会食恐怖症が発症する原因と克服するための治療法

会食恐怖症

ある特定の状況や対象に強い恐怖を感じてしまい、それによって生活に支障を来たす状態を「恐怖症」と呼びます。

恐怖症の中でよく知られているものには「対人恐怖症」や「高所恐怖症」などがあります。これらの疾患名は耳にした事がある方も多いのではないでしょうか。

自分以外の人に対して強い恐怖を感じてしまうのが対人恐怖症で、高い場所に対して強い恐怖を感じてしまうのが高所恐怖症です。

同じように恐怖症の一型として「会食恐怖症」があります。

会食恐怖症は「誰かと食事をする」という状況に対して非常に強い恐怖を感じてしまう疾患です。会食とは複数で集まって食事をする事ですが、このような状況で「失礼な事をしてしまったらどうしよう」「しっかりと振舞えなかったらどうしよう」などと不安が高まってしまい、強い苦痛と、震えや発汗、動悸や呼吸苦など様々な症状が出てしまうのが会食恐怖症です。

人間社会の中で生きていれば、誰かと食事をする機会というのは多くあり、会食に強い恐怖を感じるようになってしまうと生活に大きな支障が生じる可能性は高くなります。

会食恐怖症をはじめとした恐怖症は治療に時間はかかりますが、正しい指導者のもと、正しい治療を続けていけば必ず克服できます。信頼できる治療者とともにじっくりと時間をかけて治療を行っていくことが大切です。

ここでは会食恐怖症について、その原因や治療法について紹介させていただきます。

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1.会食恐怖症とはどのような疾患なのか

会食恐怖症というのは、どのような疾患なのでしょうか。

会食恐怖症は「複数人での食事(=会食)」という状況に対して強い恐怖が生じ、これにより強い苦しみと生活への支障が生じてしまう状態を指します。

会食恐怖症は「恐怖症」の一種です。恐怖症はある特定の対象や状況に対して著しく強い恐怖が生じる状態に対して付けられる病名です。

とは言っても会食に少しでも不安や恐怖を感じただけで、すぐに会食恐怖症と判断されるわけではありません。誰でもあまり親しくない人との会食であったり、目上の偉い人との会食であればある程度の不安は感じるものです。これは全く正常な心理であり会食恐怖症には該当しません。

会食恐怖症で生じる恐怖は、状況から考えて明らかに過度である必要があります。

恐怖症は、その恐怖の程度が一般的な常識と比べて明らかに過度であり、なおかつその恐怖によって生活に何らかの支障が生じている場合に診断されます。

例えば、

  • 仲の良い同僚との気兼ねない飲み会でも恐怖を感じる
  • 家族との食事であっても慣れないレストランだと恐怖を感じる

などは一般的な常識と照らし合わせれば恐怖の程度が過度だと考えられます。一般的な感覚を持つ方からすると「何が怖いのか理解できない」と不思議に感じるものでしょう。

このようになってしまうと生活に支障を来たす事も容易に想像できます。

このような過度な恐怖があり、かつそれによって生活に支障をきたしている(例えば、会食を伴う仕事の打ち合わせに行けないなど)場合、会食恐怖症として扱う必要が出てきます。

ちなみに会食恐怖症は「食事をする事」自体に恐怖を感じているわけではありません。会食恐怖症の方のほとんどは、一人で食事を取る事に対しては全く恐怖は感じません。

「会食」というのは必ず何人かの「人」と一緒に行われます。会食恐怖症の方は、食事の先にいる「人」に対して恐怖を感じているのです。

恐怖症の根本にあるのは「他者からの評価に対する恐れ」だと考えられています。これは会食恐怖症に限らず対人恐怖症など多くの恐怖症に共通するものです。

会食で相手と話したり、自分が食事を食べている様子を相手に見られる事で、「マナーが悪いと思われているのではないか」「もし会食中に吐いてしまったらどうしよう」「挙動不審になってしまっていないだろうか」などと「他者から悪い評価を受ける恐れ」を強く考えてしまい、その恐怖によって耐えがたい苦しみと自律神経症状(動悸や吐き気、めまいなど)、生活への支障が生じるのが会食恐怖症です。

2.会食恐怖症はどのような原因で発症するのか?

