セルトラリンは2015年から発売されている抗うつ剤です。
とは言ってもセルトラリンは新薬ではありません。2006年から発売されている「ジェイゾロフト」という抗うつ剤のジェネリック医薬品になります。ジェイゾロフトの発売から約10年ほどが経過し、特許が切れるためジェネリック医薬品がいよいよ発売されるのです。
ジェネリック医薬品の一番のメリットは「薬価が安い事」にあります。ジェイゾロフトが属するSSRIと呼ばれる抗うつ剤の薬価は高いため、ジェネリックによって薬価が下がることは患者さんにとっても非常にありがたいことです。
セルトラリンはどのような特徴を持つ抗うつ剤なのでしょうか。先発品の「ジェイゾロフト」との違いはあるのでしょうか。
今日はジェイゾロフトのジェネリック医薬品「セルトラリン」の効果や特徴について、紹介させて頂きます。
目次
1.セルトラリンの特徴
まずはセルトラリンはどのような抗うつ剤なのかをざっくりとお話します。セルトラリンはジェイゾロフトのジェネリック医薬品ですから、基本的にはジェイゾロフトと同じ特徴を持ちます。
セルトラリンはSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)と呼ばれるお薬で、脳のセロトニンの濃度を増やすことで抗うつ効果を発揮します。
セルトラリンの特徴を簡単に言うと、
「効果はやや弱いけど、副作用も少ない抗うつ剤」
だと言えます。
そのため主に軽症~中等症の方で「安全性を重視して治療したい」という場合に適したお薬です。外来患者さんに処方される事が多いのですが、これも安全性が高い事が1つの理由でしょう。
効果としては穏やかですが、臨床において十分役立つ強さは有しています。同じ種類のSSRIとしては
- パキシル(一般名パロキセチン)
- レクサプロ(一般名エスシタロプラム)
などがありますが、これらと比べると確かに「強さは若干弱い」という印象はあります。
しかしその分、副作用も穏やかです。
抗うつ剤の副作用で困ることの多い抗コリン症状(口渇、便秘など)、眠気、体重増加、吐き気など、セルトラリンは他のSSRIと比べると少なめの印象を受けます。
ただし性機能障害の副作用は他のSSRIよりも起こりやすいという報告が多く、これはセルトラリンを服用するに当たって1つの注意点になります(詳しくは「抗うつ剤で性欲低下・性機能障害が生じる原因と6つの対策」をご覧下さい)。
また研究報告ではセルトラリンは、「男性より女性に有効性が高い」という報告があり、特に女性には使う頻度の多い抗うつ剤です(参考:男女で異なる抗うつ剤の効き)。
以上のセルトラリンの特徴は、先発品であるジェイゾロフトと同じ特徴になります。
セルトラリンならではの特徴としては、やはりジェイゾロフトと比べると「薬価が安い」というのが大きな特徴になります。詳しい薬価はまだ決まっていませんが、ジェイゾロフトの半額程度になるのではと言われています。
以上からセルトラリンには次のような特徴が挙げられます。
【セルトラリンの特徴】
・SSRIに属し、脳のセロトニンの濃度を上げる作用がある
・効果も副作用も穏やかでSSRIの中でも安全性に優れる
・性機能障害は生じやすい
・女性に有用性が高い
・先発品のジェイゾロフトの半額程度と安い
2.セルトラリンの作用機序
セルトラリンは、SSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤になります。
SSRIとは「Selective Serotonin Reuptake Inhibitor」の略で、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」という意味になります。
難しい名称ですが簡単に理解すると、「脳のセロトニンを増やすお薬」だと考えてよいでしょう。
セロトニンは「モノアミン」と呼ばれる気分に関係する神経伝達物質の1つです。代表的なモノアミンには「セロトニン」の他にも「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」などがあり、
- セロトニンは不安や落ち込みを改善させる
- ノルアドレナリンは意欲や気力を改善させる
- ドーパミンは快楽や楽しみを改善させる
と考えられています。
セルトラリンはSSRIに属するため、モノアミンの中でも特にセロトニンを増やす作用に優れます。セロトニンが低下すると落ち込みや不安が出現すると考えられており、セルトラリンは特に落ち込みや不安を改善させる作用に優れます。
では、セルトラリンは、どのようにしてセロトニンを増やしているのでしょうか。
この機序は他のSSRIも同じなのですが、セロトニンの吸収・分解をブロックすることで、分泌されたセロトニンが消えていかないようにするのがSSRIの作用機序です。
