ストレスで生じる症状の種類と見分け方

私たちは毎日、何らかのストレスを受けています。生きている以上、ストレスと無縁でいることは出来ません。

ある程度のストレスというのは生きていく上で役に立ってくれます。適度なストレスは、必要な時に必要な力を発揮するための原動力となります。

しかしストレスが過度になってしまったり長期間続いてしまうと、今度はストレスによって心身が疲れてしまい、様々な害が出現してしまいます。

ではストレスがかかりすぎた時、私たちの心身にはどのような症状が生じるのでしょうか。今日は、ストレスで生じる症状にはどのようなものがあるのかを紹介させて頂きます。

また、自分に出ている症状が「ストレスが原因なのか?」「あるいはそれ以外の原因があるのか?」が分からない時、その症状がストレスによるものなのかそれ以外の原因によるものなのかを見分けるためにはどのような方法があるのかも考えてみましょう。

1.ストレスではあらゆる症状が生じる

ストレスで生じる症状というのは、非常に多岐に渡ります。

極論を言ってしまえば、「あらゆる症状はストレスで生じうる」と言っても良いくらいです。

何故ならばストレス症状の原因である「ストレスホルモン」と「自律神経系」は、これらは全身に分布し、全身に作用するからです。

過度なストレスを受けると、私たちの身体では、

  • ホルモンバランス(特に副腎皮質ホルモン)の乱れ
  • 自律神経系の乱れ

という変化が生じます。

ストレスが生じると、主に副腎皮質から分泌される「コルチゾール」の量が増えます。コルチゾールは俗に「ストレスホルモン」とも呼ばれており、身体がストレス因と闘う体制を作るホルモンになります。具体的には血圧を上げたり、血糖値を高めたり、炎症反応を抑えて痛みを感じにくくさせたりする作用があります。

またストレスは自律神経のうち、緊張・興奮の神経である「交感神経」を活性化させます。交感神経が活性化すると、瞳孔は開き、呼吸や脈拍は早くなり、全身の筋肉は緊張します。

分泌されたコルチゾールは血液に乗って全身をめぐります。そして自律神経も全身のあらゆる臓器・器官に分布しています。そのため、過度のストレスによって自律神経のバランスが崩れると全身のあらゆる症状が生じてしまうのです。

そのため、ストレスによって生じる症状を挙げようとすると、膨大な数の症状を羅列することになってしまいます。これでは非常に分かりにくいですよね。

しかし、ストレスによる症状は大きく分類すると、

  • 身体的な症状
  • 精神的な症状
  • 行動面での症状

の3つに分けることができます。

この3つに分けて考えると理解しやすくなります。

2.ストレスで生じる身体的な症状

まずはストレスで生じる身体的な症状について紹介します。

強すぎるストレスであったり、弱くても長期間にわたるストレスが続いていると、過剰なストレスホルモンや自律神経の乱れによって次のような症状が生じます。

なおストレス症状は全身のいたる部位に生じるものであるため、部位別に主要な症状を挙げていきます。

【頭部】頭痛、頭重感など
【目】目の痛み、疲れ目など
【耳】耳鳴り、耳閉感など
【口】口の渇き、食べ物の味を感じにくい
【首】首の痛み、首のしれびなど
【肺】息苦しい、深く息を吸えないなど
【心臓】動悸、胸痛など
【お腹】喉の詰まり、吐き気、お腹が張った感覚、便秘、下痢、おならなど
【膀胱】頻尿、血尿、残尿感など
【皮膚】寝汗、発汗、かゆみ、じんましんなど
【四肢】手足のしびれ、脱力感、異常な感覚、冷えなど
【全身】だるさ、めまい、ふらつき、眠気、微熱など

このようにストレスによって全身にあらゆる症状が起こりうるのです。

ちなみに過度のストレスが原因でこのように身体の異常が生じる病気を「心身症」と呼びます。

例えば、食生活の悪さによって胃潰瘍になった場合は心身症ではありませんが、ストレスで胃潰瘍になった場合は心身症になります。あるいはばい菌の感染によって皮膚に発疹が生じた場合は心身症ではありませんが、ストレスによって皮膚に発疹が生じた場合は心身症になります。

似たような用語で「身体表現性障害」という疾患もあります。これはストレスによって身体に上記のような症状が生じているけども、検査をしても内科的には何も異常を認めないものを言います。例えば、ストレスで胃が痛くなって、実際に胃カメラで胃潰瘍が見つかれば「心身症」になりますが、胃痛はあるけども胃を検査しても何の異常もない場合は「身体表現性障害」になります。

