デジレル錠の効果・特徴【医師が教える抗うつ剤の全て】

デジレルは1991年に発売された抗うつ剤です。

「鎮静系抗うつ剤」と呼ばれるタイプで抗うつ効果は弱いものの、眠りを深くする作用に優れ、不眠症の患者さんなどに重宝されます。優れた抗うつ剤が充実してきた現在においては、抗うつ効果というよりも 睡眠薬として使われることが多くなっています。

ここでは、デジレルの効果や特徴について紹介していきます。  

1.デジレルの特徴

まずはデジレルの全体的なイメージをざっくりと書きます。

  • 抗うつ効果は弱い。
  • 眠りを深くする作用に優れる(深部睡眠を増加させる)
  • 副作用は少ない(性機能障害が若干多め)

「抗うつ効果」は率直に言ってしまえば頼りないところがあります。

純粋に「抗うつ作用が十分あるか?」としてデジレルを見た場合、「十分」と言えないことも多く、
実際デジレルのみでうつ病の薬物療法を行う、というケースはほとんどありません。

しかし、「眠りを深くする作用」には優れています。
ただ眠らせるだけでなく、深部睡眠(=深い眠り)を増やしてくれるので、
熟眠感が得られることが期待できます。

睡眠薬とは違う作用機序であるため、睡眠薬が十分に効かない不眠の方に、
役立つ選択肢になります。

副作用は多くはありません。

眠りを深くするため、眠気やふらつきの副作用はありますが、
抗うつ剤によく認められる副作用である、口渇・便秘や体重増加などは少なめです。

ただし、稀に「持続性勃起」が生じることがあり注意が必要です。
(持続勃起:誘因なく勃起状態が続いてしまう状態)

2.デジレルの作用機序

デジレルは、独特の構造をしており、三環系、四環系、SSRI、SNRI、Nassaなど
いずれの抗うつ剤のグループにも属しません。

しかし、その作用機序は特殊というわけではなく、他の抗うつ剤と同じく
セロトニンの再取り込みを阻害することでセロトニンの濃度を増やし、抗うつ効果を発揮します。

セロトニンが吸収・分解されるのをジャマすることで、長くセロトニンが残るようにし、
濃度を高く維持する、ということです。

動物実験では、セロトニンの濃度は増やすけども、
ノルアドレナリンの濃度は増やさないという結果が報告されています。

セロトニンは、気分の落ち込みや不安を改善させ、
ノルアドレナリンは、意欲や楽しむ力を改善させると言われていますので、
理論的には意欲の改善などにはあまり効果はないと言えます。

また、眠りを深くする作用に優れますが、これはデジレルの
「セロトニン2A受容体遮断作用」が強力であることが理由です。 

他の鎮静系抗うつ剤の眠気は抗ヒスタミン作用が主な原因ですが、
デジレルは抗ヒスタミン作用は強くなく、これが他の鎮静系との大きな違いです。

抗ヒスタミン作用が強いと眠気と体重増加が起こるため、
特にリフレックス・レメロンは太ります。

デジレルが眠気は起こすけど、体重増加が多くはないため、
体重増加を極力起こしたくない方には良い選択肢になるでしょう。    

3.デジレルを使う疾患

デジレルの添付文書には、

うつ病、うつ状態

に適応があると記載されています。

しかし、実際はうつ病、うつ状態にデジレルのみで挑むことはほとんどありません。
抗うつ効果が弱いからです。

デジレルの特徴は、弱めの抗うつ効果と、眠りを深くする作用です。
この二つを考えると、デジレルが使われるのは次のケースです。

  1. 他の抗うつ剤で治療中で、あと一歩改善させたい時の補助薬として
  2. 睡眠薬で充分な効果が得られない不眠に

うつ病で薬物療法を検討するとき、現在まず使われるのはSSRI、SNRI、Nassaあたりです。
このようなおくすりを使って治療しているんだけど、もう一歩改善が欲しい時の 「補助薬」として
デジレルを使うことがあります。

特に、「不眠」の改善が乏しい場合などは良い適応になるでしょう。

また、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬などで不眠治療を行っていたんだけど、
いまひとつ効果が得られない、このような場合にも睡眠薬と異なる作用機序を持つデジレルは
良い選択肢になります。

睡眠薬は、眠りは促すけど深部睡眠(=深い眠り)を減らしてしまうという特徴があります。

睡眠薬で眠ると、時間としては眠れているんだけど今ひとつすっきり疲れが取れないと感じる方が
いらっしゃると思いますが、これは睡眠薬が深部睡眠を減らす作用があるからです。

デジレルはセロトニン2A受容体遮断作用により、深部睡眠を増やしてくれます。

そのため、睡眠薬で不十分な不眠に役立つケースがあります。  

4.デジレルが向いている人は?

抗うつ効果は弱い。 眠りを深くする効果に優れる。

このデジレルの特徴から、「睡眠に困っている方」がデジレルに向いている人でしょう。

ただしデジレルの睡眠効果も非常に強いというわけではないので、
「ゆっくりと睡眠の質を改善していきたい」という方に良いと思われます。

先ほど紹介した

  1. 他の抗うつ剤で治療中で、あと一歩改善させたい時の補助薬として
  2. 睡眠薬で充分な効果が得られない不眠に

向いており、更に「ゆっくりと治す余裕のある場合」がよいでしょう。

デジレルは75mg-200mgで使うように添付文書に書かれていますが、
人によっては25mgで充分睡眠が改善される方もいます。

反面、200mgまで上げないと改善できない方もおり、その場合は少しずつ増やしていかなければいけません。  

5.デジレルの導入例

デジレルは75mg-100mgから開始するよう添付文書に書かれており、
また1日1~数回に分割して投与するように書かれています。

うつ病治療の主剤として使うのであれば、75-100mgで開始してもよいのでしょうが、
現在では抗うつ剤というよりは、「眠りの質を改善するため」に使うため、
25-50mgなどの少量から開始でよいでしょう(あくまでも私個人の意見です)。

効果を見ながら、必要に応じて25-50mgずつ増量していきます。
また、飲むと眠気が起こるため、1日1回眠前に内服することがほとんどです。

半減期(≒くすりが効く長さ)が6-7時間のため、血中濃度を安定させるためには
1日3-4回に分けて内服するのが理想ですが、それだと1日中眠くなってしまいます。

夜の睡眠にだけ効いてほしい場合は、眠前1回投与で大きな問題はないでしょう。