反復性過眠症の特徴と診断・治療法

反復性過眠症は過眠症の1つで、以前は「周期性傾眠症」とも呼ばれていました。睡眠時間が過剰に増える傾眠期と、睡眠が正常である期間を不規則に繰り返す疾患です。

珍しい疾患ですので世間的にはほとんど知られておらず、医師であっても睡眠が専門とする医師でないと知らない事もあります。

反復性過眠症は主に10代という若い時期に発症し、傾眠期には1日中眠っているため、学業に支障を来たす事があります。不定期に傾眠期が現れるため、「気分屋」「やる気がない」と判断されてしまい、病気だと認識されずに治療が適切に行われない場合も少なくありません。

ここでは反復性過眠症について、その原因や症状、治療法などを詳しく説明していきます。

1.反復性過眠症とは

反復性過眠症は過眠症の1つですが、ずっと過眠症状が続くわけではありません。

睡眠時間が異常に多くなる「傾眠期」が不定期に現れ、傾眠期と傾眠期の間はまったく正常の睡眠となります。

傾眠期にはほとんど1日中眠り続け、18時間以上眠り続ける事もあります。食事とトイレ以外はほとんど眠っているような状態で、無理矢理たたき起こしても十分に覚醒せず、またすぐに眠ってしまいます。

傾眠期が終わると普通の睡眠に戻るのですが、傾眠期はまた不定期に出現し続けます。

反復性過眠症は10代で発症する事が多く、女性よりも男性に多く発症するという特徴があります。

10代という若い時期に発症するため、学業に支障を来たすこともあります。傾眠によって成績が悪くなってしまったり、欠席が多くて留年になってしまう事もあります。

世間に知られている疾患ではないため、教師が「これは反復性過眠症だ!」と気付く事は非常に少なく、「いつも眠ってばかりいてやる気がない生徒だな」と判断されてしまう事の方が多数です。このような判断のもと、本人の将来に大きな不利益を来たしてしまうこともあります。

特効薬はありませんが有効性が確認されているお薬はいくつかあるため、基本的にはお薬での治療を行います。

また反復性過眠症は自然と治る疾患であると考えられており、多くの方は30~40代になると自然と傾眠期が少なくなっていきます。

ちなみに傾眠期の後半になると過食・暴力・性的逸脱行為などの問題行動を認める群があり、このようなタイプは「Kleine-Levin症候群」と呼ばれます。Kleine-Levin症候群は、反復性過眠症の亜型だと考えられています。

2.反復性過眠症の原因

反復性過眠症はどのような原因で生じるのでしょうか。

実は原因というのはまだ良く分かっていません。

現時点で推定されている原因として、何らかの刺激が引き金となり、覚醒中枢(脳の覚醒を維持する中枢)や睡眠中枢(睡眠をコントロールする中枢)のバランスが崩れて傾眠期が出現するのではないかと考えられています。

詳しくは後述しますが、心身へのストレスは傾眠期出現の引き金となる事があります。

実際、傾眠期では髄液中のオレキシン(脳を覚醒させる作用のある物質)の濃度が低下している事が報告されており、ここから傾眠期はただ気持ち的に眠いというわけでなく、脳を覚醒させる物質が確かに減少している事が推測されます。

また反復性過眠症は男性に発症しやすいという特徴がありますが、この性差から遺伝の影響も考えられています。遺伝性を支持する根拠として、反復性過眠症はある特定のHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子との関連も報告されています。

いずれにせよ反復性過眠症は「疾患」の1つであり、「やる気がないから生じる」「気合いが足りないから眠くなる」といった類のものではありません。

3.反復性過眠症の症状

反復性過眠症ではどのような症状を生じるのでしょうか。

反復性過眠症は「正常期」と「傾眠期」を不定期に繰り返します。正常期は全く睡眠に問題のない普通の期間であり、傾眠期は過剰な睡眠が認められる期間です。

傾眠期は何の前触れもなく現れる事もありますが、体調不良(風邪など)や過労、寝不足、過度な飲酒や生理などの心身のストレスがきっかけとなって始まる事もあります。

また傾眠期に入る数日前より、頭痛や倦怠感、注意力散漫などといった「何となく調子が悪い」という体調の変化が認められることもあります。

傾眠期に入ると、1日のほどんどを眠って過ごすようになります。最低でも半日以上は眠り続け、無理矢理叩き起こそうとしても、十分に覚醒せず、またすぐに眠ってしまいます。かろうじて食事やトイレといった生活に必要な最低限の行動が出来るのみで、その他の時間はほとんど睡眠に当てられます。

