パキシル(一般名:パロキセチン塩酸塩)は、2000年から発売されている抗うつ剤です。海外では1990年から発売されています。
パキシルはSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる種類の抗うつ剤で、セロトニンという物質を増やす作用があり、これにより抑うつ症状を改善させます。
SSRI以前にもセロトニンを増やす抗うつ剤はあったのですが、SSRIはセロトニンを「集中的に」増やし、その他の余計な物質をあまり増やさないため、効率的に・副作用少なくうつ病を治療できる抗うつ剤として、その登場以降一気に使われるようになりました。
特に米国ではパキシルは爆発的に処方され、抗うつ剤というものを一気に世に広めたお薬だと言っても良いでしょう。
SSRIは抑うつ症状の中でも「落ち込み」や「不安」を改善させる作用に優れるため、特に落ち込みや不安が強い方に適しています。
ここではパキシルという抗うつ剤について、その効果や副作用をはじめパキシルの特徴のすべてを紹介させていただきます。
1.パキシルの特徴
まず最初にパキシルという抗うつ剤の全体像をつかむため、その特徴について簡単に紹介します。
抗うつ剤の特徴を知るためには、
- 作用機序とそこから考えられる作用
- 作用の強さ
- 副作用の多さ
- その他の付加的な作用
という4つの視点から見てみると、他の抗うつ剤と比較しやすくなります。
パキシルもこの4つの視点から、その特徴を見てみましょう。
【作用機序】 | 脳神経間のセロトニンを増やす |
【期待できる作用】 | 落ち込み・不安の改善 |
【作用の強さ】 | 強い(SSRIで最強) |
【副作用の多さ】 | 多い |
【その他の作用】 | ー |
パキシルはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類に属します。SSRIは脳の神経間のセロトニンを選択的に(集中的に)増やす作用を持つ抗うつ剤です。
セロトニンは落ち込みや不安を改善させる作用があります。
SSRIにもいくつかの種類がありますが、パキシルはSSRIの中でもセロトニンを増やす作用が強いお薬です。「キレのあるお薬」であるため、落ち込みや不安を抑える作用はとても優れていますが、一方で副作用にも注意が必要になります。
副作用としては、服用初期に生じる吐き気や胃部不快感などの胃腸症状の他、
- 抗コリン作用(口喝、便秘、排尿困難)
- 体重増加、食欲増加
- 眠気
- しびれ、ふるえ
などといった症状に注意が必要です。パキシルはキレがあって効果が強い分、SSRIの中でも副作用が多いお薬になります。
また離脱症状にも注意しなくてはいけません。離脱症状とは急激にお薬の血中濃度が低下した時に生じる反動のような症状で、お薬を飲み忘れたり自己判断で中止してしまう事で生じます。
ふるえ、しびれ、発汗、動悸などの身体症状の他、イライラやソワソワといった精神的症状が生じる事もあります。
抗うつ剤は1950年代に開発された三環系抗うつ剤から、1990年頃になるとSSRI、SNRI、NaSSAと呼ばれる「新規抗うつ剤」に移行していきました。
三環系抗うつ剤は古いお薬であるため作りが荒く、効果は強いのですが様々な部位に作用してしまい副作用も多いという問題点があります。一方でSSRIなどの新規抗うつ剤は、必要な部位に集中的に作用するように改良されているため、効果の強さを保ちながら副作用は少なくなっています。
しかしSSRIでも初期に発売されたパキシルはやや三環系抗うつ剤よりのSSRIと言えるでしょう。パワーは強く頼れる反面で取り扱いにも注意が必要になります。
以上がパキシルのおおまかな特徴です。
パキシルの全体像がつかめたでしょうか。
2.パキシルの作用機序
パキシルはどのような作用機序を持つ抗うつ剤なのでしょうか。
パキシルはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類に属します。その名の通り、セロトニンが再取り込みされてしまうのを阻害し、セロトニンの濃度を上げるはたらきを持ちます。
セロトニンは「神経伝達物質」と呼ばれる物質です。これは、神経と神経の接続部である「神経間隙」という空間に分泌される物質の事です。
