視野を広げ、様々な価値観を知るとこころの安定につながる

価値観

精神科の診察では、患者さんの「考え方」「価値観」を聞かせて頂く機会が多くあります。患者さんの内面にあるこれらは、精神に大きな影響を与える要素になります。

自分の内面というのは誰にでも安々と見せられるものではありません。そのため、多くの人の考え方や価値観を聞く事が出来るというのは日常ではそうそうないことです。そう考えると私たち精神科医は、大変貴重な体験をさせて頂いていることになります。

私たち精神科医は、このように多くの人の「考え方」「価値観」を診てきています。だからこそ、「こういった考え方だと苦しいだろうな」「こういった価値観を持っているとストレスに強くなれるなぁ」と見えてくるものがあります。

精神的に不調に陥りやすい1つのリスクとして、「価値観に偏り(かたより)がありすぎる」ことが挙げられます。

価値観が偏りすぎていると、ある価値観が自分の全てになってしまいます。すると、それが崩れてしまった時に精神状態が極めて危険な状態になってしまうのです。

今日は価値観の偏りの問題と、対処法について思うところを書かせて頂きます。

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1.価値観に偏りがありすぎると、こころは不調になりやすい

こころの不調を訴えて精神科を受診する患者さんを診察する時は、現在の症状だけでなく、その人の元々の考え方や価値観、性格の傾向なども教えて頂きます。それは、このような要素が精神的不調の一因になっていることがあるからです。

精神的に不調を感じて精神科を受診される方の中には、「価値観が偏り(かたより)すぎている」「視野が狭くなりすぎている」という方がいらっしゃいます。「一直線」「熱心」とも言えますが、このような方はやはり精神的には不調になりやすい傾向がある事を感じます。

よく経験する例として、

・「仕事が自分の全て」という価値観を持っている方
・「子育てが自分の全て」という価値観になってしまっている母親

など、実際こういった方で精神科を受診される方は少なくありません。

何かに没頭して一生懸命頑張る、というのは悪いことではありません。むしろ素晴らしい事だといってもいいでしょう。しかし、それが自分の人生の全てにまでなっていれば、これは危険も伴うことになります。結果が出ているうちはいいのでしょうが、なんらかのトラブルで結果が出なくなったり続けることができなくなった途端、その人の価値観は崩壊し、精神的にも極めて不安定になる可能性があります。

価値観というのは偏りが強ければ強いほど、他の価値観を受け入れられなくなり、方向転換がしにくくなっていきます。

しかし長い人生の中では、自分の重視している価値観を変更せざるをえない時というのはあるものです。

「仕事が自分の人生の全て」という人であっても、いつかは仕事から身を引く時は来るはずです。定年退職という事もあるし、あるいはその前でもその仕事を辞めなくてはいけなくなる時だって来るかもしれません。

子育てが全てと思っていても、子どもの成長とともにいつか子育てにも終わりがきます。また、子育ての途中であっても子供が自分の希望通りの道に進まないというトラブルだってあるでしょう。

そのような時、ショックを受けながらも「まぁ、そういう事もあるよね」「まぁ、これだけが人生の全てじゃないしね」と考えることができればいいのですが、価値観の偏りが強すぎる場合、変化に適応できなくなっています。そうなると絶望に襲われてしまい、うつ病などの精神疾患が発症してしまうこともあるのです。

自分が人生において重視しているものについて、「もしそれが出来なくなったら、自分はどうなるか」と考えてみましょう。「そうなった時の事なんて怖くて想像できない」「そうなったら生きていく自信がない」と思ってしまう場合は、あなたの価値観には偏りがありすぎるのかもしれません。

実際、うつ病になりやすい性格傾向として「メランコリー親和型」というものがあります。これは

・几帳面、真面目
・熱心
・規則を守る
・他者配慮性

という傾向を持つ性格になります。メランコリー親和型の性格背景にあるのは「秩序志向性」だと言われています。これはルールや規則をかたくなに守る、という事です。立派なことですが、逆に言えば「柔軟性に乏しい」「価値観の変更に弱い」という事でもあります。