会食恐怖症は何故生じるのでしょうか。どのような原因があって「会食が怖い」という状態になってしまうのでしょうか。

その原因は1つではありません。また必ず原因があるいうわけでもなく、明確な原因がないのに発症してしまうこともあります。

会食恐怖症に限らず恐怖症は、過去にその状況で怖い思いをした事がある、といった経験から生じることがあります。特に感受性豊かな幼少期にこのような体験をしてしまうと「この状況は恐怖だ」と脳が認知してしまいやすく、その記憶はその後も固定してしまいやすくなります。

例えば小さい頃に、

「幼稚園での給食中に食べるのが遅くていつもみんなからプレッシャーを受けていた」
「子供の頃、会食時にマナーで厳しく怒られる事が多く、会食ではいつも緊張していた」

などといった経験があると、そこから会食恐怖症になってしまう事もあります。

しかし中には何の原因もないのに発症してしまう症例もあります。この場合、もともとの遺伝的要素や素質も関係している場合があります。これは会食恐怖症という疾患自体が遺伝するというわけではなく、不安や恐怖を感じやすい素因が元々あると、小さなきっかけで恐怖症が発症しやすいという事です。

会食恐怖症は会食自体に恐怖を感じているのではなく、会食越しに接している「人」に恐怖を感じています。そのため対人恐怖症と根本的な恐怖は似ており、対人恐怖症や視線恐怖症といった「人」に関する恐怖症を持っている方は特に発症しやすい傾向があります。

また日本人は他の人種よりも不安を感じやすい傾向があることが指摘されており、これは人種的な素因もあるのかもしれません。不安や恐怖を感じるのは脳の扁桃体という部位やセロトニンという物質が大きく関わっていることが知られており、私たち日本人はこれらのはたらきが他人種よりも強いという可能性もあります。

このような方は、元々

  • 心配性
  • 完璧主義
  • 神経質

などの性格傾向が認められるため、このような性格傾向を持っている方も恐怖症を発症しやすいと考えられます。

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3.会食恐怖症で認められる症状

会食恐怖症ではどのような症状が生じるのでしょうか。

会食恐怖症の患者さんがみんな同じような症状があるわけではなく、同じ会食恐怖症でも、会食のどのような状況に対して恐怖を感じるのかは患者さんによって異なります。

例えば「会食が怖い」といっても、「家族などの身内だけの会食であれば大丈夫」という方もいれば「誰であっても会食をすると恐怖を感じる」という方もいます。

「自宅での会食だったら他者がいても大丈夫」という人もいれば「自宅でもレストランでも会食は恐怖に感じる」という方もいます。

程度や症状は患者さんによってそれぞれですが、いずれも共通しているのは「会食」に対して過度な恐怖を感じているという事です(正確には会食を通して接する「人」からの評価に過度な恐怖を感じています)。

また、実際に会食という状況になってしまった時に生じる症状も様々ですが、症状によって本人が大きな苦痛を感じ、また生活に支障をきたしている事が重要です。

症状は実際に会食に参加した時だけでなく、会食を想像しただけで恐怖とそれに伴う自律神経症状が生じてしまう事もあります。

実際に会食の現場に入ってしまうと、恐怖から自律神経のバランスが崩れ、パニック発作のような不安発作が認められます。

具体的には、強い恐怖とともに、

  • 動悸
  • 発汗
  • 呼吸苦
  • めまい、ふらつき
  • 意識消失
  • しびれや冷感
  • 頭がおかしくなるような感覚

などが生じます。

この症状は自律神経症状であるため、後遺症の残るものではありませんが、このような症状が生じると更に恐怖感が強まり、会食に対する恐怖がより悪化していきます。

4.どこからが会食恐怖症なのか

会食をする事に対して著しい恐怖を感じている状態は、会食恐怖症と呼ばれます。

しかし会食が怖いと感じている人がすべて会食恐怖症だというわけではありません。

ではどこまでが正常でどこからが会食恐怖症なのでしょうか。正常と恐怖症の境目はどこにあるのでしょうか。

精神疾患の診断基準を定義しているDSM-5では、恐怖症は「限局性恐怖症」という病名で記載されています。

その診断基準を見ると恐怖症と診断されるためには、特定の状況や対象に著しい恐怖を感じていて、なおかつ、それによって生活に支障が生じている事が必要となる事が分かります。

つまり会食恐怖症というのは、ただ会食が怖いというだけでなく、それによって生活に支障が生じているものを指します。

具体的に言えば、会食が怖い事によって、

  • 仕事やプライベートで出席の必要がある会食に出れず、人生において不利益が生じている
  • 本当は友人と会いたいのに、会食が怖くて会う事が出来ない

といった状況にある場合、これは生活に支障が生じていると言う事ができます。

このように本人が苦しい思いをしていたり生活への支障が生じている場合、そこには治療の必要性が生じてくるため、「恐怖症」という診断がなされる事になります。

5.会食恐怖症はどのように治療すればいいのか?

