エビリファイは2006年に発売された抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。抗精神病薬の中でも第2世代(非定型)という新しいタイプに属し、古い第1世代(定型)抗精神病薬と比べると全体的な副作用は少なくなっています。
第2世代の中でもエビリファイは穏やかに効くため、副作用が少なく安全性の高いお薬になります。しかし、エビリファイに副作用がないわけではありません。
エビリファイは統合失調症の治療薬として開発されたおくすりですが、その適応範囲は広く、双極性障害やうつ病をはじめ、パーソナリティ障害や発達障害など様々な疾患に使われています。
エビリファイで生じうる副作用のすべてをここで紹介することはできませんが、エビリファイで特に注意すべき副作用や臨床で比較的見られやすい副作用などを紹介させていただきます。
1.エビリファイの副作用の特徴
まずは、エビリファイの副作用の特徴をかんたんに紹介します。
- 全体的に副作用は軽め
- 鎮静力が弱いため、体重増加・眠気などは起こりにくい
- 鎮静力が弱いため、初期に不安・不眠・焦燥などが起こりやすい
- アカシジアがやや多め
抗精神病薬は、大きく2種類に分けることができます。
1つ目が、1950年頃から使われている古いタイプの第1世代(定型)抗精神病薬です。そして2つ目が、1990年頃から使われている比較的新しいタイプの第2世代(非定型)抗精神病薬です。
第1世代は、強力な作用がありますが、副作用も強力です。確かに幻覚妄想などをしっかりと押さえてくれるのですが、その反面で生活に大きな支障を来たす副作用、時には命に関わるほどの副作用が起こることもあるため、副作用の軽減が課題となっていました。
そして副作用の改善を目指して開発されたのが、第2世代です。
第2世代は、第1世代と比べると、
- 錐体外路症状(ふるえなどの神経症状)
- 高プロラクチン血症(ホルモンバランスの異常で生じる副作用)
- 悪性症候群(高熱、筋破壊で死に至ることもある危険な副作用)
- 重篤な不整脈
などの副作用は少なくなりました。第2世代が発明されたことで、抗精神病薬はより安全なお薬となったのです。
しかし第2世代は、第1世代よりも身体をリラックスさせて代謝を抑制するため、
- 血糖やコレステロールなどを上昇させて体重増加を起こす
- それに伴い、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを上げる
などのデメリットがあります。
しかし総合的に見れば、第2世代の方が安全性は高いと考えられており、現在の統合失調症治療は、第2世代から始めることが基本となっています。
エビリファイは、第2世代(非定型)抗精神病薬に属しており、第1世代(定型)抗精神病薬と比べると、その全体的な副作用は少なめです。
第2世代の中にも抗精神病薬はいくつか種類があり、
- SDA:セロトニン受容体とドーパミン受容体をしっかりとブロックする作用に優れる
- MARTA:様々な受容体をゆるくブロックする
- DSS:ドーパミン受容体を部分的にブロックしたり増強したりしてドーパミン量を安定させる
この3種類が代表的な第2世代抗精神病薬です。
この中でエビリファイはDSS(Dopamine System Stabilizar)という種類に属します。
DSSはドーパミンを調整するお薬で「ドーパミン部分作動薬」とも呼ばれます。ドーパミン2受容体を中心に、セロトニン受容体にも作用します。しかしその他の受容体、例えばヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、アセチルコリン受容体などにはあまり作用しません。
エビリファイの良いところは、抗精神病薬の副作用で困ることの多い、体重増加が少ないところです。また強力な鎮静をかけないため、眠気・ふらつきなども起こしにくいお薬です。
しかし鎮静力が弱いというのは良い事ばかりではなく、鎮静力が乏しいということは、不眠・焦り・不安などが出現しやすいという事でもあります。
2.エビリファイで注意すべき副作用
抗精神病薬の中で、エビリファイの副作用は全体的に少なく、安全性は高いお薬だと考えられます。
しかしお薬である以上、エビリファイにも副作用はあります。ここではエビリファイの副作用をひとつずつ詳しくみていきましょう。
また、一般的な対処法なども記載しますが、これらの対処法は独断では行わないでください。必ず主治医と相談の上、主治医の指示に基づいて慎重に行ってください。
Ⅰ.アカシジア
アカシジアは「静座不能症」とも呼ばれており、足がむずむずしてじっとしていられなくなるというお薬の副作用です。
