タイプA、タイプB、タイプC性格とメンタルヘルスの関係

循環器科領域では、「タイプA」と呼ばれる性格傾向を持つ人は、心筋梗塞や突然死のリスクが高いということが知られています。

また、がん治療領域では「タイプC」と呼ばれる性格傾向を持つ方は、がんにかかりやすい事が指摘されています。

精神疾患は、「このような性格を持っている人は〇〇病にかかりやすい」といった疾患と性格の関連性があるものが多いです。しかし、身体疾患においてもこのように疾患と性格に関連が指摘されているものがあります。

なぜ「性格」という内面の違いによって身体の病気の発症のしやすさが異なってくるのでしょうか。また、これらの性格はメンタルヘルス的にみるとどうなのでしょうか。

性格は簡単に変えられるものではありません。しかし自分の性格傾向を見直し、「自分の性格はこういったリスクがあるんだな」と理解していることは大切です。リスクを理解できていれば、自分の性格の問題点を見直し、日常において少しずつ気を付けることができるようになるからです。

今日は性格傾向と身体疾患の関係、そしてメンタルヘルスとの関係についてもみてみましょう。

1.タイプA、タイプB、タイプC性格とは?

性格傾向と身体疾患の関連について、しばしば。

  • タイプA
  • タイプB
  • タイプC

という3つの性格傾向が用いられます。

これらの性格はそれぞれどのような性格なのでしょうか。1つずつみてみましょう。

Ⅰ.短気で仕事熱心なタイプA

タイプAは、

  • 負けず嫌い・競争心が強い
  • 成功欲・出世欲が強い
  • 一生懸命・熱心
  • せっかち・短気
  • 常に時間に追われている

といった性格傾向を持つ人の事です。タイプAという性格傾向を始めて報告したのは、アメリカ人医師のFriedman(フリードマン)だと言われています。

フリードマンは、狭心症や心筋梗塞といった「虚血性心疾患」の患者さんの待合室では、椅子の前の脚が早く擦り切れることに気付きました。

「どうして虚血性心疾患の患者さんが座る椅子ばかり脚が早く擦り切れてしまうのだろう」と不思議に思ったフリードマンが待合室の患者さんの様子を観察してみると、どうやら心臓病の患者さんは、椅子に浅く腰掛け、イライラ・ソワソワしながら診察の順番を待っていることが多いため、このように椅子の前脚だけが早く擦り切れることが分かりました。

ここからフリードマンは「タイプA性格」を提唱し、このような性格傾向を持つ方は心臓疾患にかかりやすいという事を報告したのです。実際、その後の研究からは、タイプAの方はそうでない方と比べて虚血性心疾患の発症率が2~3倍も高いことも報告されています。

Ⅱ.マイペースなタイプB

タイプAと反対の性格傾向として「タイプB」が挙げられています。タイプBは、

  • 穏やか・あまり怒らない
  • 無理をしない
  • マイペース
  • ゆったりと行動する

などといった性格傾向を持つ方です。

タイプBの性格傾向を持つ方は、タイプAの性格傾向を持つ方と比べて虚血性心疾患の発症率が低いという報告があります。またフリードマンによると、皮肉な事に出世欲の強いタイプAよりも、実際はマイペースなタイプBの方が出世しやすいのだそうです。

Ⅲ.ストレスをため込むタイプC

アメリカの心理学者のリディアとヘンリーは、がんにかかりやすい性格傾向として「タイプC」を提唱しています。タイプCは、

  • 周囲を気遣う
  • 感情(怒り・不安など)を自分の中に抑え込む
  • 我慢強い
  • 真面目で几帳面

といった性格傾向を持つ方です。自分を犠牲にしてまで他者を気遣うタイプCは、周囲からの評価も高く、「誠実な人」「真面目な人」という印象を持たれる方です。

しかし、このような性格を持つ方は、そうでない方に比べてがんにかかりやすいのではと指摘されています。

タイプCの性格傾向を持つ方は、ストレスを自分の中に溜め込むため、ホルモンや自律神経・免疫力などに異常を来たすことで、がんが発症しやすいのではと推測されています。

しかし、タイプCとがんの関連性については、あくまでも推測のレベルであり、実際にタイプCに本当にがんが多いのかは、まだ十分には研究されていません。

2.何故タイプA・タイプCは病気になりやすいのか

タイプA、タイプB、タイプCという性格傾向を見てきました。

かんたんにまとめると、

  • タイプAは心臓疾患にかかりやすい。
  • タイプCはがんになりやすい。

このような指摘がされているという事です。

ここからみると、タイプBが一番、健康な性格だと言う事になります。では、タイプAとタイプCはどうして心臓疾患やがんなどにかかりやすくなってしまうのでしょうか。

その原因はというと、やはり「ストレス」であると考えるべきでしょう。

短気で熱心、成功欲が強いタイプAは、自分からストレスを作り出している性格だともいう事ができます。周囲を蹴落として、敵を作ってでも前へ進み、オーバーワークなどものともせずにはたらき続けるタイプAは、過剰なストレスに我が身をさらし続ける性格です。

