エビリファイの眠気の原因と6つの対策

向精神薬(精神科のお薬)には眠気を起こすものが多くあります。気持ちを安定させるはたらきを持つお薬は、服薬するとリラックスするため眠くなることがあるのです。

耐えられる程度の眠気であればまだ良いのですが、作業に支障をきたすほどの強い眠気は患者さんに大きな苦痛を強いることになり、対処が必要になります。

実際、患者さんから 「先生、お薬を飲んでから眠いんです。何とかなりませんか?」 と相談されることもあります。

エビリファイは抗精神病薬(統合失調症の治療薬)に属するお薬ですが、抗精神病薬の中ではエビリファイは眠気を起こしにくいお薬だと言われています。そのため、エビリファイの眠気で困るケースは多くはありません。しかし、お薬の副作用には個人差があるため、エビリファイで眠気が出てしまう方も中にはいます。

今日はエビリファイの眠気の原因、そして眠気で困った場合の対策などについてお話していきます。

1.エビリファイはどうして眠気を起こすのか

向精神薬の眠気は、「抗ヒスタミン作用」が主な原因である事がほとんどです。抗ヒスタミン作用とは、ヒスタミン受容体をブロックすることでヒスタミンが作用できないようにしてしまうはたらきのことです。

ヒスタミンは私たちの体内で様々なはたらきをしていますが、その中のひとつに「覚醒状態の維持」があります。抗ヒスタミン作用によってヒスタミンが作用できなくなると、覚醒状態の維持ができなくなるため、眠くなってしまうのです。

花粉症やアレルギーで処方されるお薬に「抗ヒスタミン薬」と呼ばれるものがあります。商品名で言うと、アレグラ、アレロック、タリオン、アレジオン、ザイザルなどですね。抗ヒスタミン薬も、その名の通りヒスタミンのはたらきをブロックする作用を持ちます。花粉症のお薬を飲むと眠くなることは良く知られていますが、抗ヒスタミン作用を持つおくすりが眠気を引き起こすことがここからも分かります。

また、α1受容体遮断作用というもの眠気の一因となることがあります。αとはアドレナリンのことで、アドレナリン1受容体が遮断されると血圧が低下し、ふらついたり、ボーッとしたりします(α1受容体遮断薬は降圧剤として使われています。エブランチル、カルデナリンなど)。

エビリファイは抗ヒスタミン作用・α1受容体遮断作用がとても弱い事が報告されています。そのため、エビリファイの眠気は少なくなっているのです。しかし多少の抗ヒスタミン作用やα1受容体遮断作用は認めるため、時に眠気を引き起こします。

2.他の抗精神病薬との比較

エビリファイの眠気は、他の抗精神病薬と比べると少ないと言ってよいでしょう。具体的にそれぞれの抗精神病薬の眠気の強さを比較すると次のようになります。

抗精神病薬眠気
コントミン+++
セレネース+
リスパダール+
インヴェガ+
ロナセン±
ルーラン+
ジプレキサ++++
セロクエル++++
エビリファイ±

抗精神病薬は大きく分けると、第1世代と第2世代があります。

第1世代は1950年ごろより使われ始めた古い抗精神病薬で、作用も強いけど副作用も強いという特徴があります。この表ではコントミン、セレネースが第1世代になります。

第1世代の中でも特にコントミンは眠気の頻度が多いお薬です。反対にセレネースはドーパミン受容体を集中的に狙うため、ヒスタミンへの影響が比較的少なく、眠気の頻度は第1世代の中では少なくなっています。

第2世代は1990年ごろより使われ始めた比較的新しい抗精神病薬で、第1世代の効果の強さはしっかりと保ったまま、副作用を軽減させたものです。第2世代には主にSDA、MARTA、DSSの3種類に分けられます。

第2世代の中でも、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)と呼ばれるおくすりはドーパミン受容体とセロトニン受容体を集中的に狙うため抗ヒスタミン作用は弱く、眠気は少なめです。この表で、リスパダール、インヴェガ、ロナセン、ルーランがSDAになります。

