パロキセチンの効果・特徴

パロキセチンは、「パキシル」という抗うつ剤のジェネリック医薬品になります。

ジェネリック医薬品は「後発医薬品」とも呼ばれ、先発品(パキシル)の特許が切れた後に他の製薬会社から発売された先発品と同じ主成分からなるお薬の事です。

ジェネリック医薬品は先発品と同様の効能を有しながら、お薬の開発費がかかっていないため、薬価が安くなっているというメリットがあります。医療費削減のため、ジェネリック医薬品は近年、国からも積極的に推奨されています。

パキシルは優れた抗うつ剤ですが、その薬価は決して安くはありません。そのため同じ効能でより安価で処方してもらえるパロキセチンは、患者さんの経済的負担を軽減してくれるお薬です。

ここでは、パキシルのジェネリックであるパロキセチンについて説明させていただきます。

1.パロキセチンの特徴

まずはパロキセチンという抗うつ剤の全体的な特徴について紹介します。

パロキセチンは、「パキシル」という抗うつ剤のジェネリック医薬品になります。

主にセロトニンを増やす事で気分の改善を図る抗うつ剤で、SSRIという種類に属します。

良い意味でも悪い意味でも「強い」「キレの良い」抗うつ剤で、抗うつ作用や抗不安作用がしっかりしている一方で副作用に注意も必要です。

パロキセチンは、2000年から発売されている抗うつ剤である「パキシル」のジェネリック医薬品になります。

その主成分はパキシルと同じであり、パキシルと同等の効果・効能が期待できます。更にジェネリック医薬品の利点として、先発品(パキシル)に比べて薬価が安いという点があります。

「パキシルの服用を続けたいけど、薬価が高くて・・・」という方にはぜひ試していただきたい抗うつ剤です。

パロキセチンは「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」という種類の抗うつ剤になります。SSRIは神経間に分泌されたセロトニンが再取り込み(吸収)されてしまうのを抑えるお薬です。

セロトニンは神経伝達物質の1つで、神経から神経に情報を伝える役割があります。神経伝達物質の中でもセロトニンは主に「気分」の情報を伝え、落ち込みや不安に関係していると考えられています。

うつ病ではこのセロトニンの神経間への分泌が低下している可能性が指摘されています。

セロトニンを吸収されにくくすれば、セロトニンは長く神経間にとどまるため神経の通りが改善され、気分の不調も改善されるというのがパキシルをはじめとしたSSRIの効き方になります。

パロキセチンもSSRIですので、上記のようにセロトニンの再取り込みを阻害し、神経間のセロトニン濃度を高めます。SSRIにも何種類かのお薬がありますが、その中でパロキセチンは「良くも悪くもキレが鋭い」お薬になります。

効果は強いため、パロキセチンのおかげで症状が改善したという方も少なくありません。一方で、効果が強い分だけ副作用の問題も生じやすいのが欠点です。

効果としてはセロトニンを増やす作用に優れるため、うつ症状の中でも、

  • 落ち込み
  • 不安

の改善に優れます。

特に不安の改善には定評があり、不安障害(パニック障害や社会不安障害など)・強迫性障害への治療薬としてもよく用いられています。

副作用としては、

などが代表的なものです。特に体重増加はSSRIの中では目立ち、とりわけ体重増加を気にされる女性にはパロキセチンは不評です。

パロキセチンを内服している女性患者さんから、「うつ症状は確かに良くなりました。でも、今度は体重が〇〇kg増えて落ち込んでます・・・」と言われてしまった事もあります。

落ち込みを改善させるためにパロキセチンを使ったのにこれでは本末転倒になってしまい、難しいところです。太ることへの抵抗が強い方には、このような理由からパロキセチンは使いにくいところもあります。

また、副作用の多さから妊婦さんに使用しずらいという面があります。

FDA(米国食品医薬品局)の見解では、パロキセチン以外のSSRIの妊婦さんへの使用は「C:危険性を否定することができない」という位置づけになっていますが、パロキセチンのみ一段階上の「D:危険性を示す確かな証拠がある」になっています。

そのため妊婦さんがもしSSRIを服用しないといけない時は、パロキセチン以外のSSRIを選択する事が推奨されます(もちろん服用を中止できるのであればそれが一番です)。

パロキセチンは離脱症状も生じやすいお薬です。

離脱症状とは、お薬を減薬・中断した時、その反動で生じる症状のことです。お薬の血中濃度が急激に下がる事によって身体がバランスを崩してしまい生じると考えられています。

