあります。

*陽性症状・・・幻覚や妄想などの統合失調症の代表的な症状。本来ないものが存在するように感じる症状を陽性症状と呼ぶ。

しかし、効果が強くない分副作用も少なめであり、これはルーランの大きなメリットになります。統合失調症の治療薬はどのお薬もドーパミンをブロックする作用があるため、時にドーパミンをブロックしすぎたことによる副作用が出現してしまいます。具体的には錐体外路症状(EPS)と呼ばれる、勝手に身体が動いてしまったり震えてしまう症状であったり、高プロラクチン血症というホルモンバランスの乱れによる月経不順・性欲低下などが挙げられます。

*錐体外路症状(EPS)・・・薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、パーキンソン病のようなふるえ、筋緊張、小刻み歩行、仮面様顔貌、眼球上転などの神経症状が生じる。

*高プロラクチン血症・・・・プロラクチンというホルモンの分泌を増やしてしまう副作用。プロラクチンは本来は出産後に上がるホルモンで乳汁を出すはたらきを持つ。そのため、乳汁分泌や月経不順、インポテンツ、性欲低下などを引き起こしてしまう。

ルーランはこのような副作用を起こす頻度は、他の統合失調症治療薬と比べて少なくなっています。

またルーランの特徴的な作用として、「うつ・不安」や「認知機能障害」に対しての効果を認めるという点があります。これはルーランが、セロトニン1A受容体を部分的に刺激するためだと考えられています。そのため、ルーランは統合失調症の陰性症状でうつ状態になっていたり、認知機能障害のある患者さんに用いられることがあります。またうつ病や不安障害などの疾患においても補助的に用いることで効果が期待できます。

*陰性症状・・・感情が平板化したり、無為自閉など気力なく過ごすようになる統合失調症の代表的な症状。本来あるべきもの(感情や意欲など)がなくなってしまう症状を陰性症状と呼ぶ。

ルーランは薬効が短いというのも大きな特徴です。ルーランは薬物動態的には服薬後1.5時間ほどで血中濃度が最大となり、半減期が2~3程度と報告されています(半減期:お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間を知る1つの目安になる値)。ルーランは服薬を続けていっても、血中濃度の高さは変化しないことが分かっています。

これはルーランに蓄積性がないということで、メリットでもありデメリットでもあります。すぐに効いてすぐに身体から抜けるのは安全性に優れますが、反面で服薬を続けていってもどんどん血中濃度が高くなっていくわけではないため、飲み続けることによって効果が強まってくるということが期待しにくいお薬になります。

2.ルーランの作用機序

抗精神病薬はドーパミンのはたらきをブロック(遮断)するのが主なはたらきになります。統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されて生じるという説(ドーパミン仮説)に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンの放出量をおさえる作用を持ちます。

ルーランは、抗精神病薬の中でSDA(Serotonin Dopamine Antagonist:セロトニン-ドーパミン拮抗薬) という種類に属します。SDAはセロトニン2A受容体と、ドーパミン2受容体を遮断(ブロック)する作用に優れるお薬のことです。

しかしルーランはSDAに属するものの、セロトニン2A受容体、ドーパミン2受容体をブロックする力は強くなく、そのために全体的な効果としては「弱め」になります。

ドーパミン2受容体の遮断は、幻覚妄想などを改善する作用を持ちます。また一方で過剰な遮断は、錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用の原因にもなります。

セロトニン2A受容体の遮断は、陰性症状(無為、自閉、感情平板化など)を改善する作用を持ちます。また、錐体外路症状の発現を抑えるはたらきもあることが報告されています。

抗精神病薬(統合失調症の治療薬)はドーパミンを抑える作用を持ちますが、時に抑えすぎてしまってこれが副作用を引き起こしてしまう事があります。

必要以上にドーパミンを遮断してしまうと、錐体外路症状(EPS)と呼ばれる神経症状の副作用や高プロラクチン血症といったホルモンバランスの崩れが起こってしまうことがあります。これらの副作用は昔の抗精神病薬(第1世代、定型)で非常に多く認められましたが、最近の抗精神病薬である第2世代(非定型)では、大分少なくなっています。特にルーランは作用が弱めであるため、これらの副作用の頻度も少なめです。

またルーランは、セロトニン1A受容体を部分的に刺激する作用があります(これをパーシャルアゴニストと呼びます)。セロトニン1A受容体の刺激は、落ち込みや不安を改善させたり、注意力・判断力・集中力といった認知機能を改善させるはたらきがあると言われており、ルーランはこれらの症状に対して効果が期待できます。

