全般性不安障害(GAD)に使われるお薬にはどのようなものがあるか

全般性不安障害は様々なことに対して過剰に不安・心配を感じるようになってしまう疾患です。

長期間にわたって慢性的な不安が続くため、病気だと気付かれないことも多く「ただの心配性」「性格の問題」として片づけられてしまうことも多い疾患ですが、全般性不安障害は病気であり適切に治療をする必要があります。

全般性不安障害の治療法の一つに薬物療法があります。これはお薬で不安感を改善させることで、症状の改善をはかっていく治療法になります。

全般性不安障害に用いられるお薬にはどのようなものがあるのでしょうか。今日は、全般性不安障害で使われるお薬について紹介します。

1.全般性不安障害に使われるお薬について

全般性不安障害に効果が期待できるお薬はいくつかありますが、主に用いられるのは、

・抗うつ剤(特にSSRI)
・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)

の2種類になります。

また、それ以外にも

・漢方薬
・抗精神病薬(主に統合失調症の治療に用いられるお薬)
・気分安定薬(主に双極性障害の治療に用いられるお薬)

なども用いられることがあります。

全般性不安障害は、「不安障害」に属する疾患になります。不安障害は他に「パニック障害」「社交不安障害」などがありますが、これらは用いるお薬としてはだいたい同じで、不安を抑える作用が期待できるお薬が用いられます。

ただし、それぞれのお薬の効きは疾患によって多少異なります。

不安障害の薬物療法をざっくりと説明すると、

  1. ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用は最小限に留める
  2. 主剤としては抗うつ剤(SSRI)で治療する

という方法が王道です。

短期的に見れば、不安に対して最も効果があるのは抗不安薬になります。抗不安薬は即効性があり、不安が和らぐ実感も得やすいため、患者さんにも喜ばれます。しかし長期間使い続けていると、耐性や依存性などの副作用が問題となることがあります。

対して抗うつ剤(SSRI)は、効果を実感できるまでに数週間かかってしまいますが、長期間使用しても耐性や依存性は生じず、安全に使えるのがメリットになります。

このようなそれぞれのお薬の特徴から、抗不安薬はなるべく一時的な使用にとどめ、なるべく抗うつ剤を中心として治療をしましょう、というのが不安障害の治療の基本になります。

また、抗うつ剤や抗不安薬が効かなかったり、諸事情によって用いることが出来ないケースでは、それ以外のお薬(漢方薬など)が用いられることもあります。

それでは、それぞれのお薬について詳しくみていきましょう。

2.抗うつ剤(SSRI)

全般性不安障害の薬物療法の主役になるのは抗うつ剤です。

抗うつ剤というと、うつ病に対する治療薬というイメージが強いかと思います。しかし実はうつ病だけでなく、不安や恐怖・緊張の改善にも効果があることが分かっています。

全般性不安障害も「不安障害(不安症)」に属する疾患であり、主な症状は「不安」ですので、抗うつ剤は有効なのです。多くの抗うつ剤にはセロトニンを増やす作用がありますが、不安障害に属する疾患は、その原因にセロトニンが関係していることが指摘されています。

不安障害では、脳にある扁桃体という部位が過活動になっていることが多くの研究において示されています。抗うつ剤は、セロトニンを増やしてセロトニン受容体に作用することによって扁桃体の過活動を抑制し、不安や恐怖を軽減させると言われています。

そのため、不安障害の治療には抗うつ剤の中でもセロトニンを増やす作用に優れるものがよく使われます。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ剤は、セロトニンを選択的に増やす作用に優れるため、不安障害の治療薬の第一選択薬(一番最初に使用されるお薬)として用いられます。

具体的には、現在4種類のSSRIがあり、このうちのいずれかが用いられます。

・フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)
・パロキセチン(商品名:パキシル)
・セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)
・エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)

このうち、どのSSRIが良いのかは患者さんによって異なるため、主治医とよく相談の上で選択していきます。どれも有効率に大きな差はないとする報告が多く、極論を言えばどれを使っても間違いではありません。