MARTAは「多元受容体作用抗精神病薬」の略で、その名の通り多くの受容体に作用します。そのためヒスタミン受容体、アドレナリン受容体など、眠気に影響する受容体に作用しやすく、眠気の強いものが多いのが特徴です。この表では、ジプレキサ、セロクエルがMARTAになります。

DSSはドーパミンの量を丁度いい具合に調整するという作用を持つため、ヒスタミン受容体への影響は少なく、眠気も少なめです。エビリファイはこの、DSSに属します。

ただしお薬の効きには個人差があります。必ずこの表の通りになるわけではない事に注意してください。

3.エビリファイで眠気が出た時の5つの対策

エビリファイは眠気が少ないため、エビリファイの眠気で困るケースに遭遇することは多くはありません。しかしお薬の効きに個人差がある以上、エビリファイで眠気が出てしまう可能性はあります。

眠気で困った時、どのような対策を取ればいいのでしょうか。臨床でよく使われる対策を紹介します。ただしエビリファイの眠気に特化した対策というのはなく、他の精神科のお薬で眠気が出た時も同じような対策を取ります。

独自の判断では行わず、必ず主治医と相談の上で行ってください。

Ⅰ.様子を見てみる

まだエビリファイを飲み始めたばかりで、様子を見れる程度の眠気であれば少し様子を見てみるのも有効な方法です。

なぜならば、副作用の中には時間が経つと自然と改善するものがあり、眠気もその一つだからです。これは身体が徐々にお薬に適応していくためだと考えられています。1~2週間様子を見ていたら副作用がだんだんと軽くなってきた、ということは臨床ではよく経験する事です。

何とか様子がみれる程度の眠気なのであれば、少し様子を見てみましょう。

様子を見て良いかどうかを判断する一つの目安は、自分にとってその眠気が「耐えられるかどうか」です。1~2週間程度なら何とか耐えられる、という眠気であれば様子をみても良いでしょう。

しかし眠気があまりにひどくて耐えられない場合は、早めの対策が必要になります。

Ⅱ.増薬スピードを緩めてみる

エビリファイは、

・統合失調症へは、1日6~12mg
・双極性障害の躁症状の改善には、1日12~24mg
・うつ病・うつ状態には、1日3mg

の用量で開始します(いずれも1日1~2回に分けて服薬)。

最大用量はそれぞれ、30mg、30mg、15mgであり、症状の経過を診ながら慎重に増薬していきます。

いきなり30mgなどの高用量から開始することはありません。それは急に高用量のお薬が入ると身体がびっくりしてしまい、副作用が生じやすくなるからです。眠気に関しても同じで、いきなり高用量のエビリファイを飲んでしまうと眠気は強く出やすくなります。

薬の効きやすさには個人差がありますから、中には用法通りから開始しても強い眠気が出てしまう事もあります。このような場合は、増薬のペースを更に緩めることが効果的です。

増薬ペースをゆるめれば効果が出てくるのも遅くなってしまうのが欠点ですが、副作用の程度が軽くなるというメリットがあります。ゆっくりと増やしていけるような余裕がある場合は増薬ペースを緩めてみましょう。

例えばうつ病に使用する場合、エビリファイ1日3mgから開始して眠気が強すぎるのであれば、1日1.5mgから始めてもいいでしょう。それで1~2週間様子をみてから1日3mgに再チャレンジすれば、エビリファイに身体が適応している分だけ、眠気の程度も軽くなります。

Ⅲ.睡眠を見直す

基本的なことですが、そもそもの睡眠に問題がないかを見直すことを忘れてはいけません。

そもそもが不規則な睡眠だったり極端に短い睡眠時間なのであれば、ちょっとしたことで眠気が出てしまって当然でしょう。眠いのは副作用ではなく、睡眠の問題が表面化しただけかもしれません。

