対人恐怖症に使われるお薬にはどんなものがあるのか

対人恐怖症は、対人場面において過剰に恐怖を感じてしまう疾患です。

対人への恐怖から「相手にバカにされているのではないか」「相手を不快にしてしまっているのではないか」といったネガティブな感情が生まれ、対人関係を出来る限り避けるようになってしまいます。また症状が進行すると、生活に必要な外出が出来なくなったり、仕事にも行けなくなってしまったりと生活に大きな支障を来たすようになります。

元々は日本に突出して多い疾患だと考えられていましたが、海外でも似た疾患である「社交不安障害」が少なくない事が次第に明らかになってきました。そのため、現在では対人恐怖症も社交不安障害もおおよそ同様の疾患として扱われるようになっています。

対人恐怖症は「あがり症」「緊張屋さん」と、「ただの性格の問題」だと扱われてしまうことがあり、「治療をすれば治る」という認識を持たれにくい問題があります。確かに、軽度の対人恐怖症であれば、病院で治療をせずとも自力で治せることもあります。

しかし、自分で治せない場合やどうやって改善させたらいいのか分からない場合は病院で専門家の指示のもとで正しい治療を行う方が賢明でしょう。いたずらに対人恐怖を放置しておくと、恐怖が次第に増悪し、生活への支障がどんどんと大きくなってしまうからです。

対人恐怖症の治療にはいくつかの方法がありますが、お薬による治療(薬物療法)も効果的な治療の一つです。対人恐怖症は社交不安障害と同じく、お薬が比較的良く効く疾患であり、適切なお薬で正しく治療を行えば、症状を改善させることは十分可能です。

今日は、対人恐怖症で使われるお薬について、どのようなものがあるのかを紹介します。

なお、対人恐怖症は「社交不安障害(社交恐怖)」と、ほぼ同様の疾患だと考えられているため、使用されるお薬も社交不安障害と同様になります。

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1.抗うつ剤(SSRI)

対人恐怖症の薬物療法の中心になるのは抗うつ剤です。抗うつ剤の中でもSSRI(選択的セロトニン再取り込み薬)というお薬がよく用いられます。SSRIが使われる理由は「安全性の高いため」と「セロトニンを増やす作用に優れるから」です。

抗うつ剤というと、うつ病に対する治療薬だと思っている方が多いかもしれません。しかし実は抗うつ剤は不安や恐怖の改善にも優れた効果を示すのです。対人恐怖症は社交不安障害と同様に「不安」「恐怖」が根本にある疾患であるため、抗うつ剤は有効なのです。

ちなみに社交不安障害は不安障害の一つですが、その発症原因としてセロトニンが大きく関係していることがほぼ間違いないと考えられています。

社交不安障害では、脳にある扁桃体という部位が過活動になっていることが多くの研究において示されています。抗うつ剤は脳のセロトニンを増やすことで扁桃体の過活動を抑制し、不安や恐怖を軽減させると考えられています。

そして対人恐怖症も社交不安障害と極めて類似した症状を呈するため、同様のことが脳内で起こっていると推測されます。

そのためセロトニンを増やす作用を持つ抗うつ剤が対人恐怖症の治療には有効なのです。

抗うつ剤の中でもセロトニンを増やす作用に優れるものがより効果的です。抗うつ剤はSSRIはセロトニンを集中的に増やす作用に優れるため、対人恐怖症の治療薬としてよく用いられています。

現在、我が国には現在4種類のSSRIがあり、このうちのいずれかが用いられます。

・フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)
・パロキセチン(商品名:パキシル)
・セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)
・エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)

どのSSRIを使うべきかは患者さんによって異なるため、主治医とよく相談の上で選択していきます。しかし大きな視点で見ると、どれも有効率に大きな差はないとする報告が多く、極論を言えばどれを使っても間違いではありません。