この神経伝達物質を通じてある神経の情報は次の神経に伝わっていきます。つまり神経伝達物質がスムーズに分泌されるという事は、脳の活動がスムーズに行われるという事を意味します。
神経伝達物質も、伝える情報の種類によって様々な種類があります。このうち、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンといった物質は「モノアミン系」と呼ばれ、主に「気分」に関係する神経伝達物質になります。
モノアミンのそれぞれの役割としては、
- セロトニンは落ち込みや不安に関係する
- ノルアドレナリンは意欲ややる気に関係する
- ドーパミンは楽しみや快楽に関係する
と考えられています。
ある神経から情報が電気信号によって伝わってくると、神経間隙に神経伝達物質が分泌されます。その信号を受け取る側の神経には「受容体」と呼ばれる神経伝達物質がくっつく部位があります。神経間隙に分泌された神経伝達物質は、受容体にくっつく事で次の神経に情報を伝え、これによって信号を受け取った神経はまた次の神経に同じような方法で信号を伝えていくのです。
うつ病ではモノアミンの分泌量が低下している可能性が指摘されています。これらモノアミンの分泌量が少ないと、神経は気分の情報をスムーズに次の神経に伝えられなくなってしまい、気分が不安定になってしまうというわけです。
SSRIは神経間隙に分泌されたセロトニンが再吸収されてしまうのを防ぎ、長く神経間隙にとどまるようにはたらきます。するとセロトニンの分泌量が少ない状態でも、これらのモノアミンが受容体にくっつける確率は高まるため、気分の情報が正しく伝わるようになり、うつ病の改善が得られるのです。
ちなみにパキシルは主にセロトニンを増やす作用に優れますが、他にもノルアドレナリンの再取り込みを阻害する事で意欲ややる気を改善させる作用も持つ事が報告されています。
なお、パキシルの効果や作用機序については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
3.パキシルの効果
パキシルはどのような効果を期待して投与されるお薬なのでしょうか。
パキシルは「抗うつ剤」ですので、うつ病で生じる気分の落ち込みなどの症状を改善させる作用があります。
その強さは個人差もありますが、「強め」であると感じます。落ち込みや不安を改善させる力としては頼れるお薬で、同種のSSRIの中ではもっとも強いと言っても良いでしょう。
パキシルは作用機序でも説明したように特に「セロトニン」を増やす作用に優れます。また多少ですがノルアドレナリンを増やす作用も報告されております。
ここから特に、
- 落ち込みや不安(セロトニンが関係)
といった症状に対して効果が期待できます。
セロトニンをしっかりと増やすパキシルは、特に不安に対する作用には定評があり不安障害圏・強迫性障害と呼ばれる疾患である、
- パニック障害
- 社会不安障害
- 全般性不安障害
- 恐怖症
- 強迫性障害
などに対してしっかりと効果を発揮してくれます。
ちなみにパキシルの効果は抗うつ剤の中ではどのくらいの強さなのでしょうか。
参考になる調査の1つにMANGA studyというものがありますので、紹介します。
この調査は「抗うつ剤の強さや副作用の多さをランク付けしてみよう!」というもので、調査結果には賛否両論ありますが「抗うつ剤に順位を付ける」という興味深い試みであったため、当時精神科医の間でも大きな反響を呼びました。
実はこの調査結果では、パキシルは冴えない結果となってしまいました。「パキシルは効果も普通、副作用は多い」という結果になってしまったのです。
この図は、Manga Studyの結果を大まかに図にしたものです。
有効性とはお薬の抗うつ作用の効果の強さを表しており、数字が大きいほど効果が高いことを示しています。忍容性とは副作用の少なさで、大きいほど副作用が少ないことを表しています。
フルオキセチン(国内未発売)という抗うつ剤を「1」とした場合の、それぞれの抗うつ剤の比較で、これをみるとレクサプロやリフレックス、ジェイゾロフトなどは高評価ですが、パキシルやルボックスは残念な結果になってます。
しかし、この報告はあくまでも参考程度にとどめるべきでしょう。この試験の有効性は、うつ症状を総合的に評価しています。
パキシルはうつ症状の中でも「落ち込み」「不安」を改善させる作用に優れます。もしこの症状だけを取ってみれば結果はまた変わってくるはずです。