離脱症状では、めまいや動悸、耳鳴り、ふらつき、しびれなどの身体症状の他、イライラ感や不安感などの精神症状も認められます。

パロキセチンは他のSSRIに比べて離脱症状が起きやすく、「病気が改善してきたから減薬しよう」という時に減薬に苦労することがあります。また自己判断で「そろそろ飲むのをやめてもいいだろう」と急に中止してしまって離脱症状が出てしまい、「もうこの薬を止められないのか・・・」とショックを受ける患者さんもいらっしゃいます。

減薬すると離脱症状が出やすい。これが「パロキセチンを一回飲み始めるとやめられなくなる」と言われる原因です。

ただしパロキセチンに離脱症状が多いのは事実ですが、「一回飲み始めたらやめられない」というのは誤解です。急激な減薬・断薬が離脱症状を引き起こすのであって、医師と相談して正しい手順で減薬すれば、必ず減らしていく事は出来ます。

以上から、パロキセチンの特徴として次のようなことが挙げられます。

【パロキセチンの特徴】 ・パキシルのジェネリック医薬品であり、薬価が安い
・SSRIに属し、セロトニンを増やす事でうつ・不安症状を改善させる
・SSRIの中で効果は強く、うつや不安をしっかりと改善させてくれる
・副作用が他のSSRIと比べると多め(三環系よりは少ない)
・特に離脱症状は他のSSRIと比べて多い
・妊婦さんには使いずらい

2.パロキセチンは本当にパキシルと同じ効果があるのか?

ジェネリック医薬品の使用をためらう大きな理由の1つとして、「本当に先発品と同じ効果が得られるの?」という不安があるかと思います。

ほとんどのジェネリック医薬品は先発品と比べると薬価が安くなっています。もちろんこれは良い事なのですが、「安いという事は質が悪いのでは・・・」と考えてしまう方もいらっしゃいます。

では実際、ジェネリック医薬品は先発品と比べて本当に同じ効果・効能が得られるのでしょうか。

臨床の感覚としてはパキシルとパロキセチンはほとんどのケースで同等の効果・効能を発揮してくれます。

ジェネリック医薬品であるパロキセチンは、「このお薬は先発品(パキシル)と同じ効能がありますよ」という事を証明した試験(生物学的同等性試験)をしないと発売が許可されません。その試験を合格しているという事は、少なくとも大きな効能の違いはないという事が証明されています。

またジェネリック医薬品の薬価が安いのは、品質が悪いからではありません。ジェネリック医薬品にはお薬の開発費や研究費がほとんどかからないためで、その分が差し引かれているのです。

新しいお薬を開発するには、有効な成分を探すための費用や、その有効性を調べるための費用など多額のお金がかかります。しかしジェネリック医薬品は元々ある成分を使って作るお薬ですから、これらの開発費がほとんどかかりません。

その分価格が割り引かれているのであり、決して品質が悪いから安くなっているわけではないのです。

このような事から、ジェネリック医薬品は薬価は先発品よりも安いけど、先発品と同等の品質であり同等の効能を有すると考えてよいでしょう。

しかし中には、パキシルからパロキセチンに変更したら調子を崩してしまった、というケースもあります。これはどうしてでしょうか。

この原因としては2つの可能性が考えられます。

まず1つ目が「心理的な原因」です。

ジェネリック医薬品であるパロキセチンに切り替えたことで、「ジェネリックって何だか心配・・・」「ジェネリックを使って本当に大丈夫だろうか・・・」といった気持ちが生じている場合、このようなマイナスの感情から、実際に悪い作用が生じてしまう事があります。

これは「ノセボ効果」と呼ばれます。

【ノセボ効果】

全く効果のないお薬を服用しても、そのお薬に悪いイメージを持って服用すれば、思い込みのよって悪い副作用が生じてしまう現象

うつ病をはじめとした精神疾患は「こころの病気」ですから、心理的要因は大きく影響し、ノセボ効果が他の科のお薬よりも生じやすい傾向にあります。

マイナスの感情を持ちながらお薬を服用していると、実際にマイナスの作用が生じてしまう事は十分にありうるのです。

ここから言えることは、ジェネリックへ切り替える事にどうしても心配があるという方は無理してジェネリックに切り替えない方がいい事もあります。

ジェネリックへの切り替えはあくまでも「薬価が安くなるなら」など、自分がメリットを感じられる場合にのみ行うようにしましょう。

ジェネリック医薬品によって仮に薬価が安くなって医療費が削減できたとしても、それでノセボ効果が出てしまい病気が悪化したら、結局治療期間が長くなってしまい医療費削減になりません。そのような場合は先発品のまま治療をした方が良い事もあるのです。

