月経前気分不快障害(PMDD)とはどのような病気なのか?

月経前気分不快障害、PMDDについて

月経の前というのは、いつもより気持ちが不安定になりやすいものです。いつもより落ち込みやすくなったり、些細なことでイライラしてしまったり、涙もろくなってしまったりという方も多いでしょう。これは女性ホルモンの変動が原因だと考えられています。生理的な変化のため、ある程度このような症状が出てしまうのか仕方がないところがあります。

このように月経前に気分が不安定になってしまっても、正常内のものであれば自分自身で上手に工夫し、みなさん何とか対処できています。

しかし中には、月経の度に気分が激しく崩れてしまう方もいます。月経の度に耐えきれないほどの気分の不調が出現するのであれば、もしかしたらそれは通常の変化なのではなく、「月経前気分不快障害(PMDD)」なのかもしれません。

近年「月経前症候群(PMS)」が世間によく知られるようになりました。PMSは月経が始まる前の時期になると様々な身体症状や精神症状が出現する状態を言います。PMSも症状が重い場合は病院で治療が行われることもあります。しかし、PMSのような症状を主訴に病院を受診する方の中には、PMSではなくPMDDだったという方もいらっしゃいます。

PMSとPMDD、この2つは一見似たような疾患ですが、実は異なる疾患なのです。治療法も異なります。

そのため自分の月経前の変化が正常内のものなのか、PMSなのか、それともPMDDなのかを判別することは大切なことになります。

今日は月経前に気分不安定が出現する状態のうち、月経前気分不快障害(PMDD)について詳しく紹介します。

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1.月経前気分不快障害(PMDD)とは?

まずは月経前気分不快障害(PMDD)とは、どのような疾患なのかを紹介いたします。

PMDDを簡単に言ってしまえば、

月経の度に、その1週間ほど前から日常生活に支障をきたすほどに精神状態が悪化する疾患

だと言えます。更にこの症状は、月経が始まれば数日で速やかに改善してしまうという特徴もあります。

PMDDは月経の周期に連動して生じる疾患であり、女性特有の疾患となります。その有病率は生殖可能年齢の女性の方のうち、3~8%になると報告されており、決して頻度の少ない疾患ではありません。

PMDDはなぜ生じるのでしょうか。

実はPMDDが生じる原因というのはよく分かっていません。月経と明らかに関連があるため、エストロゲン・プロゲステロンといった女性ホルモンの影響があるのは確かですが、どのような影響があるとPMSになって、どのような影響があるとPMDDになるのかというのは分かっていないのです。

発症時はうつ病と似たような症状が現れることから、セロトニンなどの影響も考えられますが、これも詳しくは分かっていません。

しかしPMDDにはセロトニンを増やす作用を持つ抗うつ剤(SSRIなど)や、女性ホルモンに影響を与えるピルなどが効くため、これらの物質が関係しているのは間違いないでしょう。

2.PMDDの3つの特徴

月経前気分不快障害(PMDD)という疾患にはいくつかの特徴があります。PMDDはしばしば他の病気との区別がつきにくいことがあります。月経周期と連動するという点ではPMSと区別がつきにくいですし、精神症状だけを見ればうつ病や双極性障害とも区別がつきにくいこともあります。

このような時、PMDDかどうかを判断するには、3つのポイントがあります。

Ⅰ.月経周期と連動して症状が出現する

まず1つ目に、PMDDは月経周期と連動して精神状態が悪化する疾患だという事です。典型的な例としてはPMDDの症状は、月経が始まる1週間ほど前から悪化し、月経がはじまると速やかに改善していきます。

PMDDは症状だけ見ると「うつ病」の症状によく似ているのですが、「月経周期と連動している」というのが違いになります。また「正常⇔精神状態悪化」というサイクルを繰り返すため「双極性障害(躁うつ病)」とも間違われることがありますが、これも月経周期との連動を確認すれば見極めることが可能です。

1~2週間程度で自然と改善していくため、症状が続く期間としては長くはありません。しかし月経のサイクルと連動しているため、周期的に繰り返される疾患であり、患者さんの苦痛は非常に大きいものとなります。

