SNRIとはどのような抗うつ剤なのか。SNRIの効果と副作用

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、現在のうつ病治療には欠かせない抗うつ剤のひとつです。

現在のうつ病治療は「新規抗うつ剤」と呼ばれる比較的新しい抗うつ剤が用いられています。新規抗うつ剤は有効性がしっかりとある割に副作用が少なく、安全に治療を行えるというメリットがあります。

SNRIも新規抗うつ剤に属するお薬であり、うつ病治療に多く用いられている抗うつ剤の1つです。

日本では1990年代からSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が発売され、SNRIはやや遅れて2000年頃から発売が開始されました。そのため日本ではまだSSRIが多く用いられていますが、海外に目を向けるとSSRIと同じくらいSNRIは用いられています。

SSRIは「セロトニン」という物質を増やす事でうつ病を改善させますが、SNRIは「セロトニン」のみならず「ノルアドレナリン」も増やす作用があります。これにより幅広い症状の改善が期待できます。

今日はうつ病治療に良く用いられているSNRIというお薬について、どんなお薬でどんな効果や副作用があるのかについて紹介させて頂きます。

1.SNRIはどのようなお薬なのか

まずはSNRIがどういったお薬なのか、その全体像を紹介します。

ざっくりと言ってしまうとSNRIは、

セロトニンとノルアドレナリンを増やす事でうつ病を改善させるお薬

になります。

SNRIは「Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitors」の略で、日本語に訳すと「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」になります。「再取込み」というのは「吸収されて効果がなくなってしまうこと」と考えて下さい。SNRIはセロトニンとノルアドレナリンが再取り込みされる(吸収されて効果が消えてしまう)のを阻害するため、セロトニンやノルアドレナリンの濃度を増やす作用があります。

セロトニンやノルアドレナリンは「モノアミン系」と呼ばれており、主に「感情」に関わる物質だと考えられています。つまり、これらの物質が減ってしまうと感情に異常を来たしやすくなってしまうという事です。

代表的なモノアミンとしては、セロトニン、ノルアドレナリンの他にドーパミンもあります。

それぞれの役割としては、

  • セロトニンは、落ち込みや不安といった感情に関係している
  • ノルアドレナリンは、意欲や気力といった感情に関係している
  • ドーパミンは、楽しみや快楽といった感情に関係している

と考えられています。

つまりセロトニンが減ると落ち込みや不安が悪化し、ノルアドレナリンが減れば意欲や気力が低下し、ドーパミンが減れば楽しみや快楽を感じにくくなってしまうという事です(実際にはここまで単純ではありませんが、分かりやすく言えばこのようになります)。

うつ病は、その原因の1つにモノアミンが低下が指摘されています。そのためモノアミンを増やす作用を持ったお薬が抗うつ剤として用いられています。

SNRIは神経終末から分泌されたセロトニンやノルアドレナリンが「再取込み(≒吸収されて効果が消えてしまう事)」されないようにします。するとセロトニン・ノルアドレナリンが長く神経と神経の間(神経間隙)に居続けることになり、次の神経へ正しい感情の情報を伝えやすくなります。

これがSNRIの作用機序です。

SSRIという抗うつ剤は主にセロトニンの再取り込みを阻害することでセロトニンの濃度を増やしますが、SNRIはセロトニンだけでなくノルアドレナリンも増やす事が大きな特徴です。そのため、

  • 落ち込み、不安が強いうつ病の方

だけでなく、

  • 意欲低下、気力低下が強いうつ病の方

にも優れた効果を発揮することが期待できます。

またノルアドレナリンは感情だけでなく「痛み」にも関係していると考えられています(「うつ病で痛みが出る!?」参照)。

私たちの身体には痛みを抑えるはたらきを持つ神経があり、これは「下行性疼痛抑制系神経」と呼ばれています。この下行性疼痛抑制系神経は主にノルアドレナリンを分泌することによって痛みを抑えています。

つまりノルアドレナリンが減るとうつ病になりやすくなるだけでなく、痛みにも敏感になってしまうという事で、SNRIはノルアドレナリンを増やす事で痛みを抑える作用も期待できるという事です。