確かに忍容性は高いとは言えませんが、適した症状に投与する場合は高い有効性が得られる抗うつ剤だと考える事が出来ます。
4.パキシルの副作用(総論)
パキシルにはどのような副作用があるのでしょうか。また他の抗うつ剤と比べて副作用は多いのでしょうか、それとも少ないのでしょうか。
パキシルはSSRIという比較的新しい部類に入る抗うつ剤であるため、古い三環系抗うつ剤などと比べれば副作用は多くはないのですが、新規抗うつ剤の中では副作用は多めになります。
パキシルの副作用には、
- セロトニンを増やす事で生じる副作用
- その他の物質に影響する事で生じる副作用
があります。
セロトニンを増やす事で生じる副作用としては、
- 吐き気、胃部不快感
- 性機能障害
などが挙げられます。
パキシルはセロトニンをブロックする作用が強いため、これらの副作用の頻度は多めになります。
またその他の物質に影響する事で生じる副作用としては、
【副作用名】 | 【作用部位】 | 【症状】 | 【頻度】 |
抗コリン作用 | アセチルコリン受容体 | 口喝、便秘、排尿障害など | やや多い |
抗α1受容体作用 | アドレナリンα1受容体 | ふらつき、めまい、性機能障害 | やや多い |
抗ヒスタミン作用 | ヒスタミン受容体 | 眠気、体重増加 | やや多い |
などがあります。
パキシルは落ち込みや不安を改善させる作用も強く、キレもあって頼れるお薬です。そのため副作用も多めであり、全体的に副作用に注意は必要になる抗うつ剤です。
なお、パキシルの副作用については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
5.パキシルの副作用(他の抗うつ剤との比較)
パキシルのそれぞれの副作用の頻度を他の抗うつ剤と比較してみましょう。
副作用の生じ方は個人差がありますので、これはあくまでも目安に過ぎませんが、一般的に各抗うつ剤の副作用の頻度は次のようになります。
抗うつ剤 | 口渇,便秘等 | フラツキ | 吐気 | 眠気 | 不眠 | 性機能障害 | 体重増加 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
トリプタノール | +++ | +++ | ± | +++ | - | + | +++ |
トフラニール | +++ | ++ | ± | + | ++ | + | ++ |
アナフラニール | +++ | ++ | + | + | + | ++ | ++ |
テトラミド | + | + | - | ++ | - | - | + |
デジレル/レスリン | + | + | - | ++ | - | ++ | + |
リフレックス | - | ++ | - | +++ | - | - | +++ |
ルボックス/デプロメール | ++ | + | +++ | + | + | + | + |
パキシル | ++ | ++ | ++ | + | ++ | ++ | ++ |
ジェイゾロフト | ± | + | ++ | ± | ++ | ++ | + |
レクサプロ | + | + | ++ | ± | ++ | ++ | + |
サインバルタ | + | ± | ++ | ± | ++ | ++ | ± |
トレドミン | + | ± | ++ | ± | + | ++ | ± |
ドグマチール | ± | ± | - | ± | ± | + | + |
吐き気や性機能障害といったセロトニン系の副作用は多めになります。
また、
- 口喝、便秘、排尿障害といった抗コリン作用
- めまい、ふらつきといったα1受容体遮断作用
- 眠気、体重増加といった抗ヒスタミン作用
も少なくはありません。
パキシルは、SSRIやSNRI・NaSSAといった比較的新しい抗うつ剤の中では、全体的に副作用が多めのお薬になります。
6.パキシルの副作用(各論)
それでは次にパキシルのそれぞれの副作用について、詳しくみていきましょう。
またその副作用が生じてしまった時の一般的な対処法についても紹介します。
Ⅰ.吐き気
パキシルで注意する副作用の1つに「吐き気」があります。
吐き気はセロトニンを増やす作用を持つ抗うつ剤の多くに認められる副作用ですが、パキシルの吐き気の頻度は、他の抗うつ剤と比べても多めとなります。
