うつ病の症状の経過は波があり、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら治っていく

うつ病の症状の経過

うつ病は適切な治療を受ければ治すことのできる疾患です。

しかしその治り方はというと、直線状に綺麗に治っていくわけではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら全体的に少しずつ底上げされていくような治り方で、波のある経過をたどるのが普通です。

うつ病の治療が始まる前に「うつ病の経過には波がある」ことをしっかりと理解しておくことは非常に大切です。

直線状にキレイに治っていく、という誤ったイメージを持ったまま治療を始めてしまうと危険で、思ったような治り方をしないため、自分の病気がいつまでも改善していないという錯覚に陥ってしまいます。

「うつ病は経過に波があることを理解しておきましょう」とお話しすると、ほとんどの患者さんは「そうですね、分かりました」とその場では理解してくれます、しかし頭では理解していても実際に波が出てしまうと落ち込んでしまう方は非常に多いのです。

やっと改善してきたと感じられたら矢先にまた悪化、という波に遭遇すると、大きく落ち込み、時には「もう自分は治らないんだ」と絶望的になってしまう気持ちも分かります。しかし、それは治療経過中のただの波に過ぎません。なのに、それを「うつ病の増悪」と判断して絶望的になってしまうと、その精神的ストレスが原因で本当にうつ病が増悪してしまうこともあります。

うつ病の経過に波があるものだと知り、波の中にいても不要に落ち込まない事は、治療経過をよくするためにとても大切な事なのです。

今日はうつ病の経過について、お話させて頂きます。

スポンサーリンク

1.直線状に綺麗に治っていくうつ病はまずない

うつ病の治療が適切に行われた場合、教科書的には「個人差はありますが、おおよそ3か月~6か月ほどかけて緩やかに改善していきます」と書かれています。また、その治り方としては、

1.まずイライラや焦りが取れてきて
2.その後落ち込みが和らいできて
3.最後に気力や意欲も戻ってくる

このように書かれています。

もちろん、大きな視野で見ればこの経過は間違っていません。典型的なうつ病はこのような経過をたどって緩やかに治っていく事が多いのです。

しかし、細かい視点で毎日の経過を見てみると、経過はそんなにきれいなものではありません。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、徐々に徐々に気分が底上げされていくような経過となります。

昨日より今日の方がうつ症状がひどい、ということは経過中によく経験することです。しかし、大きな視点で見れば、「そういえば、先月よりは全体的に見れば良くなっているかな」と感じるような、そういった治り方なのです。

今までつらいうつ症状に悩まされていて、やっと改善の兆しが見えた時というのはとても嬉しいものです。

ある朝起きたらいつもより気分が少し楽になっていた。仕事も少し集中できるようになってきた。「やっとこの辛かったうつ病から解放されるんだ!」と気持ちも前向きになるでしょう。しかし翌日起きると今度は今まで以上に強いうつ症状に戻っていた。これは非常にがっかりしますよね。絶望的になってしまうかもしれません。

しかし正常な経過をたどっていたとしても、こんな事がありえるのです。

この時、これがうつ病の経過として正常な波だと知っていたら、「昨日は良くなってきてたんだし、今日が悪かったとしても全体的には良くなっていくはず」と正しく経過を理解し、不必要に落ち込まずに済みます。

しかしこれがうつ病の正常な経過だと知らなかった場合、「やっと良くなったと思ったのに1日しか続かなかった・・・。もう私のうつ病は治らないんだ」と誤った判断をしてしまうかもしれません。これでは「もう治療なんてしたって無駄なんだ」と治療への意欲をも削がれてしまい、抗うつ剤をしっかりと飲まなくなったり、なげやりになって生活リズムも不規則になってしまうでしょう。