しかし2015年7月現在において保険上、社交不安障害に適応を持っているのは、パロキセチン(パキシル)とフルボキサミン(ルボックス、デプロメール)のみですので、保険的に使えるSSRIというとこの2種類になります。もちろん医学上はどのSSRIでも効果はありますので、この2種類が使えるというのはあくまでも保険上の話に過ぎません。

対人恐怖症に抗うつ剤を用いる場合、まずはSSRIから始めることが一般的ですが、SSRIでは効果が不十分であったりSSRIがどうしても使えない場合では別の抗うつ剤を使う事もあります。

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)の他、三環系抗うつ剤(TCA)という古い抗うつ剤も使用されることもあります。

三環系抗うつ剤にも、いくつか種類がありますが、特にセロトニンを増やす作用に優れるものが有効です。具体的には、クロミプラミン(商品名:アナフラニール)などです。三環系抗うつ剤は古いお薬であり副作用も多く、使用する際には注意が必要です。

抗うつ剤は、服薬初期に吐き気や口の渇きといった副作用が出ることが多いため、少量から始めて徐々に量を増やしていきます。そのため、効果が出るまでに時間がかかるのが難点です。対人恐怖症・社交不安障害に対しての有効率は高く、しっかりと治してくれるお薬ですが、しっかりとした効果が出るまでに2週間~1か月程度は待たないといけません。

また対人恐怖症は10代といった若年者に多い疾患ですが、SSRIの若年者への投与は慎重しなくてはいけません。

SSRIの添付文書には若年者へのSSRI投与について次のように書かれています。

海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象としたプラセボ対照試験において有効性が確認できなかったとの報告、また、自殺に関するリスクが増加するとの報告もあるので、18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。

対人恐怖症は大うつ病性障害ではないため、この記載がそのままあてはまるものではありませんが、未成年に安易に処方してはいけない事に違いはありません。若年の対人恐怖症に対してもSSRIはもちろん有効なのですが、成人に使用する際と比べて慎重に使用する必要があるでしょう。主治医によく見極めてもらってください。

2.抗不安薬(安定剤)

対人恐怖症を治療するための補助的なお薬として抗不安薬が用いられることもあります。抗不安薬は主にベンゾジアゼピン系抗不安薬というものが使われれます。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬はたくさんありますが、代表的なものには次のようなものが挙げられます。

・ロラゼパム(商品名:ワイパックス)
・アルムラゾラム(商品名:ソラナックス、コンスタン)
・ブロマゼパム(商品名:レキソタン、セニラン)
・ジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)
・クロチアゼパム(商品名:リーゼ)
・エチゾラム(商品名:デパス)
・ロフラゼプ酸エチル(商品名:メイラックス)

抗不安薬のメリットには「即効性」があります。先ほど紹介した抗うつ剤は効果発現まで数週間待つ必要がありますが、抗不安薬は早いものだと飲んで15分程度で効果が出るものもあります。

その即効性から、恐怖や緊張が高まってきた時に「頓服」としてサッと使えるのも利点です。

デメリットとしては、長期服薬・大量服薬による耐性・依存性があります。抗うつ剤には耐性・依存性はありませんが、抗不安薬には耐性・依存性があることが知られています。

耐性とは、ある物質を摂取し続けると次第に身体が慣れてきて、効かなくなってくる事です。抗不安薬は耐性を持っており、長期・大量に連用を続けているとだんだんと効きが悪くなってきて、必要量がどんどん増えてしまいます。

依存性とは、ある物質を摂取し続けていると次第にその物質なしではいられなくなることです。抗不安薬を長期・大量に連用をしていると、次第に抗不安薬なしではいられなくなってしまい、いつまでもお薬から離れられなくなってしまいます。

そのため抗不安薬の長期服薬はなるべく避けたいところです。

ベンゾジアゼピン系は長所もあるため、上手に使えばよりスムーズに対人恐怖症を治してくれます。どうしても人と会わないといけない、外出しなくてはいけないといった状況の時に、すぐに効くお薬があるのはとても心強いことです。そのため、抗不安薬を使用することは間違いではありません。

