イフェクサーSRの副作用とその対処法【医師が教える抗うつ剤の全て】

イフェクサーSRカプセル(一般名:ベンラファキシン)は2015年から発売されている抗うつ剤です。

海外では1993年から発売されており、現在90か国以上の国で広く用いられています。

イフェクサーはどのような副作用が生じる可能性があるのでしょうか。また副作用は多いお薬なのでしょうか、あるいは安全性の高いお薬なのでしょうか。

ここではイフェクサーの副作用とその対処法について紹介していきます。

1.イフェクサーの副作用総評

お薬には必ず副作用がつきものです。副作用のないお薬はありません。イフェクサーにも同様に副作用があります。

お薬の服用を検討するときに大切な事は、副作用を過度に怖がるのではなく、メリット(得られる効果)とデメリット(副作用)を天秤にかけて、総合的にお薬を服用する必要があるのかどうかを考える事です。

全体的に見ればイフェクサーの副作用は多くはありません。

イフェクサーはSNRIというタイプの抗うつ剤です。SNRIは神経間のセロトニンとノルアドレナリンの濃度を上げることで、抗うつ作用を発揮します。

しかし脳神経のセロトニンとノルアドレナリンだけに作用するのではなく、多少は他の部位や物質にも影響を与えてしまいます。そして、これが副作用となってしまう事があります。

抗うつ剤は種類によらず、生じうる副作用はある程度共通しています。

具体的に言うと、

  • 抗コリン症状(口渇、便秘、尿閉など)
  • ふらつき、めまい
  • 吐き気
  • 眠気、不眠
  • 性機能障害(性欲低下、勃起障害、射精障害など)
  • 体重増加

などがあります。

これらの副作用が生じる頻度を他の抗うつ剤と比較すると次の表のようになります。

抗うつ剤口渇,便秘等フラツキ吐気眠気不眠性機能障害体重増加
トリプタノール++++++±+++-++++
トフラニール+++++±++++++
アナフラニール++++++++++++
テトラミド++-++--+
デジレル/レスリン++-++-+++
リフレックス-++-+++--+++
ルボックス/デプロメール++++++++++
パキシル+++++++++++++
ジェイゾロフト±+++±+++++
レクサプロ++++±+++++
サインバルタ+±++±++++±
トレドミン+±++±+++±
ドグマチール±±-±±++

この表はあくまで目安の1つであり実際には個人差もありますが、イフェクサーは特に副作用が多い抗うつ剤ではないという事が分かるのではないでしょうか。

イフェクサーの副作用の特徴としては、

  • 全体的に副作用は少なめ
  • 服用初期の吐き気は比較的生じやすい
  • 不眠や頭痛といったノルアドレナリン系の副作用がやや多め

といった点が挙げられます。

イフェクサーに限らずSNRIはアドレナリン系であるノルアドレナリンの濃度も上げるため、これによる血圧上昇、動悸、頭痛などの身体症状やイライラや焦り・軽躁状態などの精神症状が出現する事があります。

2.イフェクサーの副作用各論

それではイフェクサーの副作用を1つずつ見ていきましょう。

抗うつ剤はどれも似たような副作用が多く認められるため、ここでは他の抗うつ剤とも比較しながら紹介していきます。

ちなみに比較する抗うつ剤としては、三環系抗うつ剤、四環系抗うつ剤、SSRI、SNRI、NaSSAなどがあります。それぞれの抗うつ剤の簡単な特徴を紹介します。

【三環系抗うつ剤】
1950年頃より使われている一番古い抗うつ剤。効果は強いが副作用も強い。重篤な副作用が生じる可能性もあるため、現在ではあまり用いられない。
商品名として、トフラニール、アナフラニール、トリプタノール、ノリトレン、アモキサンなど。

【四環系抗うつ剤】
三環系抗うつ剤の副作用を減らすために開発された抗うつ剤。副作用は少なくなったが抗うつ効果も弱い。しかし眠りを深くする作用に優れるものが多いため、睡眠を補助する目的で処方されることがある。
商品名としては、テトラミド、ルジオミールなど

【SSRI】
落ち込み・不安を改善させる「セロトニン」を集中的に増やす事で抗うつ効果を発揮するお薬。効果の良さと副作用の少なさのバランスが取れている。
商品名としては、パキシル、ジェイゾロフト(セルトラリン)、ルボックス・デプロメール、レクサプロなど

