パニック障害は、動悸や呼吸苦などのパニック発作が突然に起こってしまう疾患です。一度パニック発作を経験すると、「またパニック発作が起こるのではないか」という恐怖が高まり、不安はより強くなっていきます。パニック障害の原因の根本は不安にあるため、不安が強まればパニック障害の悪化につながります。
このようにパニック障害は、放置しているとどんどん悪化してしまう傾向があります。
しかし実はパニック障害は、専門家の指示のもとで適切に治療を行えば、改善率は高い疾患です。そのため、一人で悩むのではなく、精神科を受診し適切な治療を受けてください。
ここではパニック障害を克服するための手順について紹介します。
1.精神科を受診しよう
以前と比べると、世の中の精神疾患への理解は高まってきました。
しかし現代においても、精神疾患を「気持ちの問題」と考えてしまう方は少なくありません。
「根性が足りないから発作が起こるんだ」
「気持ちを強く持てば治る」
そう考え、病院の受診をしない方がいます。
「パニック障害を自力で治そう」と頑張る方もいますし、中には運よく自力で治せた人もいますが、これはリスクが高い方法でありお勧めはできません。後述するようにパニック障害を克服するために行う暴露療法などは、導入する時期ややり方を間違えるとかえって不安を強めてしまう危険があるからです。治療は、不安の扱いに精通している専門家のもとで行うのが望ましいことは言うまでもありません。
精神科という場所に自分が行くことを「情けない」と考えてしまう方もまだまだいらっしゃいます。
パニック障害は病気なのです。
自分の気持ちの問題だと判断し、治療をいたずらに遅らせることは避けるべきです。不安は不安を呼び、どんどんと増悪する性質を持っているため、不安系の疾患の治療は特に遅らせるべきではありません。
近年の研究では、パニック障害の患者さんの脳内では、扁桃体や海馬、帯状回などの恐怖に関係する神経回路が過活動になり、前頭前野の活動が低下することが指摘されています。また適切な治療を行うと、これらの活動性が改善されることも報告されています。
このようにパニック障害では実際に脳の活動性に異常が起きているのです。これはパニック障害が気持ちの問題だけではなく、治療すべき「病気」だということを証明しています。
パニック障害の有病率は2%前後という報告が多く、決して稀な疾患ではありません。誰にでも起こりうる疾患であり、パニック障害を発症したから「情けない」「根性がない」というのは全くの見当違いです。
「パニック障害は病気なんだ」「病院を受診して治療を受けるべきものなのだ」
このような正しい認識を持ち、一人で治そうとするのではなく、専門家と協力して治療していきましょう。
2.疾患について理解する
病気を適確に治療するためには、その病気について知らなければいけません。
診察を通して、主治医から病気について学びましょう。また診察で充分な時間が取れない場合は、おすすめの書籍などを紹介してもらってもよいでしょう。
当サイトでも、
・パニック障害の原因。パニック障害はなぜ生じるのか。
・パニック障害はどのように診断されるのか?臨床でのパニック障害診断法
・パニック障害と電車。パニック発作が電車で生じやすい理由と対処法
などパニック障害に関する記事を書いてますので、参考にしていただければ幸いです。
パニック障害で特に知っておいて欲しい重要な事には、
・パニック障害は、気持ちの問題ではなく「病気」である
・適切な治療を行えば、しっかりと治すことができる
・パニック障害の根本にある原因は「不安」である
・パニック発作は後遺症も残らないし、死ぬこともないことを理解する
などが挙げられます。
3.まずは生活習慣の見直しから
パニック障害の根本にあるのは「不安」です。そのため治療の目的は、不安を軽減させることになります。
不安を軽減させる方法としては、お薬であったりカウンセリングだったり色々な方法がありますが、まず第一にすべきことは生活習慣の見直しです。
