双極性障害を発症する原因にはどのようなものがあるのか

双極性障害は躁状態とうつ状態と繰り返す疾患です。

経過中はうつ状態が圧倒的に多いため、一見するとうつ病と見分けがつきにくく診断に苦労する例も少なくありません。

双極性障害は一体どのような原因で発症するのでしょうか。

双極性障害の原因にはいくつかの要素が関わっていると考えられます。しかしそのいずれの要素も明確は解明されていません。。精神疾患の原因は分かっていないものが多いのですが、双極性障害はその中でも特に原因が分かっていない疾患です。

医学が発展した現在においても、未だ分からないことが多い双極性障害ですが、今日は双極性障害が発症してしまう原因について現時点で考えられていることを紹介させて頂きます。

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1.双極性障害の原因は何か?

現時点では双極性障害の原因としては、大きく2つの要素が関わって発症すると考えられています。

それは

  • 遺伝
  • ストレス

です。この2つが重なった結果として双極性障害が発症するという「ストレス脆弱性モデル」が現時点での双極性障害の考えられている原因です。

双極性障害には遺伝性があり、これはほぼ間違いのないことだと考えられます。しかし、原因となる遺伝子は1つではなく複数の遺伝子が複雑に関わっている可能性が高いため、単純に「親が双極性障害だと自分も双極性障害になる」というものではありません。

双極性障害の遺伝子については様々な研究が行われていますが、「これが原因だ!」と特定できるものは少なく、「これはもしかしたら原因遺伝子の1つかもしれない」というものが多く見つかっているような状態です。

双極性障害の家系の方は、「双極性障害を発症する確率は高くなる」とは言えます。

そして、元々このような「双極性障害になりやすい遺伝子」を持っている方が大きなストレスを受けると発症の確率は更に上がります。脳が大きなストレスを受け続けると、脳神経細胞が障害されることが分かっています。双極性障害においても、同じようにストレスで何らかの障害を受けると、もともと遺伝的に脆弱(弱い)な脳神経細胞が異常を来たし、双極性障害を発症してしまうのではないかと考えられます。

この「元々の遺伝性要素に、ストレスが加わることで発症する」というのが「ストレス脆弱性モデル」です。双極性障害の他、統合失調症の原因もストレス前弱性モデルが指摘されています。

しかし現状では、ストレス脆弱性モデルに当てはまらない双極性障害の患者さんも少なくありません。そのため、このモデルはまだまだ不完全なものであり、これで双極性障害の原因と全て説明できるようなものではありません。

双極性障害の原因というのは、未だ分かっていないところが非常に多いのです。

2.双極性障害の各原因について

双極性障害の原因として「ストレス脆弱性モデル」を紹介しました。しかし、これは不完全な原因モデルであり、これだけで双極性障害の原因の全てを説明することは出来ません。

しかし双極性障害の発症に「遺伝」と「ストレス」が関わっているというのは間違いありません。また「これももしかしたら双極性障害の原因なのではないか」という要素もいくつかあります。

現時点で考えられている双極性障害の原因要素について紹介していきます。

Ⅰ.遺伝

双極性障害の発症原因として、「遺伝」はもっとも大きい要素です。双極性障害には遺伝性があります。

もちろん100%遺伝してしまうというわけではありません。「親が双極性障害だと、自分も必ず発症する」ということにはなりません。しかし「親が双極性障害だから、自分も双極性障害を発症する可能性が普通よりは高い」というのは事実になります。

双極性障害の発症率は1~2%前後(100人に1~2人)という報告が一般的です。これが双極性障害の遺伝が関わっている場合、発症率はおおよそ次のように上がると報告されています。

・親の片方が双極性障害であった場合、子供が双極性障害を発症する確率は25%(4人に1人)
・両親がともに双極性障害であった場合、子供が双極性障害になる確率は50~75%

ここから、双極性障害の発症に遺伝が関わっている可能性は高いことが分かります。

双極性障害の家族歴がある方にとってはショックを受けてしまうような事実かもしれません。しかし、この事実はしっかりと知っておき、その上で今取れる対策を取っておくことが大切です。

双極性障害は適正な治療によって気分の波を抑えてあげれば、健常の方とほぼ変わりなく生活することが可能です。双極性障害を持ちながら、第一線で仕事をしている方もいらっしゃいます。また最近ではその世界で大きな業績を挙げている有名人が「自分は双極性障害だ」と公表されることもあります。ここからも、しっかりと治療していれば普通の生活をおくれるという事が分かります。

むしろ怖いのは、双極性障害の発見が遅れてしまうケースです。すぐに双極性障害だと気付いて治療していれば問題なかったのに、躁状態を病気だと気付かずに気持ちが大きくなって莫大な借金をしてしまったり、うつ状態を病気だと気付かずに仕事や人付き合いをやめてしまったりしてしまうと、その人のその後の人生に大きな問題が生じてしまう可能性が高くなります。

