エリミン(一般名:ニメタゼパム)は、1977年より発売されているベンゾジアゼピン系睡眠薬で、主に不眠症状に対して処方されています。
このエリミン錠ですが、2015年11月を持って販売中止となる事が予定されています。
11月で製造中止となるため、それ以降も在庫がなくなるまでは処方を受けることができますが、在庫がなくなればそれ以降は処方してもらう事ができません。
エリミンは古いお薬であり、処方数がそこまで多いお薬ではありません。しかし効果も強く、バランスにも優れるエリミンは根強い人気が今でもあります。エリミンと全く同じ成分の睡眠薬はないため、エリミンを服用している方は11月までに何らかの対処を講じる必要があります。
エリミン販売中止に当たって、エリミン服用中の方が今から気を付けておくべきことを紹介します。
1.エリミンはどんな睡眠薬なのか?
エリミンについての詳しい説明は、
・エリミン錠(ニメタゼパム)の効果・強さ【医師が教える睡眠薬の全て】
・エリミンにはどんな副作用があるのか。【医師が教える睡眠薬の全て】
の記事で紹介していますので、こちらをご覧ください。
エリミンは即効性・持続力ともに優れているバランス型の睡眠薬であり、その効果も強めです。
服薬してから血中濃度が最大になるまでにかかる時間は2~4時間ほどで、実際は服薬して1時間もすればある程度の眠気が得られます。また半減期は11~21時間ほどと報告されており作用時間も長めです。半減期とはお薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、お薬の作用時間の長さを知る1つの目安になる値です。
最近では、
・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬:(商品名)マイスリー、アモバン、ルネスタ
・メラトニン受容体作動薬:(商品名)ロゼレム
・オレキシン受容体拮抗薬:(商品名)ベルソムラ
など、ベンゾジアゼピン系よりも安全性に優れる睡眠薬が次々と発売されているため、エリミンのようなベンゾジアゼピン系は徐々に処方される頻度が減ってきています。
2.エリミンを服用している方へ
新しい睡眠薬がどんどん発売されていますので、現在ではエリミンの処方数はそこまで多くはありません。しかしエリミンは、そのバランスの良さと効果の強さから根強い人気のある睡眠薬です。
現在エリミンにお世話になっている方もいらっしゃると思います。特に、「エリミンがないと眠れない」という方は今から準備をしておく必要があります。
なぜならば、エリミンと同じ成分を持つお薬はないからです。そのため、エリミンを服用している方は、今のうちから別の睡眠薬を試して自分に合うものを見つけておかないと、11月以降突然処方ができなくなり、不眠で困ってしまう可能性があります。
主治医と相談の上、11月以降にエリミンがなくなっても大丈夫なように対策を取っていきましょう。
ここでは、一般的な対策を紹介します。
Ⅰ.11月までにエリミンを中止してみる
これを機にエリミンの減薬・断薬にチャレンジしてみてもいいかもしれません。
エリミンを服薬し、ここしばらくの睡眠の状態が安定しているのであれば、減薬・断薬を検討してもよいでしょう。睡眠薬はいつまでも漫然と服薬を続けるものではないからです。
減薬を行う場合は、主治医と相談しながら「少しずつ少しずつ」行うことが理想です。
一回に減らす程度が少なければ少ないほど、また減らすスピードがゆっくりであればあるほど減薬はスムーズに行きやすくなります。特に長期間服薬していたのであれば身体がエリミンに依存している可能性もありますので、より慎重に減薬はすべきでしょう。
例えばエリミンは3~5mgの間で使われる事が多いお薬ですが、エリミン5mgを毎日寝る前に服用しているのであれば、いきなり断薬するのではなく、まずは3mgであったり2.5mgくらいに減薬してみるのがいいでしょう。
これだと眠れなくなってしまうようであれば、更に4mgなどにしてみましょう。細かい用量調整は薬局でしてもらう事ができます。細かく刻めば刻むほど、身体が減薬に適応できるようになるため、スムーズに減薬できるようになります。
ちなみに、3/4錠などあまりに細かい用量調整はしにくいため、細かくやる場合は薬局で砕いて粉にしてもらうと微調整がしやすくなります。
あるいは粉にしてもらって服薬時に水に溶かし、その水を飲む量を少しずつ減らしていくことで服薬量を微調整する方法もあります(例えば、5mg量のエリミンの粉を100mlの水に溶かして、飲む量を100ml⇒90ml⇒80ml・・・と減らしていく)。
また、減薬する間隔を十分に開けることも重要です。
一般的には1~2週間間隔で減薬していきますが、それだと反動が出て不眠が再発してしまうようであれば、より期間を長くとってもいいでしょう。3~4週間間隔にしたりと更に間隔を開けることで、減薬による反動は更に小さくなり、より減薬しやすくなります。