その他にルーランには、α1受容体遮断作用、ヒスタミン1受容体遮断作用、セロトニン2C受容体遮断作用などが多少あり、これは時に副作用として出現します。具体的には、

  • α1受容体遮断作用(中等度):ふらつき、射精障害
  • ヒスタミン1受容体遮断作用(軽度):体重増加、眠気
  • セロトニン2C受容体遮断作用(軽度):体重増加

などが生じる可能性があります。しかしこれらの作用も強くなく、全体的にルーランは作用が弱めのお薬であると言えます。

ルーランの副作用については、別記事で詳しく紹介しています)

3.ルーランの適応疾患

添付文書にはルーランの適応疾患として、

統合失調症

が挙げられています。

臨床現場でも主な用途は統合失調症です。

ルーランは作用が穏やかであることから、主に軽症例の統合失調症の方に用いることが多いお薬です。軽症例の方であれば症状も軽いため、症状を抑え、副作用も少なくて済むからです。反対に幻覚妄想や興奮が著明である時には、ルーランのみでは力不足のことも少なくありません。

またセロトニン1A受容体への部分刺激作用を持つルーランは、うつ・不安や認知機能障害の改善を狙って投与されることもあります。

統合失調症の方で、陰性症状や認知機能障害をもう一歩改善させたい場合に使われたり、あるいはうつ病や不安障害の方の治療薬として補助的に用いられることもあります。

4.抗精神病薬の中でのルーランの位置づけ

抗精神病薬には多くの種類があります。その中でルーランはどのような位置づけになっているのでしょうか。

まず、抗精神病薬は大きく「定型」と「非定型」に分けることができます。定型というのは第1世代とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。非定型というのは第2世代とも呼ばれており、最近の抗精神病薬を指します。

定型として代表的なものは、セレネース(一般名:ハロペリドール)やコントミン(一般名:クロルプロマジン)などです。これらは1950年代頃から使われている古いお薬で、強力な効果を持ちますが、副作用も強力だという難点があります。

特に錐体外路症状と呼ばれる神経症状の出現頻度が多く、これは当時問題となっていました。また、悪性症候群や重篤な不整脈など命に関わる副作用が起こってしまうこともありました。

そこで、副作用の改善を目的に開発されたのが非定型です。非定型は定型と同程度の効果を保ちながら、標的部位への精度を高めることで副作用が少なくなっているという利点があります。

非定型として代表的なものが、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)であるリスパダール(一般名:リスペリドン)やMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)と呼ばれるジプレキサ(一般名:オランザピン)、DSS(ドーパミン部分作動薬)と呼ばれるエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)などになります。ルーランはこの中でSDAに属します。

現在では、まずは副作用の少ない非定型から使用することがほとんどであり、定型を使う頻度は少なくなっています。定型が使われるのは、非定型がどうしても効かないなど、やむをえないケースに限られます。

非定型の中の位置づけですが、SDA、MARTA、DSSそれぞれの特徴として、

SDA
【該当薬物】リスパダール、ロナセン、ルーラン、インヴェガ
【メリット】幻覚・妄想を抑える力に優れる
【デメリット】錐体外路症状、高プロラクチン血症が多め(定型よりは少ない)

MARTA
【該当薬物】ジプレキサ、セロクエル、クロザピン
【メリット】幻覚妄想を抑える力はやや落ちるが、鎮静効果、催眠効果、抗うつ効果などがある
【デメリット】太りやすい、眠気が出やすい、血糖が上がるため糖尿病の人には使えない

DSS
【該当薬物】エビリファイ
【メリット】上記2つに比べると穏やかな効きだが、副作用も全体的に少ない
【デメリット】アカシジアが多め

といったことが挙げられます。

ルーランはこの中でSDAに属しますが、SDAの中でのルーランの位置づけは、

「効果は弱い、でも副作用も軽い」
「うつ・不安・認知機能障害の改善に効果が望める」

という特徴を持ち、主に軽症例や陰性症状・認知機能障害の改善が必要な患者さんを中心に用いられます。

5.ルーランが向いている人は?

ルーランの特徴をもう一度みてみましょう。

  • 効果は弱め
  • 副作用は少なめ
  • うつ・不安・認知機能障害の改善に効果がある

ということが挙げられます。

そのため、ルーランは、

  • 軽症の統合失調症の方
  • 副作用を少なくしたい方
  • うつ・不安・認知機能障害をもう一歩改善させたい方

に向いているお薬ではないでしょうか。