しかし上記の問題から、少なくとも第一選択となるお薬ではありませんし、ベンゾジアゼピン系のみで治療するのはあまり推奨される方法ではないでしょう。

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3.漢方薬

漢方薬の中には不安や恐怖に対して効果を示すものがありますので、漢方薬を使うこともあります。しかしその効きは個人差も大きいため、第一選択として用いられることは少なく、SSRIが使えない場合(例えば患者さんがどうしても漢方薬以外の治療を拒否する場合など)に検討される治療薬です。

対人恐怖症に対して漢方薬を使用する際は、ゆっくり穏やかに効いてくるということを理解しておく必要があります。短期間での劇的な改善は期待してはいけません。

個人差もありますが、1か月程度かけて少しずつ効いてきます。効きの個人差も大きいため、漢方薬の適応かどうかは主治医とよく相談して判断してください。

対人恐怖症をはじめ、不安の改善を目的に使われる代表的な漢方薬を紹介します。

半夏厚朴湯・・・気分が塞いで喉・食道部に違和感があり、時に動悸、めまい、嘔気を伴うものの諸症
・柴胡加竜骨牡蛎湯・・・比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの諸症
・桂枝加竜骨牡蛎湯・・・下腹直腹筋に緊張があり、比較的体力の衰えているものの諸症
・柴胡桂枝乾姜湯・・・体力が弱く、冷え性、貧血気味で動悸、息切れがあり、神経過敏のものの諸症
・加味逍遥散・・・体質虚弱な婦人で肩が凝り、疲れやすく、精神不安などの精神症状、時に便秘傾向のあるものの諸症
・加味帰脾湯・・・虚弱体質で血色の悪いものの諸症

4.その他の薬物

その他、症例によっては抗てんかん薬や抗精神病薬を用いることもありますが、SSRIなどの抗うつ剤が効かない場合など、やむを得ないケースに限られます。

5.対人恐怖症の薬物療法の流れ

対人恐怖症の薬物療法は、症例によっても違いますし、医師によってやり方の違いがあります。またお薬以外の治療法(精神療法など)を併用することもあるため、一概に「こうやって治療します」と断言することはできませんが、ここでは標準的な薬物療法の一例を紹介させて頂きます。

Ⅰ.SSRIを少量から始め、抗不安薬を併用する

対人恐怖症の薬物療法の主体となるのはSSRIです。SSRIは副作用を軽減するため少量から開始し、徐々に増薬していきます。

一例としてパロキセチン(商品名:パキシル)を例に取ると、まずは少量の10mgから開始します。副作用が心配だという方は5mgなど更に少量から始めてもよいでしょう。

患者さんの「お薬の副作用が心配だ」という不安や恐怖を極力軽減するのは、治療的にも重要なことです。なぜならば、対人恐怖症の根本にあるのは「不安・恐怖」だからです。不安・恐怖の治療をするのに、投薬で更に不安にさせてしまったら本末転倒です。そのため場合によってはかなり少量から開始することもあります。ただし、少量から開始すればするほど効果発現が遅くなることは理解しておかなければいけません。

SSRIは効果発現までに数週間の時間がかかります。その間は抗不安薬を併用してもよいでしょう。抗不安薬は即効性があるのが利点ですので、飲み始めてすぐ不安が軽減されます。

しかし、抗不安薬には依存性などの問題もあるため、「SSRIが効いてくるまで」の一時的なものという認識を持って服薬をしましょう。

SSRIは服用初期には吐き気や胃部不快感などの副作用が出ますが、その多くは時間が経つにつれ自然と改善します。どうしてもつらい場合は、胃薬などを併用しても良いでしょう。また、眠気、ふらつき、性機能障害などの副作用が生じる可能性もあります。副作用が出た場合は主治医に報告し、どのように対処していくかを相談してください。