睡眠環境や睡眠時間に問題がないかを見直してみましょう。もし問題があるのであれば、その問題を解決することが先決です。

睡眠に関しての記事を「カテゴリー:睡眠」に上げていますので、参考にしてください。

Ⅳ.併用薬に問題はないか

併用薬によっては、エビリファイの副作用を強くしてしまうことがあります。エビリファイの副作用を増強するものを挙げます。

・アルコール(お酒)
・CYP3A4阻害薬
・CYP2D6阻害薬

一番多いものが、アルコールとの併用です。アルコールは抗精神病薬の血中濃度を不安定にします。どちらも中枢神経を抑制する(眠くなる)はたらきがあり、相互にこの作用を増強させてしまう恐れがあります。飲酒をしながらエビリファイを飲んでいたら、 眠気が強く出る可能性があるのです。この場合、断酒しない限りは改善は図れません。

他にもエビリファイの眠気を増強してしまうお薬はいくつかあります。

少し専門的な話になりますが、エビリファイはCYP3A4とCYP2D6という代謝酵素で代謝されるため、これらを邪魔するはたらき(阻害作用)を持つものはエビリファイの血中濃度を上げやすくなります。

CYP3A4阻害作用を持つものには、グレープフルーツがあります。そのためエビリファイを服薬中はグレープフルーツジュースの過剰な摂取はおすすめできません。

お薬として代表的なCYP3A4阻害作用を持つお薬は、

・マクロライド系抗生剤(商品名:クラリス、ジスロマックなど)
・カルシウム拮抗薬(商品名:ワソラン、ヘルベッサーなど)
・アゾール系抗真菌薬(商品名:イトリゾール、ジフルカンなど)
・胃薬であるシメチジン(商品名:タガメット)

などがあり、これらはエビリファイの血中濃度を上げてしまいます。

また、CYP2D6阻害作用を持つものには、

・キニジン
・抗うつ剤であるパロキセチン(商品名:パキシル)
・胃薬であるシメチジン(商品名:タガメット)

などがあり、これらもエビリファイの血中濃度を上げ、副作用を出やすくしてしまいます。

これらのお薬とエビリファイを一緒に服薬することが絶対にダメなわけではありません。しかし、両方服薬している場合は相互作用するということも考えながら慎重に服薬量を決める必要があるという事です。

ここで紹介した以外にも相互作用するお薬もありますので、主治医とよく相談にて服薬内容を決めていきましょう。

Ⅴ.服用時間を変えてみる

飲む時間を変えてみる、という方法もあります。エビリファイは添付文書には

統合失調症は1日1~2回の服用
双極性障害、うつ病・うつ状態は1日1回の服用

と記載されています。いつ服薬するかについては決まっているわけではありませんが、2回の場合は「朝食後と夕食後」が多いのではないでしょうか。

エビリファイは半減期が61時間ほどと1日以上あるため、1日1回服用でも安定した効果が得られるお薬です(半減期とはお薬を服薬してから血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことです)。

そのため、眠気を軽くするという視点だけで考えれば、1日1回眠前服用がベストでしょう。血中濃度のピークは3.5~4時間後にくると報告されているため、寝る前にエビリファイを服用すれば、一番眠くなる時にはちょうど睡眠中であるため、眠気の害が無くなります。

しかし、独断で服薬方法を変えるのは大変危険ですので、必ず主治医と相談しながらやってください。

Ⅵ.減薬をする

上記の方法をとっても眠気が改善せず、眠気が生活に支障を来たしているのであれば減薬も考える必要があります。

ただし減薬をすることで、病気の症状悪化の恐れがある場合は減薬できないこともあります。

精神状態も安定していて、主治医も減薬を許可してくれる状態なのであれば主治医の指示のもと量を少し減らしてみてもよいでしょう。量を少し減らしてみて、症状の悪化も認めず、眠気も軽くなるようであれば成功です。その量で維持していきましょう。

別の抗精神病薬に切り替える、という方法もありますが、エビリファイは抗精神病薬の中では眠気が少ない部類に入るため、変薬することでかえって眠気が悪化してしまう可能性もあります。

そのため、変薬は主治医とよく相談して本当にすべきなのか慎重に判断してください。また、どの抗精神病薬も一長一短ありますので、眠気の副作用だけで考えるのではなく、総合的に判断することが大切です。