2.SNRIにはどんなお薬があるのか

現在日本で処方可能なSNRIは次の3種類があります。どれもセロトニンとノルアドレナリンを増やすはたらきを持っているのは同じですが、セロトニン/ノルアドレナリンを増やす比率に大きな違いがあります。

SNRIを治療薬として用いる場合、この比率を理解した上で自分に合った抗うつ剤を選択することが大切です。

現時点で処方可能なSNRIを、発売された年度が古い順に紹介します。

Ⅰ.トレドミン(一般名:ミルナシプラン)

2000年に発売された日本で最初のSNRIです。

セロトニンとノルアドレナリンを増やしますが、ノルアドレナリンを増やす割合が高めです。しかしその作用は弱く、現在では抗うつ剤としてはあまり用いられていません。

実際にアメリカではトレドミンは抗うつ作用が十分に得られないとの考えから、うつ病には適応がありません。日本でも発売された当初はちょくちょく使用されていましたが、現在では抗うつ剤の主剤としてはあまり用いられていないのが現状です。

しかし前述の通りノルアドレナリンは「痛み」を抑える作用もあるため、ノルアドレナリンを多く増やすトレドミンは神経性の痛みに用いられることがあり、頭痛・腰痛・線維筋痛症などといった疾患の治療薬に用いられています。

1日2~3回の服用となります。

Ⅱ.サインバルタ(一般名:デュロキセチン)

2010年に発売されたSNRIです。

サインバルタもセロトニンとノルアドレナリンを増やしますが、セロトニンを増やす割合が高めです。「SSRI寄りのSNRI」といった印象のお薬になります。ただし高用量を投与するとノルアドレナリンを増やす割合が多くなってくるとも言われています。

トレドミンは効果が弱かったため今一つ普及しなかったのですが、一方でサインバルタは効果をしっかりを有しており、現在でも広く用いられています。

サインバルタは頼れる抗うつ剤の1つですが、カプセル剤であり細かい用量の調整が出来ないため、減薬時に離脱症状がやや生じやすい印象があります。

1日1回の服用となります。

Ⅲ.イフェクサー(一般名:ベンラファキシン)

2015年に発売されたSNRIです。発売されたばかりであるため評判はこれからのお薬ですが、海外では1993年から発売されていたお薬で、世界的に見れば別に新薬ではありません。

イフェクサーはセロトニンとノルアドレナリンを増やしてくれる他、軽度ではありますがドーパミンも増やしてくれる事が報告されています。またセロトニンとノルアドレナリンを増やす割合が用量によって変わるという面白い特徴を持っています。

低用量(≦150mg/日)ではセロトニンを増やす割合が高いのですが、、高用量(≧150mg/日)ではセロトニンとノルアドレナリンを同じくらい増やしてくれるようになります。そのためノルアドレナリンを増やしたい場合(意欲低下が強い、痛みも伴っているなど)には高用量まで増量して使うことが推奨されます。

世界的には標準的に用いられている抗うつ剤で効果は普通(中程度)ですが、日本人には効きが悪い可能性もあります。

というのもイフェクサーは2000年代に日本で発売が予定されていたのですが、発売にあたって行われた日本での臨床試験で「十分な抗うつ効果があるとは言えない」と判断されてしまい、一度発売が断念されているのです。

今回、リベンジの臨床試験で有効性が確認できたためようやく発売されましたが、日本において「有効性が確認できない」という結果も一度出してしまった抗うつ剤なのです。

イフェクサーはSR製剤(徐放製剤:ゆっくり効き続けるお薬)であり、1日1回の服用となります。

3.SNRIはどのような疾患に用いるのか

SNRIはどのような疾患に対して使われるのでしょうか。

SNRIは抗うつ剤に分類されるため、主な用途はうつ病に対してになります。しかしそれ以外の疾患にも用いられることがあります。

ここではSNRIを使う疾患の紹介をします。

Ⅰ.うつ病

うつ病の原因の全てはまだ解明されていません。しかし少なくとも原因の1つであるだろう事として「モノアミンの減少」が考えられています。

モノアミンとは、

  • セロトニン
  • ノルアドレナリン
  • ドーパミン

などの「気分に影響を与える物質」の総称です。

うつ病はモノアミンの減少によって生じているという考えは「モノアミン仮説」と呼ばれており、現在でも支持されている仮説になります。うつ病の原因はモノアミン仮説だけでは説明できないため、モノアミン以外の原因もあるのだとは考えられますが、少なくともうつ病発症の一因になっている事は間違いないでしょう。