Ⅱ.精神症状が主である

2つ目に、PMDDは主に精神状態の悪化が主症状になります。

PMDDと似た疾患であるPMS(月経前症候群)は、精神症状のみならず身体症状も出現します。PMSで生じる身体症状は多岐にわたりますが、頭痛、吐き気、めまい、倦怠感、体熱感、お腹の張り、皮膚の荒れなどなど、様々な症状が出現します。

対してPMDDは精神症状のみが出現するという特徴があります。PMDDとPMSは「月経周期と連動している」という点は共通しているのですが、出現する症状が異なるのです。

Ⅲ.生活に支障を来たす程度にまで悪化する

最後にPMDDは「生活に支障をきたすレベル」の悪化が認められます。

正常の月経前の精神状態の変化であったり、PMSに伴う精神状態の変化というのは、通常生活に支障をきたすレベルにまでは悪化しません。しかしPMDDは「つらくで仕事や学校に行けなくなる」「つらくて必要な外出が出来なくなる」など、本人の生活に支障をきたすレベルまで悪化してしまいます。

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3.月経前気分不快障害(PMDD)と月経前症候群(PMS)は何が違うのか

月経前気分不快障害(PMDD)と月経前症候群(PMS)は混同されやすい疾患です。両者を同じ疾患だと思っていた方も多いのではないでしょうか。

どちらも月経の周期に関連して繰り返し生じる疾患だというのは確かに同じです。しかし両者は別の疾患だと考えなければいけません。

ではPMSとPMDDは何が違うのでしょうか。

両者の違いを紹介します。

Ⅰ.症状の種類が異なる

PMSとPMDDは症状が異なります。

簡単に言えば、身体症状・精神症状などあらゆる症状が生じるのがPMSです。そして主に精神症状に限局されるのがPMDDになります。

Ⅱ.症状の重さが異なる

PMSとPMDDは症状の重さも異なります。

PMSもつらい疾患なのですが、PMSは精神症状に限ればほとんどが軽症にとどまり、生活には大きな支障を来さないレベルとなります。一方でPMDDは「生活に支障をきたす」レベルまで精神症状が悪化します。

生活に支障をきたすレベル、というのは具体的にいうと、「その人にとって必要な活動ができなくなってしまう」程度だと考えてください。例えば学生だったら学校に行けなくなってしまったり、社会人であれば出社できなくなってしまったり、主婦であればすべきはずの家事が出来なくなってしまうなどの状態を指します。

Ⅲ.症状が始まる時期が異なる

これは個人差もあり、必ず当てはまるというものではありませんが、PMSとPMDDは症状が出現する時期に違いがあります。

PMSは月経の直前から症状を認めることが多いです。具体的には月経の2~3日前から症状を認め始めます。一方でPMDDはというと、月経の1週間(長い場合だと2週間)前から症状が出現しはじめます。一般的にPMDDの方が期間が長いのです。

4.PMDDの診断基準

実はPMDDには診断基準があります。

アメリカ精神医学会が発刊しているDSM-5という診断基準において、PMDDは「抑うつ症候群(うつ病圏)」の一型だという位置づけになっています。

ここでは診断基準をかみ砕いて紹介したいと思います。

次のすべての項目を満たした場合、PMDDと診断されるという事になります(詳しくは原文をお読みください)。

・ほとんどの月経周期で、月経開始最終週に下記の5つ以上の症状が認められる。

・月経がはじまると数日以内に症状は軽快し、月経終了の週には症状は消失する。

・次のような症状が1つ以上ある
(1)著しく感情が不安定(突然悲しくなる、涙もろくなる、嫌われたり拒絶されることに敏感になるなど)
(2)著しいいらだたしさ、怒り、対人関係での喧嘩が多くなる
(3)著しい気分の落ち込み、絶望感、自己嫌悪
(4)著しい不安、緊張

・次のような症状が1つ以上あり、前項の症状と合わせると5つ以上になる
(1)仕事、学校などの必要な活動に対して、興味が低下する
(2)集中力が落ちていると感じる
(3)だるい、疲れやすい、または気力が著しく低下している
(4)食欲が著しく変化している(過食だったり、特定の食べ物を欲するようになる)
(5)過眠または不眠
(6)圧倒される、または自分を制御不能だと感じる
(7)身体症状(胸の張り、関節痛・筋肉痛、膨満感、体重増加など)

