ある特定の状況や対象に対して強い恐怖を感じてしまい、それが生活に支障を来たすほどになってしまう状態を「恐怖症」と呼びます。
恐怖症の中でよく知られているものには「対人恐怖症」や「高所恐怖症」などがあります。これらの名前は耳にした事がある方も多いのではないでしょうか。
自分以外の人に対して強い恐怖を感じてしまうのが対人恐怖症で、高い場所に異常なほど強い恐怖を感じてしまうのが高所恐怖症です。
同じように恐怖症の一型として「電話恐怖症」と呼ばれる状態があります。
これは「電話で誰かと話す」という状況に対して非常に強い恐怖を感じてしまう疾患です。電話は私たちの日常に深く浸透しているものですので、電話に対して恐怖を感じるようになってしまうと生活に大きな支障が生じる可能性は高くなります。
電話恐怖症をはじめとした恐怖症の治療は時間がかかりますが、正しい指導者のもと、正しい治療を続ければ必ず克服できます。経験豊富な治療者とともにじっくりと時間をかけて治療を行っていくことが大切です。
ここでは電話恐怖症について、その原因や治療法について紹介させていただきます。
1.電話恐怖症とはどのような疾患なのか
電話恐怖症というのは、どのような疾患なのでしょうか。
電話恐怖症は、「電話で話す」という状況に対して強い恐怖を感じてしまい、それにより苦しみと生活への支障が生じてしまう状態を指します。
恐怖症は特定の対象や状況に対して著しく強い恐怖が生じる状態に対してつけられる病名です。その恐怖の感じ方が、一般的な価値観から考えて明らかに過剰であり、なおかつその恐怖によって生活に何らかの支障が生じている場合、「恐怖症」として扱われます。
恐怖症は様々な対象・状況に対して生じます。その1つに「電話」があり、電話に対しての恐怖が著しく強い場合、「電話恐怖症」と呼ばれる事があります。
電話恐怖症では、
- かかってきた電話に出る事が出来ない
- 電話をかける事ができない
- 電話で話しているのを誰かに聞かれるのが怖い
といった症状が認められます。
日常的に特に大きな抵抗もなく電話を使っている方からすると、「電話の何が怖いんだろう?」と不思議に感じるかもしれません。
電話恐怖症は、電話という機械自体に恐怖を感じているわけではありません。電話で話している先には「人」がいます。電話恐怖症の方は、この「人」に対して恐怖を感じているのです。
電話恐怖症の根本にあるのは「他者からの評価に対する恐れ」だと考えられています。これは電話恐怖症に限らず対人恐怖症など多くの恐怖症に共通するものです。
電話で相手と話す事、電話の話を周囲に聞かれる事で、「他者から悪い評価を受けるのではないか」と考えてしまい、その恐怖によって電話ができなくなってしまうのが電話恐怖症です。
なぜ電話によってこのような恐怖が生まれてしまうのでしょうか。
実はそもそもが電話による会話というのは、普通の会話と比べると不安・緊張を感じやすいものなのです。
なぜでしょうか。
まず電話では相手の顔が見えないという事が挙げられます。私たちが普段会話をする時、相手から得ている情報は「言葉」だけではありません。言葉以外にも相手の表情や態度といった情報も重要で、これらも見ながら会話は進められています。
表情や態度を見ながら「今はあまり機嫌がよくないみたいだ」「このような話をしている時は楽しそうだな」といった言葉以外の情報を感じ取り、適切に会話の方向修正を行ったりをします。これは通常の会話の中で、みなさん無意識にしている事です。
しかし電話では「言葉」だけが唯一の情報になります。相手が今どのような表情をしていて、どのような態度を取っているのかは分かりにくく、言葉以外の情報が乏しい状況で会話をしなくてはいけません。
このような状態での会話は、そうでない場合と比べて当然「相手を不快にさせていないだろうか」「相手を怒らせていないだろうか」といった不安は高くなります。
また通常の会話であれば、会話の前にある程度心の準備をする事が出来ます。突然目の前に相手が現れて急に会話が始まるという事はありません。一方で電話は自分の予定とは関係なくかかってきて会話が開始されますし、電話を取るまで相手が誰だか分からないという事も往々にしてあります。
電話での会話が持つこのような特性も不安や恐怖を高める一因となります。
更にこれは主に仕事中の電話に当てはまる事ですが、社内でかかってきた電話の対応をする際、個室で電話を取るという状況はほとんどなく、大勢の社員がいる職場内で電話を取らないといけません。となれば隣や周囲の同僚にその話は聞こえてしまいやすく、周囲を意識しやすい状況で会話をしなければいけなくなってしまいます。
職場の同僚がいる状況での会話は、「あいつはおかしな電話対応をしている」などと自分が評価されてしまう可能性があるため、不安や緊張は強くなります。
一方で通常の会話であれば、自分と相手のみで行われ、自分の評価に関係するような人が会話をしている周辺にいる事はあまりありません。
このような理由から電話での会話は、通常の会話と比べて不安や緊張を感じやすいものなのです。
何らかの理由でこの不安や緊張が更に高まってしまうと、電話をする事が恐怖に感じてしまい、電話恐怖症と呼ばれる状態に至ってしまいます。
2.電話恐怖症はどのような原因で発症するのか?