そしてもう1つの原因が、ジェネリック医薬品そのものに原因があるケースです。

先発品とジェネリック医薬品は同じ主成分からなるお薬ですが、同じなのはあくまでも主成分だけで、その他の添加物の成分は異なる場合があります。

そして人によってはこの添加物の違いによってお薬の効果に差が出てしまう事があるのです。

これは精神科のお薬だと分かりにくいのですが、例えば降圧剤(血圧を下げるお薬)などではよくわかります。例えば先発品からジェネリック医薬品の降圧剤に変更したら、血圧が上がってしまったというケースもたまにあります。

ほとんどのケース(体感では95%以上)において先発品とジェネリックは同じ効果が期待できると言って問題ありません。しかし、中には切り替える事で効果・効能に違いが生じる事もあるという事は知っておきましょう。

3.パロキセチンの作用機序

パロキセチンはどのような機序によってうつ病や不安障害を改善させてくれるのでしょうか。

パロキセチンは、SSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤です。SSRIとは「Selective Serotonin Reuptake Inhibitor」の略で、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」という意味です。

難しい名前ですが、簡単に言うと、

セロトニンを増やすお薬

だと考えて頂いて構いません。

セロトニンは神経伝達物質の1つです。神経伝達物質というのは、神経から神経に情報を伝える役割を持っている物質です。神経と神経の間を神経間隙(しんけいかんげき)と言いますが、神経伝達物質はこの神経間隙に分泌される事で、他の神経に情報を伝えていきます。

神経伝達物質がうまく分泌されなくなると、正しい情報が伝わらなくなるため、心身ともに様々な不調が生じます。

セロトニンは脳内においては神経伝達物質の中でも「感情」の情報を伝える神経伝達物質になります。この分泌量がおかしくなってしまう事がうつ病や不安障害発症の一因だと考えられています。

パロキセチンをはじめとしたSSRIは、神経間隙に分泌されたセロトニンが再取り込み(吸収)されないようにはたらきます。すると神経間隙に長くセロトニンが留まる事になるため、神経間隙のセロトニン濃度が上がり、情報の伝達がスムーズになるのです。

SSRIのはパロキセチン以外にも

などがあります。

どのSSRIも同じようにセロトニンの再取り込みを阻害することで神経間隙のセロトニン濃度を上げます。どれも総合的に見れば大きな差はないのですが、セロトニンを増やす力やその他の気分に影響する物質(ノルアドレナリンやドーパミンなど)を増やす力に違いがあります。

気分に影響を与える神経伝達物質はセロトニン以外にもいくつかあります。これら気分に影響する神経伝達物質はまとめて「モノアミン」と呼ばれており、

  • セロトニンは落ち込みや不安に関係する
  • ノルアドレナリンは意欲ややる気に関係する
  • ドーパミンは楽しみや快楽に関係する

と考えられています。

パロキセチンの主な作用はセロトニンを増やす事ですが、他にも「ノルアドレナリン」の再取り込みを阻害する事で意欲ややる気を改善させる作用も持つ事が報告されています。

4.パロキセチンの適応疾患

パロキセチンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。

パロキセチンは主に、

  • うつ
  • 不安

に効果を有し、これらを改善させる目的で投与されます。

パロキセチンの添付文書を見ると、適応疾患として次のような記載があります。

【効果又は効能】

うつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害

パロキセチンをはじめとしたSSRIは、神経間隙のセロトニンを増やす事で落ち込みや不安を改善する作用があります。

そのためうつ病だけでなく、適応障害や自律神経失調症などの別の原因で「うつ状態」となっている方にも適応があります。

ただし双極性障害(躁うつ病)のうつ状態への使用はあまり推奨されていません。気分を持ち上げすぎて躁状態にしてしまう可能性があるためです。

またパロキセチンは「抗不安作用」にも定評があり、パニック障害や社交不安障害といった不安障害にも効果が期待できます。同じく不安が根本的な原因の1つである「強迫性障害」に対しても有効です。

強迫性障害は難治性である事が多く、効果の強い抗うつ剤が使われる事が少なくありません。効果の強いパロキセチンは強迫性障害にも役立ちやすい抗うつ剤になります。

パロキセチンの抗不安作用はSSRIの中では一番高いと評価される事も多く、実際に私もそのように感じます。また不安、恐怖が生じている外傷後ストレス障害に使われることもあります。

5.パロキセチンの強さ

パロキセチンの強さというのはどのくらいなのでしょうか。

精神科のお薬は「精神」という可視化できない部位に作用するため、その強さを数値化する事は難しいのですが、パロキセチンは他のSSRIの中でも効果は強いお薬だと言えます。