不安障害に対する第一選択薬は原則としてSSRIになりますが、SSRIでは効果が不十分であったりSSRIがどうしても使えない時は別のお薬を使う事があります。SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)の他、三環系抗うつ剤(TCA)という古い抗うつ剤も使用されることもあります。

三環系抗うつ剤にも、いくつか種類がありますが、特にセロトニンを増やす作用に優れる抗うつ剤が使われます。具体的には、クロミプラミン(アナフラニール)などです。ただし三環系抗うつ剤は、古いお薬のため副作用も多いので、使用はやむを得ない時に限るべきです。

抗うつ剤は服薬初期に、吐き気や口の渇きといった副作用が出ることが多いため、少量から始めて徐々に量を増やしていきます。そのため、効果が出るまでに時間がかかるのが難点です。

3.抗不安薬(安定剤)

効果だけを見れば、全般性不安障害に一番有効なのは抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)です。ベンゾジアゼピン系抗不安薬はたくさんありますが、代表的なものには次のようなものが挙げられます。

・ロラゼパム(商品名:ワイパックス)
・アルムラゾラム(商品名:ソラナックス、コンスタン)
・ブロマゼパム(商品名:レキソタン、セニラン)
・ジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)
・クロチアゼパム(商品名:リーゼ)
・エチゾラム(商品名:デパス)
・ロフラゼプ酸エチル(商品名:メイラックス)

抗不安薬のメリットは「即効性」です。先ほど紹介した抗うつ剤は効果発現まで数週間待つ必要がありますが、抗不安薬は早いものだと飲んで数十分ほどで効果が出るものもあります。

その即効性から、不安や心配が高まってきた時にすぐに使えるのも利点です。

デメリットとしては、長期服薬による耐性・依存性があります。抗うつ剤には耐性・依存性はありませんが、抗不安薬には耐性・依存性があることが知られています。

耐性とは、ある物質を摂取し続けると次第に身体が慣れてきて、効かなくなってくる事です。抗不安薬は耐性を持っており、長期・大量に連用を続けているとだんだんと効きが悪くなってきて、必要量がどんどん増えてしまいます。

依存性とは、ある物質を摂取し続けていると次第にその物質なしではいられなくなることです。抗不安薬を長期・大量に連用をしていると、次第に抗不安薬なしではいられなくなってしまいます。

そのため抗不安薬の長期服薬はなるべく避けなくてはいけません。

特に全般性不安障害は、合併症の多い疾患であることが知られています。合併症としてはうつ病や他の不安障害などが主ですが、アルコール依存症や薬物依存症などもあります。これはつまり、全般的不安障害の方は健常の方よりも依存に陥りやすいと考えることもでき、依存性物質であるベンゾジアゼピン系の投与は、慎重に行わなければいけません。

ベンゾジアゼピン系は即効性などのメリットもあるため、上手に使えば治療をよりスムーズにしてくれます。抗うつ剤の効果が出るまでの数週間の間だけ使ったり、不安が急に強くなった時だけ頓服的に使ったりすれば、病気の治りをより良くしてくれる可能性もあります。抗不安薬を使用することが間違いだというわけではありませんので、使いどころを間違えずに上手に使っていくことが大切です。

しかし上記の問題から、少なくとも第一選択となるお薬ではありませんし、ベンゾジアゼピン系のみで治療するのはあまり推奨される方法ではないでしょう。

4.漢方薬

漢方薬の中には不安に対して効果を示すものがありますので、漢方薬を使うこともあります。しかし効きは個人差も大きいため、第一選択として用いられることは少なく、SSRIが使えない場合(例えば患者さんがどうしても漢方薬以外の治療を拒否する場合など)に検討される治療薬です。

全般不安障害に対して漢方薬を使用する際は、即効性はなくゆっくり穏やかに効いてくるということを理解しておく必要があります。短期間での劇的な改善は期待してはいけません。

