SSRIの効果。SSRIはどんな効果がある抗うつ剤なのか

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、精神科領域でもっとも使われている抗うつ剤のひとつです。効果がしっかりとある上に、安全性が高く副作用が少ないというバランスが取れたお薬であるSSRIは、うつ病をはじめとした様々な疾患に用いられています。

みなさんの中にもSSRIを服用している方はいらっしゃるのではないでしょうか。

今日は、精神科で多く用いられているSSRIというお薬について、その効果をお話します。

1.SSRIにはどんなお薬があるのか

現在日本で処方可能なSSRIには次の4種類があります。細かい特徴の違いはありますが、どれもセロトニンを増やすはたらきを持っているのは同じです。発売された年度が古い順に紹介します。

Ⅰ.フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)

1999年に発売された最初のSSRIです。初期のSSRIであり、1日2回服用しなくてはいけなかったり、相互作用する薬物が多かったりで、SSRIの選択肢が増えてきた現在においては若干の使いずらさがあります(1日2回服用するSSRIはフルボキサミンのみで、他のSSRIは1日1回服用です)。

特に、睡眠薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)と併用禁忌なのは、注意しないといけません。うつ病で睡眠薬を併用する方は少なくありませんので。

うつ病で使用される頻度は他のSSRIに押されて減っていますが、不安に対しての効果は現在においても定評があります。特に強迫性障害に対しての効果はSSRIの中での1,2を争う評判の良さです。

Ⅱ.パロキセチン(商品名:パキシル)

2000年に発売されたSSRIです。効果の強さ、キレの良さには定評があり、「SSRIの中で効果の強さは最強」と評価されることが多いお薬です。重症例に対しても頼れるお薬ですが、その分副作用も多めです。

特に減薬・断薬時に生じる離脱症状は、他のSSRIよりも強いことが多いため、注意が必要です。

ただし、離脱症状をなるべく起こさないように、徐放製剤である「パキシルCR」や、細かい用量で減薬できるようにした「パキシル5mg」が発売されるなど、販売製薬会社も離脱症状を減らすための工夫をしています。

(徐放製剤・・・ゆっくりと効き始めることで、副作用が少なくなるように設計されたお薬。)

Ⅲ.セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)

2006年に発売されたSSRIです。効果は穏やかですが、副作用も軽めであり、バランスが良く使い勝手の良いお薬です。安全性が高いため、特にクリニックなどでは良く処方されます。

2014年12月には、SSRIとして初めてOD錠(口腔内崩壊錠)が発売されました。OD錠は水無しで服薬できるため、外出先でも服薬しやすいため、就労している方などにとっては助かる工夫です。

Ⅳ.エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)

2011年に発売されたSSRIです。効果の強さと副作用の少なさのバランスに優れ、MANGA-Studyという研究報告においても「もっとも継続性・有効性の高いSSRI」と結論づけられています。

また、レクサプロは開始用量が治療用量であるという特徴があります。これはどういうことかというと他のSSRIは、開始してから治療用量になるまでに数段階かかります。例えばジェイゾロフトであれば、25mgから始めて、50mg→75mg→100mgと少しずつ増量していかなければいけません。治療用量は100mgなので、1週間ずつ増量しても治療用量に入るまでに4週間かかることになります。

しかしレクサプロは10mgから開始し、その10mgがすでに治療用量なのです。そのため効果を実感できるのも早いという利点があります。

2.SSRIはどのような機序で効果を発揮するのか

SSRIは選択的セロトニン再取り込み阻害薬と呼ばれ、その作用は「セロトニンを増やすこと」です。作用機序を詳しく説明しようとすると専門的で分かりにくい説明になってしまいますので、ここでは難しい専門的な説明はなるべく省いて説明します。

うつ病や不安障害の原因のひとつとして、脳のセロトニンが少なくなっていることが考えられています。そのため、脳のセロトニンを増やしてあげることが治療になります。

セロトニンを増やす方法は二つしかありません。それは、

1.セロトニンを合成されやすくする
2.セロトニンが分解されにくいようにする

の2つです。合成を促進したり、あるいは分解を抑制すれば、その物質の濃度は上がるはずです。

このうち、SSRIは2.のはたらきをします。つまり、分泌されたセロトニンが吸収・分解されないようにするのです。「再取り込み阻害」というのは、セロトニンが取り込まれて分解されないようにする、という意味なのです。

SSRIでセロトニンの吸収・分解を抑えれば、セロトニンは長く脳内に留まることになり、結果として脳内のセロトニン量は多くなっていきます。

これがSSRIが効果は発揮する作用機序になります。

2.SSRIが効果を認める疾患は

SSRIは抗うつ剤に分類されるため、主にうつ病に対して使用されるお薬です。しかしそれ以外にも多くの疾患に用いられます。

SSRIが効果を認める疾患を紹介します。

Ⅰ.うつ病

うつ病の原因はまだ全てが解明されていません。しかし、「少なくともうつ病の原因のひとつではあるだろう」という仮説がいくつか提唱されています。

うつ病の原因の中で、昔から提唱されているのが「モノアミン仮説」です。モノアミンとは、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなど「気分に影響を与える物質」の総称です。モノアミン仮説は、「うつ病はモノアミンが少なくなることで生じる」という仮説です。

そのため、モノアミンを増やすことがうつ病の治療になり、SSRIはセロトニンを増やすためうつ病に効果があると考えられています。

Ⅱ.不安障害(不安症)

パニック障害、社会不安障害、全般性不安障害や恐怖症など、「不安」や「恐怖」が原因となっている疾患にもSSRIは効果を示します。

これらを総称して「不安障害(不安症)」と呼びます。

不安障害の原因もまだ全てが解明されているわけではありません。しかし脳科学の研究によると、不安が高まっている脳においては扁桃体や海馬が過活動となっていることが指摘されています。また、このような状態の脳にSSRIを投与すると、過活動が適正化されることも報告されています。ここから、セロトニン神経がこれらの過活動を抑えてくれるはたらきがあると考えられています。

