メジャートランキライザーとはどのようなお薬なのか

3.メジャートランキライザーの種類

ではメジャートランキライザー(抗精神病薬)にはどのようなお薬があるのでしょうか。

メジャートランキライザーは現在では「抗精神病薬」と呼ばれていますので、ここでは現在用いられている抗精神病薬の種類と一覧をみてみましょう。

まず抗精神病薬(メジャートランキライザー)には、

  • 第1世代抗精神病薬
  • 第2世代抗精神病薬

があります。

第1世代は1950年頃から使われ始めた古い抗精神病薬であり、第2世代は1990年頃から使われ始めた比較的新しい抗精神病薬です。

主な第1世代には、

  • フェノチアジン系
  • ブチロフェノン系

の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。

そして第2世代には、

  • SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
  • MARTA(多受容体作用抗精神病薬)
  • DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)

の3種類があり、やはり特徴はそれぞれ異なります。

どれも抗精神病薬の基本的な作用である「ドーパミンのはたらきをブロックする」という作用は共通していますが、それ以外の点で違いがありそれぞれの抗精神病薬に利点と欠点があります。

これから各抗精神病薬の特徴を説明していきますが、深く理解するために抗精神病薬を用いる疾患である「統合失調症」の代表的な症状である、

  • 陽性症状
  • 陰性症状
  • 認知機能障害

について理解しておきましょう。

【陽性症状】
統合失調症の症状のうち、本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。

【陰性症状】
統合失調症の症状のうち、本来はある能力がなくなってしまう症状の総称で、活動性が低下してこもりがちになってしまう「無為自閉」や、感情表出が乏しくなる「感情鈍麻」、意欲消失などががある。

【認知機能障害】
情報処理能力、注意力・記憶力・集中力・理解力や計画能力・問題解決能力などの高次能力(知的能力)に障害を認める事。

それでは抗精神病薬について、1つずつ詳しく見ていきましょう。

4.メジャートランキライザー一覧と各特徴

Ⅰ.第1世代抗精神病薬

第1世代抗精神病薬は、簡単に言えば「昔の抗精神病薬」です。1950年ごろより使われるようになりました。効果はしっかりしているのですが古いお薬であるため副作用も多く、また稀に重篤な副作用を引き起こしてしまう事もありました。

第1世代抗精神病薬には

  • フェノチアジン系
  • ブチロフェノン系

の2種類があります。

現在では後述する第2世代抗精神病薬(新しい抗精神病薬)が何らかの理由で使えない時にのみ検討されるお薬という位置づけです。

【第1世代抗精神病薬の特徴】

・1950年頃から使われるようになった古い抗精神病薬
・全体的に副作用が多く、また重篤な副作用も生じうる
・陽性症状に対する効果は良好
・陰性症状、認知機能障害にはあまり効かない(むしろ悪化させる事も)

フェノチアジン系抗精神病薬

【特徴】 鎮静作用に優れ、様々な効果が期待できるが副作用も多い

フェノチアジン系抗精神病薬は1950年頃から使われるようになった、もっとも古い抗精神病薬です。

最古の抗精神病薬であるコントミン(一般名:クロルプロマジン)は、元々は麻酔薬として用いられていました。統合失調症の患者さんに対して手術を行う事になってコントミンを使用したところ、精神症状が改善した事からコントミンの統合失調症に対する効果が偶然に発見されました。

この発見から抗精神病薬の歴史が始まりました。

麻酔として使われていたという経緯からも分かるように、フェノチアジン系は抗精神病薬の中でも鎮静作用に優れます。

またフェノチアジン系はドーパミン以外にも様々な受容体に作用する事で幅広い効果を発揮します。

具体的には、

  • ヒスタミン受容体をブロックして眠気や食欲亢進が生じる
  • アドレナリン受容体をブロックしてふらつきや鎮静が生じる
  • ムスカリン受容体をブロックして抗コリン症状(口喝、便秘、尿閉など)が生じる

などがあります。

ドーパミンのみを強力にブロックするわけではないため、ドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症)などは、ブチロフェノン系と比べると少なめです。

ドーパミン以外の様々な受容体に作用するため、睡眠の改善や興奮の鎮静、食欲の改善などを狙って投与される事があります。

代表的なフェノチアジン系には、

  • コントミン(一般名:クロルプロマジン)
  • ヒルナミン・レボトミン(一般名:レボメプロマジン)
  • フルメジン(一般名:フルフェナジン)
  • ピーゼットシ一・トリラホン(一般名:ペルフェナジン)
  • ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)
  • ニューレプチル(一般名:プロペリシアジン)

などがあります。

【フェノチアジン系抗精神病薬の特徴】

・1950年頃から使われるようになった第1世代抗精神病薬
・全体的に副作用が多く、また重篤な副作用も生じうる
・陽性症状に対する効果は良好
・睡眠改善、食欲改善、不安や興奮を抑えるなど様々な効果が期待できる
・陰性症状、認知機能障害にはあまり効かない

ブチロフェノン系抗精神病薬

【特徴】幻覚妄想を抑える作用に優れるが、錐体外路症状を生じやすく全体的に副作用も多い

ブチロフェノン系抗精神病薬も、フェノチアジン系と同時代に使われていた抗精神病薬です。

フェノチアジン系との違いとして、フェノチアジン系はドーパミン受容体をはじめヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、セロトニン受容体など様々な受容体に作用する事で様々な効果を発揮するのに対して、ブチロフェノン系は比較的ドーパミン受容体に集中的に作用するという点が挙げられます。