【SNRI】
セロトニンに加え、意欲を改善させる「ノルアドレナリン」も増やすことで抗うつ効果を発揮するお薬。SSRIと同じく効果の良さと副作用の少なさのバランスが取れている。
商品名としては、トレドミン、サインバルタ、イフェクサーなど。

【NaSSA】
SSRI/SNRIとは異なる機序でセロトニン・ノルアドレナリンを増やす。四環系の改良型であり、眠りを深くする作用にも優れる。効果の良さと副作用の少なさのバランスが取れている。
商品名としては、リフレックス、レメロンなど。

Ⅰ.吐き気

抗うつ剤は吐き気や胃部の不快感といった胃腸障害の副作用を生じる事があります。

これは、胃腸にもセロトニン受容体が存在するために生じます。本当は脳神経のセロトニンだけを増やしたいのですが、お薬は全身に回りますので他の部位にも効いてしまうのです。

胃腸にはセロトニン3受容体というものがあり、抗うつ剤の内服によってこの受容体が刺激されると吐き気が生じます。

イフェクサーに限らず、多くの抗うつ剤で吐き気は生じる副作用になります。

イフェクサーでもその頻度は決して低くはなく、「吐き気は起きるだろう」くらいの気持ちを持って内服を始めた方が無難です。

この胃腸系の副作用は、服用初期に出現する事が多く、長くは続かない事がほとんどです。多くのケースで1~2週間様子をみていれば、自然と改善していきます。

そのため吐き気が我慢できる程度であれば、1~2週間様子をみてみるのも手です。少しずつ吐き気が治まっていくでしょう。

我慢するのは難しいくらいの吐き気である場合は、一時的に胃薬を併用する事もあります。

用いられる事が多い胃薬としては、

  • ガスモチン(一般名:モサプリド)
  • ソロン(一般名:ソファルコン)
  • ムコスタ(一般名:レパミピド)

などの胃薬の他、

  • ガスター(一般名:ファモチジン)
  • タケプロン(一般名:ランソプラゾール)
  • ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)

などの胃酸の分泌を抑えるお薬が用いられる事もあります。

Ⅱ.不眠

SSRIやSNRIは深部睡眠(深い眠り)を障害するため、不眠を起こす事があります。これは主に抗うつ剤の持つ、セロトニン2受容体刺激作用による副作用だと考えられています。

イフェクサーも、深部睡眠が障害されて不眠が生じる事があります。

抗うつ剤には「眠気」と「不眠」両方の副作用があるので、「意味が分からない」と 不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。

これは、「眠くなるけど、眠ると浅い眠りになってしまう」ということです。

この副作用はセロトニンに選択的に作用するSSRIやSNRIで多く認められ、次いで三環系に認められます。特にSNRIは覚醒度を上げるノルアドレナリンを増やすため、これも不眠が生じる一因となります。

反対に四環系やデジレル、Nassaなどの鎮静系坑うつ剤は、深部睡眠を促進するため、深い眠りを導いてくれます。そのため、不眠の副作用はほぼ認めません。

イフェクサーで不眠を認めた場合は、どのように対処すればよいでしょうか。

  • 服用時間を変えてみる
  • 減量する
  • 鎮静系抗うつ剤に変えてみる

などの方法があります。

不眠で困る場合は、服薬時間を朝食後などにすると改善することがあります。

またイフェクサーの量を減らせそうな状態であれば、減薬を検討してみても良いでしょう。

それでも改善が得られない場合は、鎮静系抗うつ剤に変えたり、少量の鎮静系抗うつ剤を上乗せすると改善することもあります。

鎮静系抗うつ剤は、深部睡眠を促進するため、イフェクサーの不眠の副作用を打ち消してくれる可能性があるからです。

Ⅲ.眠気

眠気はほとんどの抗うつ剤で生じうる副作用です。抗うつ剤は身体をリラックスさせるものですので、当然と言えば当然です。

眠気は、抗うつ剤の持つ抗ヒスタミン作用(ヒスタミンのはたらきをブロックする)が主な原因だと考えられていますが、それ以外にも抗セロトニン2作用、抗α作用、抗コリン作用なども関係していると考えられています。

