ベルソムラ錠の副作用と対処法【医師が教える睡眠薬の全て】

ベルソムラは2014年より発売されている、オレキシン受容体拮抗薬と呼ばれる睡眠薬です。

ベルソムラは従来の睡眠薬で問題となることが多かった耐性や依存性をほとんど認めない安全性の高い睡眠薬です。そのため処方される数も徐々に増えている睡眠薬になります。

しかしベルソムラに副作用がまったくないわけではありません。

ここではベルソムラの副作用について、特に注意すべき副作用やその対処法について紹介していきたいと思います。

1.ベルソムラの副作用の概要

まずはベルソムラの副作用の全体像についてお話します。

他の睡眠薬と比べると、全体的に見てベルソムラの副作用は少なく、安全性は高いと考えられます。

現在主に用いられている睡眠薬は「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」の2種類ですので、これらと比較して「少なめ」ということです。

特にベンゾジアゼピン系の長期服薬で問題となることの多い、

・耐性
・依存性
・断薬時の離脱症状

などをほとんど認めない点はベルソムラの大きな利点です。

また、一般的な睡眠薬の副作用である、

・日中の眠気、倦怠感、集中力低下
・ふらつき、転倒

なども、まったく認めないわけではないものの、他の睡眠薬と比べると少なめだと思われます。

ただし、ベルソムラに特徴的な副作用としては「悪夢」が挙げられ、これは従来の睡眠薬よりもやや頻度が高い印象があります。

ベルソムラはまだ発売されて日が浅いお薬であるため、今後新たに副作用が見つかってくる可能性もありますが、現時点では「全体的に安全性は高い睡眠薬」という認識で良いでしょう。

2.ベルソムラの副作用とその対処法

副作用がゼロのお薬などはなく、どんなお薬でも必ず副作用があります。

しかし、だからと言ってお薬が「怖いもの」「使わない方がいいもの」というわけではありません。効果と副作用をしっかり見極めて、必要なときは使い、不要になったら漫然と使い続けないことが大切です。

ベルソムラは、従来のベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン睡眠薬と異なり、

・耐性
・依存性

といった副作用をほとんど認めず、これがベルソムラの大きなメリットだとお話しました。

しかし副作用がまったくないわけではありません、ベルソムラに報告されている主な副作用について詳しくみていきいましょう。

Ⅰ.眠気

睡眠薬の副作用で、一番多いのが眠気です。睡眠薬は「眠らせるお薬」ですから当然といえば当然の副作用です。ベルソムラも睡眠薬ですから眠気は生じます。

寝る前に睡眠薬を飲んで眠くなる。これは「効果」ですから問題ありません。しかし「起床時間になってもまだ眠くて起きれない」「日中眠くて仕事に集中できない」となるとこれは問題で、副作用と判断されます。

日中まで睡眠薬の効果が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と呼びます。眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下などにもつながります。

ベルソムラの日中の眠気は、他の睡眠薬と比べて多いわけではなく、むしろ少なめです。ベルソムラの薬効はおよそ6~8時間程度と考えられており、日中に持ち越す可能性は高くはありません。

しかし、時に日中まで眠気が持ち越してしまうことはあります。特にお薬が身体に残りやすい方(高齢者や肝機能障害のある方など)は、作用時間が延長しやすいことがありますので注意が必要です。また、元々の睡眠時間が極端に短い方も日中の眠気が生じやすいことが考えられます。

眠気が日中に持ち越してしまう場合、まず初めに取るべき対処法は「睡眠時間をより多くとること」「睡眠環境の見直しを行うこと」です。

例えば元々3時間睡眠でベルソムラを服用しており、それで眠気が翌朝に持ち越してしまっているようであれば、ベルソムラは6~8時間効くお薬ですので眠気が出るのは当然です少なくとも6時間程度は睡眠時間を取るように生活習慣の改善を行いましょう。睡眠時間を多く取れれば持ち越しは起きにくくなります。

眠気の副作用が出た時はまず、「睡眠時間を増やす事」。これが一番間違いのない対処法です。

どうしても睡眠時間を確保できな場合は、主治医と相談の上で量を変更したり、他の睡眠薬に変更するという方法もあります。ただし、ベルソムラは添付文書上は量の調整は認められていないので、主治医とよく相談し、その判断は主治医が慎重に行う必要があります。

Ⅱ.頭痛

ベルソムラの副作用で、頭痛の報告があります。

頭痛の副作用はベルソムラのみならず、多くの睡眠薬で認める共通する副作用です。

多くの場合、その程度は軽度であるためまずは様子観察となります。様子を見ていく中で身体がお薬に徐々に慣れてきて、頭痛が自然と改善してくることもあるからです。

しかし、あまりに頭痛が続き、患者さんがつらいようであれば、お薬の中止あるいは変更をする必要もあります。

Ⅲ.悪夢

ベルソムラに比較的特徴的な副作用として「悪夢」があります。

なぜ悪夢が生じているのかは明確には分かっていませんが、

  • ベルソムラがレム睡眠を抑制しないからではないか
  • ナルコレプシー様の症状として悪夢が生じているのではないか

などが可能性として考えられます。

睡眠には「レム睡眠(REM)」と「ノンレム睡眠(non-REM)」の2種類があります。かんたんに言うと、

  • レム睡眠は脳が起きていて、身体が眠っている
  • ノンレム睡眠は脳が眠っていて、身体が起きている

睡眠です。睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返されています。

レム睡眠中は脳は起きているため、夢をみるのはレム睡眠中だと考えられています。ベルソムラはレム睡眠を抑制しないという特徴があるため、悪夢を見やすいのかもしれません。ちなみにベンゾジアゼピン系はレム睡眠を抑制する作用を持つお薬が多くあります。