電話恐怖症は何故生じるのでしょうか。どのような原因があって「電話が怖い」という状態になってしまうのでしょうか。
その原因は1つではありません。また必ず原因があるいうわけでもなく、明確な原因がないのに発症してしまうこともあります。
電話恐怖症に限らず恐怖症は、過去にその状況で怖い思いをした事がある、といった経験から生じることがあります。特に感受性豊かな幼少期にこのような体験をしてしまうと「この状況は恐怖だ」と脳が認知してしまいやすく、その記憶はその後も固定してしまいやすくなります。
例えば小さい頃に、
「一人で留守番中に電話をとって、それで非常に怖い思いをした」
「電話でひどく怒られたりけなされたりした」
などといった経験があると、そこから電話恐怖症になってしまう事もあります。
しかし中には何の原因もないのに発症してしまう症例もあります。この場合、もともとの遺伝的要素や素質も関係している場合があります。これは電話恐怖症という疾患自体が遺伝するというわけではなく、不安や恐怖を感じやすい素因が元々あると、小さなきっかけで恐怖症が発症しやすいという事です。
電話恐怖症は電話自体に恐怖を感じているのではなく、電話越しに話している「人」に恐怖を感じています。そのため対人恐怖症と根本的な恐怖は似ており、対人恐怖症や視線恐怖症といった「人」に関する恐怖症を持っている方は特に発症しやすい傾向があります。
また日本人は他の人種よりも不安を感じやすい傾向があることが指摘されており、これは人種的な素因もあるのかもしれません。不安や恐怖を感じるのは脳の扁桃体という部位やセロトニンという物質が大きく関わっていることが知られており、私たち日本人はこれらのはたらきが他人種よりも強いという可能性もあります。
このような方は、元々
- 心配性
- 完璧主義
- 神経質
などの性格傾向が認められるため、このような性格傾向を持っている方も恐怖症を発症しやすいと考えられます。
3.電話恐怖症で認められる症状
電話恐怖症ではどのような症状が生じるのでしょうか。
電話恐怖症の患者さんがみんな同じような症状があるわけではなく、同じ電話恐怖症でも、電話のどのような状況に対して恐怖を感じるのかは患者さんによって異なります。
電話恐怖症の症状は主に次の3つに分けられます。これらを全て認めるという方もいますし、一部しか認めない方もいらっしゃいます。
Ⅰ.電話がかかってくるのが怖い
「かかってきた電話に出るのが怖い」というのは、電話恐怖症の中でももっとも多い症状です。
これは電話による会話が「相手の顔が見えない会話」であるという要因に加えて、電話がかかってくるタイミングはこちら側では調整できないため、「心の準備がしにくい」というのも恐怖を感じやすい要因の1つになります。
通常、電話というのは突然かかってくるものです。こちら側が「今電話に出れる状態なのか」は相手側には分かりません。
このように自分の都合に関係なく、「いつかかってくるか分からない」「でもきちんと応対しないといけない」という電話ならではの特徴は、恐怖を感じやすいものだと言えます。