3.ストレスで生じる精神的な症状

次にストレスで生じる精神的な症状について紹介します。

精神的な症状も、身体症状と同じように過剰なストレスホルモンや自律神経の乱れによって生じると考えられます。

多量のストレスホルモン(コルチゾール)は脳を損傷させることが分かっています(これを神経毒性と呼びます)。実際、大量のコルチゾールに晒されると、脳の海馬という部位の体積が減少することが動物実験において確認されています。

過度のストレスは次のような精神症状を起こすこともあります。

・気持ちの落ち込み
・何も楽しいと思えなくなる
・集中出来ない、簡単なことも覚えられない
・ミスが多くなる
・何もやる気になれない
・わけもなく悲しい・さみしい
・小さなことが不安で仕方なくなる
・イライラする
・絶望感、無力感
・自分に何の価値もないと感じる
・死にたいと考えるようになる

このようにストレスでもあらゆる精神症状が生じえます。

ちなみにストレス因に適応できずに上記のような症状を起こしてしまう疾患に「適応障害」があります。また「うつ病」もストレスによって発症することが少なくありません。パニック障害、社会不安障害、全般性不安障害などの不安障害、統合失調症、双極性障害などもストレスが発症の一因になることがあります。

4、ストレスで生じる行動面の症状

最後にストレスで生じる行動面の症状について紹介します。

行動面の症状は、身体症状や精神症状と異なり、ストレスホルモンや自律神経の乱れが直接の原因になるわけではありません。前項の精神症状が生じたことにより、精神不安定から生じたり、精神不安定を乗り切ろうとして認められるものになります。

  • アルコール依存
  • 薬物依存、危険ドラッグなどへの依存
  • 買い物依存、ギャンブル依存
  • 危険行動(暴走運転や信号無視など)
  • ストレス食いと自己誘発性嘔吐
  • 性的逸脱行動(痴漢、盗撮、不特定多数との性行為など)
  • 暴言、暴力、喧嘩など
  • 自傷行為、自殺

過度のストレスを受け続けると、何かに依存することでその辛さから逃れようとすることがあります。しかし依存は一時の快楽が得られる代償として、将来に大きな苦しみ負うこととなります。また一旦何かに対して依存状態となってしまうとそこから抜け出すのは非常に大変です。

ストレスをどうやって発散していいかわからず、危険行動や暴力などによって発散してしまうこともあります。これも一瞬だけ気持ちはすっきりするかもしれませんが、その代償として人生を棒に振ってしまう可能性のある危険なものです。

5.その症状の原因がストレスなのかどうかを見分ける方法はあるのか

ここまでストレスで生じる可能性のある症状を見てきました。ここで紹介したのは一例に過ぎず、実際はあらゆる症状がストレスで生じる可能性があります。

このようにストレスはあらゆる症状を引き起こしてしまうため、臨床現場ではしばしば困ることがあります。それは、ある症状が生じた時、それがストレスによるものなのか、あるいはストレス以外が原因なのかをどのように判断したらいいのか、ということです。実際これで悩んでいる方は非常に多いように感じられます。

例えば「最近、動悸がひどい」いう症状があったとします。動悸はもちろんストレスでも生じる可能性のある症状です。しかし一方で心臓に異常があり、それによる不整脈だという可能性だってあるわけです。この場合、まずは精神科・心療内科に行くべきなのでしょうか、それとも循環器科にいくべきなのでしょうか。その判断はどのように考えたらいいのでしょうか。

何かストレスに感じるようなことがある時だけ明らかに動悸がひどくなる、という事が明確であれば、精神科・心療内科を受診して問題ありません。あるいは反対に、明らかにストレスと無関係に動悸が生じているということであれば、循環器内科を受診して良いでしょう。

しかし実際は、このようにはっきりと区別できることばかりではありません。「ストレスが関係している気もするけど、ストレスがかかっていない時も起こることもある」などと言うように「どっちとも言えない」という状況もあります。

ストレスを全く感じずに生きている人はいません。生きていれば何かしらのストレスを抱えながら生きているのが普通です。そのため、何か困る症状があるとき「それはストレスで悪くなりますか?」と聞かれると、「悪くなるような気もするし、悪くならないような気もする・・・」という「どっちとも言えない」という状況になってしまうことは多くあります。

このような場合、どのように原因を判断すればいいのでしょうか。

Ⅰ.両者を完璧に見分けることは難しい

いきなり見分け方をあきらめてしまうような回答で申し訳ありませんが、これらを完璧に見分けることは困難です。

というのも「受けているストレス」というのは数値化できるものではないからです。更に同じストレスであっても受ける人によってその感じ方は全く異なります。そのため、「どのくらいのストレスを受けてその症状が出ているのか」という判断は極めてあいまいなものになってしまいます。そしてストレスの程度があいまいである以上、それによって生じている症状かどうかというのも必然的にあいまいになってしまうのです。