また、アスペルガー症候群では「こだわりが強い」という性格上の特性があります。これも価値観の偏りが強いということにもなり、このこだわりの強さが原因でしばしばアスペルガー症候群の方は精神的不調に陥ります。

ここからも分かるように価値観の偏りが強い場合、それはこころがストレスを受けやすいという1つのリスクになることは事実です。

長い人生において、価値観の変更が求められることは十分に起こりうる事です。今すぐは起こらないとしてもいつか起こる可能性は十分にあることなのです。価値観の偏りが強すぎる場合、価値観の変更に適応できず、そこで心に大きなダメージを受けてしまう可能性があるのです。

2.こころに余裕がなくなると視野が更に狭くなる

私たちは、忙しさなどで気持ちに余裕がなくなると、視野が狭くなり、更に価値観が偏ってしまいがちです。

忙しくなると人は無意識に物事に優先順位を付けて、優先順位の高いものからやろうとします。価値観が偏っている人にとって優先順位の高いものは、当然価値観を置いているものになりますから、それに対してより取り組むようになり、それ以外のものはより軽視するようになります。

つまり、元々価値観の偏りを持っている方が、忙しい状況になってしまうと、精神的に不調に陥る危険性が更に高くなるという事です。

「仕事が自分の人生の全て」という価値観の偏りがある方が、不眠不休で働いて気持ちに余裕がなくなってきたときの事を考えてみましょう。元々「仕事が全て」だったのに、忙しくて余裕がなくなると、仕事以外の余計なことは更にしなくなるでしょう。

こうなると悪循環に陥ります。気持ちにどんどん余裕がなくなり、最後には疲労から仕事もできなくなってしまい、出社もできなくなってしまうでしょう。

実際にこのパターンでうつ病などを発症し、精神科を受診する方は少なくないのです。

価値観の偏りは、元々の性格として見られるものというだけでなく、「忙しさ」「疲れ」などで余裕がなくなってしまうと更に強まってしまう傾向があるのです。

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3.価値観の偏りは自分では気付きにくい

元々の性格的に価値観が偏っているにせよ、忙しさで価値観が偏ってきたにせよ、「自分の価値観が偏りすぎているかも」というのは、なかなか自分では気付きにくいものです。

なぜならば、自分の価値観を人に話すことなどそう多くはないからです。こういった自分の内面は誰にでも話せるものではなく、ある程度信頼できる人にしか話さないのが普通です。周囲にさらけ出す機会が少ない分、その偏りを指摘される可能性も少ないのです。

また人は無意識に自分と似ている人と仲良くなろうとする傾向があります。仕事一筋な人は、同じく仕事一筋な人と「話が合う」ため、そういった人と好んで付き合うようになります。そのため、自分の価値観をさらけ出しても、それを否定されることも少なく、「自分の価値観が偏っている」とは感じにくいのです。

誰だって、皆価値観は違います。そのため、価値観は誰だってある程度偏りがあるのが普通です。価値観が偏っていること自体は別に悪いことではありません。

しかし、価値観の偏りがある場合、それを自分で自覚しているという事はとても重要です。自覚できていれば、深刻な状態に陥る前に対策を打ちやすくなるからです。また自覚しているだけでなく、価値観が崩壊せざるを得ない状況がきた時の事まで想像できれば、精神的に不調をきたすリスクを減らすことができます。

4.視野を広げ、柔軟性を高める工夫

価値観に偏りがある事自体は、別に悪いことではありません。それは個性の1つだとも言えます。

しかし価値観があまりに偏っている場合、それが崩壊した時に精神的不調になるリスクとなることは知っておく必要があります。偏りが強ければ強いほど、精神的不調となる危険も大きくなります。