そのためモノアミンを増やすことはうつ病治療につながります。

SNRIはセロトニンやノルアドレナリンといったモノアミンを増やす作用があるため、うつ病に対して効果があると考えられています。

Ⅱ.不安障害(不安症)

パニック障害、社会不安障害、全般性不安障害や恐怖症など、「不安」や「恐怖」が根本にある疾患を不安障害と呼びますが、SNRIは不安障害にも効果を示します。

不安障害の原因もまだ全てが解明されているわけではありません。しかし脳科学の研究によると、不安が高まっている脳においては扁桃体や海馬が過活動となっていることが指摘されています。またセロトニン神経がこれらの過活動を抑えてくれるはたらきがあることも報告されており、セロトニンを増やす作用も持つSNRIはしばしば不安障害の治療に用いられます。

ただし不安障害はセロトニンの影響が大きいため、SNRIよりもSSRIがより用いられる傾向にあります。SNRIはSSRIが効かなかった時に「2番目のお薬として」用いられます。

Ⅲ.神経痛

ノルアドレナリンには「痛み」を抑える作用があります。

私たちの身体には痛みを抑えるはたらきを持つ神経というものがあり、これは「下行性疼痛抑制系神経」と呼ばれています。

この神経はノルアドレナリンを分泌することで痛みを感じにくくさせます。

SNRIはノルアドレナリンを増やす作用に優れるため、これによって下行性疼痛抑制系神経のノルアドレナリンの濃度が増え、痛みを抑えやすくなるのです。

実際、SNRIは

  • 線維筋痛症
  • 神経障害性疼痛
  • 慢性疼痛
  • 糖尿病性神経障害に伴う疼痛
  • 慢性腰痛症

といった「痛み」を主症状とする疾患に対して適応を持っています。

臨床ではこれらの疾患以外でも、原因不明の痛みに対してSNRIはしばしば用いられています。

4.抗うつ剤の中でのSNRIの特徴

SNRIの他にも抗うつ剤にはいくつかの種類があります。この中で、SNRIはどのような特徴があるのでしょうか。

まず抗うつ剤は大きく2つに分けることができます。

1つ目は三環系抗うつ剤(TCA)を中心とした「昔の抗うつ剤」です。昔の抗うつ剤は効果が強力なのは良いのですが、副作用も強力だという問題があります。特に過量服薬などをしてしまうと重篤な不整脈が生じたりと命に関わる副作用が出る可能性もあります。そのため現在ではこのような抗うつ剤は極力用いないようにし、他の抗うつ剤が効かないなどのやむを得ない時に限って用いる「最後の切り札」となっています。

2つ目がSSRI、SNRI、NaSSAといった新規抗うつ剤です。新規抗うつ剤はしっかりとした効果を有していながら、副作用が少ないという特徴があります。副作用が生じないわけではないのですが、命に関わるような重篤な副作用は極めて稀であり、安全に用いることができます。

このなかでSNRIは新規抗うつ剤に属し、安全性に優れるというのが特徴の1つになります。

また新規抗うつ剤の中では、

  • ノルアドレナリンを増やす事で意欲・気力の改善効果に優れる
  • 痛みを和らげる効果に優れる

といった特徴があります。

デメリットとしては、アドレナリン系の物質であるノルアドレナリンを増やしてしまう事によって、

  • 動悸(心拍数を上げるため)
  • 頭痛(脳の血管を収縮させてしまうため)
  • 血圧上昇(血管を収縮させてしまうため)
  • 尿が出にくくなる(尿道を締めてしまうため)
  • 不眠(アドレナリンによって覚醒するため)