神経と神経の間を神経間隙と言います。ここにセロトニンのような神経伝達物質が分泌されるのですが、SSRIはこの神経間隙に分泌されたセロトニンが分解・吸収されないように、長くそこに留まるように作用することで抗うつ効果を発揮するのです。
ちなみにセルトラリンと他のSSRIの違いとして、セルトラリンには「ドーパミンの再取り込み阻害作用」もあるという点が挙げられます。ドーパミンは楽しみや快楽に関係している物質ですので、その理論通りに考えればセルトラリンは楽しむ力が低下してしまっている方にも向いているお薬だということになります。
しかし実際はセルトラリンがSSRIの中で特段に楽しみを改善させる作用が強いという印象は、臨床の実感としてもありません。必ずしも理論通りにはならないのです。
3.セルトラリンの適応疾患
セルトラリンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。
セルトラリントの適応疾患は、
・うつ病、うつ状態
・パニック障害
・PTSD(外傷後ストレス障害)
となっています。
実臨床においても、セルトラリンはうつ病や不安障害に処方することが多いお薬です。セロトニンを増やすことでうつ病・うつ状態を改善させる作用の他、パニック障害もセロトニンの異常が原因だと考えられているため(「パニック障害の原因。パニック障害はなぜ生じるのか」参照)、セルトラリンをはじめとしたSSRIが効果を発揮します。
また、パニック障害以外の不安障害(社会不安障害、全般性不安障害など)にも効果がありますので、適応外ではありますが、使用することは多々あります。他にも強迫性障害や摂食障害などにも使うこともあります。また、双極性障害(躁うつ病)などのうつ状態を持ち上げるときに補助的に使用することもあります。
4.セルトラリンの強さ
セルトラリンは抗うつ剤の中でどのくらいの強さになるのでしょうか。
お薬の効きは個人差も大きいため、その強さを比較することは難しいのですが、参考になる研究報告の1つであるMANGA studyを紹介します。
この研究は、「抗うつ剤の強さや副作用の多さをランク付けしてみよう!」というものです。研究結果には賛否両論ありますが「抗うつ剤に順位を付ける」という前代未聞の試みであったため、大きな反響を呼んだ試験でした。
MANGA Studyの結果は以下のようになります。
この図は、Manga Studyの結果を大まかに示したものになります。
有効性とは薬の効果で数字が大きいほど効果が高いことを示しており、忍容性とは副作用の少なさで、大きいほど副作用が少ないことを表しています。フルオキセチン(国内未発売)という抗うつ剤を「1」とした場合の、それぞれの抗うつ剤の比較です。セルトラリンはジェネリック医薬品ですので、先発品の「ジェイゾロフト」と同じだとして見て下さい。
Manga Studyではセルトラリン(ジェイゾロフト)は、高評価の抗うつ剤に位置付けられています。ただし実際の印象としては副作用の少なさはこの通りだと感じますが、効果の強さはここまで高くはない印象があります。
セルトラリンはSSRIに分類される抗うつ剤で、落ち込みや不安を改善する効果に優れます。
セルトラリンの維持量は1日100mgですが、最初は25mgからはじめ、少なくとも1週間以上の間隔をあけて、25mgずつ増量していきます。つまり100mgに至るには最短でも1か月程度かかってしまうということです。「効果を実感するまで時間がかかる」のはセルトラリンの欠点の1つです。例えば、レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)であれば、開始用量の10㎎がそのまま治療用量になるため、効果発現が速くなります。
またセルトラリンは他のSSRIと比べると効果が穏やかであるため、重度のうつ病の方には物足りないこともあります。単純な強さだけでいえば、パキシル(一般名:パロキセチン)やレクサプロ(一般名:エスシタロプラム)の方が総合的には強いでしょう。
しかし効果が弱いことは悪いことではありません。「あと少しだけ気分が上がればいい」「強すぎる薬はいやだ」という方もいますので、そのような要望の際には使いやすい薬です。
また効果も弱めな分、副作用も少ないのも特徴です。眠気、吐き気、体重増加などの抗うつ剤で多い副作用は認められますが、その頻度は他のSSRIより少なめです。
また、抗うつ剤は便秘になることが多いですが、セルトラリンはどちらかというと下痢・軟便になりやすいという特徴もあります。元々便秘がひどくてこれ以上便秘になったら困る、という方も良い適応かもしれません。