この吐き気は服用初期、つまり「飲み始め」に起こりやすいという特徴があります。
抗うつ剤は、「気分を改善させる」という作用を得るには少し時間がかかります。パキシルも同様で、抗うつ作用が認められるには早くても2週間ほどはかかります。しっかりとした効果を得るのであれば1カ月ほどは見ないといけません。
このように効果が得られるまでには結構時間がかかるのですが、副作用は服用してすぐに出るものもあります。
吐き気はその筆頭とも言うべき副作用で、服用して数時間後には出てきてしまう事もあります。
では、なぜパキシルをはじめとした抗うつ剤では服用初期に吐き気が生じるのでしょうか。
パキシルをはじめ、多くの抗うつ剤は「脳神経間のセロトニン量を増やす」ことを目的に投与されます。セロトニンは気分に関係する物質であり、セロトニンの低下は気分の落ち込みや不安の増悪を引き起こすと考えられているためです。
しかし抗うつ剤を服用すると、お薬の成分は血液中に入り全身に回りますので、脳だけでなく身体の様々な部位のセロトニン量を増やしてしまいます。
セロトニンが作用する部位を「セロトニン受容体」と呼びますが、実はセロトニン受容体のうち脳に存在するのはわずか10%ほどで、残り90%以上は脳以外に存在しています。そして脳以外でセロトニン受容体が一番多い部位は胃や腸といった消化管なのです。
この消化管に存在するセロトニン受容体をパキシルが刺激してしまう事により、吐き気や気分不良といった副作用が生じてしまうと考えられています。
このような消化器系の副作用は不快な症状ではありますが、別の見方をすれば吐き気が生じているという事は、身体の中でセロトニンを増やす変化が起き始めているという事でもあります。
パキシルで吐き気が生じてしまった時は、
- 症状が軽ければ少し様子を見てみる
- 胃薬や吐き気止めを併用する
- 抗うつ剤の種類を変える
などの対処法が取られます。
吐き気は服用初期に生じますが、その多くは長期化せず1~2週間もすれば改善していきます。そのため吐き気の程度が軽いようであれば少しの間様子を見てみるのも手です。
あるいは副作用を抑える目的で胃薬や吐き気止め(制吐剤)を吐き気が治まるまで併用するのも良いでしょう。
これらの方法でも吐き気が治まらない場合は、他の吐き気の少ない抗うつ剤への変薬も検討されます。
なお、パキシルの吐き気については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
Ⅱ.性機能障害
性機能障害もSSRIやSNRIといった抗うつ剤で多い副作用です。
具体的な症状としては、
- 勃起障害
- 射精障害
- 性欲低下
などが挙げられます。
SSRIに属するパキシルでもこれらの副作用の頻度は多めになります。
パキシルで性機能障害が生じる原因は、主にセロトニン2A受容体が関与していると言われています。また、α(アドレナリン)1受容体をブロックする作用も関係していると考えられています。
性機能障害はなかなか相談しずらい副作用であるため、私たち医療者も見逃がしがちですが、こちらから話題を振ると実は困っている患者さんは少なくない事に気付きます。
性機能障害に対する対処法としては、パキシルの減量あるいは変薬になります。
あるいは性機能障害でそこまで生活に大きな支障が出ていない場合は、治療が終了するまでの間、この副作用とうまく付き合っていく事もあります。
パキシルの性機能障害・性欲低下については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
Ⅲ.体重増加
精神に作用するお薬は、服用を続けていると太りやすいものが多くあります。
抗うつ剤にも体重増加の副作用を持つものがあり、パキシルもその1つです。パキシルは抗うつ剤の中でも体重増加の頻度は多めであり、注意が必要になります。
特に若い女性は体重増加に過敏である事もあり、体重増加によってかえって精神状態が不安定になってしまう事もあります。これでは何のために抗うつ剤を使っているのか分からなくなってしまいます。体重増加は決して軽視できない副作用なのです。
抗うつ剤で体重増加が生じるのは、心身がリラックス状態になる事によって代謝が落ちる事が一因です。またそれ以外にもパキシルにはヒスタミンのはたらきをブロックしてしまう作用があり(抗ヒスタミン作用)、これも体重増加の一因となります。