エビリファイは第2世代抗精神病薬の中でも副作用が少ないお薬ですが、このアカシジアに関して言えば、他の第2世代よりも頻度が多く認められます。
足がむずむずして落ち着かないため、常に貧乏ゆすりのように足を動かしたり、足踏みを繰り返したり、ウロウロと歩き回ってしまうようになります。また足のむずむずに伴い、不安、焦り、イライラ、そわそわ、不眠などの精神症状が出現することもあります。
精神疾患の症状のひとつだと判断されてしまう事もありますが、これはお薬の副作用なので判断を間違えないようにしなくてはいけません。アカシジアなのに、「これは精神疾患による症状だ」と誤解してしまうと、更に増薬する事になり、むずむず・そわそわ・イライラは更に悪化してしまいます。
精神症状なのかアカシジアという副作用なのかは、精神科医がしっかりと診察を行えば多くの症例で適切に鑑別できますので、アカシジアのような副作用が出て場合はすぐに主治医に相談することが大切です。
お薬の開始時期と症状の出現時期の関係も鑑別の参考になります。アカシジアの多くは投薬・増薬をして数日以内に出現するため、あるお薬を始めてから症状が出たのであればアカシジアの可能性が高くなります。またアカシジアは「足がむずむずする」「身体がそわそわする」という身体症状が主であるのに対して、精神症状であれば「気持ちがそわそわする」という精神症状が主であるのも両者の違いになります。
足のむずむずやそわそわが出現したら我慢せず、すぐに主治医に相談して適切な対処を取ってもらいましょう。
アカシジアの原因は、以前はお薬がドーパミン受容体を遮断しすぎてしまうために生じる錐体外路症状のひとつだと考えられていました。アカシジアがドーパミンを遮断する作用の強い第1世代抗精神病薬で多く認められたからです。
しかしドーパミン遮断による副作用を少なくした第2世代抗精神病薬においてもアカシジアはまずまずの頻度で認められること、ドーパミン遮断をほとんどしない抗うつ剤の一部でもアカシジアを認めることが分かってきました。
そのため現在では、アカシジアの原因はドーパミン受容体の遮断も一つの原因ではあるけれども、それ以外にも原因があるのではないかと考えられています。ドーパミン以外の原因として、GABA (ɤアミノ酪酸)の機能低下やノルアドレナリン機能の亢進などが提唱されていますが、まだ明確な原因は特定されていません。
アカシジアは
・エビリファイを減薬する
・他の抗精神病薬に変薬する
・副作用止めのお薬を使う
などで対処することが可能です。
詳しくは、「エビリファイでアカシジア(そわそわ、むずむず)が生じた時の4つの対処法」をご覧下さい。
Ⅱ.不安・不眠・焦燥
特にエビリファイの開始初期で起こりやすい副作用です。
エビリファイは
・鎮静力が弱い
・ドーパミン受容体を部分刺激することでドーパミン量を調整する
という特徴があります。これは良い特徴でもあるのですが、初期に十分な鎮静がかからなかったり、初期にドーパミン受容体を刺激してドーパミンを増やしてしまうことでかえって精神状態を不安定にしてしまうことがあります。
他の抗精神病薬には少ない、エビリファイならではの副作用と言ってもいいでしょう。
しかしこの副作用は、多くはエビリファイの血中濃度が落ち着くまでの一時的なものであるため、何とか乗り切ることで自然と改善していきます。
エビリファイの血中濃度が落ち着くまでは、補助的なお薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬など)を併用することもあります。
Ⅲ.体重増加
ここからは、他の抗精神病薬と比べると頻度の少ない副作用になります。
第2世代の抗精神病薬の副作用で、もっとも不評なのが体重増加です。
「この薬を始めてから○○kgも太ってしまいました」
「薬で太ったせいで、外出しずらくなりました」
など、体重増加の副作用は患者さんを大きく苦しめてしまうことが少なくありません。特に若い方や女性からは嫌がられます。体重増加は多くの精神科のお薬にある副作用なのですが、特に抗精神病薬、MARTAで顕著です。
抗精神病薬が体重を増やしてしまうのは、主にヒスタミン1受容体をブロックするためだと考えられています。ヒスタミンには食欲を抑える作用があるため、ヒスタミンをブロックされると食欲を抑えにくくなり、体重が増えてしまうのです。また、エビリファイが身体をリラックスさせ、代謝を抑制することで糖やコレステロール濃度が上昇することも体重増加の一因となります。
エビリファイは、ヒスタミン1受容体などの体重増加に関係する受容体にほとんど作用しないため、体重増加はほとんど見られません。
統計的に見ればわずかに体重は増加するようですが、臨床の実感としては大きく困ることはほとんどありません。