中でも「鎮静系抗うつ剤」と呼ばれるものは眠気が特に強く出ます(だからこそ、鎮静系と呼ばれています)。

鎮静系抗うつ剤というのは、

などの抗うつ剤が該当します。

これらのお薬は眠気で困ることもあるのですが、一方で不眠の改善にもなりえるため不眠が強いうつ病の方にはあえて鎮静系抗うつ剤を処方することもあります。

イフェクサーはというと、覚醒度を上げる物質であるノルアドレナリンを増やすため、眠気は比較的生じにくいと言えます。

対処法としては、

  • 眠気の少ない抗うつ剤(ジェイゾロフト、サインバルタ)に変更してみる
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • 睡眠環境を見直す

などがあります。

Ⅳ.性機能障害

勃起障害や射精障害、性欲低下と言った性機能障害もSSRI、SNRIに多い副作用です。この原因は詳しくは分かっていませんが、セロトニンが関与していると言われています。

三環系抗うつ剤でも性機能障害は起こしますが、SSRI、SNRIよりは少なめです。

反対に四環系抗うつ剤やNaSSAは、性機能障害をほとんど起こしません。

イフェクサーも性機能障害は起こしますが、その頻度は他のSSRI/SNRIと比べるとやや少なめです。

この理由として、性機能障害の副作用はセロトニンの関与が考えられていますが、イフェクサーはセロトニンよりもノルアドレナリンを増やす作用が高いためです。

性機能障害は相談しずらい症状ですので見逃されがちですが、よく患よく者さんに話を聞いてみると、困っている方は少なくありません。

例えば、性機能障害で夫婦生活に溝ができてしまい家庭の雰囲気がギスギスしてしまうようになった、なんてことを相談されたこともあります。

これは重大な問題です。

家庭がリラックスできる状況でなくなれば、うつ病の治りが遅くなってしまうのは明らかです。

性機能障害は相談しずらいことかもしれませんが、困っているのであれば必ず主治医に相談しましょう。

親身に相談に乗ってくれるはずです。

具体的な対処法としては、抗うつ剤の減量あるいは変薬になります。

変薬の場合は、

は性機能障害をほとんど起こさない抗うつ剤ですので、検討されます。

Ⅴ.抗コリン症状(便秘、口渇、尿閉)

抗コリン症状とは、抗うつ剤がアセチルコリンという物質のはたらきをブロックしてしまう事で生じる諸症状の総称です。

口渇、便秘が生じる頻度が多いですが、他にも尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気などが起こることがあります。

抗コリン症状がもっとも強い抗うつ剤は三環系抗うつ剤です。四環系抗うつ剤も三環系抗うつ剤と比べると少ないものの、抗コリン症状はまずまず生じます。

SSRIは三環系抗うつ剤と比べると抗コリン症状は少なくなっていますが、パキシルやルボックスでは比較的認められ、レクサプロとジェイゾロフトは少ないようです。

イフェクサーをはじめとしたSNRIも抗コリン症状は少なめです。

他に抗コリン症状が弱い抗うつ剤として、 NaSSAやドグマチールなどがあり、これらはほとんど抗コリン作用を認めません。

抗コリン作用が出現した場合は、、

  • 抗コリン作用の少ない抗うつ剤に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • 抗コリン作用を和らげるお薬を試す

などの方法がとられます。

抗コリン作用を和らげるお薬として、

  • 便秘がつらい場合は下剤、
  • 口渇がつらい場合は漢方薬(白虎加人参湯など)、
  • 尿閉がつらい場合はベサコリン、ウブレチドなどの尿の排出を助けるお薬

などが用いられます。

Ⅵ.ふらつき・めまい

めまいやふらつきは、抗うつ剤がα(アドレナリン)1受容体という部位をブロックし、血圧を下げてしまうために起こります。

これも三環系抗うつ剤、そして四環系抗うつ剤で多く、SSRI、SNRI、NaSSAでは大分少なくなっています。

ただしNaSSAはα受容体遮断作用は弱いのですが、抗ヒスタミン作用というもの強く、これによる眠気が生じやすいため、眠気によるふらつきめまいは多くなります。

イフェクサーをはじめとしたSNRIはめまいやふらつきの程度は弱めです。その理由として、覚醒度や血圧を上げる物質であるノルアドレナリンを増やす作用に優れるためです。