抗ヒスタミン作用とは、ヒスタミンが作用する部位の1つであるヒスタミン1受容体(H1受容体)に蓋をしてしまい、ヒスタミンが作用できないようにしてしまう作用です。
ヒスタミンがヒスタミン1受容体にくっつくと、食欲が抑えられます。パキシルはこれをブロックするわけですので、食欲が抑えにくくなってしまうのです。
パキシルは抗ヒスタミン作用がある程度強いため、体重増加の程度も多めになります。
パキシルで体重増加が生じてしまった時の対処法としては、
- 食事や運動などの生活習慣を改善する
- パキシルの量を減らす
- 体重増加をきたしにくい抗うつ剤に変更する
といった方法があります。
パキシルの体重増加については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
Ⅳ.ふらつき・めまい
パキシルでは、めまいやふらつきといった副作用が生じる事もあります。これはパキシルがα(アドレナリン)1受容体という部位をブロックし、血圧を下げてしまうために起こります。
ふらつきやめまいが強いと、転倒して打撲や骨折につながったり、事故につながる事もありますので気を付けないといけません。
パキシルでふらつきやめまいが生じてしまった際は、
- ふらつき、めまいの少ない抗うつ剤に変更する
- 抗うつ剤の量を減らす
- α1受容体遮断作用を和らげるお薬を試す
などの方法がとられます。
また、α1受容体遮断作用を和らげるお薬として、昇圧剤(リズミック、アメジニンなど)が用いられることもあります。
Ⅴ.眠気
パキシルは服用によって眠気が生じる事もあります。
これはパキシルがヒスタミン受容体をブロックする作用があるためだと考えられています。ヒスタミンは脳を覚醒させる作用も持つ物質ですので、そのはたらきがブロックされると眠くなってしまうのです。またアドレナリン受容体をブロックして血圧を下げる作用も眠気に多少影響しています。
パキシルにはこれらの作用がまずまずあるため、時に眠気の副作用が生じてしまう事があります。
パキシルで眠気が生じてしまった時の対処法としては、
- 症状が軽度であれば少し様子をみてみる
- 睡眠環境に問題がないかを見直す
- 併用薬に問題がないかを見直す(パキシルの作用を強めるものはないか)
- 肝機能・腎機能に問題がないかを確認する
- 服用時間を変えてみる(夕食後や寝る前に服用する)
- パキシルを減薬する
- 他の抗うつ剤に変更する
などの方法が取られます。
なお、パキシルの眠気については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
Ⅵ.抗コリン作用(口喝、便秘など)
抗コリン作用とは抗うつ剤がアセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまうことで生じる副作用です。
具体的な症状としては、
- 口渇(口の渇き)
- 便秘
- 尿閉(尿が出にくくなる)
- 顔面紅潮
- めまい
- 悪心
- 眠気
などがあります。
抗コリン作用は、古い抗うつ剤である三環系抗うつ剤に多く認められる副作用で、比較的新しいSSRIではその頻度は多くはありません。
しかしパキシルはSSRIの中では古い部類に入り、どちらかというと三環系抗うつ剤寄りのSSRIであるため、抗コリン作用が多少生じます。
抗コリン作用が生じてしまった際の対処法としては、
- 抗コリン作用の少ない抗うつ剤に変更する(NaSSAやドグマチールなど)
- パキシルの量を減らす
- 抗コリン作用を和らげるお薬を併用する
などの方法があります。
抗コリン作用を和らげるお薬として、
- 便秘がつらい場合は下剤
- 口渇がつらい場合は白虎加人参湯などの漢方薬
などが用いられる事があります。
なお、抗コリン作用については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
Ⅶ.セロトニン症候群・賦活症候群
頻度は稀ですが、セロトニンを増やす作用を持つ抗うつ剤は、副作用として「セロトニン症候群」が生じる事があります。
セロトニン症候群は身体のセロトニン濃度が急激に上昇する事で生じます。特にお薬の服用を始めたばかりの時に最も生じやすい傾向があります。
また「賦活症候群(アクチベーション・シンドローム)」は、セロトニン症候群と同じくセロトニンを増やす作用を持つお薬を服用した初期に、気分が変に持ち上がってしまう症状の事です。