減薬をする場合は、焦らずに少しずつゆっくりとやっていきましょう。また、自分の判断だけでは失敗する可能性も高くなってしまうため、必ず主治医に経過を報告し、どのような方法を取ればいいのかの指示を仰いでください。
Ⅱ.安全性の高い睡眠薬に変えてみる
エリミンが発売されたのは1977年と、約40年前になります。
この40年の間、次々と新しい睡眠薬が発売されてきました。そしてその多くは、エリミンよりも安全性の高いお薬となっています。エリミンと作用機序が全く同じではないため、十分な睡眠効果が得られるかは使ってみないと分かりませんが、これを機に安全性の高い睡眠薬に変更してみるのも方法の1つになります。
エリミンより安全性の高い睡眠薬としては次のようなものがあります。
【オレキシン受容体拮抗薬】
商品名:ベルソムラ
オレキシンという覚醒に関係する物質をブロックすることで、睡眠に導く機序を持ちます。2014年に発売されたばかりですので、まだ使用実績が少ないのですが、まずまずの入眠効果を持ちます。また、依存性が非常に少ない(ほぼ認めない)と考えられており、睡眠薬の副作用として多いふらつきや日中の眠気なども少なくなっています。
【メラトニン受容体作動薬】
商品名:ロゼレム
入眠に関係する物質であるメラトニンがくっつく部位であるメラトニン受容体を刺激することで、自然な眠りを後押ししてくれるお薬です。安全性が非常に高く、依存性を初めとした副作用はほぼ認めません。
ただし入眠効果は弱く、「睡眠薬で眠らせる」というよりは「眠りを自然な感じで後押しする」ような穏やかなお薬です。
【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
商品名:マイスリー、アモバン、ルネスタ
エリミンのようなベンゾジアゼピン系睡眠薬を改良し、眠らせる作用だけにより特化したお薬です。ベンゾジアゼピン系の改良型というと分かりやすいかもしれません。
ベンゾジアゼピン系はGABA受容体という部分に作用する事で効果を発揮するのですが、GABA受容体にはω1受容体とω2受容体があります。ω1受容体は眠りに関係しますが、ω2受容体は筋肉を緩めたりする作用があるため、ふらつきや転倒といった副作用のリスクとなります。
そこで非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ω1受容体だけに選択的に作用するように作られています。このおかげで、ふらつきや転倒といった副作用が少なくなっているのです。更に依存性もベンゾジアゼピン系と比べると多少軽減しているのではないかとも言われています。
Ⅲ.エリミンと似たベンゾジアゼピン系睡眠薬に変える
エリミンと全く同じ成分のお薬は今後なくなってしまうわけですが、比較的似た効能を持つものとしてはあります。
具体的な薬名を挙げると、
・サイレース/ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)
・ベンザリン/ネルボン(一般名:ニトラゼパム)
・ユーロジン(一般名:エスタゾラム)
などがあります。
ただし似ているとは言っても全く同じお薬ではありませんので、効くかどうかは個人差があります。どのお薬にするかは主治医とよく相談して決定してください。
3.エリミンは何故、発売中止になるのか
1977年に発売されて以降、多くの不眠症患者さんを救ってきたたエリミンですが、なぜ2015年11月で発売中止になってしまうのでしょうか。
その理由をメーカーに聞いてみたところ、
「はっきり言ってしまうと、採算が取れなくなってきたからです」
との事でした。
最近は、新しい睡眠薬がどんどん発売されていますから、それに伴って古い睡眠薬であるエリミンが処方される頻度が徐々に少なくなってきているのでしょう。エリミンのようなベンゾジアゼピン系は、その依存性や副作用への批判が高まっていることから、今後は処方数が減ることはあっても増えることはないだろうという事が予測されています。
少し前までは睡眠薬と言えば「ベンゾジアゼピン系」という時代でしたが、現在では
・非ベンゾジアゼピン系
・メラトニン受容体作動薬
・オレキシン受容体拮抗薬
といった新しい睡眠薬がどんどんと発売されており、今後エリミンの処方量が再び増える事は確かに考えにくいでしょう。
ベンゾジアゼピン系の中でもエリミンはバランスの良さと効果の強さから、一部の患者さんには根強い人気のある睡眠薬でした。しかし効果の強さから、不正に取引されたり乱用されたりするリスクも高いお薬です。エリミンは俗称「赤玉」と呼ばれており、この名称でネットなどで不正に取引される事もあるようです。
このような背景があるため、エリミンは医師側としても実は「ちょっと処方しにくいお薬」なのです。悪いお薬ではないのですが、効果の良さから、不正に乱用しようとする人が出てきてしまうリスクがあるお薬だからです。
おそらく、このような要因もあって今回販売中止を決めたのではないかと思われます。
しかし現在は、優れた睡眠薬が多く発売されるようになってきていますから、エリミンの販売中止による不眠症患者さんへの悪影響は少ないと思われます。