そのため、この「電話がかかってくるのが怖い」という症状は電話恐怖症の多くに認められる症状になります。
Ⅱ.電話を掛けるのが怖い
「こちらから相手に電話をかけるのが怖い」という症状を認める方もいらっしゃいます。
これは特に、
- 初めての相手(レストランや美容室・歯医者さんの予約など)
- 目上の相手や取引先
などへの電話で顕著に表れる傾向があります。
電話をかけるのが怖いのも、基本的な理由は電話は対面の会話と比べると「相手の顔が見えない会話」であり、相手の情報が少ない状況で会話をしないといけないためです。
そのためこの恐怖は、
- 更に相手の情報が少ない場合(初めての相手など)
- 会話に失敗すると不利益が大きい場合(目上の人や取引先など)
で特に悪化しやすい傾向があるのです。
反対に、「電話をかけるのが怖い」という人でも、
- 親や兄弟などの家族
- 親友など普段からよく接している人
であればそこまで恐怖を感じずに電話を出来るという方も少なくありません。
Ⅲ.電話での会話を周囲に聞かれるのが怖い
これは主に仕事中など「自分が評価される状況」で多く認められる症状になりますが、仕事の電話をしている時、自分の会話を周囲に聞かれるのが怖いという方もいます。
これは
- 以前に電話対応で常時から叱責された
- 電話対応で大きな失敗をしてしまった経験のある
といった経験がある方でよく認められます。
このような症状のある方は、
「電話対応もろくに出来ない人間だと思われているのではないか」
「おかしな事を言ってしまっていて、影で笑われてないだろうか」
といった不安を抱えながら電話応対をするため、この恐怖によって更に電話対応が不自然になってしまい、その事でまた怒られてしまうという悪循環に陥りやすくなります。
こうなってしまうと症状はどんどん悪化していってしまう事になります。
4.どこからが電話恐怖症なのか
電話をする事に対して著しい恐怖を感じている状態は、電話恐怖症と呼ばれます。
しかし電話が怖いと感じている人がすべて電話恐怖症だというわけではありません。
ではどこまでが正常でどこからが電話恐怖症なのでしょうか。正常と恐怖症の境目はどこにあるのでしょうか。
精神疾患の診断基準を定義しているDSM-5では、恐怖症は「限局性恐怖症」という病名で記載されています。
その診断基準を見ると恐怖症と診断されるためには、特定の状況や対象に著しい恐怖を感じていて、なおかつ、それによって生活に支障が生じている事が必要となる事が分かります。
つまり電話恐怖症というのは、ただ電話が怖いというだけでなく、それによって生活に支障が生じているものを指します。
具体的に言えば、電話が怖い事によって、
- 重要な電話に出れず、それで対人関係で不利益が生じている
- 電話をかけれず、仕事が出来ない
といった状況にある場合、これは生活に支障が生じていると言う事ができます。
このように本人が苦しい思いをしていたり生活への支障が生じている場合、そこには治療の必要性が生じてくるため、「恐怖症」という診断がなされる事になります。
5.電話恐怖症はどのように治療すればいいのか?