個人差もありますが、1か月程度かけて少しずつ効いてきます。効きの個人差も大きいため、漢方薬の適応かどうかは主治医とよく相談して判断してください。

全般性不安障害をはじめ、不安の改善を目的に使われる代表的な漢方薬を紹介します。

半夏厚朴湯・・・気分が塞いで喉・食道部に違和感があり、時に動悸、めまい、嘔気を伴うものの諸症
・柴胡加竜骨牡蛎湯・・・比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの諸症
・桂枝加竜骨牡蛎湯・・・下腹直腹筋に緊張があり、比較的体力の衰えているものの諸症
・柴胡桂枝乾姜湯・・・体力が弱く、冷え性、貧血気味で動悸、息切れがあり、神経過敏のものの諸症
加味逍遥散・・・体質虚弱な婦人で肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神症状、時に便秘傾向のあるものの諸症
加味帰脾湯・・・虚弱体質で血色の悪いものの諸症

5.その他の薬物

その他、症例によっては気分安定薬や抗精神病薬を用いることもありますが、SSRIなどの抗うつ剤が効かない場合など、やむを得ないケースに限られます。

6.全般性不安障害の薬物療法の流れ

全般性不安障害の薬物療法の一般的な流れを紹介します。症状や状況によって治療法は異なりますので、ここで紹介するものはあくまでも参考程度に考え、実際は主治医の治療方針に従ってください。

Ⅰ.SSRIを少量から始め、抗不安薬を併用する

全般性不安障害の薬物療法の主体となるのはSSRIです。副作用がなるべく出ないようにするため、少量から開始して徐々に増薬していきます。

一例としてパロキセチン(商品名:パキシル)を例に取ると、まずは少量の10mgから開始します。副作用が心配だという方は5mgなど更に少量から始めてもよいでしょう。

患者さんの「お薬の副作用が心配だ」という不安を極力軽減するのは、治療的にも重要なことです。なぜならば、不安障害の根本にあるのは「不安」だからです。不安の病気の治療をするのに、投薬で更に不安にさせてしまったら本末転倒です。そのため場合によってはかなり少量から開始することもあります。ただし、少量から開始すればするほど効果発現が遅くなることは理解しておかなければいけません。

SSRIは効果発現までに数週間の時間がかかります。その間は抗不安薬を併用してもよいでしょう。抗不安薬は即効性があるのが利点ですので、飲み始めてすぐ不安が軽減されます。

しかし、抗不安薬には依存性などの問題もあるため、「SSRIが効いてくるまでの一時的なもの」という認識を持って服薬をしましょう。

SSRIは初期には吐き気や胃部不快感などの副作用が出ますが、その多くは時間が経つにつれ自然と改善します。どうしてもつらい場合は、胃薬などを併用しても良いでしょう。また、眠気、ふらつき、性機能障害などの副作用が生じる可能性もあります。副作用が出た場合は主治医に報告し、どのように対処していくかを相談してください。

Ⅱ.SSRIを十分量まで増やしていく

大きな副作用もなくSSRIが導入できたら、徐々に増薬していきます。

先ほどのパキシルの例で言えば、10mg⇒20mg⇒30mg⇒40mgと増薬していきます。

ここで、「どこまで増やすのか」という疑問が沸くかもしれませんが、基本的には「不安や恐怖が十分消えるまで」増薬することが良いと言われています。

まだ不安が残っているけど、ある程度改善されたからと「先生、これ以上お薬を増やさないで下さい。もう大丈夫です。」と訴える患者さんも少なくありません。お薬はなるべくならば飲みたくないものですから、患者さんがこう訴える気持ちはよく分かります。

しかし、不安は「完全に消す」ことが良いと考えられており、「中途半端に消しただけ」というのはあまり良い状態とは言えません。なぜならば、不安は不安を呼ぶ、という性質を持っているからです。ちょっとでも不安が残っていると、その不安が不安を呼び、せっかく改善しかけているのにまた増悪してしまう可能性があるのです。