Ⅲ.強迫性障害

強迫性障害は、強迫観念が頭から離れず、強迫行為を行ってしまう疾患です。

例えば、「手が汚れているんじゃないか(強迫観念)」が頭から離れず、何度も何度も手を洗ってしまう(強迫行為)、などです。

強迫性障害も、原因のひとつとしてセロトニンの不足が考えられており、SSRIが効果を示します。

強迫性障害は、うつ病や不安障害と比べると高用量のSSRIが必要になることが多いと言われています。

Ⅳ.双極性障害(躁うつ病)

双極性障害においては、抗うつ剤というのは主剤ではなく、補助薬としての位置づけです。

双極性障害においては、気分安定薬というお薬が主剤になります。気分安定薬は双極性障害を改善させる良いお薬なのですが、躁状態に効果があるものが多く、うつ状態に効果のあるものは少なめです。そのため、患者さんがうつ状態で苦しんでいる時に治療に困ることがあります。

その時に、うつ状態の改善を期待して、気分安定薬に併用して抗うつ剤を用いることがあります。

しかし双極性障害に対する抗うつ剤の是非は、未だ議論中であり、「使わない方が良い」という専門家もいます。抗うつ剤が気分を上げすぎてしまい、躁状態を誘発してしまう危険性があるからです(これを躁転と言います)。

現在の双極性障害における抗うつ剤の位置づけは「絶対に有効だとは言えない。しかし有効な症例もあるので、使う場合は必ず気分安定薬と併用して使う」というのがおおむねの精神科医の見解です。

双極性障害に対して抗うつ剤を使用する際は、抗うつ剤単独で使うことは避け、必ず気分安定薬と併用して使う必要があります。

Ⅴ.摂食障害(拒食症・過食症)

拒食症や過食症に対して、補助的にSSRIを使用することがあります。摂食障害に対しても、SSRIは主剤ではなく、あくまでも補助的なものに過ぎません。摂食障害の特効薬はなく、環境調整や精神療法(カウンセリングなど)で治療していくのがメインになります。

SSRIは胃腸障害の副作用で食欲低下を引き起こすこともあるし、反対に食欲を上げてしまうこともあるため、摂食障害に使用する場合はその適応を慎重に判断すべきです。

Ⅵ.パーソナリティ障害

種々のパーソナリティ障害に対して、抑うつ・不安症状がある時、補助的にSSRIを使用することがあります。しかしあくまでも補助的に使用するという位置づけです。

パーソナリティ障害の場合は、環境調整や周囲の協力、精神療法などが治療の主軸となります。SSRIは補助的であり、SSRIのみで問題が解決する、ということはほとんどありません。

3.抗うつ剤の中でのSSRIの特徴

SSRIの他にも抗うつ剤にはいくつかの種類があります。

その中で、SSRIの特徴は主に2つです。それは、

・セロトニンを選択的に増やす作用に優れること
・効果の強さと副作用(安全性)のバランスが取れていること

です。

SSRI以外の抗うつ剤とSSRIとの比較を紹介します。

Ⅰ.三環系抗うつ剤(TCA)

SSRIと比べて強力な効果があり頼もしいお薬ですが、その分副作用も強力です。

稀にですが、命に関わるような重篤な不整脈が起こることもあります。また、過量服薬すると危険で、これも命に関わることがあります。

難治性の場合は三環系を使うこともありますが、副作用の危険から考えると、第一に使うお薬ではありません。一般的に三環系は、SSRIが効かない症例に限って用いられることが多いお薬です。

Ⅱ.四環系抗うつ剤

三環系の副作用の多さや危険性から、「もう少し副作用の少ないものを」と考えられて開発された抗うつ剤です。

三環系と比べると抗うつ効果が弱く、頼りなさがあります。しかしその分、副作用も少なくなっています。

SSRIと比べても抗うつ効果は弱めです。

しかし、四環系は眠りを深くする作用に優れるため、不眠を伴っている場合は役立ちます。

Ⅲ.SNRI

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬と呼ばれるお薬です。SSRIと同じく、効果と安全性のバランスに優れ、第一選択で用いられることの多いお薬です。総合的な強さとしてはSSRIと同じくらいでしょう。

SSRIとの違いは、SSRIがセロトニンを選択的に増やすのに比べて、セロトニンとノルアドレナリンの両方を増やすのがSNRIです。理論的にはセロトニンは落ち込みや不安に効き、ノルアドレナリンは意欲ややる気に効くため、意欲低下や無気力が目立つ例ではSSRIではなくSNRIを選択することがあります。

また、ノルアドレナリンは痛みを抑える効果もあるため、心因性の痛みを併発している方にも使われます。

Ⅳ.NaSSA

「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」と呼ばれるお薬です。

SSRI、SNRIと同じく効果と安全性のバランスに優れ、第一選択で用いられるお薬です。効果はSSRIやSNRIよりも若干強めです。四環系から派生した抗うつ剤であるため、眠りを改善する作用に優れます。

また、SSRIやSNRIが、セロトニンやノルアドレナリンを「吸収・分解させないようにする」ことで増やすのに対して、NaSSAはセロトニンやノルアドレナリンの「分泌を促進する」ことでこれらの濃度を増やします。SSRIやSNRIと作用機序が違うため、SSRI/SNRIが効かない例にも効果を発揮する可能性があります。

NaSSAもセロトニンとノルアドレナリンの両方を増やします。

(注:ページ上部の画像はイメージ画像であり、実際のSSRIとは異なることをご了承下さい)