電話恐怖症は治す事が出来るのでしょうか。またどのように治していくのが良いのでしょうか。
恐怖症を治すためには2つの方向から治療を考えていく事が大切です。
重要なことは、この2つはどちらか好きな方を選べば良いというわけではなく、どちらも並行して行っていく必要があるという事です。
この事を正しく理解していないと、恐怖症の治療を成功させる事は難しくなります。多くの方が恐怖症の治療を失敗してしまうのは、この2つの方向の治療の両方が大切だという事を正しく認識せず、片方の方法だけで完結しようとしてしまうからです。
電話恐怖症では、電話をする事に対して強い恐怖が生じており、それによって生活に支障を来たすようになってしまっています。
この状態を克服するには、
- 「電話が怖い」という異常な認知を修正する(考え方を治す)
- 実際に電話に慣れていく(行動で治す)
の2つの方向から治療を行っていきます。
考え方と行動、2つの方向から治療を行わなければ恐怖症は治りません。これはよく考えれば当たり前のことです。
いくら「電話をするってそんなに怖い事ではないよね」と考えだけを学ぼうとしても、それが机上の空論でしかなければ、その考えは深くは理解されません。考え方だけを変えても実体験が伴わなければ、私たちの脳は深いレベルでは理解してくれないのです。
そのため考え方を修正しつつ、実際にそれを体験する事で行動でも理解していく事は必ず必要になります。
また同様に、行動のみで治そうとする事も危険です。「修行のように電話をかけまくって、電話に対する恐怖を克服しよう」という治療法は、状況によっては確かに有効であり、一時的には電話恐怖が改善する可能性はあります。
しかし、いくら一時的に改善させたとしても、根底にある「電話をするのは怖い」という異常な認知が修正されていなければ、ちょっとしたきっかけですぐに「やはり電話をするのは怖い」と再発してしまいます。
そのため、
- 電話に対する「怖い」という誤った考え方を修正しながら、
- 同時に行動でも電話に慣れていく
この2つの治療を並行してやっていく事が非常に大切です。
それでは具体的な治療法を見ていきましょう。
Ⅰ.考え方を治す
電話恐怖症が生じている原因の1つは「電話」に対して必要以上に「怖い」と考えてしまっていることです。
「考え方を治す」目標は、電話に対する恐怖を正常範囲内に下げることです。
ちなみに「全然怖くない」まで下げる必要はありませんし、そこまで目指すと必ず失敗しますので、注意してください。
そもそも顔の見えない相手と話すという事は、健常な人であっても多少の不安は感じるものです。電話に対する恐怖をゼロにする事はむしろ異常な事であり、多少の不安や恐怖があるのが普通なのです。
電話恐怖症に限らず恐怖症になりやすい方は「完璧主義」の傾向があり、「恐怖を完全に取り去ろう」と意気込んでしまう事が時々見受けられますので、ここは間違えないように気を付けてください。
電話恐怖症の方は、「電話をする事」に対する認知(ものごとのとらえ方)が歪んでしまっていると考えられます。
「電話をするのが怖い」という恐怖の内容をより具体的に見てみると、
「相手を不快にさせてしまって怒らせてしまったらどうしよう」
「自分の電話対応がおかしくて、周囲に笑われたらどうしよう」
などと、電話をする事によって他者からの自分に対する評価が低下する事を過剰に恐れています。
これを修正するには「認知行動療法」の考え方が役立ちます。認知行動療法は物事に対するとらえ方(認知)のかたよりを修正していく治療法になります。
電話恐怖症では、電話をする状況になった時、自分の中でどのような思考が生まれてどのように恐怖を感じているのか、その際にどのあたりの認知を変える事が出来れば恐怖が和らぐのかを治療者と一緒にみていきます。
認知行動療法は独学のみで行うのは難しく、出来れば精神科医や経験豊富なカウンセラーとともに行っていくようにしましょう。
ただし認知の修正だけを行ってもまずうまく行きません。学習という形式で認知の修正だけをしようとしても、実体験が伴わなければ、深いレベルでの理解は出来ないからです。
そのため、次項の「慣れていく」という治療法も並行していく必要があります。
Ⅱ.電話をする事に慣れていく
考え方を修正しながら、行動として実際に電話に少しずつ慣れていくという作業も重要です。
恐怖を感じる対象に敢えて挑戦していく治療法は「暴露療法」と呼ばれますが、電話恐怖症の治療においても暴露療法は有効な治療法になります。
