パキシルは太るのか。体重増加の原因と3つの対処法【精神科医監修】

パキシル(一般名:パロキセチン塩酸塩)は抗うつ剤の一種で、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)という種類の抗うつ剤に属します。

SSRIは現在のうつ病治療の中心となっているお薬の1つです。昔の古い抗うつ剤と比べると副作用は軽減されていますが、それでも副作用が全く生じないわけではありません。

抗うつ剤は年単位で長期間服用する事も多いため、服用に当たって事前にそのリスクを正しく理解しておく事は、お薬と正しく付き合っていくために大切な事です。

SSRIの中にもいくつか種類がありますが、その中でもパキシルは副作用が多めのお薬です。

そしてパキシルの副作用の中でも患者さんからの訴えが多いものに「太ってしまった」「体重が増えて困る」というものがあります。

どのようなお薬にも利点と欠点があります。確かにパキシルはSSRIの中でも太りやすい方にはなります。しかし、だからと言ってパキシルが悪いお薬だとは言えません。その分パキシルには優れた利点もたくさんあるのです。

パキシルに限らずお薬の副作用を見る際は、ただいたずらに副作用を怖がるのではなく、得られるメリット(作用)と生じうるデメリット(副作用)の両方をしっかりと理解し、総合的に判断していく事が大切です。

ここではパキシルの副作用のうち、体重増加が生じる原因とその対処法について紹介していきます。

1.パキシルは太りやすいのは事実

まず、パキシルは太るお薬なのでしょうか。

結論から言うと、その可能性は十分ありうると言えます。実際にパキシルを服用して体重が増えてしまうというケースは珍しくありません。

まずはパキシルの添付文書に記載されている、「パキシルの主な副作用」を見てみましょう。

臨床試験の結果、頻度の高い副作用として挙げられたものは、

・傾眠
・吐き気
・めまい
・頭痛
・便秘

などがありました。

添付文書上の主な副作用には「体重増加」は記載がありません。「その他の副作用」の隅っこにようやく「体重増加」が書かれている程度です。

しかし臨床的にはパキシルの体重増加で困っている患者さんをみる機会はたくさんあります。なぜ、臨床試験では体重増加の副作用の報告が少ないのでしょうか。

これは臨床試験はたいがい、数ヶ月程度の試験であるためだと考えられます。

体重増加の副作用は服用を開始して突然に出てくる副作用ではありません。通常は時間をかけて少しずつ出てくるものです。そのため数ヶ月程度の臨床試験では体重増加は検出できない事が多いのです。

しかし実際はパキシルのような抗うつ剤は長期間服用するのが普通です。となると、服用によって体重が増えてしまう方は少なからず見られるようになります。

臨床的な見解を言えば、パキシルの服用を一定期間続けると、体重増加の副作用は十分生じえると言えます。

その程度は個人差があります。数キロ程度の体重増加である事がほとんどですが、中には数年服用して20kgも太ってしまったという方もいらっしゃいました。その20kgのすべてがパキシルのせいなのかは断定できませんが、体重増加は生じうるし、人によってその程度は結構強いケースがあるのも事実です。

2.パキシルの体重増加はどのくらい多いのか

パキシルは他の抗うつ剤と比べて、どのくらい太りやすいのでしょうか。

副作用の出方には個人差があるため確実な答えをいう事はできませんが、臨床上の印象としてパキシルは他の抗うつ剤と比べて、体重増加が多めのお薬になります。

古い抗うつ剤である三環系抗うつ剤と比べるとその頻度はやや少ないものの、SSRIなどの比較的新しい抗うつ剤の中では太る頻度は多めであり、服用するに当たってパキシルはある程度「太る」リスクのある抗うつ剤だと考えておく必要があります。

具体的に他の代表的な抗うつ剤と「体重増加の程度」を比較すると下表のようになります。

抗うつ剤体重増加抗うつ剤体重増加
(三環系)トフラニール++(SSRI)ルボックス/デプロメール
(三環系)アナフラニール++(SSRI)パキシル++
(三環系)トリプタノール+++(SSRI)ジェイゾロフト
(三環系)ノリトレン++(SSRI)レクサプロ
(三環系)アモキサン++(SNRI)サインバルタ±
(四環系)テトラミド(SNRI)トレドミン±
(四環系)ルジオミール++(Nassa)リフレックス/レメロン+++
デジレル
ドグマチール+

パキシルの体重増加の副作用は古い三環系抗うつ剤と比べると少ないものの、SSRIの中では一番強い印象があります。

SSRIにはパキシル以外にも

  • ルボックス・デプロメール(一般名:フルボキサミンマレイン酸塩)
  • ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
  • レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)

があります。

いずれも体重増加は生じえますが、全体的に見ればパキシルよりは頻度は少なめです。

SSRIと同様に現在第一選択で用いられる抗うつ剤であるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)はどうでしょうか。

SNRIは主にセロトニンとノルアドレナリンを増やす抗うつ剤で、

  • サインバルタ(一般名:デュロキセチン)
  • トレドミン(一般名:ミルナシプラン)
  • イフェクサー(一般名:ベンラファキシン)

があります。

SNRIは全体的にSSRIよりも体重増加の副作用は少なめになります。これはノルアドレナリンというアドレナリン系の物質を増やす作用があるため、代謝が上がり、これによって体重増加が生じにくくなるためです。SNRIはむしろ体重が減る事もあるくらいです。

そのため、体重増加の副作用を極力避けたいという事であればSNRIは候補の1つに挙がります。

同様に現在第一選択の抗うつ剤であるNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)はどうでしょうか。

NaSSAも主にセロトニンとノルアドレナリンを増やす抗うつ剤で、

  • リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)

があります。

NaSSAは体重増加を起こしやすく、太りやすい傾向のある抗うつ剤です。SSRIとは異なる機序でセロトニンを増やすため、SSRIが効かない方にも効果が期待できるお薬ですが、体重増加という面で見ると結構多く、パキシルよりも注意が必要になります。

ただしこれらはあくまでも目安に過ぎず、個人差がある事はご理解ください。

お薬の効果や副作用の出方は個人差が大きくあります。

そのため私たち専門家も、一般的な話としての「このお薬は太りやすい」「太りにくい」というのはお話できますが、「あなたはこの薬で太るでしょう」と個別の副作用の出方については断言はできません。

患者さんには申し訳ないのですが、極論を言えばお薬の副作用は使ってみないと分からないのです。

基本的にお薬によって生じた体重増加は、お薬をやめれば徐々に改善していきます。このまま永遠に戻らないものではありません。

そのため体重増加が生じても自分の判断で慌ててお薬を中止するのではなく、主治医の指示通りの服用を続けながら、主治医に「このお薬を始めてから太ってきてしまって、つらいんです」と相談してみるようにしましょう。