うつ病(鬱病)の診断はどのようにされるのか?臨床でのうつ病診断の方法

うつ病(鬱病)の診断

うつ病は強い落ち込みが続いたり、喜びが感じられなくなったり、やる気が出なくなったりなどのこころの症状が認められる精神疾患です。眠れなかったり、食欲が出なかったりする事も多く、放置すれば生活において様々な支障を来すようになります。

うつ病は目に見えない疾患であるため、「気持ちの問題」や「甘え」と誤解されやすく、なかなか病院を受診せずに診断が遅れてしまいがちです。しかしうつ病は病気であり、適切な治療が必要なものです。適切な治療を行えば多くの場合で改善し、日常生活を再び送れるようになります。

周囲から「気のせいじゃないか」「そんな甘えた事を言ってはダメだ」と言われると、当人も「自分が甘えているだけなのかな」「自分が弱いだけなのかな」と考えてしまいがちです。しかし上記のような症状で困っているのであれば、安易に甘えと片づけずに一度、精神科を受診し精神科医にしっかりと診断してもらう必要があります。

今日は精神科において、私たち精神科医がどのようにうつ病を診断しているのかについて見ていきましょう。

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1.うつ病診断の流れ

うつ病の診断はどのようにされるのでしょうか。

うつ病と診断するためには、主に次の3つのことが行われます。

1.精神科医による診察
2.診断基準との照らし合わせ
3.心理検査

診断においてもっとも重要なのは、精神科医による診察になります。そして診察で得た所見を元に、うつ病の診断基準と照らし合わせながら診断は行われていきます。また、診察だけでは診断が難しい時には、心理検査などを併用することもあります。

診断基準はネットでも簡単に見ることができるため、患者さんが自分自身でうつ病の診断基準をみて「診断基準に当てはまるから私はうつ病です」とおっしゃることがありますが、診断基準に当てはまるかを「医師が確認」しないと診断にはなりません。そのため、診断基準に当てはまると本人が感じただけでは即診断とはならないのです。

うつ病の症状は目に見えないこころの症状が主ですので、文字の羅列でしかない診断基準のみで診断を行うことには限界があります。例えば、診断基準に「落ち込みが続いている」という項目があったとして、患者さん本人が「これは当てはまる」と感じたとしても、精神医学的にみて本当に病的な落ち込みが続いているのか、それとも正常内の落ち込みの範疇なのかは判断は難しく、専門家である精神科医が慎重に判断する必要があります。

高血圧などは、「血圧140/90mmHg以上は高血圧である」と「数値」を診断基準に置いているため、誰がみても分かりやすく、患者さんが自分で血圧を測って異常値であれば「先生、私は高血圧です」と言いやすいのですが、こころの症状というのはそれが病的なものなのか正常の範囲内なのかの判断はとても難しく、専門家が慎重に行わなくてはいけません。

(ちなみに専門的には高血圧の定義は、家庭血圧と診察室血圧で異なりますが、それは今日話したいことから脱線しますので詳細は割愛させて頂きます。)

そのため、患者さんの感覚からの「診断基準に当てはまっている」という判断だけでは不十分なのです。精神科医がしっかりと診察をし、精神医学的に診断基準を満たすかどうかの評価を行った上でないと、うつ病の診断は下せません。

それでは、うつ病診断に必要な3つである、

・精神科医による診察
・うつ病の診断基準
・うつ病の心理検査

を一つずつ詳しくみていきましょう。

2.うつ病診断のための診察

診断においてもっとも重要なのが診察になります。うつ病の専門家である精神科医が診察を行い、うつ病という「病気」に該当する精神状態なのかを判定します。

実際のうつ病の診察はどのように行われ、どのような事が聞かれるのでしょうか。

うつ病を発症した背景はみなさん異なりますので、診察の内容は誰もが同じものではなく、個々人によってその内容は異なってきます。

しかしだいたいの共通項もありますので、ここでは診察で聞かれる代表的な事を紹介させて頂きます。

Ⅰ.主訴(一番困っている事)

うつ病を発症すると、様々な症状が出てきます。しかし、たくさんの症状の中でも、「これは耐えられる程度のもの」という軽い症状もあれば、「この症状は本当につらい!」という重い症状もあると思います。