「効果も強いけども、副作用も強い」という位置づけで扱われることが多いお薬で、うつ・不安どちらにもしっかりとした作用を示し、特に不安に対しての作用には定評があります。

しかし効果が強いという事は、副作用が出やすいということでもあります。そのためパロキセチンの適応は主治医の診察の元、慎重に判断しなくていけません。

6.年齢や性別から見たパロキセチンの使用

パロキセチンは主に成人に使用されます。

特にうつ病においては、海外で行われた臨床試験にて、18歳未満の未成年には効果が認められませんでした。そのため18歳未満の未成年への投与を検討する際は、慎重に判断するように通達されています。

臨床試験においては、SSRIの中で唯一レクサプロだけは12歳~17歳への投与で有効性を示すデータが報告されています。そのため、12~17歳の未成年にどうしてもSSRIを使用せざると得ないケースでは、レクサプロが用いられる事が多いです。

パロキセチンを未成年に絶対に使ってはいけないわけではありません。あくまでも日本ではなく海外での結果ですので、そのまま日本人に当てはまるわけではありませんし、統計的にみると効果がなかっただけであって、一人一人でみると効果を認めた症例も認めなかった症例もあったと思われるためです。

臨床ではやむを得ず未成年にSSRIを使わざるを得ないこともはありますが、パロキセチンが効果を示す例は少なからずあります。

しかし、未成年へは安易に処方しない方がいいのは真実でしょう。パロキセチンの18歳未満への投与は「どうしても、本当にやむを得ない場合」に限るべきです。また使用する際も、まずは効果が穏やかであるSSRI(ジェイゾロフトなど)から開始すべきでしょう。

パロキセチンの性別による効果の差は報告されていません。体重増加の副作用が比較的多いため、女性は服用をイヤがる事が多いため、体重増加を気にする女性に用いる際は最初に副作用のリスクをしっかりと説明するか、別のSSRIから検討した方が良いかもしれません。

7.妊婦、授乳婦へのパロキセチン投与

パロキセチンは妊婦さんへの投与は注意が必要です。

「絶対にダメではないが、できる限りやめておいた方がいい」という位置づけです。SSRIは全て妊婦には慎重投与ですが、その中でもパロキセチンは一段階、危険度が高くなっています。

パキシルの製造元であるグラクソ・スミスクライン社が発行している添付文書でも

・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤の投与を開始すること。
・本剤投与中に妊娠が判明した場合には、投与継続が治療上妥当と判断される場合以外は、投与を中止するか、代替治療を実施すること

と記載されており、やはり「絶対ダメじゃないけど出来る限り使わないでね」という内容です。

米国FDAが出している薬剤胎児危険度分類基準では、薬の胎児への危険度をA、B、C、D、×の5段階で分類しています(Aが最も安全で×が最も危険)。

パロキセチン以外のSSRIは「C」ですが、パロキセチンのみ一段階高い「D」になっています。

C:動物実験で有害作用がみられているが、ヒトでの対象試験が行われていない。あるいはヒトでも動物でも試験が行われていない
D:ヒトの胎児に対する危険性の証拠があるが、他にそれに代わる安全な薬がないか無効の場合に限り使用を承認される。

CもDも安全とは言えないことに代わりはありませんが、SSRIの中でパキシルのみ一段階危険度が高いことを考えると、妊婦の方でどうしてもSSRIが必要な方は別のお薬に変更する方が安全でしょう。

特に注意すべきなのが、胎児の器官が作られる妊娠初期です。

海外の疫学調査において、妊娠第1三半期にパロキセチンを投与された妊婦が出産した新生児では先天異常、特に心血管系異常(心室又は心房中隔欠損等)のリスクが増加した。このうち1つの調査では、一般集団における新生児の心血管系異常の発生率は約1%であるのに対し、パロキセチン曝露時の発生率は約2%と報告された。

(パキシルの添付文書より抜粋)

という記載があり、 特に妊娠初期への投与は極力控えるべきでしょう。パロキセチンと心血管異常の関係については、まだ議論中であり「因果関係はないのではないか」という意見もありますが、完全に否定されてはいません。

パロキセチンを飲んでいて万が一、奇形児が産まれてしまった時の事を考えると、妊娠中のパロキセチンの服用はしない方が無難でしょう。仮に奇形がパロキセチンのせいで生じたわけでなかったとしても、それを完全に否定できる根拠がなかった場合、「私がお薬を飲んだせいだ・・・」と母親が強い自責感にかられてしまう可能性があります。