誤った認識を持っていると、それが原因で本当にうつ病の経過を悪くしてしまう事になるのです。

うつ病の症状経過には波があるのが普通である。

この事をしっかりと理解しておくことは非常に大切なのです。

私はうつ病の患者さんをたくさん診てきましたが、自分の治療経験を思い出しても、キレイに治っていくうつ病はほとんど診たことがありません。軽症で早期に発見されたうつ病では、稀にですがキレイに治っていくことがあります。しかしそれ以外では、良くなったり悪くなったりの波を繰り返しながら、徐々に徐々に治っていくのが普通です。

2.調子が良すぎる時はむしろ注意すべき

うつ病の経過に波があるのは正常な事なのですが、これは本当に波のような特徴を持っているため、経過中に気を付けないといけないこともあります。

「波」という特徴で、患者さんが特に気をつけなくてはいけないのが「反動」です。

波ですから、大きく気分が上がった後は大きく気分が落ちます。反対に小さくしか気分が上がらなかった時には、その後小さくしか気分は落ちません。つまり、調子がすごく良くなったと感じた後は、調子が良かった分だけ大きな反動が後でやってくる可能性が高いという事なのです。

ということは、急にものすごく調子が良くなったときは、むしろ注意しなくてはいけません。その時の調子の良さに身を任せて、あれこれ活動すると後々とても痛い目に遭います。

そもそも、うつ病はゆっくりと少しずつ治っていく疾患であるため、急に気分が良くなるというのはかなり不自然な経過です。ずっとつらい気持ちと闘ってきた患者さんにとっては嬉しい事であるため、不自然だという事実から目を背けたくなるでしょうが、「こんなに急に気分が改善するなんて、ちょっとおかしいぞ」と冷静に判断することが大切です。

急に調子が良くなって時は、躁状態やお薬で誘発された不自然な気分の持ち上がりの可能性もあります。

あまりに不自然に気分が改善した時は早めに主治医に相談する必要があります。そして、それが正常なうつ病の回復経過でないと判断されたら、しっかりと主治医の指示や治療に従いましょう。

でないと、後々大きな気分の落ち込みがやってくる事になります。

スポンサーリンク

3.波という経過は受け入れるしかない

うつ病の症状経過には波があるのが普通です。

しかし、「治療をしているんだから直線状にキレイに治っていくはず」というイメージを持っている方は少なくありません。

例えば、風邪を引いた時に内科で解熱剤をもらえば、熱はすぐに下がることがほとんどです。花粉症で耳鼻科でアレルギー薬をもらえば、アレルギー症状は速やかに消えていきます。精神科の治療に対しても、無意識にこのような経過を期待してしまうのでしょう。

また、うつ病にかかりやすい傾向のある方は、完璧主義だったり自分に厳しい方が多いため、良くなったり悪くなったりという波を受け入れることが出来ない方もいます。良くなるのはまだ良いにしても、一回良くなったのがまた悪くなる、というのが納得できず、これが治療に対する不信感につながってしまうこともあります。

しかしこれはうつ病という病気の特性なのですから仕方がありません。

良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ底上げされていくのがうつ病なのです。これは正常のうつ病の治療経過として、受け入れるしかありません。

経過に波が出てしまうのは、治療法が悪いとか、あなたの根性が足りないとかそういった問題ではなく、それが普通の治り方なんだと考えてください。

4.経過の波をなるべく少なくするには

うつ病の症状経過には波があります。

ある程度の波は、うつ病の経過の特性として受け入れるしかありません。

しかし波はつらいものです。気分がようやく良くなってきたと思った矢先にまた悪化するというのは、頭ではそれが経過だと分かってはいても悔しくなってしまうものです。

うつ病の経過の波を完全に消すことはできませんが、波をなるべく少なくする事は出来ます。そして波は出来るだけ少なくした方が不要な落ち込みも無くなり早く治す事が出来ます。