主訴というのは、患者さんがもっとも困っている訴えの事です。

何か困っていることがあるから病院に来ているわけなので、その一番困っていることが何なのかを共有していくことは、今後の治療を患者さんにとって満足のいくものにするためにとても大切です。

例えば、

・朝、落ち込んで仕事に行けない
・最近何も楽しく感じられない
・夜、あまり眠れない

といった症状があって精神科を受診した方がいたとします。いくつかの症状がありますが、患者さんは「仕事に行けない事」について一番悩んでいました。何も楽しめないのも困るし、眠れないのも困るけど、これらは仕事に行けない苦痛と比べれば、まだ様子を見れる程度のものでした。

しかしここで医師が「眠れない事に一番困っているんだな」と勘違いしてしまったら、どうなるでしょうか。その後の治療は睡眠に対するものが中心となってしまいます。これでは仮に治療が成功して良く眠れるようになったとしても、患者さんにとっては十分な満足いく治療にはならないでしょう。

実際はここまで極端な勘違いは滅多にありませんが、「一番困っている事をしっかり共有する」ということは治療を円滑に行うためにとても大切なことなのです。

Ⅱ.どのような経過だったのか

精神科を受診するまでにどんな経過をたどってきたのかも、診断を確定するためにとても大切な情報になります。

・発症の原因となるような明確な精神的ストレスがあったのか。
・最初に症状を感じてからどのくらい経っているのか
・どんどん悪化しているのか、それともある時を境に改善に向かっているのか
・日常や社会生活に支障を来しているのか
・人間関係に支障を来しているのか

などなど、経過から診断に必要な多くの情報を得ることができます。

Ⅲ.性格や考え方

患者さんがどんな性格なのか、あるいはどんな考え方の傾向を持っているのかを知っておくのも精神疾患では重要です。

その人の人となりを最初の診察だけで全て把握することは不可能ですが、だいたいの傾向でも知らないのと知っておくのとでは全然違います。また性格によって、うつ病になりやすい性格やなりにくい性格がある事が指摘されています。

典型的なうつ病には、「メランコリー親和型」「執着性格」などの性格を持つ方がなりやすいと言われています。これは、真面目で几帳面、頑固、責任感が強い、他者との衝突を好まないなどの性格傾向を持つ方です。

また、最近注目されている新型うつ病(現代型うつ、未熟型うつ、逃避型うつ、ディスチミア親和型など)の患者さんは、他責的で逃避的な性格を持つ方が多いと言われています。

性格や考え方に大きな歪みやかたよりがあり、それがうつ病発症に大きくかかわっていると考えられる場合には、お薬だけでなく精神療法(カウンセリング)も適応になる場合もあります。お薬だけでは性格を変えることはできないからです。性格傾向を知ることは、診断の精度を上げたり、どの治療法を選ぶかの参考にもなります。

Ⅳ.既往歴

今までどのような疾患にかかってきたのか、という情報も重要です。

疾患によっては、うつ病と似たような精神状態を引き起こす疾患もあります。一例を挙げると、甲状腺機能低下症や糖尿病、パーキンソン病、脳梗塞などが挙げられます。病気そのものにうつ病を引き起こす病態がなかったとしても、ガンや半身麻痺などの大きな病気にかかってしまえば、精神的なショックから二次的にうつ病を発症してしまう事も考えられます。

また、使用しているお薬があるのであれば、その情報も重要です。お薬によっては副作用でうつ病を引き起こすものもあるからです。これを薬剤性うつ病や薬剤惹起性うつ病と言います。ステロイドやインターフェロン、抗がん剤、降圧剤、胃薬など、実はうつ病を引き起こす副作用が報告されているお薬はたくさんあるのです。

薬剤性うつ病については詳しくは「薬剤惹起性うつ病について」をご覧ください。

Ⅴ.生育歴

生まれた時や幼少期の情報も大切です。

お母様の妊娠中や出産時といった周産期に異常がなかったかという情報から聞くこともあります。妊娠中の異常や出産時の仮死などは精神状態に関係してくることがあります。

生まれた場所も大切で、その土地の風土や文化が発症に影響している可能性もあります。うつ病は、特定の地域に多いという報告はありませんが、今住んでいるところと元々の出身地が大きく異なる場合は、風土や文化が異なるためにストレスを受けていて、それが発症の一因になっている可能性も出てきます。

