ベルソムラ発売から2か月。市販直後調査の結果とベルソムラの印象

新しい睡眠薬ベルソムラ(一般名:スボレキサント)が平成26年11月26日に発売開始されました。現在2か月と少しが経過し、医療現場でも少しずつベルソムラの効果や副作用・特徴などが見えてきました。

新薬が発売されると製薬会社は発売開始から6か月間は市販直後調査というものを行います。これは発売されたお薬を実際に臨床で使用した効果や副作用などを定期的に調査報告するもので、先日2か月経過時点での市販直後調査が公表されました。

ベルソムラは今までの睡眠薬と全く違う作用機序を持つ睡眠薬であるため、注目されていますが、実際の使用感はどうなのでしょうか。

今日は市販直後調査で報告されたベルソムラの副作用や、私が実際に現場でベルソムラを処方して感じる印象などをお話しさせて頂きます。

1.ベルソムラとは

そもそもベルソムラとはどんな睡眠薬なのでしょうか。以前も別のコラムでお話していますが、簡単に復習してみましょう。

ベルソムラ(一般名:スボレキサント)は、2014年11月26日にMSD社より発売された睡眠薬です。

オレキシン受容体拮抗薬という種類に属し、オレキシンという物質をブロックするはたらきがあります。オレキシンは脳を覚醒させる物質であるため、これをブロックすることによって、覚醒レベルを落とし、眠らせるのです。

オレキシン受容体拮抗薬であるベルソムラには次のような特徴があります。

Ⅰ.新しい作用機序の睡眠薬

現在我が国で使用されている睡眠薬には

・ベンゾジアゼピン系
・非ベンゾジアゼピン系
・メラトニン受容体作動薬
・バルビツール系(副作用が多いためほとんど使われない)

などがあります。

ベルソムラは「オレキシン受容体拮抗薬」という種類になり、これらのどの睡眠薬とも異なる、新しい作用機序を持つ睡眠薬なのです。

これは今までの睡眠薬では効果が得られなかった患者さんにも効く可能性があるということでもあります。

Ⅱ. 耐性や依存性はないが・・・

臨床試験の段階では、明らかな耐性・依存性は認めないと報告されています。

しかし発売後の添付文書では「習慣性医薬品(=依存性がある)」という分類になっています。これに関しては後述しますが、現時点ではどちらなのかはまだ明確にできず、今後分かってくるものと思われます。

しかし少なくともベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系より依存性が強いということはなく、もし依存性があったとしても非ベンゾジアゼピン系と同程度以下でしょう。

Ⅲ. 入眠障害、中途覚醒どちらも改善させる

睡眠薬は即効性がある寝付きを良くするタイプのものと、即効性はないけど長く効いて中途覚醒を抑えるものに分けられます。

ベルソムラは、寝付きも良くし、中途覚醒も減らすと報告されており、入眠障害・中途覚醒どちらのタイプの不眠にも使えます。

Ⅳ. 世界に先駆けて日本で一番最初に発売

日本が世界に先駆けて一番初めに発売されました。海外での評価がないため、実際の効果や副作用、使用感などはまだまだ分からないところも多く、これから少しずつ分かってくるものと思われます。

2.市販直後調査で分かったベルソムラの特徴

ベルソムラは平成26年11月26日に発売され、平成27年1月に第1回の市販直後調査の報告がされています。

そして平成27年2月に第2回の市販直後調査が報告されました。

安全性は高いと考えられていたベルソムラですが、市販直後調査においても報告された副作用はおおむね予想の範囲内であったと思われます。報告された副作用で特記すべきものを紹介します。

Ⅰ.やはり睡眠薬なので眠気には注意すべき

どの睡眠薬でもそうなのですが、一番多い副作用は「眠気」「傾眠」「倦怠感」です。眠らせるのが睡眠薬のはたらきなので、どうしても起こってしまう副作用になります。

特に日中に車の運転をする方や高所で作業する方などは気を付けないといけません。

実際、ベルソムラ服用の方が自動車運転中に強い眠気・傾眠を発現したという報告は数例認めており、そのうち1例は自動車事故を起こしています。

しかしこの1例の方は、眠前に別の睡眠薬も服用しており、更に日本酒も1合飲んだ上でベルソムラを飲んでしまっていた、という推奨されていない服薬法をしていたため、本当にベルソムラが悪かったのかどうかは明確ではありません(睡眠薬とアルコールの併用は推奨されていません)。

Ⅱ.悪夢は他睡眠薬より多めか

これも他の睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)でも起こる副作用なのですが、悪夢の副作用の報告はやや目立ちます。

今回の報告では36例に悪夢を認めており、うち1例は重篤な悪夢であったということです。また異常な夢というのも17例に認めています。

これは、ベルソムラがレム睡眠(浅い睡眠)を多少増やすこと、そしてベルソムラがオレキシンをブロックすることで人工的にナルコレプシーに近い状態を作ってしまうからだと考えられます。ナルコレプシーについては後述しますが悪夢を生じる疾患です。

