抗うつ剤はどれくらいの期間飲めば効果が出てくるのか

抗うつ剤はうつ病をはじめ、不安障害、強迫性障害、外傷後ストレス障害(PTSD)など、幅広い疾患に用いられる治療薬になります。

一般的に抗うつ剤は即効性がなく、数週間かけてジワジワと効いてくるお薬です。そのため、抗うつ剤は効いているのかどうかが判断しにくいことがあります。

例えば花粉症のお薬のように、飲んでからすぐに効果が出るのであれば、「このお薬は自分に効いている」「このお薬は自分に効かない」と判断しやすいでしょう。

しかし抗うつ剤はそういった効き方をしません。

加えて「鼻水」「くしゃみ」などといった目に見える症状ではなく、「落ち込み」「不安」といった数値化・可視化出来ない症状を標的にしているため、ますます効いているかどうかの正確な判断がしにくいのです。

このような特徴から抗うつ剤は、実は効いているのに「効いていないなぁ」と判断して服薬を止めてしまったり、反対にほとんど効いていないのに「止めるのも怖いし・・・」と漫然と飲み続けてしまうという事態が生じることがありえます。このようなあやまった判断をしてしまうと治療にも悪影響を来たしてしまうのです。

抗うつ剤の効きを正確に判断できるようにすることは、実は治療において非常に重要なことなのです。

今日は、抗うつ剤はどれくらいで効果が出てくるもので、どれくらいで判断すればいいのかについて、紹介します。

1.抗うつ剤はどれくらいで効果が出るのか

抗うつ剤はどのくらいで効果が出るのでしょうか。

これは抗うつ剤の種類によっても異なりますし、個人差もありますので一概に言えるものではありません。しかし臨床的なおおよその感覚で言うと、ある程度の効果が出始めるまでには大体飲み始めてから1~2週間くらいだと感じます。早い方でも効果が出始めるのに5日~1週間ほどはかかるでしょう。

反対に抗うつ剤を飲んでから数時間や数日で明らかな効果が感じられたとしたら、それは抗うつ剤以外の要因による気分の変化か、抗うつ剤の副作用による異常な気分の持ち上がりなどの可能性を疑います。

このように抗うつ剤は、効果が「出始める」までには一般的に1〜2週間を要します。では、抗うつ剤の「しっかりとした効果」が出るまでにはどのくらいかかるのでしょうか。

これも個人差はあるものの、おおよそ1〜2か月くらいだと感じます。もし時間が許すのであればしっかりとした効果を判定するために1〜2ヶ月は様子を見て頂きたいところです。

以上が抗うつ剤の効果が出るまでにかかる時間のおおよその目安になります。

一方で、最近の新しい抗うつ剤は効果が出るまでの時間が速いような印象があります。

などの抗うつ剤は、1週程度で気分が改善しはじめることをしばしば経験します。反対に古いお薬、例えば三環系抗うつ剤などはやはり2週間はかかる印象があります。

2.抗うつ剤では先に副作用が出ることを知っておこう

抗うつ剤はちょっと変わった作用のしかたをします。

それは副作用が最初に出てくるというものです。

効果はゆっくりジワジワと出てくるくせに、副作用は飲み始めてからすぐに出てくるものが多く、しばしば患者さんを苦しめます。この作用のしかたは患者さんをとても不安にさせてしまいます。

「これを飲めば苦しみが和らぐ…」とやっとの思いで抗うつ剤を始めたのに、飲み始めたら気分が楽になるどころか、

  • 胃がムカムカして食欲が落ちる
  • 吐き気がする
  • 眠気やだるさがひどい

などといった悪い作用がまずは現れてしまうのです。

抗うつ剤の服薬を始める前に、「副作用がまず出て、効果はそのあとで出てきますよ」とちゃんと説明を受けていればまだ良いのですが、説明を受けていないと「このお薬は怖い」「このお薬は自分には合わないのだろう」と考えてしまい、服薬を止めてしまうことにもつながります。