傾眠期の長さは一定しておらず、数日で終わる事もあれば1カ月ほど続くこともあります。ある日突然傾眠期から正常に戻る、という感じではなく、徐々に睡眠時間が短くなっていき、徐々に傾眠期から脱します。

この傾眠期⇔正常期のサイクルはどのくらいの間隔で生じるのでしょうか。

実はこれも一定していません。数週間で繰り返される事もあるし、数カ月の間隔があくこともあります。ただし全体的な傾向としては、経過が長くなるにつれ、間隔も長くなっていく傾向があります。

反復性過眠症は10代で発症しますが、その多くは30~40代になると自然と改善します。これもある日突然治るのではなく、徐々に傾眠期が現れるサイクルが長くなっていき、ついには傾眠期が現れなくなる、という感じで改善が得られます。

4.反復性過眠症の診断法

反復性過眠症を疑った場合、その診断はどのようにしていけばいいのでしょうか。

反復性過眠症の診断は、精神科医が慎重に診察を進めながらされていきます。稀な疾患ですので出来れば睡眠を専門とする精神科医の診察を受ける事が望ましいでしょう。

反復性過眠症を疑うポイントとしては、

  • 2日~4週間持続する傾眠期が繰り返されている
  • 1年に1回以上、傾眠期が出現する
  • 傾眠期と傾眠期の間に睡眠に異常のない正常期を認める
  • 他の疾患によって生じている過眠症状ではない

などが挙げられます(ICSD-2の反復性過眠症の診断基準より)。

医師は患者さんを診察し、上記の症状を認めるかどうかを慎重に判断していきます。また他の過眠症や過眠を認める疾患を除外するため、睡眠の検査(PSGなど)が行われる事もあります。

5.反復性過眠症の治療

反復性過眠症の治療はどのように行われるのでしょうか。

まず大切なのは睡眠環境の見直しになります。これは反復性過眠症に限らずあらゆる睡眠障害に共通する治療の基本ですが、まずは睡眠環境に問題がないかを見直す必要があります。

反復性過眠症は脳に問題があって生じると考えられているため、睡眠環境を見直しただけで解決するものではありません。しかし睡眠の質を下げてしまう環境で眠っていると、過眠症を更に悪化させてしまう事になるため、少しでも睡眠の質を上げる事は過眠症状を緩和させる効果が期待できます。

睡眠環境を改善させた上で、治療の中心となるのはお薬です。

反復性過眠症は傾眠期に入ってしまうと、その過眠症状を改善させるのは困難です。他の過眠症では、治療薬として脳の覚醒度を上げる作用を持つ精神刺激薬が用いられていますが、反復性過眠症においては精神刺激薬はほぼ無効です。

【精神刺激薬】
脳神経のドーパミン分泌を増やす事により、脳の覚醒度を上げるお薬。

・コンサータ・リタリン(一般名:メチルフェニデート)
・ベタナミン(一般名:ペモリン)
・モディオダール(一般名:モダフィニル)

などがある。

精神刺激薬は無効であるどころか、攻撃性やイライラ感がかえって悪化してしまったり、また依存性や肝機能障害などの副作用のリスクもあるため、基本的には使用すべきではありません。

反復性過眠症では、すでに生じてしまった傾眠期に対しては打つ手はありません。可能な範囲で心身の安静を心がけ、傾眠期が終わるのを待つしかありません。

反復性過眠症では、傾眠期に入らせない事が大切です。傾眠期は誘因なく現れる事もありますが、心身ストレスが引き金となり発症する事もあります。そのため可能な範囲での心身ストレスの除去を生活の中で心がける事が大切です。

  • なるべく精神ストレスを溜め込まないようにする
  • 定期的にストレス解消を行う
  • 寝不足を避ける
  • 過度な飲酒を避ける

などの生活習慣を意識するようにしましょう。

お薬としては、気分安定薬と呼ばれるお薬に傾眠期を予防する効果が確認されています。

気分安定薬には、

  • リーマス(一般名:炭酸リチウム)
  • デパケン(一般名:バルプロ酸ナトリウム)
  • ラミクタール(一般名:ラモトリギン)
  • テグレトール(一般名:カルバマゼピン)

などがあります。

特にリーマスは傾眠期を予防する効果がしっかりと確認されているため、第一選択としてよく用いられます。

また一部の抗うつ剤(特にアッパー系と呼ばれる賦活作用の強いもの)も治療薬として用いられる事があります。

具体的には、

などが用いられる事があります。