Ⅲ.市販直後調査でもナルコレプシーの報告はない

ベルソムラはオレキシン受容体拮抗薬という種類の睡眠薬で、オレキシンという物質をブロックするのがはたらきになります。オレキシンは脳を覚醒させるはたらきがあるため、そのオレキシンをブロックすれば覚醒レベルが落ちて眠くなる、という作用機序です。

ベルソムラには、臨床試験の段階から、一つ心配なことがありました。

それはベルソムラを使うことで、人工的にナルコレプシーを誘発してしまうのではないかという心配です。ナルコレプシーは眠り病とも呼ばれ、

・睡眠発作・・・日中などでも突然眠る
・情動脱力発作(カタプレキシー)・・・感情が高ぶった時に全身の力が入らなくなる
・入眠時幻覚・・・寝付く時に幻覚が現れる
・睡眠麻痺・・・いわゆる金縛り

を主症状とする疾患です。眠り病の名前の通り、眠ってしまうことが多い疾患ですが、眠っている間は悪夢を見やすいのも特徴です。

ナルコレプシーの原因はオレキシンの欠乏であると考えられているため、人工的にオレキシンをブロックしてしまうベルソムラはナルコレプシーを誘発してしまう可能性があったのです。

しかし、このような明らかなナルコレプシー様の副作用は今のところベルソムラでは報告されていません。

ただし前述の通り悪夢の報告は多めであり、これはナルコレプシーに近い状態をベルソムラが作っている可能性はあります。

ちなみに、このような機序のため、ナルコレプシー患者へのベルソムラ投与は、「慎重投与」という扱いになっています。

Ⅳ.習慣性医薬品に分類されている

市販直後調査で報告されたことではありませんが、ベルソムラは「習慣性医薬品」という扱いになっています。習慣性とは「依存性」のことです。

発売前の依存性試験では明らかな依存性を認めなかったベルソムラなのですが、「習慣性あり(=依存性あり)」に分類される結果となりました。

この理由について製薬会社に聞いたところ、「製薬会社側が決定するものではないので、明確な理由は不明」だということですが、ベルソムラの発売前に行った臨床試験の結果のひとつが関係しているのではないかとの事です。

その試験とは薬物乱用試験であり、娯楽目的での薬物多剤使用経験のある方を対象し、ベルソムラに薬物嗜好性があるのかどうかを見た試験です。この試験ではベルソムラの薬物嗜好性は「プラセボ(偽薬)より高く、ゾルピデム(商品名:マイスリー)と同程度」と結論付けられています。

ただしこの試験は海外で行われたものであり、試験に使われたベルソムラの量も40~150mgと非常に高用量です(実際に私たちが使う量は15~20mgの範囲内です)。

ちなみに、睡眠薬のほとんどには習慣性が習慣性医薬品に指定されています。睡眠薬で習慣性のないものは現時点ではラメルテオン(商品名:ロゼレム)のみです。

3.ベルソムラの私見

ベルソムラ発売後、私もベルソムラを処方する機会はあり、処方させて頂いています。その後、患者さんからベルソムラの印象を聴いています。

こちらの指示通り使用している限りは、現時点で問題となるほどの大きな副作用は少なく、前評判通り安全性は高い印象を持っています。市販直後調査の通り、確かに眠気や傾眠の副作用は時々経験しますが、それは睡眠薬なのだからある程度は仕方がないところがあります。少なくとも用法・用量を守っている方で、眠気や傾眠がひどく大きな問題になった方は私の患者様の中にはいらっしゃいません。

市販直後調査では悪夢や異常な夢が多いという結果になっていました。市販直後調査は、副作用の報告数は報告されるのですが、何人に使った中でのものなのかが分からないため、割合を求めることができませんので、この報告数のみで悪夢を起こす確率が高いと断定することができません。

しかし臨床試験の段階でも、悪夢(1.2%)、異常な夢(0.8%)と、出現率は他の睡眠薬と比べると多い傾向にあるため、ベルソムラは睡眠薬の中では悪夢を起こす頻度は高めなのかもしれません。オレキシンをブロックすることで、人工的なナルコレプシー状態を作りうるベルソムラは、理論的には悪夢の副作用は起きえます(ナルコレプシーは悪夢を生じやすい疾患です)。

ここは今後の市販直後調査の続報を待ちたいところです。

習慣性(依存性)に関しては、まだ発売してから2か月しか経っていないので分かりません。しかし、1か月ほど試して中止した方は数人いますが、いずれも断薬時に大きな問題(離脱症状や反跳性不眠など)は認めませんでした。

習慣性に関してはある程度長期的な経過を見てみないと分からず、現時点では何とも言えませんが、少なくとも依存性が強そうなものではなさそうです。上記の薬物乱用試験も通常使用する2~10倍の高用量のベルソムラで試験しているため、その結果をそのまま臨床現場に当てはめるのには無理があります。

効果に関しては、即効性があり、服薬初日からある程度の効果を得られる方が多いようです。効果の強さとしても十分で、まずまずの催眠効果がある印象を持ちます。

新しい作用機序を持つ睡眠薬が増え、不眠症治療の選択肢が増えたことは、大変助かっています。これからベルソムラの特徴がもっともっと解明され、より患者さんの役に立てる薬になっていくことを願っています。