会食恐怖症は治す事が出来るのでしょうか。またどのように治していくのが良いのでしょうか。

恐怖症を治すためには2つの方向から治療を考えていく事が大切です。

重要なことは、この2つはどちらか好きな方を選べば良いというわけではなく、どちらも並行して行っていく必要があるという事です。

この事を正しく理解していないと、恐怖症の治療を成功させる事は難しくなります。多くの方が恐怖症の治療を失敗してしまうのは、この2つの方向の治療の両方が大切だという事を正しく認識せず、片方の方法だけで完結しようとしてしまうからです。

会食恐怖症では、会食をする事に対して強い恐怖が生じており、それによって生活に支障を来たすようになってしまっています。

この状態を克服するには、

  • 「会食が怖い」という異常な認知を修正する(考え方を治す)
  • 実際に会食に慣れていく(行動で治す)

の2つの方向から治療を行っていきます。

考え方と行動、2つの方向から治療を行わなければ恐怖症は治りません。これはよく考えれば当たり前のことです。

いくら「会食をするってそんなに怖い事ではないよね」と考えだけを学ぼうとしても、それが机上の空論でしかなければ、その考えは深くは理解されません。考え方だけを変えても実体験が伴わなければ、私たちの脳は深いレベルでは理解してくれないのです。

そのため考え方を修正しつつ、実際にそれを体験する事で行動でも理解していく事は必ず必要になります。

また同様に、行動のみで治そうとする事も危険です。「修行のように会食に参加しまくって、会食に対する恐怖を克服しよう」という治療法は、状況によっては確かに有効であり、一時的には会食恐怖が改善する可能性はあります。

しかし、いくら一時的に改善させたとしても、根底にある「会食は怖い」という異常な認知が修正されていなければ、ちょっとしたきっかけですぐに「やはり会食は怖い」と再発してしまいます。

そのため、

  • 会食に対する「怖い」という誤った考え方を修正しながら、
  • 同時に行動でも会食に慣れていく

この2つの治療を並行してやっていく事が非常に大切です。

それでは具体的な治療法を見ていきましょう。

Ⅰ.考え方を治す

会食恐怖症が生じている原因の1つは「会食」に対して必要以上に「怖い」と考えてしまっていることです。

「考え方を治す」目標は、会食に対する恐怖を正常範囲内に下げることです。

ちなみに「全然怖くない」まで下げる必要はありませんし、そこまで目指すと必ず失敗しますので、注意してください。

そもそも複数の人が参加する食事の場に参加するという事は、ある程度不安を感じてもおかしくありません。特に会食はかしこまった場である事も多いため、多少緊張するのが普通でしょう。

そのため会食に対する恐怖をゼロにする事はむしろ異常な事であり、多少の不安や恐怖があるのが普通なのです。

会食恐怖症に限らず恐怖症になりやすい方は「完璧主義」の傾向があり、「恐怖を完全に取り去ろう」と意気込んでしまう事が時々見受けられますので、ここは間違えないように気を付けてください。

会食恐怖症の方は、「会食をする事」に対する認知(ものごとのとらえ方)が歪んでしまっていると考えられます。

「会食をするのが怖い」という恐怖の内容をより具体的に見てみると、

「食事中に相手を不快にさせてしまって怒らせてしまったらどうしよう」
「自分の会食の時の挙動かおかしくて、周囲に笑われたらどうしよう」

などと、会食時に他者からの自分に対する評価が低下する事を過剰に恐れています。

これを修正するには「認知行動療法」の考え方が役立ちます。認知行動療法は物事に対するとらえ方(認知)のかたよりを修正していく治療法になります。

会食恐怖症では、会食をする状況になった時、自分の中でどのような思考が生まれてどのように恐怖を感じているのか、その際にどのあたりの認知を変える事が出来れば恐怖が和らぐのかを治療者と一緒にみていきます。

認知行動療法は独学のみで行うのは難しく、出来れば精神科医や経験豊富なカウンセラーとともに行っていくようにしましょう。

ただし認知の修正だけを行ってもまずうまく行きません。学習という形式で認知の修正だけをしようとしても、実体験が伴わなければ、深いレベルでの理解は出来ないからです。

そのため、次項の「慣れていく」という治療法も並行していく必要があります。

Ⅱ.会食をする事に慣れていく

考え方を修正しながら、行動として実際に会食に少しずつ慣れていくという作業も重要です。

恐怖を感じる対象に敢えて挑戦していく治療法は「暴露療法」と呼ばれますが、会食恐怖症の治療においても暴露療法は有効な治療法になります。

ただし、暴露療法は「どの程度の恐怖に暴露させるか」という判断が非常に難しいため、これもできれば独自に行うのではなく精神科医などの専門家とともに行うことが理想です。ポイントは「自分がギリギリ耐えられる程度の恐怖に暴露していく」というのが理想で、今の自分がギリギリ耐えられる程度がどれくらいかを見極めることが非常に重要になってきます。