これはとても勿体無いことです。

抗うつ剤は、服薬後(数時間〜数日後)は副作用が先に顔を出します。そして数週間経って副作用が落ち着いてきたらやっと効果が顔を出し始めるのです。抗うつ剤は、飲み始める前に必ずこの特性についてしっかりと説明を受け、理解しておかないといけません。

副作用が先に出る、となると怖くなってしまうかもしれませんが、これら副作用の多くはお薬が身体に馴染んでくると自然と改善してきます。また、どうしても副作用が不安だという場合は、

  • より少量の抗うつ剤から開始する
  • 副作用を抑えるお薬を最初だけ併用する

とい方法で副作用を予防することも出来ます。

例えば、抗うつ剤の1つであるレクサプロ(一般名エスシタロプラム)は10mgから開始するようになっていますが、副作用が心配であれば別に5mgから始めてもいいのです(主治医の許可は必要です)。

同じく抗うつ剤のリフレックス・レメロン(一般名ミルタザピン)は15mgから開始するようになっていますが、最初から15mgだと眠気やだるさが高率で出現します。この場合も別に7.5mgや3.725mgから始めたっていいわけです(同じく主治医の許可は必要です)。

より少量から始めれば効果が発現するのも遅くなってしまいますが、ゆっくり時間をかけて増薬した方が副作用は出にくくなるでしょう。

また抗うつ剤の副作用である胃のムカムカや吐き気を予防するために最初だけ胃薬を併用することもあります。

3.効果発現の速い抗うつ剤と遅い抗うつ剤

抗うつ剤が効果が出始めるまでの時間はお薬によっても違いますし、個人差もあります。

基本的には古い抗うつ剤ほど効果が出るまでに時間がかかり、新しい抗うつ剤ほど効果が出るのが速い傾向があります。

新しい抗うつ剤の方が選択性が高く、余計なところに作用せずにピンポイントでセロトニンなどを増やしてくれるため、早く濃度が上がりやすいのかもしれません。

なぜ新しい抗うつ剤の方が効果発現が速いのかは明確には分かっていませんが、臨床感覚としては確かに感じることです。

4.最初の効きが、その後の効きを反映するという報告も

抗うつ剤の効果発現についてまとめると、「抗うつ剤の効果をしっかりと判定するためには、1~2か月はみてみましょう」という事になります。

そのため、治療する時間にある程度余裕を持てる場合では、安易にどんどんお薬を増やすのではなく、1剤ずつしっかりと時間をかけて効果判定をしていくことが望ましいと考えられます。

不十分な判定期間で「効いていない」「効きが不十分」と判定してしまい、どんどんと増薬を重ねれば、あっという間にお薬漬けになってしまいます。加えて3種類も4種類も抗うつ剤を服用してしまうと、どれがどう効いているのかが分からなくなってしまい、これも治療に悪影響を来たすことがあります。

主治医が意図を持って処方した抗うつ剤であり、経過もその主治医がずっと診ているのであれば、複数処方していてもどれがどう効いているのかはある程度把握できます。

しかし転院などして途中から主治医が治療を担当するようになった場合や、紹介状などもなくて今までの治療経過がはっきりと分からない場合だと、複数の抗うつ剤がそれおぞれどのように効いているのかは、例え専門家であっても正確に把握することは困難です。

そうならないために、原則としては1剤ずつしっかりと効果を判定することが望ましいのです。

しかし一方で、

「効果が出るまで1〜2ヶ月もかかるなんて、辛すぎる」
「あと1ヶ月もこの苦しい毎日が続くなんて耐えきれない」

という患者さんの気持ちもあります。

うつの重い症状で苦しんでいる患者さんに、「効果は2ヶ月後に出ますので、それまで何とか待ってください」というのはあまりに酷でしょう。

そのため、総合的に考えて効果判定を早めるメリットの方が患者さんにとって高いと判断されれば、1〜2ヶ月経たなくても効果判定を行い、増薬や変薬を行うこともあります。

最近では抗うつ剤を始めてから1〜2週間後の早期の効きは、その後の抗うつ剤の効きを反映することが多いとが報告されています。

つまり1〜2週間飲み続けて少しでも効果が現れれば、その抗うつ剤は飲み続けることでさらに効果が出てくることが多いけども、1〜2週間飲み続けても全く効果が現れなければ、その抗うつ剤は1〜2ヶ月待ってもやはり効果が現れないことが多いということです。