他の抗精神病薬から切り替えた場合などでは、相対的に体重増加の程度が弱まるため、痩せることもあります。
また抗精神病薬は、血糖やコレステロールを上げると報告されており、これは体重が増えるのみならず心筋梗塞や脳梗塞発症のリスクとなります。
統合失調症の患者さんは、そうでない人と比べて、脳梗塞・心筋梗塞を発症する可能性が高いことが指摘されており、これは抗精神病薬にも一因があります。そのため、投与量はできる限り少量し、必要以上には投与しないことが望まれます。
エビリファイで体重増加が生じた時、まず望まれるのは生活習慣の改善です。食生活の偏りや運動不足など、太りやすい習慣がある場合は、まずそちらを是正することで体重の軽減ははかれないかを見ます。
それでも難しい場合は、可能であれば減薬を検討します。
エビリファイと体重に関して詳しくは、
・エビリファイは太るのか|体重増加の理由と4つの対策
・エビリファイは痩せるのか|機序から考えるエビリファイと体重の関係
をご覧下さい。
Ⅳ.眠気・不眠
眠気もエビリファイには少ない副作用ですが、時に生じることがあります。
反対に不眠が生じることもあり、この理由は上記Ⅱ.で説明しました。
眠気も、主にヒスタミン受容体をブロックすることで生じます。他にもアドレナリン受容体をブロックすることも多少関与していると考えられています。
前述したとおりエビリファイはヒスタミン受容体へほとんど影響しないため、眠気を起こす頻度は少なめです。
エビリファイで眠気が生じた場合、まずは睡眠環境の見直しから行います。睡眠時間がしっかりとれているのか、睡眠の質を下げるようなことをしていないか、などを改めて見直しましょう。
寝床でスマホをいじってる、寝る前にタバコを吸っている、寝る前にアルコールを飲んでいる。
こういった習慣を持っている人は少なくありません。思い当たる原因がある場合は、まずはその習慣を治しましょう。
それでも改善が無い場合は、可能であればおくすりの減薬や変薬が検討されます。しかしどの抗精神病薬でも眠気は起きるため、変薬は慎重に行われます。また、どうしても減薬できない場合はやむを得ず多少の眠気と付き合っていきながら生活せざるを得ないこともあります。
エビリファイと眠気・不眠について詳しくは
・エビリファイの眠気の原因と6つの対策
・エビリファイで不眠が生じる理由と6つの対策
をご覧下さい。
Ⅴ.錐体外路症状(EPS)
統合失調症は脳のドーパミン過剰で発症すると考えられていますが、おくすりで逆に脳のドーパミンを少なくしすぎてしまうと生じるのが、錐体外路症状です。
エビリファイはドーパミン量を調整するはたらきを持つため、ドーパミン不足にしてしまう可能性は低く、EPSを起こす頻度も少ないと言えます。
しかし、上記Ⅰ.のアカシジアも錐体外路症状の1つになりますが、現実的にいくつかの錐体外路症状を起こしてしまいます
錐体外路症状には多くのものがありますが、
- 振戦(手先のふるえ)
- 筋強直(筋肉が硬く、動かしずらくなる)
- アカシジア(足がムズムズしてじっとしてられなくなる)
- ジスキネジア(手足が勝手に動いてしまう)
などがあり、直接命に係わるものではないものの、患者さんにとっては非常に苦痛な症状です。
エビリファイでは、アカシジアは多めであるほか振戦も時に認めます。
これらの副作用が生じた場合は、まずはエビリファイの減薬が試みられます。
病状的にどうしても減薬ができない、というケースでは、他の非定型抗精神病薬への変更も検討されます。エビリファイ自体が錐体外路症状が多いお薬ではありませんが、錐体外路症状を起こしにくいものというと、MARTA(商品名セロクエル、ジプレキサ)が挙げられます。
抗コリン薬と呼ばれるおくすりで副作用の改善をするという方法が取られることもあります。具体的にはビペリデン(商品名アキネトン)やプロフェナミン(商品名パーキン)、トキヘキシフェニジル(商品名アーテン)などです。
抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制してあげると、ドーパミン神経の活性が相対的に上がります。するとドーパミン濃度が増えるため、錐体外路症状に効果があります。
ただし、お薬によって起こった副作用をお薬で治す、というのはあまり推奨されている方法ではありません。お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。
Ⅵ.高プロラクチン血症(乳汁分泌・性機能障害など)
エビリファイでは起こすことはほとんどない副作用ですが、起こした場合はすぐに対処が必要は副作用です。
高プロラクチン血症というのは、脳下垂体から出るプロラクチンというホルモンの量が多くなってしまうという副作用です。原因は、セロクエルが脳下垂体のドーパミン受容体もブロックしてしまうためです。ドーパミン受容体がブロックされると、プロラクチンがたくさん出てしまうのです。