ただし性機能障害の出現頻度は他のSSRIと比べてやや多めです。勃起障害、射精障害などが出るのが困る方は別のお薬の方がいいかもしれません。
5.セルトラリンの副作用
SSRIの中でもセルトラリンは、セロトニン系以外の余計なところに作用しない(選択性が高い)ため、副作用が出にくいお薬になります。
臨床的な実感としてもセルトラリンの副作用は他のSSRIと比べると少なめだと感じます。
SSRIの代表的な副作用としては、
- 抗コリン症状(口渇、便秘、排尿困難など)
- 眠気
- 体重増加
- 消化器症状(胃部不快感、吐き気など)
などがあります。いずれもセルトラリンにも出現する可能性のある副作用ですが、他のSSRIと比べると少なめです。
ただし性機能障害は他のSSRIと比べてやや多めです。また、便秘が生じることもあるのですが反対に下痢・軟便になることもある副作用の特徴はありますが、全体的にみると、副作用は少なめと考えていいと思います。
総合的に見て、セルトラリンの安全性は高いと言っていいでしょう。
詳しいセルトラリンの副作用については、「セルトラリンの副作用と対処法」(近日執筆予定)で詳しく紹介しますのでご覧下さい。
6.セルトラリンとジェイゾロフトはまったく同じお薬なのか?
安価なジェネリック医薬品である「セルトラリン」が発売されるのは嬉しい事ですが、一方で「ジェイゾロフトからセルトラリンに切り替えて、本当に大丈夫なのだろうか」と心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ジェネリック医薬品に対して、
「安い分、質が悪いのでは」
「やっぱり正規品(先発品)の方が安心なのではないか」
と感じる方は少なくありません。
ジェネリックの利点は「値段が安い」ところですが、「正規品か、安い後発品かどっちにしましょうか」と聞かれれば、「安いという事は質に何か問題があるのかも」と考えてしまうのは普通でしょう。
しかし、基本的に正規品(先発品)とジェネリック(後発品)は同じ効果だと考えて問題ありません。
その理由は同じ主成分を用いていることと、ジェネリックも発売に当たって試験があるからです。ジェネリックは発売するに当たって、「これは先発品と同じような効果を示すお薬です」ということを証明した試験を行わないといけません。
これを「生物学的同等性試験」と呼びますが、このような試験結果や発売するジェネリック医薬品についての詳細を厚生労働省に提出し、合格をもらわないと発売はできないのです。
そのため、基本的にはジェネリックであっても先発品と同等の効果が得られると考えてよいでしょう。
しかし臨床をしていると、
「ジェネリックに変えてから調子が悪い」
「ジェネリックの効きが先発品と違う気がする」
という事がたまにあります。
精神科のお薬は、「気持ち」に作用するためはっきりと分かりにくいところもありますが、例えば降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリックなどでも「ジェネリックに変えたら、血圧が下がらなくなってきた」などと、明らかに先発品と差が出てしまうこともあります。
なぜこのような事が起こるのでしょうか。
これは、先発品とジェネリックは基本的には同じ成分を用いておおよそ同じ薬効を示すことが試験で確認されてはいるけども、100%同じものではないからです。
先発品とジェネリック医薬品は、生物学的同等性試験によって、同じ薬効を示すことが確認されています。しかし「100%全く同じじゃないと合格しない」という試験ではなく、効果に影響ないほどのある程度の誤差は許容されます。この誤差が人によっては明らかな差として出てしまうことがあります。
また先発品とジェネリックは、「主成分」は同じです。しかし主成分は同じでも添加物は異なる場合があります。その製薬会社それぞれで、患者さんの飲み心地を考えて、添加物を工夫している場合もあるのです。
この添加物が人によって合わなかったりすると、お薬をジェネリックに変えたら調子が悪くなったりしてしまう可能性があります。
このため、「先発品とジェネリックは基本的には同じ効果だけども、微妙な違いはある」、というのがより正確な表現になります。
ジェネリックに変更したら明らかに調子がおかしくなるというケースは、臨床では多く経験することはありません。しかし全く無いわけではなく、確かに時々あります。そのため、そのような場合は無理してジェネリックを続けるのではなく、他のジェネリックにするか、先発品に戻してもらうようにしましょう。
ちなみに、「ジェネリックは安い分、質が悪いのでは?」と心配される方がいますが、これは基本的には誤解になります。ジェネリックが安いのは質が悪いからではなく、巨額の研究・開発費がかかっていない分が引かれているのです。
7.セルトラリンが向いている人は?