兄弟はいるのか、いるのであれば自分は何番目なのか、という情報も重要です。家族内での立ち位置が、性格や考え方に影響を与えていることがあるからです。同様に家族仲などの情報も重要になってきます。

また、昔から周囲に溶け込めず孤立しがちであったとか、こだわりが強くあったという事であれば、背景に発達障害などが隠れているのかもしれません。

幼少期に暴力を受けたとか、学生時代にひどいいじめを受けたとか、精神的に大きな傷を受けるようなエピソードがあった場合は、それも今回の発症に影響している可能性もあります。

また学歴や職歴なども大切です。学力や社会適応力をみる一つの材料になります。

このように生育歴からはたくさんの情報が得られます。しかし思い出したくもないイヤな思い出がある場合は、それを無理して話す必要はありません。こころの治療をしに来ているのですから、例え有益な情報であったとしてもイヤな事は話さずにいてください。話せることだけを話していただければ私たちは、その情報の中で最善を尽くします。

ただし、話したくない場合は、「何もありませんでした」とウソをつくのではなく「色々あったのですが、今は出来れば話したくありません」のように言って頂けると私たちは誤解せずに済むので、診断をする上でも助かります。

Ⅵ.表情、態度、服装、身だしなみなど

診察時の表情や態度、服装、身だしなみといった外見上のものも、診断のひとつの参考にはなります。

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3.うつ病の診断基準

病気には診断基準というものがあります。

診断基準というのは、診断のために必要な満たすべき条件が書いてあるもので「ここに書いてあることを満たしたら、その病気だよ」というものです。

うつ病にも診断基準があります。

うつ病の診断基準で世界的に有名なものは二つあり、世界保健機構(WHO)が発行しているICD-10と、アメリカ精神医学会(APA)が発行しているDSM-5です。どちらもその内容はほとんど同じですので、ここではDSM-5のうつ病診断基準を紹介します。

  1. 抑うつ気分
  2. 興味または喜びの著しい低下
  3. 食欲の増加または減少、体重の増加または減少(1か月で体重の5%以上の変化)
  4. 不眠または過眠
  5. 強い焦燥感または運動の静止
  6. 疲労感または気力が低下する
  7. 無価値感、または過剰・不適切な罪責感
  8. 思考力や集中力が低下する
  9. 死について繰り返し考える、自殺を計画するなど

これらの5つ以上が2週間のあいだほとんど毎日存在し、またそれによって社会的・職業的に障害を引き起こしている場合、うつ病と診断される

(DSM-5 うつ病の診断基準より)

うつ病によく認められる上記の症状のうち、5つ以上が2週間以上毎日続いた場合、診断基準上はうつ病と診断されます。

4.うつ病診断のための心理検査

精神科医が診察を行い、そこで得た所見が診断基準を満たしていればうつ病の診断が行われます。しかしこころの病気は目にみえないため、専門家である精神科医でも時に診断に苦慮することもあります。

そんな時は補助的に心理検査を行うことがあります。

うつ病の心理検査にはたくさんの種類がありますが、ここでは代表的なものを紹介します。

なお、うつ病の心理検査というのはあくまでも補助的なものであるため、心理検査でうつ病の基準を満たしたからと言って必ずうつ病と診断されるわけではありません。

Ⅰ.HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)

HAM-Dはうつ病の心理検査の中でももっともよく知られているものです。1960年に英国のマックス・ハミルトン氏が考案しました。古い歴史を持つ検査ですが、現在でも世界的に利用されている有用な検査です。

HAM-Dは患者さんが一人で記入していく検査ではなく、医師や臨床心理士などが検査者となって、患者さんに質問していく形式で行われます。そのため、患者さんがオンライン上で一人で行うなどの方法は取れません。必ず熟練した検査者が質問をしていくことが必要です。

HAM-Dは何度か改定されており世界中でも用いられているため、いくつかの種類があります。ベースとなるものは17問の質問からなるHAM-D17ですが、他にもHAM-D21、HAM-D24、HAM-D29などもあります。

