イフェクサーSRカプセル(一般名:ベンラファキシン)は2015年から発売されている抗うつ剤です。日本では発売されたばかりですが、海外では代表的な抗うつ剤としてすでに広く用いられています。
近年は優れた抗うつ剤が増えてきましたが、更に新しい治療薬の選択肢が増えるのは患者さんにとっても助かる事と思います。
イフェクサーはどのような方に向いている抗うつ剤で、どんな効果が期待できるのでしょうか。
イフェクサーの効果や特徴などについて紹介したいと思います。
1.イフェクサーはどんな効果・特徴を持つ抗うつ剤なのか
イフェクサーSRカプセル(一般名:ベンラファキシン)は、SNRIという種類の抗うつ剤になります。
日本ではようやくの発売になりますが、別に新薬というわけではありません。スイスで1993年より発売開始となったのを最初に、現在すでに90か国以上で使われている、海外では20年以上の歴史を持つ抗うつ剤です。
SNRIとは「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」の略で、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み(吸収・分解)をブロックするお薬になります。かんたんに言うと脳のセロトニンとノルアドレナリンを増やすお薬だと考えてよいでしょう。またドーパミンを増やす作用も軽度認めることが確認されています。
セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった物質はまとめて「モノアミン」と呼ばれており、これらは気分に関係する神経伝達物質である事が知られています。
うつ病は、脳のモノアミンの低下が一因であると考えられており、
・セロトニンは落ち込みや不安を改善させ、
・ノルアドレナリンは意欲ややる気を改善させ、
・ドーパミンは楽しみや快楽を改善させる
と言われています。
SNRIは、セロトニンを増やすことで落ち込みや不安を改善させるだけではなく、ノルアドレナリンを増やす事でやる気も改善させます。そのため特に意欲低下が目立つうつ病の方に良い効果が期待できる抗うつ剤だと言えます。
またノルアドレナリンは「痛み」にも関わっていると考えられています(「うつ病で痛みが出る!? 【医師が教えるうつ病のすべて】」参照)。
うつ病は、「頭痛」「腰痛」「肩痛」などの「痛み」を伴うことが多いことが最近明らかになってきており、うつ病患者さんの60%ほどは何らかの痛みを伴っているという報告もあります。SNRIは痛みを改善する作用にも優れているため、痛みを伴ううつ病の方にも良い適応となります。
イフェクサーは低用量(≦150mg/日)では主にセロトニン再取込み阻害作用が中心となり、高用量(≧150mg/日)ではセロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害作用を発揮するようになるという特徴を持っています。そのため、意欲低下が強い方や痛みも伴っている方は高用量まで増量して使うことが推奨されます。
日本で現在発売されているSNRIには
・サインバルタ(一般名:デュロキセチン)
・トレドミン(一般名:ミルナシプラン)
の2種類があります。
今回これにイフェクサー(一般名:ベンラファキシン)が加わり、日本で使えるSNRIは3剤になります。
2.イフェクサーの強さ
イフェクサーはどのくらいの効果がある抗うつ剤なのでしょうか。
抗うつ剤の「強さ」というのは、個人差も大きいため一概に「この薬が強い」「この薬は弱い」という事は出来ません。しかしおおよその目安が何もないと、どのようにして抗うつ剤を選択すればいいのか分からなくなってしまいます。
抗うつ剤の強さを比較する1つの目安として、「Manga Study」という試験の結果が用いられることがあります。Manga Studyは「現在使われている主な抗うつ剤の強さをランキングしてみよう!」という面白い試みの試験で、大きな注目を浴びた試験です。
その結果は賛否両論ありますが、抗うつ剤の強さを知る1つの目安になることは確かです。
Manga Studyにおいてイフェクサーはどのような位置づけになったのでしょうか。その結果を紹介します。
上表がManga Studyの結果になります。
イフェクサーは一般名の「ベンラファキシン」で示しています。
有効性とはお薬の「強さ」と考えてよいでしょう。忍容性はお薬の「副作用の少なさ」と考えて下さい。つまり有効性が高く、忍容性が高いお薬が理想的な抗うつ剤だということになります。
Manga Studyでは、フルオキセチン(国内未発売)という抗うつ剤を「1」とした時の他の抗うつ剤の有効性と忍容性をみています。
イフェクサー(ベンラファキシン)はというと、12個の抗うつ剤の中で
・有効性は3位
・忍容性は8位
となっています。
忍容性は高くはないものの、有効性はリフレックス/レメロン(一般名:ミルタザピン)、レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)に次いで第3位という高い位置付けとなっています。
しかし、この結果はこのまま日本人には当てはまらないかもしれません。
世界的には1990年代から使用されているイフェクサーですが、なぜ日本で今まで発売されなかったのかというと、日本で行われた臨床試験においてイフェクサーは「十分な抗うつ効果がある」という結果にならなかったため、2000年代に一度発売が断念されているのです。
