ヒステリー球(咽喉頭異常感症)は、主にストレスや葛藤によって喉の違和感・異物感・詰まり感が生じる疾患です。
自律神経のバランスの崩れが原因であるため、内科で内視鏡検査などを行っても何も異常が見つかりません。
身体的な異常がないため、どう治したらいいのか分からないと悩んでしまう方もいらっしゃいますが、ヒステリー球は治療法があり、適切に治療を行えば改善させる事が可能です。
ヒステリー球の治療はどのように行われるのでしょうか。また自分で出来る対処法などはあるのでしょうか。
1.まずは自分でもできる対処法から
ヒステリー球は、ストレスや葛藤によって生じることがほとんどです。
実際に、ヒステリー球は
・不安時・緊張時
・落ち込んだ時
・精神的にショックを受けた時
・疲れている時
に発症する事が多く、これらは「ストレスを高い状態」だと言う事が出来ます。
ヒステリー球の原因がストレスだと分かっているのであれば、改善させるための対処法はあります。つまり、このようなストレスが高い状況を改善したり、回避できるように工夫すれば、自分の力でもある程度ヒステリー球を改善させることが出来るという事です。
ヒステリー球を改善させるために、自分で出来る対処法を紹介します。
どれも特別な方法ではありませんが、あなどってはいけません。一つ一つの対処法を「自分は出来ているのか」としっかり確認しながら読んでみてください。意外と、全てしっかり出来ている人というのは少ないものです。
出来ていないものがあれば、そこを重点的に改善するようにしましょう。
Ⅰ.十分な睡眠
しっかりと睡眠を取る事は、精神状態を安定させるためにとても大切な事です。
睡眠不足が続くと、それだけで精神的に不安定になり、不安やイライラ、落ち込みが強くなります。また睡眠不足だと身体の疲れも溜まってしまい、これもヒステリー球発症のリスクになります。
どのくらいの睡眠時間を取れば「十分」と言えるのかは人によって異なります。そのため「〇時間以上寝れば大丈夫」と言う事はできませんが、一般的には6~8時間くらいの睡眠時間が適正であることが多いようです(高齢になるにつれ、必要な睡眠時間は少なくなります)。
睡眠時間が4時間以下であれば、それは少ないと言っていいでしょう。何とか工夫して睡眠時間を増やすべきです。4時間以上であっても、日中に眠気を感じるようであったり、起床時に十分に疲れが取れていないと感じるようであれば、睡眠不足の可能性がありますので、睡眠時間をもう少し確保するように工夫してみてください。
また、睡眠は時間だけではなく質も大切です。
質の悪い睡眠だと、十分な睡眠時間を確保していても疲れは取れません。質の良い睡眠を取るためには、快適な睡眠を得るために意識すべき5つの寝室環境などのコラムをご覧ください。
また、睡眠コラム一覧に良質な睡眠を得るためのヒントを紹介していますので、こちらも参照下さい。
Ⅱ.適度な運動
適度な運動はヒステリー球の改善に大きく役立ちます。
その理由は、適度な運動は精神状態の安定に役立つ事、そして運動で適度な疲労を得る事によって睡眠の質が改善する事が挙げられます。適度な運動は、ストレス解消になり、気持ちを前向きにしてくれます。
運動と言っても、本格的にやる必要はありません。あくまでも治療の一環として行うわけですから、自分にとって十分な量であればそれで十分なのです。自分にとってストレスが発散できる程度の運動、自分にとって気持ちが晴れる程度の運動を意識してください。
身体機能向上のトレーニング的な運動を無理に行うと、きつさも伴うため疲れ過ぎてしまい、かえって眠りが浅くなってしまったり、ストレスが溜まったりしてしまいます。
Ⅲ.ストレスチェックと対策
ストレスが溜まりすぎていれば、ヒステリー球は発症しやすくなります。最近の自分の生活を振り返ってみましょう。ストレスが溜まってはいないでしょうか。
仕事が忙しすぎたり苦手な仕事で大きなストレスを抱えているのであれば、上司や同僚に相談して、業務量を調整してもらいましょう。何かをやり残していて、それが気になってストレスとなっているのであれば、早めに片付けてしまいましょう。人間関係のトラブルを抱えているのであれば、直接話し合ったり周囲に相談してみたりして解決をはかってみましょう。
また、誰でも生きていれば多少のストレスは受けますので、それを発散する手段を持っているのかを見直すことも大切です。
ストレスは溜めっぱなしでは必ずいつか限界が来ます。定期的にストレスを発散していますか?また発散する手段を持っていますか?定期的に趣味をする時間を確保したり、友人と会ったりする事はストレス発散にとても有効です。
ストレスを発散するためのアイディアは、一人でも簡単にできる!ストレス解消方法10選もご覧ください。
2.環境調整で治療する
ヒステリー球(咽喉頭異常感症)は、転換性障害に属する精神疾患ですので、精神科で治療を行うことが出来ます。
一般的に「治療」というとお薬が思い浮かびますが、まずはお薬以外の治療法を検討する事が重要です。
なぜならば、ヒステリー球の原因は「ストレス」だからです。ストレスを0にできるお薬なんてありません。つまり、お薬による治療というのは「その場しのぎ」という側面が少なからずあります。お薬だけの治療に頼ってしまうのは「その場しのぎの治療を続けている」だけになってしまうのです。
お薬を飲むだけで、ストレスに対する対処を何も行わなければ、いつまで経ってもヒステリー球は治りませんし、それではずっとお薬を飲み続けなくてはいけなくなります。もちろんお薬は有効ですし、お薬による治療も並行して行うことが多いのですが、「お薬任せ」という治療スタンスは危険です。
ではお薬以外の治療にはどんなものがあるでしょうか。
その人が受けているストレスによって治療法は異なりますが、明らかにストレスが多い環境である場合は治療的に環境調整をはかる事があります。