ただし、暴露療法は「どの程度の恐怖に暴露させるか」という判断が非常に難しいため、これもできれば独自に行うのではなく精神科医などの専門家とともに行うことが理想です。ポイントは「自分がギリギリ耐えられる程度の恐怖に暴露していく」というのが理想で、今の自分がギリギリ耐えられる程度がどれくらいかを見極めることが非常に重要になってきます。
暴露療法は、恐怖に少しずつ触れて慣れていくという治療法になり、最初は弱い恐怖から慣れていき、成功したらより強い恐怖に挑戦するというのが鉄則です。必ず段階的にやっていく必要があり、いきなり自分の限界以上の恐怖に暴露させてしまうと、恐怖がかえって強まってしまう可能性もあります。
そのため、まずは自分が怖いと思う状況を思いつく限りすべてリストアップし、それぞれどのくらい恐怖を感じるのかを10段階で表してみることから始めます。例えば、
【恐怖の対象】 | 【恐怖の強さ】 |
職場に電話をかける | 4 |
時々いく〇〇歯科に予約の電話をする | 6 |
行った事がないレストランに予約の電話をする | 9 |
などといった感じです。このような表は「不安階層表」と呼びます。
不安階層表を作ったら、恐怖の低いものから1つずつ克服していきます。小さな成功を積み重ね、成功体験を積んでいくことが大切です。かんたんなものから少しずつ克服していくことで自信がつけ、恐怖を少しずつ和らげていくのがポイントです。
今回の例でいえば、「じゃあまずは職場に電話をしてみよう」という事からチャレンジすればいいのです。可能であれば職場に協力してもらって電話が出来ると良いでしょう。
不安階層表の弱いものから初めても、なかなか先に進めない場合は、「恐怖が和らぐ要素」を加えたうえで挑戦するのも方法の1つです。
例えば、「職場への電話」もなかなかできないという状況であれば、
- 抗不安薬を飲んでから電話する
- 協力者に隣にいてもらって電話する
という要素を加えて挑戦してみましょう。
それで慣れてくれば、「次は抗不安薬なしで電話してみよう」「次は一人で電話してみよう」とまた一段階負荷を上げていけばいいのです。
暴露療法の成功の鍵は、段階を多く作り、少しずつ少しずつ達成していって自信をつけていくことです。協力者やお薬を利用して、段階を細分化することが出来ると、暴露療法の成功率は高まります。
協力者というのは「一緒に居て安心できる人」であることが絶対条件です。これは通常家族や恋人、親友などになります。また抗不安薬の処方は医師しかできないため、やはり暴露療法は精神科医と連携しながら行うことをお勧めいたします。
Ⅲ.失敗することもあるという心構えを持つ
恐怖症は通常、長い年月をかけて形成されていきます。
そのため通常は短くても数年、長い場合は数十年以上、電話恐怖症を抱えながら生きてきた方がほとんどです。このように長い期間苦しんできたのですから、いくら最適な治療をはじめたからといって、いきなりキレイに治るものではありません。
治療の経過中には悪化してしまったり、失敗してしまうこともあります。しかしそれであきらめないでください。
失敗や悪化を経て、その中で少しずつ少しずつ治っていくというのが恐怖症の治り方です。
失敗してしまったり悪化を経験すると、「これはきっと治らないのだ・・・」と絶望的になってしまう方が多いのですが、そうではなく、「経過中に失敗することもある。みんなそうやって少しずつ治っていくのだ」と考えるようにしてください。
Ⅳ.補助的にお薬を使うことも
恐怖の程度が強い場合は、補助的に不安や恐怖を和らげるお薬を併用することもあります。
良く用いられるのが先ほども紹介した「抗不安薬」です。抗不安薬は、即効性もあるため暴露療法で暴露する前に服薬することでも効果が得られ、使い勝手の良い治療薬になります。しかし一方で慢性的に使用を続けると依存が生じることもありますので注意が必要です。
長期的に不安・恐怖を抑えたい場合は「抗うつ剤」が用いられることもあります。不安や恐怖はセロトニンと深く関係していると考えられているため、抗うつ剤の中でもセロトニンを増やす作用に優れるものがよく使われます。
抗うつ剤は飲んですぐに効果が出るものではありません。服薬して早くても1週間、通常は2~4週間ほどかかります。しかし依存性はありませんので、長期的に不安を抑えたい場合に適しています。
お薬は恐怖症の治療を助けてくれる有効な方法の1つです。しかしあくまでもお薬で症状を抑えているだけであるため、お薬だけで治療がうまくいくことはありません。お薬の力を借りながらも「考え方を修正する」「暴露して慣れていく」という治療法も必ず行っていく必要があります。