今回の臨床試験では抗うつ効果が確認されたため発売となりましたが、一度試験に失敗しているということは日本人には効きにくい抗うつ剤かもしれないという可能性もあります。イフェクサーの日本における本当の評価は、これから実際に使われていくことで徐々に明らかになってくるでしょう。
3.イフェクサーの適応と剤型
イフェクサーはカプセル剤になります。
今回発売となるのは、
イフェクサーSRカプセル(37.5mg)
イフェクサーSRカプセル(75mg)
の2剤になります。
「SR」というのは「sustained release:徐放製剤」という意味で、これは「ゆっくりと長く効く」ような工夫が施されたお薬の事です。イフェクサーカプセルSRは、ゆるやかに効くため副作用が生じにくくなっており、また長く効くため1日1回の服用で1日効果が持続します。
適応疾患としては、
【効能・効果】
うつ病・うつ状態
となっており、現時点での日本での適応疾患はうつ病・うつ状態のみになっています。
しかし、海外では
- 全般性不安障害(GAD)
- 社会不安障害(SAD)
- パニック障害
といった不安障害にも適応となっています。また、
- 外傷後ストレス障害(PTSD)
- 月経前不快気分障害(PMDD)
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
- 強迫性障害(OCD)
への効果も報告されています。
今後、イフェクサーの試験が更に進めば、適応疾患も広がってくる可能性は十分あります。
今回のイフェクサーの注目すべき点の1つにイフェクサーの用量があります。
【用法・用量】
通常、成人には1日37.5 mgを初期用量とし、1週後より1日75mgを1日1回食後に経口投与する。なお、年齢、症状に応じ1日225mgを超えない範囲で適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて1日用量として75 mgずつ行うこと。
日本は多くのお薬の用量が海外と比べて少量に設定されています。
しかしイフェクサーは、米国と同じ量まで増量することが可能となっており、これは1つの大きな特徴となります。
ちなみに主要な抗うつ剤の日本の上限量と米国の上限量をいくつか紹介します。
薬物名 | 日本の最大量 | 米国の最大量 |
パキシル | 50mg | 50mg |
ジェイゾロフト | 100mg | 200mg |
サインバルタ | 60mg | 120mg |
トレドミン | 100mg | 200mg |
多くの抗うつ剤が、海外と比べると日本の最大用量が少なく設定されているのが分かると思います。
これは体格の差や人種的なお薬に効きやすさなども関係しているため、「海外より少ないから悪い」と一概に言えるものではないのですが、臨床をしていると「もう少し量を増やせたら、効いてくる感じがあるのに・・・」という事は時々あります。
イフェクサーは海外と同じ量まで増量できるというのは1つのメリットになるでしょう。
またイフェクサーの半減期(血中濃度が半分に下がるまでの時間)は約9時間前後ですが、1日1回の投与にて定常状態(血中濃度がある程度安定して推移する状態)になることが確認されており、1日1回の服薬で効果が得られます。
4.イフェクサーの副作用
イフェクサーにはどのような副作用があるのでしょうか。
まだ日本で発売されて日が浅いため、これから分かってくるものと思われます。
現時点でのイフェクサーの副作用としては、臨床試験での副作用の報告や海外におけるイフェクサーの副作用報告から推測していくことになります。
イフェクサーはSNRIに属するため、副作用の傾向としては同じSNRIであるサインバルタやトレドミンと似ている傾向があると考えられます。
多い副作用としては、
- 悪心、吐き気などの胃腸症状
- 頭痛
などがあります。また他の抗うつ剤と同じように
- 眠気
- ふらつき
- 抗コリン作用(口渇、便秘など)
- 性機能障害
などが出現する可能性もあります。
イフェクサーの詳しい副作用については、別の記事にて改めて詳しく紹介させて頂きます。
5.イフェクサーに期待すること
現在、うつ病治療の主剤となっている抗うつ剤には、
- SSRI
- SNRI
- NaSSA
の3種類があります。これらはセロトニンやノルアドレナリンに選択的に作用し、その他の部位に作用しにくい特徴があります。そのため効率的にうつ症状を改善させ、また副作用も少ない抗うつ剤で、最初に用いるお薬として向いています。
SSRIは現在4種類が発売され、選択の幅はある程度あります。
しかしSNRIは現状「サインバルタ」と「トレドミン」の2つしかありません。更にトレドミンは抗うつ作用としては弱く、あまり用いられていないのが実情です。トレドミンの抗うつ効果の弱さは海外でも同様で、米国ではトレドミンはうつ病の適応を持っていないほどです。そのため用いられる頻度が少なく、実際はサインバルタ1つしか選択肢がないような状態です。
SNRIはノルアドレナリンを増やす作用に優れるため、意欲・やる気・気力となった症状の改善が期待できます。うつ病でこれらの症状がなかなか改善せずに困るケースは少なくありません。
今回、SNRIのイフェクサーが発売になることで、意欲低下・気力低下で苦しむ患者さんの選択肢が1つ増えることは、治療者としても、とてもありがたいことだと思います。イフェクサーも多くの患者さんを救ってくれるお薬になるでしょう。