暴露療法は、恐怖に少しずつ触れて慣れていくという治療法になり、最初は弱い恐怖から慣れていき、成功したらより強い恐怖に挑戦するというのが鉄則です。必ず段階的にやっていく必要があり、いきなり自分の限界以上の恐怖に暴露させてしまうと、恐怖がかえって強まってしまう可能性もあります。

そのため、まずは自分が怖いと思う状況を思いつく限りすべてリストアップし、それぞれどのくらい恐怖を感じるのかを10段階で表してみることから始めます。例えば、

【恐怖の対象】 【恐怖の強さ】
家族と一緒に自宅で食事をする 2
家族と一緒にレストランで食事をする 6
仲の良い友人とレストランで食事をする 9

などといった感じです。このような表は「不安階層表」と呼びます。

不安階層表を作ったら、恐怖の低いものから1つずつ克服していきます。小さな成功を積み重ね、成功体験を積んでいくことが大切です。かんたんなものから少しずつ克服していくことで自信がつけ、恐怖を少しずつ和らげていくのがポイントです。

今回の例でいえば、「じゃあまずは一緒にいて一番安心できる家族と、比較的リラックスして過ごせる自宅で食事をしてみよう」という事からチャレンジすればいいのです。

不安階層表の弱いものから初めても、なかなか先に進めない場合は、「恐怖が和らぐ要素」を加えたうえで挑戦するのも方法の1つです。

例えば、「家族と自宅での食事」もなかなかできないという状況であれば、

  • 抗不安薬を飲んでから会食する
  • 最初は特に一緒にいて安心できる家族だけの参加にする

という要素を加えて挑戦してみましょう。

それで慣れてくれば、「次は抗不安薬なしで食事をしてみよう」「次は他の家族も交えて食事をしてみよう」とまた一段階負荷を上げていけばいいのです。

暴露療法の成功の鍵は、段階を多く作り、少しずつ少しずつ達成していって自信をつけていくことです。協力者やお薬を利用して、段階を細分化することが出来ると、暴露療法の成功率は高まります。

協力者というのは「一緒に居て安心できる人」であることが絶対条件です。これは通常家族や恋人、親友などになります。また抗不安薬の処方は医師しかできないため、やはり暴露療法は精神科医と連携しながら行うことをお勧めいたします。

Ⅲ.失敗することもあるという心構えを持つ

恐怖症は通常、長い年月をかけて形成されていきます。

そのため通常は短くても数年、長い場合は数十年以上、会食恐怖症を抱えながら生きてきた方がほとんどです。このように長い期間苦しんできたのですから、いくら最適な治療をはじめたからといって、いきなりキレイに治るものではありません。

治療の経過中には悪化してしまったり、失敗してしまうこともあります。しかしそれであきらめないでください。

失敗や悪化を経て、その中で少しずつ少しずつ治っていくというのが恐怖症の治り方です。

失敗してしまったり悪化を経験すると、「これはきっと治らないのだ・・・」と絶望的になってしまう方が多いのですが、そうではなく、「経過中に失敗することもある。みんなそうやって少しずつ治っていくのだ」と考えるようにしてください。

Ⅳ.補助的にお薬を使うことも

恐怖の程度が強い場合は、補助的に不安や恐怖を和らげるお薬を併用することもあります。

良く用いられるのが先ほども紹介した「抗不安薬」です。抗不安薬は、即効性もあるため暴露療法で暴露する前に服薬することでも効果が得られ、使い勝手の良い治療薬になります。しかし一方で慢性的に使用を続けると依存が生じることもありますので注意が必要です。

長期的に不安・恐怖を抑えたい場合は「抗うつ剤」が用いられることもあります。不安や恐怖はセロトニンと深く関係していると考えられているため、抗うつ剤の中でもセロトニンを増やす作用に優れるものがよく使われます。

抗うつ剤は飲んですぐに効果が出るものではありません。服薬して早くても1週間、通常は2~4週間ほどかかります。しかし依存性はありませんので、長期的に不安を抑えたい場合に適しています。

お薬は恐怖症の治療を助けてくれる有効な方法の1つです。しかしあくまでもお薬で症状を抑えているだけであるため、お薬だけで治療がうまくいくことはありません。お薬の力を借りながらも「考え方を修正する」「暴露して慣れていく」という治療法も必ず行っていく必要があります。

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