うつ病の人はタバコをやめた方がいいのか?喫煙と精神状態の関係

タバコとうつ病

タバコはガンや高血圧など多くの身体疾患の原因となります。そのため内科を受診して病気が見つかると、高い確率で主治医から禁煙を指示されます。

実際、タバコの箱には次のような警告表示が書かれています。

  • 喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つになります。
  • 喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます。
  • 喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます。
  • 喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます。

このようなことから「タバコが身体に良くない」ということはほとんどの方が理解しています。

しかし、「タバコは精神的に良くない」という事はあまり言われることはありません。むしろ「タバコを吸った方が気持ちが落ち着く」という人すらいるほどです。

タバコは身体的には良くないものと言われていますが、精神的に見た場合はどうなのでしょうか。タバコは精神的には良いものなのでしょうか、それとも悪いものなのでしょうか。

今日はタバコがメンタルヘルスにどのような影響を与えるのかについて考えてみましょう。

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1.タバコは精神的には良いのか・悪いのか

喫煙をしていると、精神的に何か悪い影響はあるのでしょうか。

結論から言ってしまうと、喫煙は「こころ」にも悪影響をきたす可能性が高いと考えられています。

そのため精神的にも健康で過ごしたいと考えるのであれば、できる限りタバコは止めた方が良いでしょう。うつ病などの精神疾患で加療中の方も、できる限り禁煙をした方が病気の治りが良くなるという事です。

タバコと精神状態の関係というのはちょっと複雑で、

・短期的な経過だけを見れば、タバコを吸った方が気持ちが落ち着く事もある
・しかし長期的な経過を見れば、タバコを吸う事で精神的に悪影響を来たす可能性の方が高い

という2つの側面があります。

そしてこの短期的な側面、つまりタバコが精神に良い影響を来たす点のみを見て、「タバコは自分にとっては精神的に良いものだ」と誤解してしまう方が多いのです。実際、「タバコを吸うと気分が落ち着く」「タバコを吸うと集中力が上がる」と感じている方もいるでしょう。このような作用は確かにニコチンの作用によるもので、確かに精神状態の改善に役立ちます。

しかしこれは短期的に限った話に過ぎず、長期的に見るとタバコによって精神状態は悪化する可能性の方が高いのです。

タバコに含まれるニコチンには依存性があり、これがタバコと精神状態の関係を難しくさせています。

短期的なニコチンの摂取であれば、依存にはならないため、単に「気分が落ち着く」「集中力が上がる」といったニコチンの良い効果だけを得ることが出来ます。この期間に限って言えば、タバコは精神状態を悪くしないといえます。

しかし長期的にニコチンを摂取していると、徐々に依存性が形成されていき、「ニコチンがないと落ち着かない」「ニコチンが切れると集中できなくなる」という悪い効果の比重の方が大きくなっていきます。こうなってしまうと、タバコは精神状態を悪くしてしまうようになります。

また依存性のある物質は、急に摂取を中止すると「離脱症状」と呼ばれる症状が出現します。離脱症状は依存性物質の血中濃度が急激に下がった事で生じる症状で、イライラ・不安・落ち着きのなさなどといった精神症状やしびれ・ふるえ・発汗などの身体症状も出現します。

長期的にタバコを吸っていると、ニコチン依存になるため、タバコから離れると離脱症状が出現するようになってしまうのです。

疾患を治療するに当たって禁煙を指示した時、「自分はタバコを吸っていた方が気持ちが落ち着く」「私はタバコを止めるとかえって気持ちが不安定になるのです」とおっしゃる方は少なくありませんが、これはニコチン依存により離脱症状が生じているのです。つまり「タバコで気分が落ち着いている」のではなく、「タバコが無いと気分が落ち着かない身体になってしまっている」ということです。

これらのタバコの影響をまとめると、原則としては「精神状態を安定させるためにはタバコは基本的には止めた方がいい」というのは事実なのですが、ニコチン依存に至っている方が禁煙する場合、止める際に一時的に精神状態が悪化する可能性があります。

そのため、患者さんの精神状態によっては「いますぐはタバコを止めない方がいい」というケースもあります。元々がかなり精神的に不安定である時に、無理に禁煙をして離脱症状を起こしてしまうと、より精神状態が悪化して危険だからです。