また日常生活において、ストレスが全く無いという方はいません。誰もが何らかのストレスを日々受けているものです。つまり、「最近ストレスがありましたか?」という質問は、厳密に答えれば誰もが「はい、ありました」となるわけです。常に私たちはストレスに晒されているため、「ストレスが原因ではない」と断言することは難しいのです。

更に言えば、ストレスが原因か、それ以外が原因かというのは、必ずどちらかに原因を分けられるものではありません。両者が合わさっている場合も多々あります。

例えば先ほどの動悸の例で言っても、心臓に問題があって動悸が出ているのか、それともストレスによって動悸が出ているのか、というのは必ずどちらかになるとは限りません。「心臓に原因があるけども、多少ストレスも関わっている」というケースもあるだろうし、「ストレスが原因のほとんどだろうけど、心臓の問題も多少ある」というケースもあるでしょう。

このような理由のため、両者を必ず見分けることが出来る、とは言えないと考えた方が良いでしょう。

Ⅱ.まずは身体疾患を除外から

しかしそうはいっても、ある症状で苦しんでいる場合には、できる限り正確な原因を突き止めたいものです。原因がはっきりしないと適切な治療は行えません。

「ストレスが原因なのか」「それ以外(身体疾患)が原因なのか」が自分でははっきりと分からないようであれば、まずすべきなのは後者(それ以外の原因)の除外をすることになります。先ほどの動悸の例でいえば、「精神科・心療内科に行くべきか」「循環器内科に行くべきか」で迷っていたら、まずは循環器内科に行くべきなのです。

なぜならば、身体疾患の方が診察や検査などである程度明確に病気の有無を診ることが出来るからです。動悸であれば、聴診、心電図、心臓超音波検査、血液検査などを行えば、心臓に異常があるのかどうかがある程度の精度で分かります。

その結果心臓に動悸を起こしうる異常があった場合は、「心臓が問題である可能性が高い」と言うことが出来るのでしょう。もし心臓に動悸が生じるような大きな異常がなければ「ストレスが原因かもしれない」と考えられるため、そこで精神科・心療内科の受診をすればいいのです。

これが逆になってしまうと、見分けが困難になります。明らかにストレスに関連している動悸であれば、最初から精神科・心療内科でいいのですが、判断に迷うようなケースで最初から精神科・心療内科に行ってしまうと原因が特定しにくくなります。身体疾患の検査と比べるとストレスは数値化ができません。熟練した医師が診察すれば、「この動悸はストレスによるものだと思う」ということは言えるでしょうが、身体疾患の検査と比べると検査所見などの根拠が乏しくなるため、精度はどうしても落ちてしまいます。

「ストレスが原因なのか」「それ以外が原因なのか」がはっきりと分からず、迷うようなケースではまずは身体疾患の除外から行いましょう。

Ⅲ.ストレス因と症状の関連性を記録してみる

「その症状がストレスによって生じているのかどうか」というのはやはりストレスのかかり具合と症状の出現具合の関連性をみるのが一番確実です。

これは本人にしか分かりません。そのため本人がどれだけ正確にストレスと症状の関連を評価しているかが、両者を見分けるカギとなります。

しかし診察室で「動悸とストレスとの関連はどうですか?」と医師に聞かれたとき、ほとんどの患者さんは自分のあいまいな記憶を元に「そういえばストレスと関連しているかもなぁ」くらいの精度で答えてしまいます。これは精度の高い評価とは言えません。

いきなり聞かれるわけですから、精度の低い回答になってしまうのは仕方のないことなのですが、実はここをより正確に評価すると両者を見分ける精度は格段に上がります。

この場合、「記憶」というあいまいなものを頼ってはいけません。人間の記憶というのは結構あいまいでいい加減なものです。

記憶ではなく、「記録」をとるようにしましょう。

面倒かもしれませんが、その日のストレス因と症状の関連を毎日記録するようにしてみましょう。そのとき、おおよそでもいいので受けたストレスの強さ・生じた症状の強さも10段階で記入しておくとなお良いでしょう。

例えば、

10月12日 お客さんから怒鳴られる(ストレスの強さ8)  動悸(症状の強さ7)
10月13日 特にストレス因なし(ストレスの強さ0) 動悸(症状の強さ2)
10月14日 親と口論(ストレスの強さ4) 動悸(症状の強さ0)

このような記録を最低2週間、できれば1~2カ月続け、ストレスの強さと症状の強さの関連性をグラフなどにして客観的に評価してみましょう。すると、高い精度で「ストレスが原因なのかどうか」が分かるでしょう。