検査はだいたい15~20分程度かかります。質問の結果を元に点数化され、点数が高いほどうつ病の程度が重いという結果になります。

点数は使われるHAM-Dの質問数によって多少異なりますが、HAM-D17で見ると、

・8点以上が軽症
・14点以上が中等症
・19点以上が重症
・23点以上が最重症

となっています。

HAM-Dについて詳しくは「うつ病に使われる心理検査。ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)とは?」をご覧下さい。

Ⅱ.CES-D

CES-DはCenter for Epidemilogic Studies Depression scaleの略でうつ病を簡易チェックするのに非常に適した検査です。

ここ1週間で、うつ病によく出現する症状が何日くらい出現しているのかをチェックすることで、うつ病に至っているかどうかとその程度を判定します。

CES-Dは患者さんが一人で出来る検査でり、自宅やオンライン上でも行う事が可能です。

5分ほどで終了する検査ですが、うつ病の診断率は90%以上とも言われています。

このサイトでも「うつ病簡易診断」にてCES-Dでのオンライン簡易診断が行えます。

Ⅲ.QIDS-J

QIDS-Jも、CES-Dと同じく患者さんが一人で出来る検査であり、自宅やオンライン上でも行う事が可能です。

QIDS-Jの特徴は、うつ病の診断基準であるDSM-5に沿って作られている点です。そのため、QIDS-Jでうつ病の疑いありとの判定が出た場合、高い確率でDSM-5のうつ病の診断基準を満たしているという事になります。

検査は10分未満で終了します。

このサイトでもQIDS-Jが出来ますので、気になる方は「うつ病を自己チェックできる検査QIDS-Jの3つの特徴」をご覧下さい。

Ⅳ.その他

他にもうつ病の心理検査はたくさんのものがあります。

・MADRS
・SDS
・ツング自己評価うつ病尺度

などがあります。

5.その他診断に用いられる検査

その他、うつ病の診断において補助的に用いられる検査を紹介します。

Ⅰ.光トポグラフィー検査(NIRS)

光トポグラフィー検査は、脳の前頭葉の血流を近赤外光を用いて測定します。そして、その脳血流パターンから、

・正常パターン
・うつ病パターン
・双極性障害(躁うつ病)パターン
・統合失調症パターン

の4種類に分けることで、どの疾患に近い脳血流を示すのかが分かります。

うつ病の診断に使われるというよりは、うつ病の鑑別診断に使われる検査です。

「うつ病なんだか双極性障害なんだか、どっちの疾患なのか判断が付きにくい」「うつ病にも見えるけど統合失調症のような症状もある。どっちなんだか分かりにくい」という時に、光トポグラフィー検査を用いる事で鑑別がしやすくなります。光トポグラフィー検査は60~80%の精度を持つ検査だと言われています。

2014年4月より保険適応となり、保険を使えば4,000円ほどで受けることができます。

Ⅱ.その他の検査

その他、まだ研究段階ですが血液検査の数値からうつ病を測定するというものもあり、現在研究が進められています。病院やクリニックでも臨床研究をしているところがいくつかあります。

まだ実用段階には至っていないようですが、有益な検査が増えるのはありがたいことですね。

しかし、うつ病が血液検査など「数値化」されるもので判定できるようになることはメリットもあればデメリットもあります。

うつ病の診断が血液によって行えるようになれば、「うつ病は甘え」や「気持ちの問題」という誤解を与えにくくなるという良い影響が期待できます。しかしその反面で、重篤な精神症状があるのにも関わらず血液検査で陰性と出てしまうと、「検査で陰性だからうつ病じゃない、ただの甘えだよ」「つらいフリをしているだけなんじゃないの?」とより強く誤解されてしまったり切り捨てられてしまうという問題も出てきそうです。

少なくとも症状がこころにある以上、血液で診断のすべてを行うのは難しく、実際に臨床で使えるようになってもこういった検査はあくまでも補助的なものに留まるのではないかと考えています。

(注)現在の精神医学界では、うつ病を「鬱病」と表記はしません。しかしうつ病の情報を調べるに当たって、「鬱病」と検索される方もまだ多くいらっしゃるため、そのような方にも有益な情報を届けるため、「鬱病」を入れたタイトルにさせて頂いております。

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