うつ病の方がブログを始める時に気を付けて欲しい事

うつ病などのこころの病気で療養中の方の中には、日記やブログを書いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

療養中は自宅で過ごす時間が多くなります。ブログによって自分の気持ちや考えを誰かに伝える事は、気分を安定させる作用が期待できます。また日記やブログであれば自分のペースで書けるため、これはやり方によっては良いリハビリにもなるでしょう。

患者さんから「ブログをはじめようと考えていますが、先生はどう思いますか」と相談される事があります。私はブログのメリットとデメリットをお話した上で、メリットの方が大きそうと判断すれば、「やってみたらいかがでしょうか」と勧めるようにしています。

ブログを書くという行為は、やり方を間違えなければうつ病の治りを促してくれる効果が期待できます。しかし不特定多数に情報を発信するブログは、やり方を間違えてしまうとうつ病の治りを悪くしてしまうリスクもあります。

うつ病の方がブログを書く時、病気の経過を悪化させないよう、そして病気の治療の助けになる行為になるよう、気を付けて欲しい事がいくつかあります。

ここではうつ病の方がブログを書く時に気を付けるべき事を紹介します。

1.ブログを書く事で得られるもの

ブログというのは、ネット上に上げる日記のようなものです。

ブログサービスを提供している会社はたくさんあり、そこを利用すれば簡単にブログを始める事ができます。

ブログが日記と異なる点は、書いた内容が不特定多数の目に触れる可能性があるという点です。また匿名で書けるため、現実の世界で接する人とはまた異なった意見やメッセージをもらったりする事も出来ます。

このようなツールは使い方を間違えなければ、自分の気持ちを整理するのに役立ったり、良い仲間とつながって安心や精神的安定を得る事が出来ます。

うつ病など、こころの疾患で療養中の方がブログを書く事には、どのような良い面があるのでしょうか。

私の患者さんでもブログを書いている方が何人がいらっしゃいますが、その話を聞くと、次のようなメリットがある事が分かります。

Ⅰ.自分の状態や考えを客観的に評価できる

自分の頭の中で整理されていない気持ちや考えを書き出してみると、理解しやすくなり、自分の気持ちを冷静に見つめる事が出来るようになります。

様々な感情や考えが頭の中でごちゃまぜになってしまっていると、自分の今の状況が正しく判断できなくなってしまう事があります。特に精神的に不安定であったり、思考制止という状態に陥っているうつ病患者さんはこの傾向が顕著です。

その結果、不要に落ち込んだり、不安を引き寄せたりしてしまうのです。

ブログに自分の今の状態や最近あった出来事、自分が考えている事などを書き出してみると、自分の状況を客観的に見極められるようになり、衝動的・感情的な行動を減らす事が出来るのです。

ブログに書き出してみると、

「最近の自分はあの出来事のせいで、気分が下がっているのかもしれない」
「あの人のあの発言に納得できなかったから、今日はイライラしているんだ」

と自分を冷静に見つめる事が出来ます。

自分が今、どういった理由でどういった気持ちになっているのかが分かりやすくなり、その結果、これからどうすればいいのかも見えてきやすくなるのです。

これは精神状態を安定させるのに役立ってくれます。

余談ですが、実は私もこのサイトに自分の頭の中にある知識や考えを書き出す事で、精神疾患についてより深く学ぶ事が出来ています。更に、「自分はこういった医療をしたいんだ」と自分でも気づかなかった自分の本当の気持ちに気付ける事が多々あります。

「書き出す」という事は、自分を知るためにとても有効なのです。

Ⅱ.病気の経過が分かりやすくなる

ブログを定期的に書き続けていけば、自分の日々の感情や精神状態・体調などがブログ上に記録されていきます。

これはとても貴重な情報です。時々読み直す事で自分の病気の経過を正確に振り返る事が出来ます。

私たちの記憶というのは結構いい加減なもので、頭の中の記憶を頼りに経過を振り返ってみると、その精度は決して高くありません。自分の事であっても「去年の今頃はどんな精神状態だったか」を正確に思い出せる人は多くはないのです。

しかしブログに記録された経過を読み返せば、精度の高い経過の記録を取り出す事が出来ます。そして正しい経過が分かれば今後の見込みも立てやすくなります。

例えば、頭の中の記憶では「この1年間は全く症状が改善していない」と思っていたけど、ブログを読み返してみると「去年はできなかった事が、今は出来るようになっている」「去年はパニックになってしまっていた状況でも、そういえば最近はパニックにならない」と実は少しずつ改善している事に気付けたりします。

この時、頭の中の記憶から「1年間、闘病生活をしたのに全然よくなっていない」という誤った判断をしてしまったら、「1年を無駄にしてしまった・・・」と落ち込んでしまうでしょう。これからも闘病生活を続ける気力をなくしてしまうかもしれません。

しかし「良くなってないと思ってたけど、実際は少しずつ良くなっているから、このままの治療でいいんだ」と正しく経過を判断できれば、安心して治療を継続できるようになり、これは精神的にも良い効果をもたらします。

