パキシルは太るのか。体重増加の原因と3つの対処法【精神科医監修】

3.パキシルを服用すると何故太るのか

パキシルを服用すると太ってしまうのは何故でしょうか。

パキシルで太ってしまうのには、主に2つの原因が考えられます。

それは、

  • 代謝抑制作用
  • 抗ヒスタミン作用

の2つです。

抗うつ剤には心身をリラックスさせる作用があります。これは「気分を安定させる」という良い作用にもなりますが、一方で代謝を落としてしまうため皮下脂肪・内臓脂肪などの貯蔵エネルギーを溜めこみやすくなってしまうという面もあります。

このように抗うつ剤で代謝が落ちると、いわゆる「脂肪や燃えにくい」状態になり、太りやすくなってしまうのです。

またパキシルには抗ヒスタミン作用があります。これはヒスタミンという物質のはたらきをブロックする作用になります。

ヒスタミンは食欲を抑えるはたらきを持ちますので、パキシルがヒスタミンをブロックしてしまうと食欲が上がりやすくなります。そして食欲が上がれば当然、太りやすくなります。

抗ヒスタミン作用は多くの抗うつ剤に認められる作用ですが、パキシルにも軽度の抗ヒスタミン作用があります。

それ以外にもパキシルの持つセロトニンへの作用も体重増加の一因になっている事が指摘されています。

このような複数の原因によって、パキシルでは体重増加が生じてしまうと考えられています。

ただし全ての副作用に言えることですが、副作用が生じる個人差は大きく、服薬しても全く太らない方もいれば、体重が数十キロも増えてしまう方もいます。

パキシルは10mgから開始して20~50mgで維持しますが、一般的に服用量が多くなればなるほど体重増加の頻度・程度も増えていきます。

4.パキシル以外の要因がないかも考えよう

パキシル服用中に体重増加が認められた場合、私たちはつい「パキシルを服用してから太った」と考えてしまいがちです。もちろんその可能性もあるのですが、一方で「これは本当にパキシルだけのせいなのか」という視点を持ってみる事も大切です。

というのも、パキシルが処方される患者さんというのは、精神的に不安定な状態にあることがほとんどです。精神的に不安定だからこそ、パキシルのようなお薬が処方されるわけです。

このような状況にある方というのは、パキシル以外にも体重増加の要因がいくつかある事があります。

まず精神エネルギーが低下して活動量が減ると、それだけで体重増加のリスクが生まれます。

例えば、うつで気力が低下しており一日中寝たきり状態であれば、全然動かないためカロリー消費量が少なくなり、皮下脂肪や内臓脂肪などが増えやすくなるでしょう。

またストレスで過食行為が多くなれば、これも太る要因になりえます。

パキシルを服用しているだけでなく、このような症状も認めている場合は、安易に「抗うつ剤のせいで太った」と決めつけないようしなければいけません。

確かに抗うつ剤で体重増加が出現することもありますが、同様にうつ症状による無気力・過食などによって体重増加が生じる事もあるという事を忘れてはいけません。

その体重増加は本当にパキシルのせいなのか。安易に決めつけず、必ず自分の状態を見直してみるようにしましょう。

うつ病で活動性が低下しており、元気なころと比べて運動量が激減しているのであれば、それが原因で太っているのかもしれません。ストレスで過食傾向にあるのであれば、それが理由かもしれません。

このような状態で、「太るのはパキシルのせいだ。もう飲むのをやめよう」と判断してしまうとどうなるでしょうか。抗うつ剤中止によって精神状態がより悪化してしまい、より活動性低下や過食がひどくなり、体重増加は更に悪化していく危険があります。

パキシルをはじめとした抗うつ剤による体重増加の難しいところは、うつ病の症状として体重が増えてしまう事もあるし、抗うつ剤の副作用として体重が増えてしまう事もある点です。

安易に判断せず、体重増加にパキシル以外の原因がないかをしっかりと確認しましょう。

自分で判断できない場合は、一緒に住んでいる家族や主治医にも相談してみる事も有用です。自己判断での服薬中断は大変危険ですので、絶対にしてはいけません。

5.パキシルで太ってしまった時の対処法

パキシルを服薬して太ってしまったら、どのような対処法があるのでしょうか。ここでは一般的に行われる対処法を紹介します。

なおこれらの対処法は決して独断では行わないで下さい。必ず主治医と相談の上で行うようにしましょう。

Ⅰ.生活習慣を見直す

太ってきたときに一番大切なことは、生活習慣を見直すことです。副作用で太ってしまった時もこの基本は変わりません。規則正しい生活、適度な運動などの生活習慣の改善を行えば、たとえ抗うつ剤を内服していたとしても体重は落ちやすくなります。

抗うつ剤は体重が「落ちなくなる」のではありません。「落ちにくくなる」だけです。しかるべき行動をとれば体重は必ず落ちます。

毎日三食、規則正しく食べていますか?
量やバランスは適正でしょうか?
間食や夜食などをしていませんか?
適度な運動はしていますか?

散歩などの運動でも脂肪燃焼には効果があります。余裕があればジョギングやサイクリングなど強度の高いものにトライすれば代謝は更に改善されます。

Ⅱ.抗うつ剤の量を減らしてみる

もし精神状態が安定しているのであれば、 減薬を考えてみるのもいいかもしれません。主治医と相談してみましょう。

体重増加で困っていることを主治医に相談することは大切なことです。

主治医は、あなたの体重増加を重く捉えていないかもしれません。というのも、体重が増えて困るかどうかは人それぞれです。

ガリガリに痩せた男性であればちょっと体重が増えても全然困らないでしょう。でも、スタイルに気を使っている若い女性にとっては、体重がちょっとでも増えることは大きな恐怖でしょう。

体重増加に対する認識に、主治医とあなたとの間に認識のギャップがある恐れがあります。特に年配の先生だったりすると、若い子が悩むポイントというのは意外と気付かないものです。

ただし、病状によっては薬の量を減らせないこともあります。

相談の上でお薬を減らせないという結論になった場合は、勝手に減らすことはせず、主治医の判断には従うようにしましょう。

Ⅲ.別の抗うつ剤に変えてみる

別の抗うつ剤に変えてみるという手もあります。

候補に挙がるのは、「太りにくい」という視点だけから見ればSNRIであるサインバルタ、同じSSRIのジェイゾロフトあたりが候補に挙がります。

一部の四環系抗うつ剤やデジレル、トレドミンなども体重増加の副作用が少ないのですが、これらは抗うつ作用も弱いため、切り替えは慎重に判断しなければいけません。

それぞれの抗うつ剤には長所と短所がありますので、体重増加の視点だけで考えるのではなく、総合的に判断することが大切です。

やはり主治医とよく相談して決めていく事が大切です。