Ⅱ.SSRIを十分量まで増やしていく

大きな副作用もなくSSRIが導入できたら、徐々に増薬していきます。

先ほどのパキシルの例で言えば、10mg⇒20mg⇒30mg⇒40mgと増薬していきます。

ここで、「どこまで増やすのか」という問題がありますが、基本的には「不安や恐怖が十分に消えるまで」増薬することが良いと言われています。

まだ不安が残っているけど、ある程度改善されたからと言って「先生、もうこの量でもう十分です。増薬は止めてください」と訴える患者さんがいます。お薬はなるべくならば飲みたくないものですから、患者さんがこう言う気持ちもよく分かります。

しかし、不安は「十分に消す」ことが良いと考えられており、「中途半端に消しただけ」というのはあまり良い状態とは言えません。なぜならば、不安は不安を呼ぶ、という性質を持っているからです。

みなさんも経験がありませんか。ちょっと不安な出来事があって、最初はあまり気にも留めていなかったけど、考えているうちにどんどん不安が強くなってきてしまった、ということが。不安は十分に消しておかないと、勝手に新たな不安を呼び込みどんどん増悪してしまう特性があるのです。少しの不安でも残しておくと、その不安が不安を呼び、どんどんと強くなっていく可能性があります。

このため、SSRIの増薬は「不安・恐怖が十分に消えるまで」行うべきです。主治医先生とよく相談して必要な量までしっかりと増薬してください。

ちなみにSSRIを十分量使ったけども効果不十分である時には、

・本当に対人恐怖症・社交不安障害で診断が間違いがないのか再度見直す
・違うSSRIを使う
・SNRIやNaSSA、三環系抗うつ剤などを使う
・補助的に抗てんかん薬や抗精神病薬を使う

などの方法が取られます。

Ⅲ.抗不安薬を減らしていく

順調にSSRIの増薬が出来れば、1~2か月ほどで不安・恐怖は改善していきます。不安・恐怖が十分に消え、ある程度の自信もついてきたら、今度は抗不安薬を少しずつ減らしていきます。

これは、抗不安薬の耐性・依存形成を防ぐためです。

急に中止してしまうと、反動で不安が強くなったり離脱症状が起こったりしますので、慎重に少しずつ減らしていきますまた、どうしても減らせない場合は、半減期の長い抗不安薬や効果の弱い抗不安薬に切り替えます。半減期の長いもの・効果の弱いものの方が耐性・依存性が少ないからです。

また、「人と会う時だけ」「外出するときだけ」などの抗不安薬の頓服的な使用は、継続して問題ありません。ワンポイントでたまに服薬する程度であれば、耐性・依存性の形成はそこまで心配しなくても良いからです。

頓服は持っておくだけでも、「いざという時にはお薬を飲めばいい」という安心感を持てるため、意義があります。

Ⅳ.1年ほど服薬を続ける

服薬下で症状がほぼ消失している状態を「寛解状態」と言います。寛解状態になると、症状がほとんどないため「もう治ったのでは」と患者さんは感じます。

ほとんどの患者さんは出来るだけ早くお薬を止めたいと考えているため、症状が良くなるとすぐに「先生、そろそろお薬を減らせませんか?」と相談されますが、寛解状態に至ってからも最低でも6か月、できれば1年は服薬を続けた方が良いでしょう。

これは、寛解直後は再発率が多いためです。せっかく良くなったのに再発してしまうと、再び自信をなくしてしまいます。また、再発を繰り返すとだんだんと治りが悪くなり、難治性となっていくことも知られています。

早くお薬をやめたい気持ちは痛いほど分かるのですが、1年ほどはしっかりと服薬を続けてから治療終了とした方が再発の危険性も少なく安全に治療を終えることが出来ます。

時々、「先生はお金儲けのためにお薬を減らさないのではないか」と疑われてしまうこともあるのですが、そうではないのです。再発させないためなのです。

なお、再発を繰り返している方に関しては、1年以上服薬継続が必要な場合もあります。主治医先生とよく相談して下さい。

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