うつ病の経過の波をなるべく小さくするために患者さんが気を付けるべき注意点を紹介します。

Ⅰ.記録をつける

波のうち、悪化の原因として注意すべきなのは「急に調子が良くなる」という良い波が来た時です。うつ病の症状でつらい毎日を送っていた時、急に気分が良くなれば患者さんは嬉しいのが普通です。これは当然なのですが、ここでその嬉しさに任せてどんどん活動してしまうと、後々「ひどいうつ症状」の悪い波がやってきます。

これは出来る限り防がないといけません。そして、これを防ぐ方法はただ一つです。大きな良い波が来た時に、その波にそのまま乗らない事です。調子が良くなってきたときに、そのまま調子の良さに身を任せて活動をすれば、後々悪い波が大きくやってくるからです。

反対に、大きな良い波が来ても「これは経過としては不自然だ」と理解し、淡々と無理をせずいつも通りの活動に留めれば、その後の悪い波も小さなものになります。

ここで大切なのは、波が自然なものなのか不自然なものなのかを区別する力になります。そして、これを区別するための方法が「毎日の気分や活動の記録を取る事」なのです。

毎日の経過を記録していれば、急に不自然な変化が来た時に「これはちょっと経過として不自然だぞ」と気付きやすくなります。気分というのは目に見えないあいまいなものであるため、記憶だけを頼りに区別しようとすると、判断を誤ることがあります。しっかりと記録しておく方が確実です。

記録と言っても、厳密にしっかりとやる必要はありません。スケジュール表などにその日の気分を5段階で評価しておく、など毎日続けられる簡便な方法で十分です。

これは異常な波を検出しやすくなる、というメリットの他に、精神状態の経過を記録することで、1か月前、3か月前などの以前の精神状態を振り返る事が出来るというメリットもあります。うつ病の場合、昨日の精神状態と今日の精神状態の変化を見てもあまり意味がありません。しかし1か月前、3か月前などと比較することで、「少しずつ良くなっている」という事が数値としても実感することができます。

簡単な記録を取る事は、患者さんにおすすめしている方法ですが、「あまり良くなっている実感がなかったけど、記録を見ると確かに3か月前よりは大分良くなっていることに気づきました」とおっしゃってくれる患者さんは少なくありません。

自分のうつ病がちゃんと良くなっている事を確認できるという意味でもオススメの方法です。

Ⅱ.家族など同居者の意見を聞く

精神状態というのは、意外と自分では客観的に評価できないものです。

特にうつ症状がひどい時は、何事もネガティブに考えてしまうため、周囲が見れば明らかに以前よりは改善しているのに、当の本人は「全然良くなっていない。もうダメだ」と感じていることもあります。

うつ病の真っただ中にいる時は、否定的な感情から自分の精神状態を正常に判断できない可能性がある、という事は知っておきましょう。

自分の精神状態の判断に自信がない場合は、家族や同居者など周囲からみた意見を聞いてみることです。

そうする事で、前項と同じように不自然な波を検出しやすくなります。

そのため、周囲の意見が自分の思っているものと違っても否定してはいけません。それを全て信じる必要もありませんが、「自分ではそうは思わないけど、周囲からはそう見えるんだな」と周囲の意見として、参考にしてください。

Ⅲ.規則正しい生活を

患者さんを診ていると、不自然な波は、不規則や生活や習慣からやってくる事が多いと感じます。

正常な人でも、寝不足だとテンションがおかしくなったりしますね。また、アルコールなどを飲むことでテンションが不安定になることがあるでしょう。これが、うつ病という精神にダメージを受けている状態では、より顕著になります。

生活のリズムが不規則になり、睡眠も不安定になれば、不自然な気分の波がやってくる可能性が高くなります。また、抗うつ剤や睡眠薬を服薬中にアルコールなどを飲むと、お薬の効きが不安定になるため、異常な精神状態が誘発されやすくなります。

規則正しい生活を送ることは、うつ病の経過の波を小さくする、もっとも確実な方法です。

スポンサーリンク
こちらの記事も是非ご覧下さい