万が一、価値観の崩壊が生じた時、大きく精神的に不調とならないために、今から出来る工夫を紹介します。

Ⅰ.全てを治そうと思わないこと

価値観の偏りは、あなたの個性であり、あなたの魅力でもあったりします。それを全て治してしまうと、何の特徴もない面白味のない人間になってしまうかもしれません。

「価値観を変えなさい」と言われれば、抵抗を感じるのが普通でしょう。今まで自分が大切だと思ってきたものを「大切だと思わないように!」などと言われても受け入れられるはずがありません。

価値観を全て普通に治す必要などはありません。

価値観に偏りがあるのは悪いことではないのです。

ただ、事実として価値観に偏りがありすぎると、価値観の変更があった時に精神的ダメージを受けやすいという事は知っておく必要があります。

そして、価値観を全て変えるのではなく、自分が出来ることだけでも良いので精神的に不調にならないような工夫を取り入れていくことです。

Ⅱ.自分の価値観の偏りが強いかをチェックしてみる

自分が今、重視しているものについて、「もしそれが出来なくなったらどうなる?」と真剣に考えてみてください。そこでショックを受けることは普通のことですが、「その時はその時で別の道を探す」などとリカバーできるような思考が持てるようであれば、大丈夫でしょう。

しかし「そんな事になったら生きている意味がない」「そんなこと考えられない」という答えになるのであれば、あなたの価値観は偏りが強い可能性があります。

Ⅲ.自分と違う価値観を知る

私たちは自分と価値観が異なる人を避けてしまう傾向があります。

仕事熱心な人は、家庭を第一に考えるような人を「あいつと話すと、仕事の士気が落ちる」といって避けてしまいます。それはその人の価値観を知ると、自分の価値観を否定されているような気持ちになってしまうからです。

しかし同じような価値観を持っている人とばかり付き合っていると、その価値観はますます偏ってしまいます。

自分の価値観を全て変える必要はありませんし、相手の価値観を全て取り入れないといけないわけではありません。

しかし、「色々な価値観がある」と知ることは大切です。

「自分には理解できないところもあるけど、ああいった考え方もあるんだな」と異なる価値観を知識をして知っておくだけでも、価値観の偏り過ぎを防止することはできます。

Ⅳ.人と会う、本を読む

色々な考え方を知るためには、色々な人と会い、色々な本を読むことが効果的です。

特に普段接点のないような人と会う事がおすすめです。普段会わなそうな人ほど、自分と異なる価値観の中で生きているからです。

自分と年の離れている人、職種の全く異なる人などと話す機会を作ってみましょう。

よく海外旅行者の方が「海外に行って価値観が変わった!」と言いますが、これは自分とまったく異なる価値観を知ったからです。自分の知らない世界に生きている人と会い、話を聞く事はとても意味があります。

人と会うことがなかなか難しいという場合は、本を読むこともおすすめです。本は便利なもので、世界中のあらゆる人の考え方や価値観を手軽に知ることができます。

Ⅴ.休憩は義務として定期的に入れる

人は疲れると、どんどんと視野が狭くなり、価値観が偏っていくのは先ほど説明した通りです。

忙しくなると人は無意識に物事に優先順位を付けて、優先順位の高いものからやろうとします。価値観が偏っている人にとって優先順位の高いものは、当然価値観を置いているものになり、それ以外のものはますます遠ざけようとしてしまうのです。

そうならないためには、定期的に休息をとることは価値観を偏らせないためにも必須の事です。

どんなに忙しくても1週間に1日はお休みを取りましょう。できれば1週間に2日は休めるとなお良いですね。

睡眠に関しても同じです。毎日寝不足であれば疲労から、価値観の偏りはどんどん強まってしまいます。最適な睡眠時間は人によって違いますが、おおむね6~8時間くらいと考えられています。翌日に疲れが残らない程度の睡眠時間は確保するようにしましょう。

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