ドーパミン受容体への作用は、幻覚妄想といった陽性症状を抑える作用につながると考えられているためブチロフェノン系は陽性症状に対する効果に非常に優れます。

一方でドーパミンをブロックしすぎてしまう事で生じる副作用(錐体外路症状や高プロラクチン血症)なども起こしやすいお薬になります。

ドーパミン以外の受容体にはあまり作用しないため、フェノチアジン系が得意とする、興奮を抑える作用や眠りを導く作用は弱めです。

  • セレネース(一般名:ハロペリドール)
  • インプロメン(一般名:ブロムペリドール)
  • プロピタン(一般名:ピパンペロン)
  • トロペロン(一般名:チミペロン)

などがあります。

【ブチロフェノン系抗精神病薬の特徴】

・1950年頃から使われるようになった第1世代抗精神病薬
・全体的に副作用が多く、また重篤な副作用も生じうる
・陽性症状に対する効果は極めて良好
・錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用を生じやすい
・陰性症状、認知機能障害にはあまり効かない(むしろ悪化させる事も)

Ⅱ.第2世代抗精神病薬

第2世代抗精神病薬は、1990年ごろから使われるようになった比較的新しい抗精神病薬です。

第1世代の副作用の多さ、陰性症状や認知機能障害への効果の乏しさに対して改良がおこなわれたお薬になります。

第1世代に劣らない陽性症状への効果を維持しつつも、重篤な副作用の頻度が少なくなっています。また多少ではありますが、陰性症状や認知機能障害にも効果が期待できるようになりました。

一方で心身をリラックスさせる作用によって代謝を落とすため、第1世代よりも体重増加・肥満・血糖値上昇・脂質異常などのメタボリックな副作用は多くなっています。

第2世代抗精神病薬には

  • SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
  • MARTA(多受容体作用抗精神病薬)
  • DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)

の3種類があります。

現在では抗精神病薬は原則として第2世代抗精神病薬から開始する事が推奨されています。

【第2世代抗精神病薬の特徴】

・1990年頃から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬
・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない
・第1世代と比べるとメタボリックな副作用(体重増加や血糖値上昇など)が多い
・陽性症状に対する効果は良好
・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる

SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)

【特徴】幻覚妄想を抑える作用に優れる。錐体外路症状には注意

SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)は、第2世代抗精神病薬に属するお薬で、1990年頃から使われるようになりました。

その名の通り、主に、

  • ドーパミンをブロックする作用(陽性症状の改善)
  • セロトニンをブロックする作用(陰性症状の改善、錐体外路症状の軽減)

といった作用を持ちます。

SDAは第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクが少なくなっています。

また統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。

第2世代の中では、セロトニン受容体とドーパミン受容体に集中的に作用するため、ブチロフェノン系の改良型のようなイメージを持っていただけると良いかと思います。

  • リスパダール(一般名:リスペリドン)
  • インヴェガ(一般名:パリペリドン)
  • ロナセン(一般名:ブロナンセリン)
  • ルーラン(一般名:ペロスピロン)

などがあります。

【SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)の特徴】

・1990年頃から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬
・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない
・陽性症状に対する効果が極めて良好
・副作用の錐体外路症状や高プロラクチン血症に注意
・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる

Ⅳ.MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)

【特徴】 鎮静作用に優れ、様々な効果が期待できる。眠気と体重増加に注意

MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)も第2世代抗精神病薬に属するお薬で、1990年頃から使われるようになりました。

その名の通り、様々な受容体に作用し、

  • ドーパミンをブロックする作用(陽性症状の改善)
  • セロトニンをブロックする作用(陰性症状の改善、錐体外路症状の軽減)
  • ヒスタミンをブロックする事による催眠、食欲亢進
  • ノルアドレナリンをブロックする事による穏やかな鎮静

といった効果が期待できます。

MARTAも第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクが少なくなっています。

また統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。

第2世代の中でも様々な受容体に幅広く作用するため、フェノチアジン系の改良型のようなイメージを持っていただけると良いかと思います。

  • ジプレキサ(一般名:オランザピン)
  • セロクエル(一般名:クエチアピン)
  • シクレスト(一般名:アセナピン)
  • クロザリル(一般名:クロザピン)

などがあります。

【MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)の特徴】

・1990年頃から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬
・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない
・陽性症状に対する効果が良好
・睡眠改善、食欲改善、不安や興奮を抑えるなど様々な効果が期待できる
・体重増加や眠気に注意
・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる

Ⅴ.DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)

【特徴】 効果は良好で副作用も少ない。抗うつ作用も持つが鎮静力は弱い

DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)はDPA(ドーパミン部分作動薬)とも呼ばれ、第2世代抗精神病薬に属するお薬です。2006年頃から使われるようになりました。

DSSは「ドーパミンの量を適切に調整する」という作用を持ちます。

強制的にドーパミンをブロックするわけではないため、ドーパミンをブロックしすぎる事による副作用なども少なく、安全性に優れるお薬です。

DSSも第2世代ですので、第1世代と比べると副作用が少なく、また重篤な副作用が生じるリスクは少なくなっています。

統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状・認知機能障害にも多少効果を発揮します。

  • エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)

があります。

【DSS(ドーパミンシステムスタビライザー)の特徴】

・2006年から使われるようになった比較的新しい抗精神病薬
・第1世代と比べて全体的に副作用が少なく、また重篤な副作用もほとんど生じない
・陽性症状に対する効果が良好
・抗うつ作用も期待できる
・陰性症状、認知機能障害にも多少効果が期待できる
・鎮静力は弱く、アカシジアが他の第2世代と比べてやや多い