ふらつき、めまいが生じてしまい、つらい場合は、

  • ふらつき、めまいの少ない抗うつ剤に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • α1受容体遮断作用を和らげるお薬を試す

などの方法がとられます。

α1受容体遮断作用を和らげるお薬としては主に昇圧剤(リズミック、アメジニンなど)が用いられることがあります。

Ⅶ.体重増加

体重増加は眠気と同じく、主に抗ヒスタミン作用で生じるため、眠気の多いお薬は体重も増えやすいと言えます。

NaSSAに多く、三環系抗うつ剤でもまずまず認められます。SSRIの中でもパキシルなどではまずまず生じます。

イフェクサーをはじめとしたSNRIは、代謝を上げるアドレナリン系の物質であるノルアドレナリンを増やすため、体重はあまり増加しません。

しかし、抗うつ剤は長期間内服を続けるものですので、イフェクサーも体重増加の副作用が出てしまう事はあります。

この場合の対処法としては、運動や規則正しい食事などの生活習慣の改善で予防するのが一番ですが、それでも十分な改善が得られない場合は、他剤に変更するもの手になります。

体重を上げにくいという面でいえば、イフェクサー以外でいうと、ジェイゾロフトやサインバルタが候補に挙がります。

3.未成年・小児への投与

イフェクサーは子供(小児や未成年)にも安全に使えるお薬なのでしょうか。

イフェクサーはSSRIと同じく、未成年への投与は効果が確立していないため、「安易に使用しないように」「できる限り使用しないように」という位置づけになります。

添付文書には

海外で実施した7~17歳の大うつ病性障害患者を対象とした試験において本剤の有効性が確認できなかったとの報告がある

18歳未満の精神疾患を対象とした試験において、本剤投与時に自殺行動・自殺念慮のリスクが増加したとの報告がある

と記載があります。

これらの試験によれば、未成年・小児に対しての効果は確立しておらず、むしろ自殺リスクが増大する可能性が指摘されています。ここから安易に子供に処方すべきではないと言えるでしょう。

実際の臨床現場では、どうしても抗うつ剤による治療が必要だと判断される場合には慎重に投与される事もあります。

しかしなるべく抗うつ剤以外の方法(環境調整やカウンセリングなどの精神療法など)で改善を図りたいところです。

4.妊婦・授乳婦への投与

イフェクサーは妊婦さんや授乳婦さんには投与して良いのでしょうか。

妊婦さんへの投与は、「やむを得ない場合に限り使用してよい」という位置づけです。精神科のお薬は基本的にはすべてのお薬がこの位置づけになります。

米国FDAが出している薬剤胎児危険度分類基準では、薬の胎児への危険度をA、B、C、D、×の5段階で分類しています。

A:ヒト対照試験で、危険性がみいだされない
B:人での危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌(絶対ダメ)

基本的に精神科のお薬で、「A」「B」に分類されているお薬はなく、「C」「D」「×」の3つのどれかに分類されています。

イフェクサーは、このうち「C」です。そのため、極力妊娠中は使わないようにしますが、やむを得ない場合は使用しながら出産を迎えることもあります。

精神的に不安定な方で無理に減薬してしまうと、より精神状態が不安定になってしまい、その結果流産となったり早産・死産になってしまう可能性もあります。服薬のメリットとデメリットを天秤にかけながら医師と相談して、慎重に判断しましょう。

ちなみに抗うつ剤はほとんどが「C」に分類されていますが、、三環系抗うつ剤やパキシルなどは「D」と、危険度が一段階高く分類されています。

もし、三環系やパキシルを内服して妊娠する可能性があるのであれば、「C」の抗うつ剤への変薬をしておいた方が安全です。

では授乳婦さんへの投与はどうでしょうか。

イフェクサーは他の抗うつ剤と同じく、母乳に移行することが確認されているため、内服しながらの授乳はできません。

どうしても授乳したい場合は、イフェクサーの内服を中止し、薬が完全に抜けるまで1~2週間待ってから母乳栄養を開始するようにしてください。

イフェクサーの内服を続ける場合は、母乳は投与せず、お子様には人工乳を与えてください。