うつ病の原因。何故うつ病になるのか。【医師が教えるうつ病のすべて】

うつ病の患者さんは、日本で約100万人近くいると言われています。病院を受診していない方を合わせれば、もっと多いかもしれません。

生涯有病率(一生のうちでその病気にかかる確率)も5%前後と高く、うつ病は誰でもかかる可能性のある疾患です。

このうつ病、一体どんな原因で発症するのでしょうか?

残念なことに現時点では、うつ病の原因というものは明確には解明されていません。しかし多くの研究や臨床経験から、うつ病は何かひとつ特定の原因があって発症するものではなく、いくつのもの要因が合わさって発症すると考えられています。

ではその要因にはどんなものがあるのでしょうか。

今日は、うつ病の原因についてお話します。

1.うつ病の発症には3種類の原因がある

うつ病の原因を特定することは非常に難しく、「これが原因です!」と言い切ることは困難です。

ある条件を満たすと必ず発症するのであれば分かりやすいのですが、そうではないようです。様々な要因があって、それらが総合的に「うつ病になってしまう閾値」を超えてしまうと発症する、というものなのでしょう。

うつ病の原因は、大きく分けると3つの要素があります。

1.内的要因(自分の中の原因。性格や考え方、ストレス耐性など)
2.外的要因(外部の原因。仕事・家庭などのストレス)
3.遺伝

 

内的要因というのは、自分の中の問題です。うつ病になりやすい性格であったり、うつ病になりやすい思考回路であったりというものです。内的要因は、自分の努力で変えることができます。簡単ではありませんが、性格や考え方は時間をかけて変えていくことができます。

外的要因というのは、外部の問題です。職場の環境であったり、家庭の環境であったり、友人との関係であったり。そういったことに対するストレスが原因になります。外的要因は、自分だけの努力では変えることができないことも多く、そのため外的要因が大きなウエイトを占めるうつ病は改善しにくいことがあります。

人間関係は相手あってのことですから自分の努力だけですべては解決しません。また仕事の忙しさなども自分の努力だけでは変えられない場合が多いですよね。

また、うつ病は遺伝傾向もあります。うつ病の方が多い家系だとうつ病を発症する可能性は高くなります。遺伝も自分の努力で変えることはできませんが、うつ病の遺伝の影響はそこまで大きくはありません。

これらの要因が重なり合い、ある一定のラインを超えてしまうとうつ病を発症してしまいます。

では、それぞれの要因をより詳しくみていきましょう。

Ⅰ.内的要因

性格的には、メランコリー親和型性格と呼ばれる性格がうつ病になりやすいことが指摘されています。これは、真面目で几帳面、融通が利かず、秩序を重んじるような方が該当します。

また挫折経験が少なく、ストレス耐性が低かったりすれば、軽度のストレスでうつ病を発症してしまうこともあります。何事も否定的、ネガティブに捉えてしまう人もうつ病になりやすいでしょう。

うつ病と性格の関係は、こちらのコラムで詳しく書いています。

うつ病の原因。性格は関係するのか?

これらが主なウエイトを占める場合は、抗うつ剤などの薬物治療をはじめカウンセリングや認知行動療法などの精神療法を行い、うつ病になりやすい考え方や性格を少しずつ変えていくことも有効です。

Ⅱ.外的要因

外的要因とは、「ストレス」です。

本人がストレスと感じれば、どんなことでもうつ病の原因になりえます。仕事のストレス、家庭のストレス、友人など人間関係のストレスなどが多いようです。

仕事が激務で、明らかにオーバーワークである状態が何か月も続けば、誰でも気持ちが滅入ってしまいます。家族や親友など、大切な人が亡くなれば深く落ち込んでしまって当然でしょう。

うつ病とストレスの関係は、こちらのコラムで詳しく書いています。

うつ病の原因。ストレスは関係するのか?