そのため、双極性障害発症のリスクが高い方は、そのことをあらかじめしっかりと認識しておき、万が一発症してしまった時にはすぐに適切な治療が導入できるような体制を整えておくことが大切です。

また繰り返しますが、「双極性障害の遺伝がある場合は、双極性障害を発症しやすくなる」というのは事実ですが、「双極性障害の遺伝がある場合は、双極性障害を必ず発症する」というのは間違いです。

双極性障害と遺伝については、「双極性障害(躁うつ病)に遺伝は関係あるのか」にて詳しく説明しています。

Ⅱ.ストレス

ストレスも双極性障害の発症に間違いなく関わっています。

といってもストレスを受けたら誰でも双極性障害を発症してしまうわけではありません。ストレスは生きていく中で誰もが受けているものですから、もしストレスだけで病気が発症してしまうのであれば、大変なことになってしまいます。

双極性障害における「ストレス」という原因は、

  • 元々遺伝がある方にストレスが加わって発症する
  • 明らかに過大なストレスが加わって発症する

というケースが多く、一般的なストレス単体で双極性障害を発症してしまう事は稀です。

ストレスを受けることによってどのように双極性障害発症への至るのか、その機序は明確にはなっていません。しかし近年、ストレスを受け続けると脳神経細胞が障害を受けるという事が分かってきています。

ストレスで精神が不安定になるのは「気持ちの問題」だけでなく、実際に脳に損傷が生じているという事です。

例えば、ストレスでうつ病が発症する機序を説明する仮説として「HPA仮説」という考え方があります。簡単に説明すると、ストレスを受けると「コルチゾール」という血糖などを上げるホルモンが多く分泌されるようになります。過剰なコルチゾールは神経に対して毒性を持つことが知られており、これによって中枢神経が障害を受けることがうつ病の原因になるのではないかという考えがHPA仮説です。

これと同じように、大きなストレスを受ける事で脳神経が何らかの障害を受け、それによって双極性障害を発症してしまうという可能性は十分考えられます。

Ⅲ.環境

環境というのは、前述の「ストレス」とも大きく関連する事ですが、環境も双極性障害の発症に影響すると考えられます。

双極性障害の再発率を高めるものとして、HEE(High Expressed Emotion)があります。これは「感情表出が高い」という意味で、双極性障害の家族の方が患者さん本人に対して、「批判」「敵意」「情緒的な巻き込まれすぎ」という類の高い感情表出があると、双極性障害の再発率が4~5倍も高まってしまうというものです。

(詳しくは「うつ病、双極性障害などの再発率を5倍も上げてしまう高EEとは?」をご覧ください。)

HEEは当初は統合失調症の再発に対して報告された考え方ですが、その後の研究で双極性障害やうつ病など多くの精神疾患の再発にも同様に関係することが分かってきました。HEEが高い環境にいると、患者さんはストレスを受けることが多くなるため、双極性障害が再発しやすいのだと考えられます。

また再発率が上がるという事は当然、発症の原因としても関係してくると考えられます。

Ⅳ.病前性格

双極性障害を発症する原因として「病前性格(元々の性格)」が挙げられることがあります。「このような性格の人は双極性障害になりやすい」という考えですね。

双極性障害に病前性格は関係ないとする報告もあるため、そこまで重視されるものではありませんが、一因になっている可能性があります。

病前性格として、一番有名なのがクレッチマーというドイツの精神科医が提唱した「循環気質」という概念です。

【循環気質】
社交的、善良、親切、温厚といった社会的同調性と気分の波(循環)を特徴とする性格

また、うつ病の病前性格として有名な「メランコリー親和性格」と提唱したテレンバッハは、躁病の病前性格として「マニー親和型性格」を挙げています。

【マニ―親和型性格】
・秩序に対する両価性(相反する感情)
・精力的・熱中的

しかし現在では病前性格はあまり関係ないのではないかとも考えられています。実際、臨床で双極性障害の患者さんをみていると、必ずしも病前性格に当てはまる方が多いという印象はあまりありません。

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3.双極性障害の脳内ではどのような変化が起こっているのか

双極性障害の原因として、いくつかの要素を見てきました。

かんたんにまとめると、大きな影響があるものが、

  • 遺伝
  • ストレス(環境)

であり、その他病前性格なども影響する可能性がある、というものでした。

では、このような原因で双極性障害を発症する時、脳内ではどのような変化が生じているのでしょうか。

精神疾患には様々な病気がありますが、生じる機序というのはどれも明確には解明されていません。例えばうつ病も統合失調症も、「こういった事が脳内で生じているのではないか」という仮説はあるものの、それは明らかな不十分な仮説であり、それで全て説明のつくものではありません。

しかしその中でも双極性障害は、とりわけ原因が分かっていない疾患だと言えます。

例えば、うつ病は「モノアミン仮説」「HPA仮説」「神経可塑性仮説」などが提唱されています。これらは不完全な仮説ではありますが、少なくともうつ病の1つの原因ではあるだろうと考えられます。実際、モノアミン仮説に基づいて作られている「抗うつ剤」は、うつ病の方に一定の効果があることからも、まったく見当はずれの仮説ではないことが分かります。