またナルコレプシーという病気がありますが、これはオレキシンの欠乏が原因だと考えられている病気です。となると、人工的にオレキシンをブロックするベルソムラは、ナルコレプシーに似た状態を作ってしまう可能性があります。ナルコレプシーでは、入眠時幻覚や悪夢といった症状が出現しやすいことが知られており、これに関連してベルソムラでも悪夢が出ている可能性も考えられます。

悪夢についても特別な治療法というのはなく、軽度なものであれば様子を見ます。悪夢が続き、あまりにつらいようであればお薬の中止あるいは変更が検討されてます。

3.依存性は本当にないのか?

新しい睡眠薬であるベルソムラが注目されている理由として、従来の睡眠薬と異なり、

  • 耐性がないこと
  • 依存性がないこと

が挙げられます。

耐性・依存性は服薬してすぐには問題とならない副作用ですが、長期の服薬となった場合に大きな問題となります。

耐性というのは、身体が徐々にお薬に慣れてしまうことで、それに伴ってお薬の効きが悪くなってくることです。耐性が形成されると、最初は睡眠薬を1錠飲めばぐっすり眠れていたのに、だんだんと身体が慣れてしまって2錠、3錠飲まないと眠れなくなり、必要なお薬の量がどんどん増えてしまうことになります。

依存性というのは、お薬なしではいられなくなってしまう状態です。依存が形成されると、お薬が切れると落ち着かなくなったり、一睡もできなくなってしまいます。依存が形成された状態で無理に断薬をすると、手のふるえや発汗などの離脱症状が現れることもあります。

耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。アルコールにも耐性と依存性があるからです。アルコールを常用していると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため、飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。

また飲酒量が多くなると、飲酒せずにはいられなくなり、常にアルコールを求めるようになります、アルコールを切らすと手がふるえたり、汗が出て来たり、ソワソワ・イライラしたりします。これは依存性が形成されているという事です。

従来の睡眠薬であるベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系は、長期服薬によって耐性・依存性が形成されることが分かっています。

ベルソムラはというと、耐性・依存性が形成されないことが臨床試験から報告されています。

しかしベルソムラの添付文書を見ると、「習慣性医薬品」と書かれています。習慣性があるという事は依存性があるという事です。これはどういう事でしょうか。

この理由については、おそらくベルソムラの発売前に行われた臨床試験の結果の1つが関係していると思われます。

その試験とは薬物乱用試験であり、娯楽目的での薬物多剤使用経験のある方を対象し、ベルソムラに薬物嗜好性があるのかどうかを見た試験です。この試験ではベルソムラの薬物嗜好性は「プラセボ(偽薬)より高く、ゾルピデム(商品名:マイスリー)と同程度」と結論付けられています。

ただしこの試験は海外で行われたものであり、試験に使われたベルソムラの量も40~150mgと非常に高用量です(実際に私たちが使う量は15~20mgの範囲内です)。

一方で不眠症患者さんを対象とした研究では、ベルソムラを投与して12か月間、持続して安定した効果が得られたと報告されています。12か月間、同じベルソムラの量で睡眠に対する効果が安定し続けていたという事は、耐性形成がなかったということになります。

また通常用量のベルソムラにおいては、ベルソムラ中止後に反跳性不眠が出現したり、退薬徴候(離脱症状)を認めたりという事もなかったと報告されており、これはベルソムラに依存性はないことを示唆しています。

現時点の臨床感覚としては、少なくとも問題となるほどの耐性や依存性はないように感じます。

これらの事から考えると、耐性・依存性のリスクはゼロではないものの、通常の方がベルソムラを適正用量にて使用する分には、耐性・依存性はほぼ気にしなくて良いのではないかと考えられます。元々薬物乱用リスクの高い方(例えばアルコール依存症の方など)は、注意が必要でしょう。

4.ナルコレプシーは生じないのか?

オレキシン受容体拮抗薬であるベルソムラは、オレキシンのはたらきをブロックすることで睡眠に導く作用を持っています。

一方で、オレキシンが少なくなってしまって生じる病気に「ナルコレプシー」があります。ナルコレプシーは「眠り病」とも呼ばれており、オレキシンの欠乏によって、

  • 睡眠発作・・・日中などでも突然眠る
  • 情動脱力発作(カタプレキシー)・・・感情が高ぶった時に全身の力が入らなくなる
  • 入眠時幻覚・・・寝付く時に幻覚が現れる
  • 睡眠麻痺・・・いわゆる金縛り

などが生じます。

ベルソムラがオレキシンのはたらきをブロックするとなると、「ベルソムラによってナルコレプシーが起こってしまうのではないか」という心配が当然出てきます。

確かに理論上はナルコレプシーが生じる可能性はあるため、一応の注意は必要でしょう。

しかし臨床試験や発売後調査においては、通常量のベルソムラを使用していて、ナルコレプシーが出現したという報告は今のところありません。これも医師の指示通り適正に使用していれば、そこまで心配しなくても良いのではないかと考えられます。