また、ストレスを受けた時に身体の中ではどのような変化が起こっているのかについて、HPA系仮説というものが提唱されています。

うつ病の原因。どうしてストレスでうつ病になるのか(HPA仮説)

ストレスが原因である場合、まずはストレスの除去・軽減が第一になります。 仕事が多忙すぎるなら少し量を減らしてみる、ストレスを感じる相手とは適度な距離を取る、などです。

しかしストレスを割けるのは困難なことも多く、なかなか実現できないのも実情です。仕事がストレスだからといって簡単に休むわけにはいきません。上司がストレスでも、上司だから毎日接するしかありません。

最近はメンタルヘルスに対する理解がある職場も増えましたが、まだまだ十分とは言えません。

ストレスの除去・軽減が難しい場合は、抗うつ剤などの薬物療法を行うこともあります。また、ストレスをうまく受け流せるような考え方を学んでいくことも有効です。

Ⅲ.遺伝

うつ病はある程度、遺伝の影響があると言われています。その程度は「非常に大きい」というものではなく、「少しは関係している」という程度のものです。

研究報告などによれば、片親がうつ病であった場合、子供がうつ病に罹患する確率は、健常人の2~3倍高いと報告されています。

うつ病と遺伝の関係は、こちらのコラムで詳しく書いています。

うつ病の原因。うつ病は遺伝するのか?

このように様々な要因があり、これらが組み合わさって、うつ病は発症するのです。

2.脳内レベルで見たうつ病の原因

うつ病になると、脳や身体にどんな変化が起こるのでしょうか。神経・物質レベルでも、うつ病発症の原因は研究されています。

これも完全に解明されたものではなく、あくまでも仮説ではありますが、様々な研究・検証を経てこれらの仮説も少しずつ進歩しています。

一番最初にうつ病の原因として提唱されたのが「モノアミン仮説」です。
モノアミンとはセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンなどの気分に関係する神経伝達物質の事で、何らかの理由によりこれらが欠乏するとうつ病になるのだ、という仮説です。

実際、現在発売されている抗うつ剤はほとんどがこのモノアミン仮説に基づいて作られています。

抗うつ剤はモノアミンを増やすのが主な作用ですが、うつ病に対して効果を示していますので、このモノアミン仮説は全くの間違いではないと言えます。しかしモノアミン仮説には矛盾点もあり、この仮説だけでは説明がつかないこともあるため、一部は正しいんだろうけど不十分な仮説だと現在は考えられています。

(モノアミン仮説については「うつ病の原因。モノアミン仮説って何?」で詳しく説明しています)

そのため次に提唱されたのが、「モノアミン受容体仮説」です。

モノアミンが増えると、それに伴ってモノアミン受容体(モノアミンがくっついて作用する場所)が少しずつ減っていきます。

このモノアミン受容体の減少に伴ってうつ病が治っているのだ、というのがこの仮説の言い分です。確かにこの仮説であれば、抗うつ剤を投与してから少しずつうつ病が改善していくことに説明がつくため、この仮説は一時支持されました。

しかし、この仮説もやはり矛盾点があります。抗うつ剤によってはモノアミン受容体を増やさないものもあるのですが、それでもうつ病は改善しています。モノアミン受容体が増えてないのにうつ病が治る例もあるとの事で、この説もまた不十分なのです。

(モノアミン受容体仮説については「うつ病の原因。モノアミン受容体仮説とは?」で詳しく説明しています)

最近では、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質の分泌異常が原因ではないか、という神経可塑性仮説が注目されています。BDNFは神経の栄養のようなもので、これが分泌されると神経が新しく作られたり成長したりします。

うつ病になるとBDNFの分泌が少なくなり、神経の形成不全が起こる結果、モノアミンを分泌する神経も障害されてしまい、モノアミンの分泌も減ってうつ病になる、という理論で研究が進められています。

(神経可塑性仮説については「うつ病の原因。神経可塑性仮説とは」で詳しく説明しています)

このように多くの研究のもと様々な仮説が提唱され、矛盾点を指摘されながら進化していっているのです。

3.新型うつ病も同じ原因で起こるの??

近年、「新型うつ病」という言葉をよく聞くようになりました。
新型うつ病というのは正式な病名ではなく、マスコミなどによって作られた言葉なのですが、

〇 気分反応性
〇 過食・過眠
〇 他罰的

など、従来のうつ病とは異なった症状を示すうつ病です。

若年者に多いと言われており、最近増えているタイプのうつ病です。

この新型うつ病は、従来のうつ病と異なる症状も多く、モノアミンを増やす抗うつ剤があまり効かない事などの特徴があります。このことから、従来のうつ病とは異なる原因で発症すると考えられています。

新型うつ病の原因については、また別のコラムでお話したいと思います。