セロトニン症候群と賦活症候群は共通の病態で生じると考えられ、セロトニン症候群の一部(気分に関係する症状)が賦活症候群であると考える事が出来ます。
セロトニンの量が増えれば増えるほど発症するリスクは上がりますので、セロトニンを増やす作用を持つ抗うつ剤を多剤服用しているような方では発症リスクはより高くなります。
パキシルはセロトニンを集中的に増やすSSRIに属し、更にSSRIの中でも効果が強い抗うつ剤であるため、セロトニン症候群や賦活症候群には一定の注意が必要です。
セロトニン症候群が生じると、
- 精神症状(イライラ、不安、意識障害など)
- 自律神経症状(発熱、発汗、心拍数増加、呼吸促拍、腹痛など)
- 神経症状(振戦、筋硬直など)
などの症状が認められます。
セロトニン症候群が生じても、その程度があまりひどくない場合は、そのまま様子を見る事もあります。しかし頻度は低いもののイライラや焦りから自傷行為・自殺行動などに至ってしまうリスクもゼロではないため、慎重に経過を追っていく必要があります。
少しでもリスクが認められる場合は、原則として原因薬の中止を検討する必要があります。
セロトニン症候群はお薬によってセロトニンが急に増えた事で生じていますので、原因となるお薬を中止すればセロトニン症候群は治まります。
またどうしても原因薬の中止が難しかったり、すぐにセロトニン濃度を下げる必要がある場合はセロトニンのはたらきを抑えるお薬(セロトニン拮抗薬)を用いる事もあります。
セロトニン症候群の治療に用いられるセロトニン拮抗薬には、
- ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)
などがあります。
なお、セロトニン症候群については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
7.パキシルはお子様(小児)に使えるのか
パキシルは主に成人に投与される事を想定されて作られています。
しかしうつ病や不安障害といった精神疾患は小児や未成年に発症する事もあります。このような場合、小児・未成年にパキシルは使えるのでしょうか。
パキシルをはじめとしたSSRIは、未成年への投与に関する効果が確立していません。
添付文書には次のように書かれています。
海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象としたプラセボ対照試験において有効性が確認できなかったとの報告、また、自殺に関するリスクが増加するとの報告もあるので、本剤を18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。
(プラセボ:薬の形をしているけど、何の成分も入っていない偽薬のこと)
このようにパキシルは小児・未成年に対しては「効果がなかった」という報告もあるため、「安易に使用しないように」「できる限り使用しないように」という位置づけになります。
小児や未成年に絶対使ってはいけないわけではありません。ただ、未成年にはなるべく抗うつ剤以外の方法(環境調整やカウンセリングなどの精神療法など)で改善を図りたい事を考え、パキシルのような抗うつ剤を用いるのは最後の手段だと考えるべきでしょう。
またやむを得ず抗うつ剤の投与が必要となった場合も、なるべく効果の穏やかな抗うつ剤にすべきです。
パキシルはSSRIの中でも効果が強い抗うつ剤であるため、小児には極力用いるべきではないでしょう。もしやむを得ずSSRIを小児に使用しないといけない場合は、
- レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
- ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
などの方が向いているでしょう。
ちなみにレクサプロは12~17歳のうつ病患者さんには有効性が認められたという報告があります
8.パキシルは妊婦・授乳婦へ投与できるか
パキシルは、
- 妊娠中の方
- 授乳中の方
には使う事が出来るのでしょうか。
妊娠中の方がお薬を服用すれば、そのお薬の成分は胎盤を通じて赤ちゃんにも届いてしまいます。同じく授乳中の方がお薬を服用すれば、そのお薬の成分は母乳を通じて赤ちゃんに届いてしまいます。