授乳婦へはパロキセチンを投与できますが、母乳への移行が確認されています。そのためパロキセチンを使用する際は母乳栄養は中止し、人工乳に切り替えてください。母乳をあげながらのパロキセチン内服は推奨されていません。

8.パロキセチン発売までの抗うつ剤の歴史

パロキセチンのようなSSRIが発明されるまでは、抗うつ剤は「三環系抗うつ剤」と呼ばれるものが主流でした。

三環系抗うつ剤は1950年頃に開発された最古の抗うつ剤で、非常に強い抗うつ作用がありますが、非常に強い副作用もあるのが特徴です。

昔の薬であり、現在の抗うつ剤よりも作用が「雑」という印象です。体のたくさんの部位に強く作用してしまうため、強く効くものの、抗うつ作用以外の多くの副作用が問題となっていました。

  • 抗コリン作用と呼ばれる口渇、便秘、尿閉
  • α1受容体遮断による過鎮静やふらつき
  • ヒスタミン受容体刺激による体重増加

などがあり、これらの副作用で苦しむ患者さんが大勢いました。またこれらの副作用のために「落ち込みは取れたけど、副作用で何もできなくなってしまう」という事もありました。。

中でも一番の問題は心臓への副作用です。

過量服薬すると、心臓へ影響し命に関わるような不整脈が出てしまう事があります。

このような問題から、「もう少し安全な抗うつ剤ができないか」という目的で開発されたのがSSRIです。

SSRIの抗うつ効果は、三環系と比べると同等かやや劣るという印象です。しかし安全性は三環系と比べ物にならないほど高く、命に関わるほどの副作用はほとんど生じません。

抗コリン作用や眠気、ふらつき、体重増加なども三環系と比べると大分少なくなっています。

SSRIの中でも最初の方に発明されたのがパキシル(パロキセチンの先発品)です。SSRIの中ではやや荒削りで、副作用も多めですが、その作用の強さから、現在でも根強い人気があります。

9.パロキセチン導入の実例

パロキセチンは、少しずつ増やしていくお薬です。

10mgから始め、一週間以上の間隔をあけて10mgずつ増やしていきます。効果を見ながら、20mgから40mgで維持します。
(パニック障害は最大量30mgまでです)
(強迫性障害には最大量50mgまで使うこともあります)

薬の効果を感じるのには、早くても2週間はかかるでしょう。遅い方だと1ヶ月以上かかることもあります。効果はすぐには出ないのですが、困ったことに副作用は飲んでからすぐに出現します。

最初は、吐き気・胃部不快感といった消化器症状がよく出現します。そのため、あらかじめ胃薬を併用しておくこともあります。胃腸症状は初期のみ生じることが多く、数週間我慢すれば改善します。

また、まれに賦活症候群といって、内服初期に変に気分が持ち上がってしまうことがあります。気分に影響する物質が急に体内に入ったことで一過性に気分のバランスが崩れるために起こると考えられています。

イライラしたり攻撃性が高くなったり、ソワソワと落ち着かなくなったりします。一時的なことがほとんどのため、抗不安薬などを併用して様子を見ることもありますが、自傷行為をしたり他人を攻撃したりと、危険な場合はパロキセチンを中断します。

その後は、

・便秘や口渇、尿閉などの抗コリン作用
・ふらつきめまいなどのα1受容体遮断作用、
・体重増加などの5HT3刺激作用、抗ヒスタミン作用
・性機能障害などの5HT2刺激作用

などが出現することがあります。

これらの副作用は個人差も大きく、全く困らない人もいればとても苦しむ人もいます。

副作用が軽ければ様子を見ますが、ひどい場合は副作用止めとして下剤や昇圧剤などを使って対応することもあります。あまりに副作用が強すぎる場合は、パキシルを中止したり別の抗うつ剤に切り替えることもあります。

パロキセチンが効いてくると、まずはイライラや不安感といった「落ち着かない感じ」が改善します。その後に抑うつ気分が改善し、意欲ややる気などは最後に改善すると言うのが典型的な経過です(個人差があります)。

効果を十分感じれば、その量のお薬を維持しますし、効果は感じるけど不十分である場合は、増量あるいは他のお薬を併用します。

1~2ヶ月みても効果がまったく得られない場合は、別の抗うつ剤に切り替えます。

気分が安定しても、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けることが推奨されています。この時期が一番再発しやすい時期だからです。

6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、その後2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していき、治療終了となります。

以上がパロキセチンのおおまかな使用の流れになります。

実際の服用法は個人差も大きいため、主治医の指示に従うようにしてください。