全てのケースで当てはまる法則ではありませんが、確かに現場感覚としてもこの傾向は感じます。

そのため、2週間ほど経っても抗うつ剤の効果が全く現れず、患者さんを早く治してあげたほうが良いと判断されるような場合では、より早い段階で増薬や変薬に踏み切ることもあります。

5.抗うつ剤の効きを客観的に判断するために

効果判定といっても、抗うつ剤が効いているのかどうか自分ではよく分からない、ということも多いでしょう。

「多少は良くなった気がするけど、はっきりとは分からないなぁ」
「効いてるっていう明らかな実感はないけど、効いているかもしれないです」

このような「効いているような効いていないような・・・」という訴えは患者さんから良く聞きます。抗うつ剤はゆっくり効いてくるものですので、その効果をはっきりと把握することが難しいのです。

この時、あいまいな効果判定を元に今後の抗うつ剤をどうするかを決めてしまうのは非常に勿体無いことです。

本当は効いているのに「効きがよく分からない」という判断でお薬を変えてしまえば、病気が悪化してしまうかもしれません。また本当は効いていないのに「あまり効きは分からないけど、効いている気もするし、お薬を変えるのも怖いから…」とダラダラと効いていないお薬を続けるのも良い治療とは言えません。

効果判定は専門家である精神科医が行ってはくれますが、そうは言っても効果判定には「飲んでいる本人が効果をどう感じるか」というのが一番重要です。

ここでは、抗うつ剤の効果判定を正しく行うためのポイントを紹介します。

Ⅰ.記録を取る

人間の記憶というのは曖昧なものです。ましてや気分という数値化できないものに対する記憶なんてかなり曖昧になります。

抗うつ剤の効果判定で、

「落ち込みは改善しましたか?」
「やる気や集中力はどうですか?」

と聞かれた時、多くの方は過去の自分の記憶と現在の自分の状態を比較して答えると思いますが、この時の過去の記憶は必ずしも正確ではありません。正確に評価したい時、「記憶」を根拠にすることは危険です。

より確実な方法としては「記録を取っておくこと」が挙げられます。

記録、といっても大袈裟なものでなくても構いません。簡単な日記のようなものでも良いでしょう。

今の自分の精神状態や活動、考え方などを簡単に記録しておきましょう。記録は正確に残ります。過去の自分を今の自分を比較したい場合は、「過去の記憶」よりも「過去の記録」の方がはるかに有用です。

抗うつ剤があまり効いていないと感じていたけども、記録を見ると、

「そういえば先月は趣味も出来なかったけど、今はちょっとなら楽しめるな」
「先月は毎日死について考えていたけど、そういえば最近は考えなくなったな」

と気付き、改めて効果を実感できることもあります。

Ⅱ.数日単位ではなく数週間単位で考える

抗うつ剤はゆっくりと効いてきます。そのため、その効果判定も長いスパンで考える方が適切です。

うつ病は病気の特性としても、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、全体的に少しずつ底上げされていくような治り方をします(「うつ病の症状の経過は波があり、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら治っていく」参照)。

昨日より今日の方が調子が悪いというのは治療経過中に良くあることです。

1日単位といった短いスパンで見てしまうと悪化しているように見えても、1ヶ月といった長いスパンでみると、波がありながらも少しずつ良くなっているというものなのです。

そのため、正確な効果判定を正確に行うためには、数日単位ではなく数週間単位の長いスパンでの評価を行うようにしましょう。

Ⅲ.検査など客観的なツールを使う

例えばうつ病であれば、自分のうつ病の重症度をかんたんにチェックできるような検査ツールがあります。

こういったものを1か月ごと、3か月ごとなど定期的に受けて、点数の推移をみてみるという方法も有用です。

自分ではあまり良くなっていると感じていなかったけど、点数化してみたら少しずつ点数が下がっているという事もあります。

当サイトでも、CES-DQIDS-Jなどのうつ病チェックツールを用意していますので、ぜひ利用して下さい。