赤ちゃんは成人と比べれば身体も小さく、お薬の成分を分解する力も弱いため、作用の強いお薬が赤ちゃんの身体に入ってしまうと、身体に害をきたす事もあります。
パキシルの妊娠中の方への投与は、「出来る限り使用すべきではない」という位置づけになります。
米国FDA(日本でいう厚労省のような機関)が発刊している薬剤胎児危険度分類基準というものがあり、これには薬の胎児への危険度がA、B、C、D、×の5段階で分類されています。
A:ヒト対照試験で、危険性がみいだされない
B:人での危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌
基本的に精神科のお薬で「A」や「B」に分類されているお薬はなく、「C」「D」「×」のいずれかに分類されています。
パキシルは、このうち「D」になります。そのため妊娠中は極力使うべきではありません。
ちなみに他のSSRIやSNRI、NaSSAといった新規抗うつ剤は基本的に「C」になりますので、やむを得ず抗うつ剤の使用が必要な場合は、せめてパキシルではなく「C」の抗うつ剤に変更した方が良いでしょう。
精神的に不安定な妊娠中の方が無理に抗うつ剤を中断してしまうと、流産したり、ストレスから早産・死産になるリスクが高まる可能性が挙げられます。このような場合は、服薬のメリットと中止のデメリットを天秤にかけて、抗うつ剤を継続するかどうかを慎重に判断する事が必要です。
では授乳はどうでしょうか。
パキシルは他の抗うつ剤と同じく、母乳に移行することが確認されているため、内服しながらの授乳はお勧めできません。
どうしても授乳したい場合はパキシルの内服を中止し、薬が完全に抜けるまで1~2週間待ってから母乳栄養を開始するようにしましょう。
そしてパキシルの服用を続ける場合は、赤ちゃんには母乳は与えずに人工乳を与えてください。
9.パキシル減薬時の注意 ~離脱症状
抗うつ剤を服用中の方は、「離脱症状」について知っておかなければいけません。
ほとんどの抗うつ剤は、急激に減薬したり断薬をすると「離脱症状」が生じる事があります。
これは抗うつ剤の血中濃度が急激に低下していく事に身体が対応できずに生じる反応で、患者さんの間では「シャンビリ」とも呼ばれています。
これは耳鳴りが「シャンシャン」と鳴り、手足が「ビリビリ」痺れることから付けられた名称であり、離脱症状の特徴を良く表しています。
抗うつ剤を服用して調子が良くなってきた方が、「もう飲むのを止めてもいいだろう」と自分の判断で服用を急に中止してしまうと離脱症状が生じてしまう事があります。
離脱症状の事を知らないと、突然耳鳴りやしびれが生じるためとても驚きます。「何か病気にかかってしまったのではないか」「また病気が再発してしまったのではないか」と考えてしまったり、「自分は一生薬をやめられないんだ・・・」と落ち込んでしまう方もいます。
しかしこれらの考えはいずれもあやまりです。離脱症状は抗うつ剤の血中濃度が急激に低下したために生じているだけで、病気が再発したわけでもないしお薬を一生止められないわけでもありません。
離脱症状は、
- 作用の強い抗うつ剤
- 半減期の短い抗うつ剤
で特に生じやすいという特徴があります。
この理由は、これらの特徴を持つ抗うつ剤はお薬が身体の中にある時とない時の差が大きいためです。
強く効く抗うつ剤は、お薬が効いている時と効いていない時の差が大きく、半減期(≒作用時間)が短い抗うつ剤もそうでない抗うつ剤と比べて血中濃度に波が生じやすい傾向にあります。
パキシルは半減期も短く、作用も強い抗うつ剤です。そのため離脱症状を起こしやすい抗うつ剤であると言えます。パキシルは抗うつ剤の中でもとりわけ離脱症状を起こしやすい抗うつ剤であるため、減薬時には一層の注意が必要です。
離脱症状を起こさないために何よりも重要な事は、医師の指示通りに服用をする事です。自分の判断で服用をやめる事をせず、必ず主治医と相談してお薬の量は決めていきましょう。
また減薬する際になるべく少しずつ減薬していく事も重要です。少しずつ少しずつ減薬していった方が、血中濃度の変化が小さいため離脱症状も生じにくくなります。
パキシルは離脱症状を生じやすい事はよく知られており、そのためパキシルには5mg錠という小さな剤型もあります。これは少しずつ少しずつパキシルを減らしていけるようにという理由で発売された剤型なのです。