主治医と相談して、不安が高まるような生活習慣がないか、一つずつ確認していきましょう。不安を悪化させるような生活習慣がある場合、それを改善するだけで不安が大きく改善することもあります。
不安を悪化させやすい生活習慣の一例を挙げます。
Ⅰ.睡眠不足、不規則な生活リズム
睡眠時間が不十分だと精神的に不安定になることが知られています。また、不規則な生活を送っている方は、規則正しい生活の方と比べて精神状態が崩れやすい傾向にあります。
十分な睡眠を取っていないと、それだけでパニック発作を起こしやすくなります。明らかな睡眠不足があることが分かれば、まずは睡眠時間を十分に確保できないか考えてみましょう。
ついつい夜更かしをしてしまう、などの無意識の生活習慣がパニック障害悪化の原因になっていることは珍しいことではありません。
Ⅱ.食生活の偏り
食事の間隔が不規則だったり、栄養の偏りが著しい場合、脳に十分な栄養が届かないため、不安が高まってしまうことがあります。
1日3食、バランス良く食べているかどうかを見直してください。
仕事が忙しい方などでは、どうしても昼食を食べれないこともあるかもしれませんが、簡単に食べれる軽食を用意しておくなど、出来る範囲で良いので工夫することが大切です。
Ⅲ.運動不足
厚生労働省の報告によれば、定期的な運動習慣を持っている成人は3割ほどしかいないそうです。
忙しいとつい運動から遠ざかってしまいますが、適度に身体を動かすことは前向きなこころを作るために大切です。
適度な運動は睡眠の質を上げることにもなるため、不安の改善に大きく貢献してくれます。
Ⅳ.過剰なストレス
ストレスが過剰であれば、一般的に不安は高まりやすくなります。
現実的には、仕事上のストレスや家庭のストレスなど簡単には取り除けないこともあるでしょう。しかし、主治医や周囲と相談して、少しでも軽減できないか工夫してみることは大切なことです。
Ⅴ.過剰なアルコール
適度なアルコールは、気分も高揚し、良い作用となることもありますが、過剰にアルコールを摂取するとパニック発作を起こしやすくなります。
晩酌の習慣などがあり、その量が多い場合は、主治医とともに飲酒量の再検討を行う必要があります。
Ⅵ.タバコなどの嗜好品
喫煙はパニック障害を発症させやすくすることが指摘されています。
「タバコを吸うと気持ちが落ち着く」という人もいますが、ニコチンによる鎮静効果は喫煙した時のみの一時的なものに過ぎません。
ニコチンの連用を続けると、総合的に見ればイライラや不安は強くなります。更に依存性が形成されれば、ニコチンが切れた時に強い不安を感じるようになり、パニック発作を起こしやすくなります。
Ⅶ.過剰なカフェイン
カフェインはパニック発作を誘発するという報告があります。
臨床的な感覚としては、常識的な量のカフェイン(コーヒーを1日1~2杯程度)であればほとんどパニック発作への影響はないように思われます。しかし、過剰なカフェイン摂取は避けておくことが無難でしょう。
毎日コーヒーを何杯も飲んでいるような場合は、その量を主治医とともに再検討する必要があります。
また家庭や職場に明らかな不安を悪化させる原因がある場合、何とかそれを軽減できないのか相談することも重要です。
例えば、仕事中の急な来客でお茶出しをする時に、緊張・不安からパニック発作が出てしまうという方がいました。
診察でどうすべきかを相談した結果、他の同僚に自分の病気の事を打ち明けて、どうしても発作が出そうな時はお茶出しを変わってもらえないかという案が出ました。同僚に聞いてみたところ、快く協力してもらうことができました。
その後その方は、いざという時は同僚が変わってくれる、という安心感を得たことで、お茶出しにも自信がつきました。
このように明らかな不安増悪因子に関しては、それ用の対策を考えておくことも有効です。
4.急性期はお薬を使うことも多い
パニック障害の治療は大きく分けると、「薬物療法(おくすり)」と「精神療法(カウンセリングなど)」の2つに分けることができます。
このうち、急性期(治療の初期)は薬物療法を行うことが多いです。
何故かというと、急性期は不安が強く、気持ちに余裕が持てない状態が多いからです。