その判断は精神科主治医にしてもらった方が確実ですので、禁煙を行う場合は診察で主治医に相談をして下さい。

2.喫煙と精神状態の関係をみた研究はあるのか

「喫煙は、長期的に見れば精神状態に悪影響を来たすことの方が多い」

これは精神科医として日々診療している中で、強く感じることです。

しかしもっと具体的なデータとして、喫煙と精神状態の関係を示している研究などはあるのでしょうか。

喫煙とメンタルヘルスの関連を調べた研究はいくつか発表されています。そしてその多くが

・禁煙することで精神状態は改善する
・喫煙はうつ病などの精神疾患の発症率を上げる

という結果となっています。代表的なものを一つ紹介します。

バーミンガム大学のジェンマ・テイラー氏は、喫煙とメンタルヘルスについて評価した26個の研究を解析し、禁煙直前と禁煙6週以上後の精神状態についての比較を行いました。対象となった患者さんの中央値年齢は44歳で48%が男性、平均喫煙本数は20本/日、ニコチン依存性は中等度でした。

精神状態は、①不安、②抑うつ、③混合性の不安抑うつ、④心理的QOL、⑤積極的な感情、⑥ストレスで評価をしました。

その結果、上記6項目すべてにおいて、禁煙することによって6週間以上後の精神状態では有意な改善が得られました。

(Change in mental health after smoking cessation:systematic review and meta-analysis.BMJ.2014)

タバコを止めることは、長期的に見れば精神状態の改善につながる、ということが分かります。

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3.精神疾患を持っていて喫煙もしている人はどうすればいいのか

禁煙をすることが精神状態の改善に効果があるということを理解していただけたとしても、実際にタバコをやめるというのは大変な覚悟がいります。また、タバコを止めると離脱症状などによって一時的に精神状態が不安定になるというのも心配でしょう。

では、精神科に通院されている方で、タバコを止める場合はどうすればいいのでしょうか。

すべきことと、禁煙に当たって注意すべきことを紹介します。

Ⅰ.まずは主治医に相談を

独断で禁煙を始めるのがいけないことではありませんが、可能であれば主治医と相談してから禁煙を始めた方がいいでしょう。

なぜならば、禁煙直後は離脱症状などが生じる可能性があるため、一時的な精神状態の悪化が認められることがあるからです。この一時的な精神状態の悪化を耐えられる程度の精神状態に今いないのであれば、禁煙のタイミングはもう少し遅らせた方がいい場合があります。

また主治医と相談しておくことで、離脱症状が生じた時にそれを緩和するお薬(抗不安薬など)を処方してもらえることもあり、これも禁煙を成功させるために役立ちます。

最近では禁煙外来を紹介してもらうことで、禁煙補助薬を併用しながら治療を行うこともできます。しかし精神疾患治療中の患者さんは禁煙によって精神状態がより悪化する危険があるため、これも精神科の主治医の先生の見解を聞いてから行う必要があります。

Ⅱ.禁煙開始後は一時的に精神状態が悪化することを理解する

長期的に見れば、喫煙を続けるよりも禁煙した方が精神状態には良い影響があることは間違いありません。

しかし禁煙を行うと、禁煙直後は一時的に精神状態が悪化します。これはニコチンの離脱症状が主な原因なのですが、この一時的な悪化を耐えられないほどに現在の精神状態が不安定な場合は、無理して禁煙を行わない方が良い場合もあります。

この場合は、やむを得ず喫煙を続けたまま加療を行い、精神状態がある程度改善してきたところで禁煙を始めた方が良いでしょう。

Ⅲ.禁煙を助けるお薬もあることを知る

禁煙をするためには、何よりも本人の「タバコを止めたい!」という強い意志が一番大切です。

しかし、依存性物質の摂取を止めるというのはなかなか大変なことです。

そこで、禁煙を補助するためのお薬(禁煙補助薬)を併用して禁煙を行うという方法もあります。

代表的な禁煙補助薬としてはチャンピックス(一般名:バレニクリン)などがあります。また、離脱症状を緩和する目的で抗不安薬などを一時的に服薬することも有効です。

Ⅳ.禁煙は自分のためだという気持ちを忘れない

禁煙中は、

「タバコを吸いたい・・・」
「一本だけなら大丈夫じゃないか」

といった衝動に駆られることが必ずあります。ここをいかに乗り切れるかが、禁煙成功の分かれ目だといってもいいでしょう。

禁煙を成功させるためには、禁煙で得られるものを明確にしておくことが大切です。禁煙中はとてもつらいのですが、それを乗り越えれば精神状態の改善が得られます。うつ病などの精神疾患で苦しんでいる方であれば、その病気を治しやすくすることが出来るのだという認識をしっかりと持ち続けるようにしましょう。

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