エリミンにはどんな副作用があるのか。【医師が教える睡眠薬の全て】

エリミンはベンゾジアゼピン系に属する睡眠薬です。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は効果も良く、重篤な副作用も少ないため、現在の不眠治療でよく使われているおくすりです。しかし、重篤な副作用が少ないというのはのは副作用が無いということではありません。

適当に使ったり乱用すれば副作用に苦しむケースもあるため、医師の指示のもと正しく使う必要があります。

ここでは、エリミンの副作用を紹介し、その対処法についても考えていきたいと思います。

1.エリミンの副作用とその対処法

副作用が全く無いおくすりなどなく、どんなおくすりでも副作用は必ずあります。

しかし、だからと言っておくすりが「怖いもの」「使わない方がいいもの」というわけではありません。効果と副作用をしっかり見極めて、必要なときは使い、不要になったら漫然と使い続けないことが大切です。

エリミンの副作用ですが、その出現頻度は決して多くはありません

一般的な睡眠薬と同程度であり、主治医の指示を守って使用すれば、副作用は出ないか、出ても大きな問題にはならないことがほとんどです。

ここでは、臨床で見られるエリミンの副作用を紹介していきます。また、副作用が出てしまったときの対処法についても考えていきましょう。

Ⅰ.眠気

睡眠薬の副作用で、一番多いのが眠気です。眠らせるおくすりですから当然といえば当然です。エリミンの副作用でも、もっとも多いのが眠気です。

夜寝る前に睡眠薬を飲んで眠くなる。これは「効果」ですから問題ありません。しかし「起床時間になってもまだ眠くて起きれない」「日中眠くて仕事に集中できない」となるとこれは問題で、副作用と判断されます。

日中まで睡眠薬の効果が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と呼びます。眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下などか生じることもあります。

持ち越し効果は、半減期(薬が効く時間の目安)の長い睡眠薬に多く認められます。エリミンの半減期は11~21時間と長いため、持ち越しを起こす可能性はあり、稀な副作用ではありません。

特に睡眠時間が短い方や、くすりの分解能力が弱い方は持ち越しが起こりやすくなるため注意が必要です。例えば3時間睡眠や4時間睡眠といったショートスリーパーであれば、持ち越す可能性は高くなります。

おくすりを分解能力弱いというのは、体質もありますので、いつもおくすりが効きやすいという方はあらかじめ主治医に伝えておきましょう。特に肝臓や腎臓が弱っている方は、分解・排泄能力が落ちてますので持ち越し効果が起こりやすくなります。

眠気が日中に持ち越してしまう場合、一番の対処法は「睡眠時間をより多くとる」ことです。

例えば、6時間睡眠で、翌朝に持ち越してしまっているようであれば、7時間、8時間と睡眠時間を増やしましょう。当たり前のことですが、睡眠時間を多く取れば持ち越しは起きにくくなります。これが、一番安全な対処法になります。

どうしても睡眠時間を確保できない、という方は半減期のより短い睡眠薬に変えることが次の対策になります。エリミンは半減期が11~21時間と長めですから、10時間前後のものにしてみるとよいかもしれません。

また、服薬量を減らしてみるという手もあります。例えばエリミン5mgを内服しているのであれば3mgにしてみます。量を減らすと効果も弱くなってしまいますが、おくすりの体感的な効きは多少短くなります。

Ⅱ.耐性・依存性形成

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、耐性や依存性が形成されることがあります。多くの睡眠薬に言える事ですが、長期的に見ると「耐性」「依存性」が睡眠薬の一番の問題です。

昔に使われていたバルビツール系睡眠薬などと比べると、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の耐性・依存性形成はかなり少なくなりましたが、それでも起こさないわけではありません。

耐性というのは、身体が徐々におくすりに慣れてしまう事。最初は1錠飲めばぐっすり眠れていたのに、だんだんと身体が慣れてしまって2錠、3錠飲まないと眠れなくなり、必要量がどんどん増えてしまう状態です。

依存性というのは、そのおくすりに頼り切ってしまい、次第にそれなしではいられなくなる状態をいいます。依存が形成されると、おくすりが無いと居ても立ってもいられなくなり、手のふるえや発汗などの離脱症状が現れることもあります。

耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。アルコールにも耐性と依存性があります。

アルコールを常用していると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため、飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。

また飲酒量が多くなると、飲酒せずにはいられなくなり、常にアルコールを求めるようになります。アルコールを切らすと手がふるえたり、汗が出て来たり、ソワソワ・イライラしたりします。これは依存性が形成されているという事です。

耐性、依存性は、

  • 睡眠薬の効果が強いほど起こりやすい
  • 睡眠薬の量が多いほど、服薬期間が長いほど起こりやすい
  • 睡眠薬の半減期が短いほど起こりやすい
  • 非ベンゾジアゼピン系よりもベンゾジアゼピン系の方が起こりやすい

と考えられています。

エリミンは効果は強めであるものの、半減期は11~21時間と長いため、耐性・依存性を形成する頻度は多くはありません。一般的な睡眠薬と同じくらいの頻度です。しかし乱用したり、長期・大量に飲んでいる場合は耐性・依存性が生じやすくなります。

耐性・依存を形成しないためには、まず「必ず医師の指示通りに服用する」ことが鉄則です。アルコールも睡眠薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。