Ⅲ.書く事がストレス発散になる

私たちは自分の感情を外に「吐き出す」事で、ストレスを発散させる事が出来ます。

何か不快に感じる出来事があった時、それを周囲の人に話すと少し気持ちが楽になったという経験はみなさんあると思います。これは「話す」という行為によって感情を吐き出した事で、ストレス発散が行われたからなのです。

そしてこのストレス発散法は何も「話す」事だけではありません。

身体を動かすという事で吐き出す事も有効ですし、大声を出す(歌うなど)事で吐き出す事も有効です。

同じように、自分の感情を「書き出す」事でストレスを吐き出すという方法も、ストレス発散に有効です。

ブログに自分の気持ちを書き出す事は、それ自体がストレス解消の役割を果たしてくれるのです。更にそれに共感してくれたり、支持してくれる訪問者さんがいると、更に気分が安定しやすくなるでしょう。

Ⅳ.同じ境遇の仲間と知り合える

ブログを書き続けていると、次第に訪問してくれる人も増えてきます。

同じ境遇の人が自分のブログに訪問してくれたり、反対に自分が親近感を感じるブログに訪問したりすると、そこに交流が生まれます。

自分と価値観が合う方と出会う事が出来れば、精神的なつながりや安心感をブログから得る事が出来るようになります。

精神的に不安定な時というのは、孤独感を感じやすいものです。そのような時に自分を理解してくれるような人と出会える事は、病気の経過を確実に良いものにしてくれるでしょう。

Ⅴ.適度な負荷がかかるためリハビリになる

何かを書くという行為は、ある程度集中力が必要です。

自分の頭の中にある感情や考えを文字に変換し、それを他の人に分かるように書き出すわけですから、頭を使わないといけません。

しかし必ずしも、ものすごい集中力が必要なわけではありません。ブログというのは仕事ではありませんので、自分のペースでゆっくりとやれます。そのため、極度のプレッシャーや責任感がかかるものではありません。

このようにブログを書く事は、適度な負荷がかかる行為なのです。そして多少の負荷がかかる行為というのは、うつ病から回復している途中の方がリハビリとして行う作業として適しています。

うつの底から少しずつ抜け始めた時期から、ブログのような負荷をかかる作業を始めてみる事は、疾患の回復を促す有効なリハビリの1つになりえるのです。

2.ブログを書く事のリスク

こころの病気で療養中の方がブログを書くメリットはたくさんあります。

しかし良い事ばかりではありません。

ブログに書いた事はインターネットを通じて全世界に配信されます。そしてあなたのブログを訪問する方は皆が皆、あなたの気持ちや考えに賛同する方ばかりではありません。

人は皆、考え方や性格が異なります。あなたの考えや感情に反対したり批判したりする方もいないとは限りません。ひどい方だと暴言やトラブルを引き起こしたりする方もいます。

見えない相手だからこそ、トラブルに巻き込まれるリスクもあり、注意が必要になります。

次にブログを書く事で遭遇する可能性のあるリスクについて紹介します。

Ⅰ.書く事がプレッシャーになってしまう

ブログは自分のペースで、無理なく書けるというのが利点の1つです。

しかし責任感が強かったり、他者配慮性が高いような方は、次第にブログを書く事を「義務」として考えてしまう事があるのです。うつ病になりやすい方(メランコリー親和型性格)はこのような性格の方が少なくありません。

ブログ内の交流が生まれ、「記事を楽しみにしています!」「今日は記事更新しないんですか?」などと声をかけられると「ブログを書かなきゃ」とブログを書く事がプレッシャーになってしまう事もあります。

もちろん相手はプレッシャーをかけようとして言っているわけではないのですが、うつ病で療養中の方はネガティブな方向に考えやすいため、「更新しないと見捨てられてしまう」「ブログさぼっていると思われてしまう」と自分を追い詰めてしまいやすい傾向があります。

また仲良くなった人のブログを「読まないといけない」と過度にプレッシャーに感じてしまう事もあります。

顔の見えない相手との付き合いだからこそ、その距離感が分からず、過度に自分を疲弊させてしまうリスクがあるのです。

Ⅱ.批判や攻撃・炎上を受けるリスクがある

ブログをしている患者さんが、一番精神状態を崩しやすいのがこれです。

残念な事にあなたのブログにやってくる人は、あなたにとって好意的な人ばかりではありません。

ブログはあなたの気持ちや考え方を表現する場所です。そして考え方や感じ方というのは人それぞれで違います。

あなたにとっては正しい考えであっても、別の人にとってはあり得ない思考だったり、不快な考えだったりする事はどうしてもあります。人は皆それぞれ考え方が違う以上、こういった事態が一定の確率で生じてしまう事は仕方がありません。