・これらの症状によって生活に支障が生じている(仕事に行けないなど)

・他の疾患による症状ではない。また薬物を摂取したことによる症状ではない。

おおまかですが、このような基準を満たすとPMDDと診断されます。

PMDDは症状だけを見るとうつ病と共通する症状が多いのですが、うつ病の中でも「非定型うつ病」に似た症状を認めやすい傾向があります。

具体的には、不眠よりも過眠が多くなり、食欲低下よりも過食の頻度が多くなります。また対人関係のトラブル(口論、喧嘩などが多くなってしまう)なども認めることがあります。

5.月経前気分不快障害(PMDD)の治療法

PMDDはどのように治療していけばいいでしょうか。PMDDの治療について紹介します。

Ⅰ.生活習慣の改善

PMDDの詳しい原因は不明ですが、女性ホルモンやセロトニンが関わっていることはほぼ間違いありません。そのためホルモンバランスを崩すような生活習慣をしているのであれば、生活習慣の改善がまずすべきことになります。

当たり前のような事ばかりですが、

  • 食事を規則正しく、バランス良くとる
  • 夜はしっかり眠る
  • 適度に身体を動かす
  • 適度に日光を浴びる
  • ゆっくり入浴する

このような生活習慣を意識するようにしましょう。

しかし生活に大きな支障をきたすレベルのPMDDになってしまうと、このような生活習慣が送れなくなってしまうこともあります。頭では「3食食べなきゃ」「身体を動かさなきゃ」と思っていても、あまりに症状が重い場合は出来ないこともあります。

これは仕方がないことでしょう。どうしても生活習慣の改善が出来ない時は、次の項の薬物療法が検討されます。

とないっても出来る範囲で良いので生活習慣を正すことは、PMDDの治療において重要なことです。

Ⅱ.薬物療法

PMDDの多くは、日常生活に支障をきたしている状態になってしまっているため、お薬の力も借りて治療を行う必要があります。

具体的には次のようなお薬が検討されます。

【抗うつ剤】
抗うつ剤はPMDDの治療においてまず検討されるお薬です。抗うつ剤の中でもセロトニンを増やす作用に優れるSSRIが使われることが多く、更にSSRIの中でも女性に効果が高いと報告のある「ジェイゾロフト(セルトラリン)」や「レクサプロ(エスシタロプラム)」がよく用いられます(「性別で異なる、抗うつ剤の効き」参照)。

PMDDは常の症状があるわけではなく、月経がはじまると比較的速やかに症状が改善するため、「お薬は症状がひどいときだけ飲めばいいのか、それともずっと飲んでおいた方がいいのか」という事をよく患者さんから質問されます。

通常、抗うつ剤というのは毎日飲み続けないと効果が現れません。だいたい2週間ほど服薬を続けると効果が出始めるというお薬であるため、このような特徴を考えると、ずっと飲んでおいた方が良いといえるでしょう。PMDDは1サイクルの期間は1~2週間程度であるため、症状が出てから服薬を始めても、効果が現れるころにはすでに症状が治まっている可能性が高いからです。そう考えると、症状が出る時だけ飲むというのはあまり推奨される方法ではありません。

しかし症状がひどい時だけ服薬するという方法でも効果があるという方もいらっしゃいます。これがプラセボ効果(お薬を飲んだ安心感で良くなっているという事)なのかどうかは分かりませんが、ずっと服薬を続けることに抵抗のある方は主治医と相談のうえ、主治医の許可が出れば試してみてもよいかもしれません。

【ピル(経口避妊薬)】
経口避妊薬も時にPMDDの治療に用いられます。この場合、できれば産婦人科にて治療を受けた方が良いでしょう。

【漢方薬】
漢方薬もPMDDの治療に用いられることがあります。

患者さんの証や状態によって用いられるお薬は異なりますが、

  • 加味逍遥散
  • 当帰芍薬散
  • 桂枝茯苓丸
  • 桃核承気湯

などが用いられることがあります。

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