これは前項の自分で出来る対処法でもお話しましたが、治療として介入するとなると、より深く環境調整が行えます。
例えば、職場のストレスが原因なのであれば、
・診断書を書き、職場に環境調整を要請する
・職場の産業医と連携し、環境調整を要請する
なども可能となります。
3.精神療法(カウンセリング等)で治療する
お薬を使わない治療法として、環境調整と並んで有効なのが精神療法です。
精神療法とは、心理的な側面から疾患の治療を行う治療法で、「カウンセリング」というと分かりやすいかもしれません。治療者とお話をしていく中で、疾患の治療を行っていきます。
精神療法で主に扱うのは「ストレスに対する取扱い方」になります。これを上手に行えるように心理的側面から改善をはかっていきます。
例えば、ストレスを発散する方法が分からないという方であれば、治療者とお話をしていく中で自分にとってどんな方法がストレス発散として有効なのかを話し合っていきます。また、治療者に定期的に話す機会を作れる事がストレス発散になる事があります。
悪い考え方のクセがついていて、些細な事でも悪く考えてしまったり、不安に感じてしまうようであれば、認知行動療法などを取り入れ、認知の歪みを修正していく事も有効です。人間関係の構築がうまく出来ておらず、それによってストレスを抱えているのであれば対人関係療法などで、自分にとっての重要な人間関係の整理と付き合い方を学んでいく事も有効です。
どのような精神療法を用いるかは、その人の背景やストレスの種類によって異なってきますので、主治医やカウンセラーと相談しながら決めていくのが良いでしょう。
4.お薬で治療する
不安を抑えたり、気分を安定させる効果を持つお薬は、自律神経を穏やかしてくれるためヒステリー球の治療薬として有効です。
ここではヒステリー球に用いられる治療薬を紹介します。
ただし、前項でもお話したように、「お薬任せ」「お薬のみの治療」というのはヒステリー球の場合はオススメできません。確かに症状は改善しますが、根本の原因であるストレスは何も変わっていないからです。
お薬を使いながらも、ストレスとどう向き合っていくべきか、ストレスを改善させる方法はないのかというお薬以外の治療も並行して行っていきましょう。
Ⅰ.抗不安薬
「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれます。
抗不安薬の代表選手は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬と呼ばれるもので、これらは服薬する事で、
・抗不安作用(不安が和らぐ)
・催眠作用(眠くなる)
・筋弛緩作用(筋肉の緊張がほぐれる)
・抗けいれん作用(けいれんをおさえる)
といった作用が期待できます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性がある点もメリットであり、服薬して15~20分ほどで効果を感じることが出来るものもあります。そのため、ヒステリー球の症状が起きそうな時に急いで飲む、という頓服としての使い方もできます。
ベンゾジアゼピン系は長期連用していると徐々に耐性・依存性が形成されることが分かっているため、長期間服薬することは推奨されていません。あくまでも一時的な服薬に留めるべきです。
代表的な抗不安薬とその作用時間を紹介します。
抗不安薬 | 作用時間(半減期) | 最高血中濃度到達時間 |
---|---|---|
グランダキシン | 短い(1時間未満) | 約1時間 |
リーゼ | 短い(約6時間) | 約1時間 |
デパス | 短い(約6時間) | 約3時間 |
ソラナックス/コンスタン | 普通(約14時間) | 約2時間 |
ワイパックス | 普通(約12時間) | 約2時間 |
レキソタン/セニラン | 普通(約20時間) | 約1時間 |
セパゾン | 普通(11-21時間) | 2~4時間 |
セレナール | 長い(約56時間) | 約8時間 |
バランス/コントール | 長い(10-24時間) | 約3時間 |
セルシン/ホリゾン | 長い(約50時間) | 約1時間 |
リボトリール/ランドセン | 長い(約27時間) | 約2時間 |
メイラックス | 非常に長い(60-200時間) | 約1時間 |
レスタス | 非常に長い(約190時間) | 4~8時間 |
Ⅱ.漢方薬
漢方薬の中には、不安を和らげる作用に優れるものもあり、ヒステリー球の治療に有効です。即効性は乏しく、しっかりとした効果を得るためには数週間は服薬を続ける必要がありますが、副作用が少なく安全性が高いのもメリットになります。
漢方薬の中でも、ヒステリー球に有効性の高いものが半夏厚朴湯です。
半夏厚朴湯は、鎮静作用、精神安定作用、筋弛緩作用を持つため、不安を和らげて気分を落ち着かせる効果があります。また鎮吐作用、去痰作用、健胃作用を持つため、喉の違和感にも効果が期待できます。これら二つの作用から、特に「喉に何かが詰まっているような感じがする」といった神経症状に効果的な漢方薬なのです。
他にも
・柴朴湯
・柴胡加竜骨牡蛎湯
・甘麦大棗湯
などが用いられることがあります。
漢方薬は症状だけでなく、その人の「証」によっても合うものが異なるため、どの漢方薬が良いかは主治医とよく相談して下さい。
Ⅲ.抗うつ剤
抗うつ剤は、抗うつ作用の他、セロトニンの濃度を上げる事で不安を改善させる作用があります。そのため、落ち込みや不安などが原因であるヒステリー球には抗うつ剤が用いられることもあります。
抗うつ剤は抗不安薬と違って耐性や依存性はありませんが、効果が出るまでに1~2週間はかかってしまいます。そのため、治療が長期に渡りそうな場合は、抗不安薬から抗うつ剤へ薬物を切り替えていくことがあります。