といった副作用が生じうる可能性があります。

また抗うつ剤は体重増加の副作用が出るものが多く、それで悩んでしまう患者さんも多いのですが、ノルアドレナリンを増やすSNRIは体重が増加しにくいという特徴もあります。

5.他の抗うつ剤とSNRIとの比較

最後にSNRI以外の抗うつ剤とSNRIとの比較を紹介します。

Ⅰ.三環系抗うつ剤(TCA)

三環系抗うつ剤は1950年頃から使われ始めた「最古の抗うつ剤」です。非常に強い抗うつ効果を持つのが特徴ですが、その分副作用も強力です。副作用が多いというだけでなく、命に関わるような重篤な副作用も(稀にではありますが)生じる可能性があります。

SNRIと比べても三環系には強い抗うつ効果があり、「最後の切り札」としては非常に頼れるお薬です。しかし副作用の問題から極力使いたくないお薬でもあります。

三環系抗うつ剤にもいくつかのお薬があり、

  • 主にセロトニンを増やすもの(アナフラニール)
  • セロトニンとノルアドレナリンを増やすもの(トリプタノール)
  • 主にノルアドレナリンを増やすもの(トフラニール、ノリトレン、アモキサン)

がありますが、全体的にはノルアドレナリンを増やすものの割合が多めです。

三環系は副作用の危険性を考えると、第一に使うお薬ではありません。一般的に三環系は、SNRIをはじめとした新規抗うつ剤が効かない難治症例に限って、慎重に用いられるお薬になります。

Ⅱ.四環系抗うつ剤

三環系の副作用の多さや危険性から、「もう少し副作用の少ないものを」と考えられて開発された抗うつ剤です。

三環系と比べると抗うつ効果が弱く、頼りなさがあります。しかしその分、副作用も少なくなっています。

しかし、四環系は眠りを深くする作用に優れるため、不眠を伴っている場合は役立ちます。現在は四環系は抗うつ剤の主剤として用いられることはほとんどなく、眠りを深くする目的で睡眠薬的に用いられるか、他の抗うつ剤を補助するような目的で投与されることがほとんどです。

SNRIと比べても四環系抗うつ効果は弱めです。

しかしSNRIにはない「眠りを深くする作用」があります。不眠で悩む患者さんは非常に多いため、この作用は臨床ではしばしば重宝します。

Ⅲ.SSRI

選択的セロトニン再取り込み阻害薬と呼ばれるお薬です。SNRIと同じく効果と安全性のバランスに優れ、うつ病治療の第一選択として用いられるお薬です。総合的な強さとしてもSNRIと同じくらいでしょう。

SNRIとの違いは、SSRIはセロトニンを中心に増やすのに比べて、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方を増やします。理論的にはセロトニンは落ち込みや不安に効き、ノルアドレナリンは意欲ややる気に効くため、意欲低下や無気力が目立つ例ではSSRIではなくSNRIを選択することがあります。またノルアドレナリンは痛みを抑える効果もあるため、心因性の痛みを併発している方にも使われます。

反対に落ち込みや不安が主症状の場合はSSRIの方が向いていることもあります。

Ⅳ.NaSSA

「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」と呼ばれるお薬です。

SSRI、SNRIと同じく効果と安全性のバランスに優れ、第一選択で用いられるお薬です。全体的な効果はSSRIやSNRIよりも若干強めです。また四環系から派生した抗うつ剤であるため、眠りを改善する作用に優れます。

SSRIやSNRIがセロトニンやノルアドレナリンの「再取込みを阻害する(吸収されて効果が消えないようにする)」ことでこれらの物質の増やすのに対して、NaSSAはセロトニンやノルアドレナリンの「分泌を促進する」ことでこれらの濃度を増やします。SSRIやSNRIと作用機序が違うため、SSRI/SNRIが効かない例にも効果を発揮する可能性がありますし、SSRI/SNRIとNaSSAを併用することで相乗効果が得られる可能性もあります。

NaSSAもSNRIと同じくセロトニンとノルアドレナリンの両方を増やします。