プロラクチンとは、本来は授乳中の女性で上昇しているホルモンです。授乳中の女性は胸が張り、乳汁が出て、月経が止まります。高プロラクチン血症になるとこれと同じ状態になるため、胸の張り、乳汁分泌、月経不順、性欲低下などが生じます。また男性であれば、勃起障害などが生じることもあります。
問題はこれだけではありません。一番の問題は、プロラクチンが高い状態が続くと乳がんになる可能性が高くなります。また、骨代謝に影響を与えて骨粗しょう症にもなりやすくなります。
そのため、高プロラクチン血症を発見したら放置せずに速やかに治療することが望まれます。
高プロラクチン血症もEPSと同じでドーパミンのブロックしすぎが原因であるため、エビリファイではこの副作用はほとんど起こしません。
エビリファイで万が一高プロラクチン血症が出現した時は、原則としてエビリファイを中止する必要があります。中止し、必要があれば別の抗精神病薬に変更しましょう。
Ⅶ.不整脈
エビリファイで重篤な不整脈を起こすことは稀ですが、これも万が一起こした場合はすぐに対処する必要があります。
不整脈は抗精神病薬の中でも古い第1世代に多く、エビリファイなどの第2世代では滅多に起きません。しかし、起きた場合は命に関わることもあるため見逃さないことが大切です。
服薬量が多いと起こしやすいため、服薬量は最小限になるように注意を払わないといけません。
特に注意すべきなのがQT延長という心電図上の変化です。これを放置していると致命的な不整脈(心室細動やトルサード・ド・ポアンツ)を起こす可能性があります。
抗精神病薬を使う際は、定期的に心電図検査を行い、QT延長を見逃さないようにしないといけません。そしてQT延長が認められた場合は、速やかに減薬あるいは変薬が必要です。
Ⅷ.悪性症候群
頻度は極めて稀ですが、抗精神病薬は悪性症候群という副作用に注意しなければいけません。
悪性症候群は、ドーパミン量の急な増減が誘因となることが多く、急な減薬・増薬によって生じることがあります。それ以外にも脱水などによって急にお薬の血中濃度が変化してしまった時に生じることがあります。
第1世代で問題となる事の多い副作用であり、第2世代ではほとんど生じませんが、可能性はゼロではありません。
悪性症候群では、
- 発熱(高熱)
- 意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
- 錐体外路症状(筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなる)
- 自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
- 横紋筋融解(筋肉が破壊されることによる筋肉痛)
などが生じ、最悪の場合命に関わることもあります。
悪性症候群が強く疑われたら、原則として入院して加療すべきです。悪性症候群について詳しくは「悪性症候群って何ですか?」をご覧ください。
3.他の抗精神病薬とエビリファイの副作用比較
エビリファイの副作用を見てきました。最後に、他の抗精神病薬と比べた副作用の比較をしてみましょう。
抗精神病薬 | EPS、高PRL | 体重増加 | ふらつき | 性機能障害 | 眠気 | 抗コリン作用 |
---|---|---|---|---|---|---|
コントミン | ++++ | +++ | ++++ | ++++ | +++ | ++++ |
セレネース | +++++ | + | +++ | +++ | + | + |
リスパダール | +++ | ++ | ++ | ++ | + | ± |
インヴェガ | ++ | + | + | + | + | ± |
ロナセン | +++ | ± | ± | ± | ± | + |
ルーラン | ++ | + | + | + | + | ± |
ジプレキサ | ++ | ++++ | ++ | ++ | ++++ | +++ |
セロクエル | + | ++++ | ++ | ++ | ++++ | + |
エビリファイ | ++ | ± | + | + | ± | ± |
*EPS・・・錐体外路症状
*高PRL・・・高プロラクチン血症
*抗コリン作用・・・口渇、便秘など
コントミンとセレネースは第1世代、その他は第2世代の抗精神病薬です。
エビリファイは第2世代であるため、第1世代と比べるとその副作用は全体的に少なくなっています。
また、第2世代の中で比較しても、副作用は全体的に少ないのが分かると思います。
ただし、副作用の出方には個人差があるため、必ずこの通りになるわけではありません。