なおパキシルの離脱症状とその対処法については下記の記事でも詳しく説明していますのでご覧下さい。
10.パキシルの使い方
パキシルはどのように使っていく抗うつ剤なのでしょうか。
もちろんその使い方は患者さんの症状の程度によって異なりますが、典型的な使い方をここでは紹介します。
まずパキシルの添付文書には「用法・用量」として次のように書かれています(うつ病、うつ状態の用法・用量になります)。
<うつ病・うつ状態>
通常、成人には1日1回夕食後、20~40mgを経口投与する。投与は1回10~20mgより開始し、原則として1週ごとに10mg/日ずつ増量する。
なお、症状により1日40mgを超えない範囲で適宜増減する。
パキシルは10~20mg1日1回投与から開始し、1週間以上の間隔をあけて10mgずつ増やしていきます。
なるべく副作用を少なくするため、よほど急いでいる場合を除いて、基本的には10mgから開始するのが良いでしょう。また安全性を重視してゆっくり効かせていきたい場合は5mgから始めても問題ありません。
維持量は40mgになります。うつ病だと20mgで十分な事もありますが、不安障害や強迫性障害では高用量が必要になる事も多く、その場合は40mgまで上げます。また強迫性障害の場合は50mgまで増量する事が認められています。
内服初期の副作用は、吐き気・胃部不快感といった消化器症状が多く認められます。心配な方はあらかじめ胃薬を併用して胃部症状を抑えますが、消化器症状のほとんどは初期の1~2週間で消失します。
賦活症候群(アクチベーション・シンドローム)といって、内服初期にセロトニンが急に増える事で変に気分が持ち上がってしまうことがあります。気分に影響する物質が急に体内に入ったことで 一過性に気分のバランスが崩れるために起こると考えられています。
賦活症候群ではイライラしたり攻撃性が高くなったり、ソワソワと落ち着かなくなったりします。一時的なことがほとんどのため、抗不安薬などを併用して様子を見ることもありますが、自傷行為をしたり他人を攻撃したりと、危険な場合はお薬を中断します。
パキシルでは、その他、
- 便秘や口渇、尿閉などの抗コリン作用
- ふらつきめまいなどのα1受容体遮断作用
- 性機能障害などの5HT2刺激作用
- 眠気、体重増加などの抗ヒスタミン作用
が出現することがあります。
いずれも程度が軽ければ様子を見ますが、症状に応じてパキシルの量を調整したり、他の抗うつ剤に変更したり、副作用を抑えるお薬を使ったりと、主治医と相談しながら適切な対処を取っていきます。
うつ病に対してパキシルで治療をした場合の典型的な経過としては、 まずはイライラや不安感といった「落ち着かない感じ」が改善します。
その後に抑うつ気分が改善し、意欲ややる気などは最後に改善すると言われています。
パキシルをどこまで増量するかですが、最低でも20mgまで、必要あれば40mgまで増量します(うつ病、うつ状態の場合)。
必ず40mgまで上げないといけないわけではなく、例えば20mgで十分に効果を感じればその量で維持して問題ありません。20mgだとある程度の効果は感じるけど不十分だという場合は、増量あるいは他のお薬を併用します。
最大量で1~2ヶ月服用を続けても効果がまったく得られない場合は、別の抗うつ剤に切り替える事も検討する必要があります。
パキシルを十分量投与し、気分が正常な状態に戻っても、そこでいきなり治療を中止してはいけません。気分が安定しても、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けることが推奨されています。この理由は、「お薬の力を借りた上でやっと治っている状態」の時は、些細な景気で再発しやすいためです。
気分が安定すると「もう抗うつ剤をやめたい」と希望される方もいらっしゃいますが、再発させないためにも一定期間はしっかりと服薬を続けましょう。
6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、その後2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していき、治療終了となります。
ただし再発を繰り返している方や再発リスクが高いと判断されるようなケースでは、より長期間抗うつ剤を服用し続ける事もあります。