真面目で几帳面、自分を犠牲にして周囲を気遣うタイプCは、ストレスをため込んでしまう性格だということができます。何かを頼まれたら断ることが出来ず、周囲のために自分を犠牲し続けるタイプCは、ストレスを自分の中にどんどん溜め込む性格です。

ストレスの受け方は異なれど、どちらも過剰なストレスを受け続けている性格なのです。

一方でタイプBはというと、無理せず自分のペースで淡々と進むため、ストレスを溜めこまず、ストレスがやってきても正面から受けずに受け流すのが上手な性格でしょう。

強いストレスを長期間受ければ、こころがダメージを受けるのはみなさんご存じでしょう。しかしそれだけではないのです。ストレスに晒されればこころだけでなく身体にも様々な支障を来たすのです。

精神的ストレスが原因で身体の異常が出てしまう病気を「心身症」と呼びますが、そう考えると、タイプAで生じた心臓疾患も、タイプCで生じたがんも心身症だと言う事もできます。

3.タイプBはメンタルヘルス的にも好ましい

タイプA、タイプB、タイプCは身体疾患との関連として語られる事の多い性格です。

しかしタイプA、タイプCの方が身体疾患にかかりやすい理由が「ストレス」だとすると、これは単に身体的に悪いというだけでなく、精神的にも良くないと言えます。身体に異常を来たすほどのストレスへの暴露が精神に良いはずがないからです。

臨床で患者さんをみている経験からも、タイプAに該当するような性格傾向を持つ方は、バリバリ精力的に仕事などの活動を行っていたのに、ある時突然燃え尽きてしまうことがあります。自分では気付かないうちに過剰なストレスでこころが傷ついていき、ある日限界に達してしまうのです。

また、目標がなくなってしまった途端に燃え尽きてしまい、うつ病などを発症してしまう事があります。バリバリ仕事をしていた人が、大きなプロジェクトを達成した直後に急にうつ病を発症してしまったり、解雇や定年退職を気にうつ病になったりすることは珍しいことではありません。

またタイプCに該当するような性格傾向を持つ方は、これはうつ病になりやすい典型的な性格傾向です。実はタイプCの性格傾向は、うつ病になりやすい性格傾向である「メランコリー親和型」の性格傾向と共通するところが多いのです。

【メランコリー親和型性格傾向】

・ルールや秩序を守る、几帳面
・自分に厳しく、完璧主義、責任感が強い
・他者に対しては律儀で誠実。衝突や摩擦を避ける

などといった性格傾向のこと。その根本にあるのは「秩序志向性」であると考えられている。

反対に、ストレスを無理に溜め込まず、自分のペースで生活をしているタイプBは、精神衛生上も推奨される性格だと考えられます。実際、タイプBのような性格傾向の方はあまり精神科・心療内科で見かけることはありません。

4.タイプA・タイプCに該当する方はどうすればいいのか?

性格というものは、長年かけて形成されてきたものですから、そう簡単に変える事は出来ません。絶対に変えられないという事ではありませんが、性格を変えるには長い地道な努力と覚悟が必要でしょう。

ではタイプA、タイプCに当てはまる人は諦めるしかないのでしょうか。

そんな事はありません。

性格の全てを変える必要などありません。

自分の性格傾向には、ある疾患にかかりやすくなるというリスクがあるのだということを理解し、その上で、改善できそうなところだけでも少しずつ時間をかけて改善していけばいいのです。

タイプAに該当する「短気」だという方は、「これからはもう少し、ゆっくりと考えてみよう」と意識するだけでも良いでしょう。すぐには治らないでしょうが、カッとなりそうな時に、「このままだと心臓疾患にかかるリスクが高くなるんだった」と思いだせれば、そこで少し冷静になれるかもしれません。タイプCに該当する「ストレスをため込んでしまう」方は、「このままだとガンになりやすくなってしまうかもしれない」と考え、「これからは、親に時々悩みを相談してみよう」と意識するだけでも良いのです。

無理のない、出来そうな範囲で地道にゆっくりと改善していくことが大切です。

間違えてはいけませんが、タイプAもタイプCも、その性格自体が問題だというわけではありません。

タイプAは仕事を一生懸命頑張って社会に貢献しているという良い面だってあります。タイプCは周囲を気遣っているという素晴らしい面があります。問題は性格そのものではなく、その性格が「ストレスを受けやすい」という面です。

今よりも少しでもストレスを減らせる方法がないかと考えてみることは、これから心身共に健康で過ごすためにとても意味のある事でしょう。