医師は、なるべく耐性・依存性を起こさないような量を考えながら処方しています。それを勝手に倍の量飲んだりしてしまうと、急速に耐性・依存性が形成されてしまいます。

アルコールとの併用も危険だと言われています。アルコールと睡眠薬を一緒に使うと、耐性・依存性の急速形成の原因になるのです。

また、「漫然と飲み続けない」ことも大切です。睡眠薬はずっと飲み続けるものではなく、不眠の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです。

定期的に「睡眠薬の量を減らせないか」と検討する必要があり、本当はもう睡眠薬が必要ない状態なのに漫然と内服を続けているということは避けるべきです。服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がります。

Ⅲ.もうろう状態、一過性前向性健忘

睡眠薬を内服したあと、自分では記憶がないのに、歩いてたり人と話してたりする事があります。もうろう状態や一過性前向性健忘と呼ばれる現象で、超短時間型のベンゾジアゼピン系を多量に摂取しているケースで多いと言われています。

エリミンはベンゾジアゼピン系ではありますが、中時間型のため、このような副作用を起こす頻度は多くはありません。

睡眠薬は脳を中途半端に眠らせてしまう事があり、この中途半端な覚醒状態が「もうろう状態」「一過性前向性健忘」を引き起こします。

この「中途半端な覚醒状態」は睡眠薬の内服直後に一番起こりやすいと言われています。内服直後は、おくすりの効きがまだ不十分な時間帯だからです。睡眠薬は中途半端ながらも効いているため、身体は動くんだけど脳はほとんど眠ってしまっているため記憶には残りません。

これが、もうろう状態や一過性前向性健忘の正体です。

ちなみに「健忘」というのは「物忘れ」と近い意味の言葉で、「前向性」というのはある時点(服薬時)以降のことを指します。つまり一過性前向性健忘というのは「一時的に物忘れのようになり、エリミン服薬以降の記憶を忘れてしまう」ということです。

万が一エリミンでこれらの症状が起こってしまったら、量を減らすか、他の睡眠薬へ切り替える事が対応策となります。出来れば半減期をより長いものに変えると起こしにくくなります。

健忘が起こると、自分は全く覚えていないため、患者さんは「自分がおかしくなってしまったのでは・・・」と不安になりますが、睡眠薬が中途半端に効いた結果起こっただけですので、心配はいりません。

脳がおかしくなってしまったのではなく、睡眠薬の副作用で起こっただけです。この状態を放置すれば問題となりえますが、眠剤を変えたり量を減らしたりと適切な対応を取れば後遺症が残ったりすることはありません。

2.副作用を怖がりすぎるのも問題

睡眠薬の副作用(特に依存)はしばしば問題となっており、新聞やニュースなどのメディアでも取り上げられています。そのため、睡眠薬の副作用だけに目が行ってしまい「こんな怖いもの、絶対に飲みたくない!」と過剰な拒否反応を示される方が時々います。

もちろん、おくすりを飲まなくても様子を見れる状態であったり、他の治療法で代替できる状態なのであれば、おくすりを使わなくても構いません。しかし、専門家である医師が「今は睡眠薬を使った方がいいですよ」と判断しているのであれば、過剰に怖がるのではなく使用をぜひ前向きに検討してみてください。

私たち医師は、睡眠薬のメリットもデメリットもしっかりと把握しています。それを天秤にかけた上で「今のこの患者さんにはメリットの方が大きいだろう」と判断したからこそ、提案するのです。医師のしっかりとした管理のもと、一定期間のみ内服するのであれば、大きな副作用は起こさないことの方が圧倒的に多いです。

睡眠薬が依存性の原因となったり、様々な副作用の原因になり得るのは事実です。でも、患者さんを不眠から救ってくれるのもまた事実なのです。デメリットだけ見るのではなく、メリットとデメリットをそれぞれ冷静に見てください。

睡眠薬と似た物質としてアルコールがあります。アルコールにも睡眠薬と同程度の耐性・依存性があると考えられています。でも、「アルコール依存になるのが怖いんでお酒は一切飲みません」「アルコール依存が怖いから忘年会は欠席します!」なんて人はあまりいないですよね。

それはなぜかというと、確かにアルコールは依存になる可能性がある物質だけども、節度を持った飲酒をしていれば依存になることなどほとんどないからです。

そしてほとんどの人は節度を持った飲酒ができており、アルコール依存に至る人はごくごく一部です。

アルコール依存になるのは、明らかに大量の飲酒を高頻度で続けており、周囲や医師の助言も聞かずに飲み続ける人だけです。

睡眠薬だってそれは同じなのです。主治医が指示した量以上に勝手に飲んでしまったり、主治医が減薬を指示しているのに心配だからと飲み続けたり、依存になるのはそのような方が多いようです。節度を持った服薬をしていれば、アルコールと同じでむしろ依存になることは少ないのです。

アルコールは節度を持って楽しく飲んでいるのに、睡眠薬になるととたんに過剰に拒否反応を示すのは、私たち医療者からするとちょっと不思議に感じます。

もちろん、睡眠薬を飲まないに越したことがないのは事実です。でも、診察した医師が必要だと判断したのであれば、過剰に怖がらずに冷静に医師の話を聞き、服薬を検討してみてください。上手く使えば症状を早く取ることができるし、病気を早く治すことだってできるのです。