マイルドに作用し、副作用も少なめ。
このセルトラリンの効果・特徴からは、
- 症状がそこまで重くない方
- 仕事などを続けながら治していきたいという社会人の方
などに良い適応ではないでしょうか。
吐き気や眠気の程度が少なければ、仕事にも影響しないでしょうし、日中活動を続けながらの治療も受けることができます。またセルトラリンは女性に特に効きやすいという報告がありますから、女性への第一選択としても向いています。体重増加や便秘の副作用が比較的少ないのも女性にはありがたいですよね。
反対に、効果がやや弱めなこと、維持量である100mgまで上げるのに時間がかかることを考えると、可能な限り早急に治したい、つらくてつらくて仕方ないという方はセルトラリン以外の抗うつ剤も検討した方が良いかもしれません。
8.セルトラリンの導入例
セルトラリンは少しずつ増やしていくお薬です。
25mgから始め、一週間以上の間隔をあけて25mgずつ増やしていきます。100mgで維持しますが、途中で充分な効果を認めたら、それ以上上げる必要はありません。
薬の効果を感じるのには、早くても2週間はかかるでしょう。遅い方だと1ヶ月以上かかることもあります。
一方で副作用は内服初期から出現します。最初は、吐き気・胃部不快感といった消化器症状が多く、セルトラリンは他のSSRIと比べて、この初期の消化器症状はやや多い印象があります。
心配な方はあらかじめ胃薬を併用しておくことをおすすめしますが、消化器症状は初期の1~2週間のみのことが多く、ほとんどのケースで数週間で改善します(どうしてもつらい場合は、別の抗うつ剤に変えることもできます)。
まれにですが賦活症候群といって、内服初期に変に気分が持ち上がってしまうことがあります。気分に影響する物質が急に体内に入ったことで一過性に気分のバランスが崩れるために起こると考えられています。
イライラしたり攻撃性が高くなったり、ソワソワと落ち着かなくなったりします。一時的なことがほとんどのため、抗不安薬などを併用して様子を見ることもありますが、自傷行為をしたり他人を攻撃したりと、危険な場合はお薬を中断します。
その後は、便秘や口渇、尿閉などの抗コリン作用、 ふらつきめまいなどのα1受容体遮断作用、体重増加などの5HT3刺激作用、 性機能障害などの5HT2刺激作用が出現することがあります。またセルトラリンは便秘ではなく、下痢になることもあります。
これは個人差が大きく、全く困らない人もいればとても苦しむ人もいます。ただセルトラリンは、初期の消化器症状と性機能障害以外は他のSSRIと比べて少なめです。
軽ければ様子を見ますが、下剤や整腸剤、昇圧剤などを使って対応することもあります。あまりに副作用が強すぎる場合は、別の抗うつ剤に切り替えます。
セルトラリンが効いてくると、典型的な経過としては、まずはイライラや不安感といった「落ち着かない感じ」が改善します。その後に抑うつ気分が改善し、意欲ややる気などは最後に改善すると言われています。
効果を十分感じれば、その量のお薬を維持しますし、効果は感じるけど不十分である場合は、増量あるいは他のお薬を併用します。
1~2ヶ月みても効果がまったく得られない場合は、「効果無し」と判断して別の抗うつ剤に切り替えます。
気分が安定しても、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けることが推奨されています。この時期が一番再発しやすい時期だからです。6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、その後2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していき、治療終了となります。