統合失調症もその原因として「ドーパミン仮説」「グルタミン酸仮説」などが提唱されており、これらも不完全な仮説ではあるものの統合失調症の一因ではあるだろうと考えられます。そして実際にドーパミン仮説に基づいて作られている「抗精神病薬」は統合失調症の方に効きます。

これらの疾患は、疾患の原因の全貌は分かっていないものの、「少なくともこれは原因の1つだろう」というものは見えてきています。

しかし、これらと比べると双極性障害は原因がほとんどつかめていない疾患です。双極性障害の治療薬である気分安定薬も、これがどのような機序で双極性障害を治療しているのかも、未だよく分かっていません。

そのため、現時点で「双極性障害は脳内では、このような変化が間違いなく生じている」と言えるものは残念ながらありません。しかし現時点で考えられている仮説はいくつかありますので、代表的なものを紹介します。

Ⅰ.イノシトール仮説

脳にイノシトールという物質が増えるために双極性障害が発症しているのではないかという仮説です。

これは、双極性障害の治療薬である「リーマス(炭酸リチウム)」に、イノシトールを減らす作用があることから提唱されました。また、同じく双極性障害の治療薬である「デパケン(バルプロ酸ナトリウム)」にも、イノシトールの合成をブロックする作用があることが知られています。

リーマスもデパケンも、なぜ双極性障害に効くのかは明確に解明されていないものの、長い歴史から「間違いなく双極性障害に効果がある」と言えるお薬です。そのため、両者に共通する「イノシトールを減らす」という作用が、双極性障害を改善させているのではないかと考えられたのです。

実際、イノシトールを加えると、神経細胞が成長しにくくなる事も研究にて明らかにされています。

Ⅱ.GSK3仮説

これもイノシトール仮説と同じく、双極性障害の治療薬の作用機序から考えられた仮説です。

双極性障害の治療薬である「リーマス(炭酸リチウム)」にはGSK3βという酵素をブロックする作用があります。同様に「デパケン(バルプロ酸ナトリウム)」にも、GSK3βのブロック作用があることが報告されています。

GSK3βはリーマスが催奇形性(妊娠中に服薬すると、赤ちゃんに奇形を発生させやすくなる)を来たす原因だとも考えられていますが、それ以外にも神経に対する作用をしている可能性が指摘されています。

このGSK3βの過剰なはたらきによって双極性障害が発症してしまうのではないか、という説です。

Ⅲ.ドーパミン仮説

ドーパミン仮説は統合失調症の一因だと考えられている仮説です。その内容は、「統合失調症は脳のドーパミンが過剰になりすぎる事で生じる」というものです。

実際、統合失調症の治療薬(抗精神病薬)のほとんどは脳のドーパミンのはたらきをブロックする作用を持ちますが、確かに統合失調症に効果があります。そのため、ドーパミン仮説は統合失調症の少なくとも原因の1つではあると考えられています。

近年では、双極性障害の一部、ドーパミンの過剰によって生じているのではないかと考えられています。

実際、抗精神病薬は双極性障害にも効果を認める事が次々と報告されています。また、近年の遺伝子研究において、統合失調症と双極性障害は一部同じような遺伝子が原因となっているのではないかという可能性が高まってきました。

特に双極性障害の躁状態の時には、ドーパミンをブロックするお薬は比較的良い効果を発揮します。

そのため、ドーパミン仮説は統合失調症だけでなく、双極性障害の原因の一部ではないかと考えられています。

Ⅳ.モノアミン仮説

モノアミン仮説は、うつ病の原因として提唱されている仮説です。

モノアミンとは気分に影響を与える物質の総称で、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどがあります。うつ病は、これら脳内のモノアミンが少なくなってしまう事で発症するのではないかというのがモノアミン仮説です。

実際にセロトニンやノルアドレナリンを増やす作用のある抗うつ剤というのは、うつ病に一定の効果を発揮します。

そして、同じ気分障害である双極性障害も一部モノアミンが関係している可能性があります。ただし双極性障害では、

  • セロトニンは低下している
  • ノルアドレナリンやドーパミンは増加している

という報告があり、うつ病と全く同じ機序だと言うわけではありません。

双極性障害に抗うつ剤を使っていいのかというのは、今も議論されていることですが、このような違いから、抗うつ剤を双極性障害に使う場合は、

  • ノルアドレナリンを増やすもの(SNRIや三環系抗うつ剤など)
  • 効果が強すぎるもの(三環系抗うつ剤など)

はあまり推奨されないこととなっています。双極性障害はノルアドレナリンは増えすぎている可能性があるため、抗うつ剤で更にノルアドレナリンを増やしてしまうと患者さんを躁状態にしてしまう可能性があるためです。

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