人によっては、自分にとって気に入らない考えが書いてあると、そのブログを批判したり、コメント欄で攻撃したりする人もいます。

うつ病で療養中の方は、自己評価が低くなっており、また他者に対して恐怖を感じやすくなっているため、他者からの攻撃に対してダメージを受けやすい状態にあります。

そのためこのような攻撃によって精神的にダメージを受け、調子を崩してしまうという事があるのです。

Ⅲ.ネット上での人間関係でトラブルになる事も

ブログを通じて新しい仲間と出会えるのはとても素敵な事です。

しかし人との出会いは、得るものも大きい一方でトラブルになるリスクもある事は理解しておかないといけません。

例えば、最初のうちは普通に仲良くしていたんだけど、だんだんと相手からメールが何通も来るようになったりして、怖くなってしまったというケースもあります。

また同じ境遇の人と仲良くなると、相手も精神疾患で療養中である事も多いわけです。この場合、相手も疾患の状態によっては精神的に不安定である可能性もありますので、適宜な距離をもって交流しないとこちらまで気分が引っ張られて体調を崩してしまう事があります。

Ⅳ.生活リズムが乱れやすい

世の中にはたくさんのブログがあります。

色々なブログを訪問して、新しい出会いがあったり、色々な考え方を知る事が出来るのは素晴らしい事です。しかしブログをはじめネットというのは膨大な情報があるため、ついのめり込んでしまいやすいものです。

本来であれば寝ないといけない時間を過ぎてもパソコンやスマホから離れられなくなり、これによって生活リズムが崩れてしまう事もあります。

生活リズムを規則正しくする事は精神疾患の治療における大原則ですので、これでは本末転倒になってしまいます。

3.うつ病の方がブログを書く時に気を付けたい事

うつ病の方のブログというのは、たくさんあります。

患者さんのお話を聞いていても、ブログは上手に使えばうつ病の治りを促してくれるものである事は間違いありません。

しかしあくまでも「上手に使えば」です。

ブログは使い方をあやまれば、うつ病をかえって悪化させてしまうリスクもある事を知っておくべきです。

ではうつ病の方がブログを書く時に、気を付けて欲しい事を最後にお話します。

Ⅰ.アクセス数を気にしてはいけない

ブログを始めたら、多くの方に読んでもらいたいと思うものです。

ほとんどのブロガーは自分のブログのアクセス数を気にします。たくさんの人に読んでもらったらやっぱり嬉しいし、読者が少なくなったら心配になります。

アクセス数というのは、「どれだけの人にブログを読んでもらえたのか」という事に対する点数のようなものですから、アクセス数を気にしすぎるという事は、「他者からの評価を気にしすぎている」という事です。

少しでもアクセス数が下がると「あの記事がいけなかったのかな」と気にしてしまい、アクセス数が急に上がると嬉しい反面「炎上しないかな」と心配になってしまう。

これではブログに気持ちが振り回されてしまっている状態です。

こころの病気の治りに役立てるためにブログを始めたのであれば、これでは意味がありませんよね。

「他者からの評価」であるアクセス数を気にするのはほどほどにして、「自分の気持ちを表現する場」という「自分視点」でブログを楽しむようにしましょう。

Ⅱ.時間を決めよう

ブログを書くのも、読むのも、時間をかけすぎてはいけません。

過度に時間がかかれば、疲労も蓄積しますし、生活習慣も乱れやすくなってしまいます。

「ブログは〇時まで」
「1日〇時間まで」

と自分の中でルールを決めて、実生活に支障をきたすほどにのめりこまないようにしましょう。

Ⅲ.公開相手を考えよう

ブログによっては、記事の公開相手を指定する事が出来ます。

特に仲の良い訪問者にしか見せなくない場合は、記事にパスワードや鍵をかけて、許可した人しか見れないように出来るのです。

特に、誰かの批判と取られかねない内容であったり、色々な意見があるような事に対する記事であったりする場合は、公開相手を指定する事を考えましょう。

多くの人に読んでもらえる方が、訪問者の数は増えますが、その分批判や攻撃に合うリスクも高くなります。

Ⅳ.コメント欄を開くかどうかは慎重に判断しよう

ブログの記事のコメントをもらうのは嬉しいものです。

しかしいつでも良いコメントばかりもらえるとは限りません。ブログを長くやっていると、どんなに良いブログであっても、誹謗中傷のコメントがやってきます。

そのようなコメントがあった場合、「色々な考えの人がいるんだな」と冷静にそのコメントを受け入れる余裕があるのでしたら良いのですが、そのような余裕がまだないという事であれば、コメント欄を閉じてコメントできないようにしてしまうのも手です。

自分の精神状態に合わせて慎重に考えるようにしましょう。

Ⅴ.距離感を持って付き合おう

ブログを通じて人と仲良くなる事があります。

自分と価値観が合う人と出会える事はとても素晴らしい事なのですが、一定の距離は保って付き合うようにしましょう。

どんなにいい人と感じても、その人の事を深く知っているわけではありません。また同じような境遇の方であれば、相手も精神疾患で療養中ですから、お互い距離が近すぎるとお互いの精神状態に影響を与えてしまう事があります。

これが良い影響だったら良いのですが、悪い影響の事もあります。片方が非常に強いうつ状態に入っている時、あまりに距離を近く付き合っていると、もう片方の人もうつ状態に入ってしまうかもしれません。

適度な距離感は、日常の対人関係でも重要ですが、ブログ上でも重要なのです。