そのため不安は十分に消しておくことが良いと考えられます。

SSRIの増薬は「不安・恐怖が十分に消えるまで」行うべきです。主治医先生とよく相談して必要な量までしっかりと増薬してください。

ちなみにSSRIを十分量使ったけども効果不十分である時には、

・本当に全般性不安障害で診断が間違いがないのか再度見直す
・違うSSRIを使う
・SNRIやNaSSA、三環系抗うつ剤などを使う
・補助的に抗てんかん薬や抗精神病薬を使う
・なるべく依存性の少ない抗不安薬を併用する

などの方法が取られます。

Ⅲ.抗不安薬を減らしていく

順調にSSRIの増薬が出来れば、1~2か月ほどで不安・心配は消えていきます。不安・心配が十分に消え、ある程度の自信もついてきたら、今度は抗不安薬を少しずつ減らしていきます。

これは、抗不安薬の耐性・依存形成を防ぐためです。

急に中止してしまうと、反動で不安が強くなったり離脱症状が起こったりしますので、慎重に少しずつ減らしていきますまた、どうしても減らせない場合は、半減期の長い抗不安薬や効果の弱い抗不安薬に切り替えます。半減期の長いもの・効果の弱いものの方が耐性・依存性が少ないからです。

Ⅳ.数年程度、服薬を続ける

服薬下で症状がほぼ消失している状態を「寛解状態」と言います。寛解状態になると、症状がほとんどないため「もう治ったのでは」と患者さんは感じます。

ほとんどの患者さんは出来るだけ早くお薬を止めたいと考えているため、症状が良くなるとすぐに「先生、そろそろお薬を減らせませんか?」と相談されますが、寛解状態に至ってからも最低でも1年ほどは服薬を続けた方が良いでしょう。

これは、寛解直後は再発率が多いためです。せっかく良くなったのに再発してしまうと、再び自信をなくしてしまいます。また、再発を繰り返すとだんだんと治りが悪くなり、難治性となっていくことも知られています。全般性不安障害が慢性的に経過する疾患であるため、すぐに良くならないと考えておくべきです。腰を据えて数年単位で治療を行った方が、結果的にはお薬を早く止めることができます。

早くお薬をやめたい気持ちは痛いほど分かるのですが、1年~2年ほどはしっかりと服薬を続けてから治療終了とした方が再発の危険性も少なく安全に治療を終えることが出来ます。

時々、「先生はお金儲けのためにお薬を減らさないのではないか」と疑われてしまうこともあるのですが、そうではないのです。再発させないためなのです。

なお、再発を繰り返している方に関しては、2年以上服薬継続が必要な場合もあります。主治医先生とよく相談して下さい。

7.全般性不安障害にお薬はどのくらい効くのか

全般性不安障害は他の不安障害と比べると、抗不安薬の効果は期待できますが、抗うつ剤はやや効きづらいという傾向があります。

抗うつ剤が全く効かないわけではありませんが、パニック障害などと比べると反応率はやや劣ります。

そのため、「抗うつ剤を中心として抗不安薬は最小限の使用に留める」という原則には従いますが、どうしても抗うつ剤の効きが不十分場合には、抗不安薬も併用しながら治療を行うことも少なくありません。その際、なるべく依存性の少ない抗不安薬を選ぶことが大切です。

また全般性不安障害は他の不安障害と比べると、治療に時間がかかり、服薬は長期にわたる傾向があります。

その理由として、全般性不安障害という疾患自体が抗うつ剤の効きが悪いという理由も考えられますが、全般性不安障害は症状に特徴が乏しく「ただの心配性」との見分けがつきにくいため、病院受診までに時間がかかってしまい、治療が始まるのが遅れることが多いからという理由もあると思われます。

また慢性的な不安が続く全般性不安障害は、他の精神疾患を合併することも多いため、これも病気の治りを遅くする一因となってしまいます。