精神療法というのは、ある程度こころに余裕がないと効果が十分に発揮されません。不安が強くて気持ちが落ち着かず、何も手につかない状況で「こんな風に考えたらうまくいきいますよ」なんて言われても頭に入らないし、落ち着いて実行することはなかなかできないでしょう。
そのため、気持ちにある程度余裕がある場合は、精神療法から入るケースもありますが、薬物療法から入るケースが多いのが実際のところです。
パニック障害で使うおくすりについては、パニック障害の薬物療法。パニック障害に使われるお薬にはどんなものがあるのかに書いてますのでご覧ください。
主剤としては、SSRIや三環系抗うつ剤など主にセロトニンを増やす作用に優れるおくすりを使います。また、抗不安薬と呼ばれるおくすりも補助的に使うことがあります。症例によっては不安に効果のある漢方薬を使う場合もあります。
抗うつ剤は、セロトニンを増やすことで不安を改善してくれます。安全性も高く、依存性もないのが利点ですが、効果が発現するまでに数週間かかることが欠点です。
抗不安薬は、即効性があり、飲んだらすぐに不安を改善してくれる利点がありますが、使い続けると徐々に耐性や依存性が出来てしまうのが欠点です。
そのため、抗うつ剤が十分に効くまでは抗不安薬も併用し、抗うつ剤が十分に効いてきたら抗不安薬は徐々に減らしていく、というのが良く行われる治療法です。
5.気持ちに余裕が出てきたら精神療法も併用
不安がある程度改善され、精神療法をじっくりと受ける精神的余裕が出てきたら、精神療法も併用するとより良い治療になります。
精神療法は、副作用も少なく安全性の高い治療ですが、日本ではまだ保険が効かないため高額になってしまうのが欠点です。また、時間がかかる治療法のため、社会人など忙しい方はなかなか受ける時間が取れないという問題もあります。
精神療法は、しっかりと受ければ薬物と同等の効果が期待できます。また再発予防に関しては薬物療法よりも効果を認め、再発しにくくすることができます。
パニック障害で主に行われる精神療法を紹介します。
Ⅰ.認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、ものごとのとらえ方(認知)を修正していくことにより、不安を軽減させて気持ちを楽にしていく治療法です。
医師や臨床心理士と1対1で行う個人療法と、患者さん4~8名が一緒に行う集団療法がありますが、どちらも効果を認めます(費用面では集団の方が安価になります)。
認知行動療法では、不安のメカニズムを学び、パニック発作を起こりやすい状況を客観的に見ていきます。その中で自分の不安に対するクセ(自動思考)を把握し、パニック発作を起こさなくするにはどうしたらいいのか、あるいはパニック発作が起こりそうな時・起こった時にはどのように考えればいいのかを考えていきます。
なお認知行動療法については「認知行動療法はどのような特徴を持つ治療法なのか」でより詳しく説明しています。
Ⅱ.暴露療法
パニック発作を起こしやすい状況にあえて自分を暴露させ、それを乗り越えることで自信をつけていく治療法です。
ただし、これは失敗するとより不安が強くなるため、どの段階でどんなものに暴露していくかは慎重に判断しないといけません。不安を悪化させないためにも、必ず専門家の指示のもとで行う必要があります。
暴露療法では、パニック発作を起こしやすい状況に段階を作り、少しずつ成功を積み重ねていくことが重要です。
例えば、電車に乗るとパニック発作を起こしてしまう方であれば、
1.昼間の空いている時間に各駅停車で1駅だけ乗ってみる
2.昼間の空いている時間に各駅停車で2駅乗ってみる
3.昼間の空いている時間に快速で1駅乗ってみる
4.昼間の空いている時間に快速で2駅乗ってみる
5.夕方のちょっと混んでいる時間に各駅停車で1駅乗ってみる
6.夕方のちょっと混んでいる時間に各駅停車で2駅乗ってみる
・・・・
というように、段階を踏んで少しずつ暴露していきます。なるべく失敗せずに成功体験を積み重ねていくことが重要です。成功体験は自信につながり、自信は不安を消してくれます。